いまゲーム開発で需要が高い役職、テクニカルアーティストとは何か?関係者座談会 | GameBusiness.jp

いまゲーム開発で需要が高い役職、テクニカルアーティストとは何か?関係者座談会

テクニカルアーティストは、近年のゲーム開発にて需要が高まっている重要なポジションです。ディー・エヌ・エー主催のGame Developers Meeting vol.35では、現役のテクニカルアーティストが集まり、現状と今後を語り合いました。

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アーティストやデザイナーとエンジニアを繋げる橋渡しのポジションである、テクニカルアーティスト(以下、TA)。近年のゲーム開発にて定着したポジションであり、効率化した業務を行うために、需要が高まっています。

そんなTAは、どのように業務を行っているのでしょうか? 2019年8月6日、渋谷ヒカリエにてディー・エヌ・エー主催のGame Developers Meeting vol.35では、「やってみる、から一歩先へ。テクニカルアーティスト座談会」が開催。各社からTAが集まり、この業種の認知を高めるとともに、仕事の取り組みについて議論が行われました。

TAとはどんな業務を行うのか?



まずTAとはなんでしょうか? プログラマーやエンジニアと、アーティスト、デザイナー同士の思考の違いを理解し、両者が抱える問題を解決して、業務を効率的に進めるように橋渡しすることが主な仕事になります。

登壇者が考える必要だと思うスキルセット

しかし問題解決においてはエンジニアとアーティスト、双方の理解が必要なため、TAに必要な技能を一覧にすると膨大な数に登ります。機械的な作業を効率化するツール開発などテクニカルな部分の他、CGアニメーションの技術なども要求されます。

セガゲームス 第3事業部 第3開発2部 テクニカルサポートセクション
セクションマネージャー
麓 一博氏

「しかしそんなにいろいろな技能を持っている人は、なかなかいないですよね。」司会を担当した、セガゲームスの麓 一博氏はそう語ります。今回の座談会のメンバーでも、実際にはアーティストとエンジニア双方の技能を持っているわけではなく、TAによってばらつきがあることが語られました。

では実際にTAに必要な仕事とは何でしょうか? メンバーで共通して重視したのは「問題を解決する能力」です。

バンダイナムコスタジオ
技術開発統括本部 技術本部 コアテクノロジ部 コアテクノロジ2課
沼上 広志氏

バンダイナムコスタジオの沼上広志氏は「いわば通訳みたいな仕事ですよね。しばらくの間、通訳しているなあという感じです。」と例えます、アーティストの伝えたいことをかみ砕いてプログラマーに説明したり、それぞれが伝達できる環境を作っていくことを、そう説明しました。

カプコン
技術研究開発部 技術開発室 DCCサポートチーム マネージャ兼チーム長
塩尻 英樹氏

株式会社カプコンの塩尻英樹氏も「(アーティスト、エンジニア間の)仲介役というのが大部分を占めています。」と賛同。「その際に重要な事は、自分でやる事も大事だが問題解決の為には、誰が向いていてどうすれば最短で解決出来るかを導く事が重要です。」と強調します。

問題解決においては、技術はもちろんのこと、直接アーティストやエンジニア部門のスタッフと話すことが大事であり、交渉力とコミュニケーションスキルがTAにおいて重要であると指摘されました。実際に、座談会のメンバーの技能にばらつきがあっても、全員がコミュニケーションスキルの高さが必要だと語っています。

ディー・エヌ・エー
ゲーム・エンターテインメント事業本部 ゲーム事業 Develop統括部 デザイン部
テクニカルアーティストグループ マネージャー
今津 隆之氏

ディー・エヌ・エーの今津隆之氏は、「僕はモーションデザイナーからTAに来たんです。」と自身の経歴がTAで役立っていることを振り返ります。モーションデザイナーはアーティスト~デザイン分野の職種にあたりますが、感性だけでなく実装などのロジカルな面も求められる仕事のため、エンジニアの業務についても理解していることを説明しました。今津氏は「スキルを身に着けていく中で、TAという役職にたどり着いたんです。」と語ります。

麓氏も今津氏の経歴を聞き、「TAになったひとはモーションデザイナーが多いんです。数学的な知識があるからこそなのかも」と語り、塩尻氏も「(アーティスト部門で)スクリプトが組める人はモーションデザイナーが多いですね。」と補足しました。

どんな経緯でTAの役職に就いたか



座談会のメンバーは最初からTAを志望していたわけではありません。もともとは別の役職から、TAに移行してきたといいます。では、どんな役職の経験から、それぞれのメンバーはTAとなったのでしょうか?

沼上氏は「もともと自分はエンジニアなんです。3DCGをやりたくてゲーム業界に来たんです」と経歴を語ります。はっきりとTAという役職が定義されていなかった頃でも、旧ナムコでは「テック」と呼ばれる部門があり、今のTAと同じような職種自体はあったそうです。

「ナムコはかつてCG制作プロダクションJCGL(※)の解散時にCGクリエーター/エンジニアの多くを受入れ、そのメンバーが映像を作りながら、ゲーム開発にも参加していたと聞いています。」と話します。そうした下地もあって、アーティストとエンジニアの橋渡しをするTAという職種は受け入れられやすかったといいます。

JCGL(ジャパン・コンピュータ・グラフィックス・ラボ
「日本のコンピュータグラフィックスの父」と称される金子満氏が、1980年に設立した日本初の商業CGスタジオ。

今津氏は「ディー・エヌ・エーが3DCGの開発を始めたのは4、5年前なんです。」と説明。今後、ハイクオリティかつ大量生産をしなくてはならないことを考え、業務効率化のためにTAが必要だと部長と相談したそうです。社内でTAとはなにか?必要なのか?の議論を経て、TAの部署が立ち上がり現在の役職に就きました。

塩尻氏は「カプコンに入社した当時はデザイナーでした。でも周りに凄いデザイナーがたくさんいて、キャリアが頭打ちになって……」と振り返りました。そこでキャリアを拓くため、技術面を学んでいくことに進路を変更したそうです。

「もともとスクリプトの技術はありませんでした。でも新しいことを覚えるのは好きだったんです。」と塩尻氏は語り、デザイナーからテクニカルを覚えていったことで、TAに行きつきました。

塩尻氏は、自らの経験からTAに向いている人に「新しいことを知ることが苦にならない人」を挙げます。「独学できないひとにはキツいですね。向き不向きがあります」とまとめました。

麓氏も、塩尻氏がTAになった経緯に同調します。「みんながみんな、技術に突出した人材になることができなかったので、ぼくもTA的なことを始めていったんです。」まだTAという役職が定義されていないころには「“デザグラマー”を名乗るのはどうだろう」とセガでは考えられていたそうですが、GDCなどの参加を経て、TAと名乗るようになりました。

「もともとTAに当たる業務を行っていたが、あとから役職の名前がついてきた形ですね」と、麓氏は全員とほぼ共通する経緯をまとめました。

TAがいることで何ができるのか?



TAはゲーム開発で何ができて、そしてTAが複数のメンバーで集まることでどんなことができるかが語られました。

塩尻氏は、TAの状況についてこう説明します。「TAは孤立化しやすいんです。実は、TAはまとまったほうが相談できるんですね。」カプコンでは、ツールを作る人を集めるようになったのは5年前からで、ようやくメンバーが集まり結果が出てきたそうです。

塩尻氏は、TAのメンバーが集まる利点をこう説明します。「エラー出てたらパッと聞けたり、問題発生時に他のメンバーに相談できたりすることが大きいです。ツールを作るときも楽ですし、社内ライブラリーを充実できます。」また、いろんなメンバーが集まることで、それぞれのスキル向上の効果もあるそうです。

塩尻氏は「一番はアーティストの迷いを減らしてあげられることです。」と強調します。アーティストは自分のやることに迷いやすいため、そこでTAから提案していき、アーティストのやりたいことを咀嚼して検討してあげることが大事だと語りました。

「あとはプログラマーとの仲介役ですね。」塩尻氏はどのように橋渡し役になるかも説明。プログラマーとアーティストで揉めることがあり、そこで議論と感情のぶつかり合いが起こります。TAはそこで仲介役になり、問題解決に導きます。

沼上氏は、アーティスト~エンジニア間の問題だけではなく、その他の役職との関係についても言及します。「プログラマーがいて、アーティストがいて、サウンド、プランナーがいて、役職のあいだに隙間があります。それを埋めないと、個別にものをつくってしまって噛み合いません。その隙間を埋めるのが今の仕事ですね。」

「TAは全体を見て、データが最後まで作れるようにすることです。最初からできる人は多くはありませんが、出来るように努力するうちに範囲が広がっていきます。」と沼上氏は解説。TAがフォローする業務の全体像や目標についてまとめます。

まだTAの地盤が固まっていない現場ではどうでしょうか? 今津氏は、TAがまだ2人しかいないグループにいますが、メンバーが足りないところを「傭兵のように、他のグループからTAが出来そうなメンバーを一時的に借りるんです。」と工夫を語りました。自身がモーションデザイナーからTAに移った経験から、モーショングループなどにお願いすることもあるそうです。

麓氏は、TAに出来ることやメンバーを集めることを指して、「組織づくりみたいなところがありますね。」とまとめました。TAが集まることで、各部門に詳しい人たちで相談できることに、集まる意義があると語りました。

TAの今後――後輩の育成や、役職の認知


会場からの質問では、「TAの後輩の育成はどのように行われていますか? ナレッジベースで可能でしょうか。また、募集しても人材は集まらず、社内からピックアップするしかないのですが……」といった問題が挙げられました。

麓氏は質問に対し、後輩育成においては師匠と弟子の関係で進めることを大事だといいます。プログラマーと一緒にOJT(On-the-Job Training)でツールを実装したり、ナレッジベースよりも口頭でまとめて話せる人の元について仕事したりしていくことで、TAの仕事とはどんなものなのかを教えていくそうです

塩尻氏も麓氏の意見に同意します。ナレッジベースでは検索して情報を見られにくいため、難しいと語り、「若手を育成するのは本当に苦労するんです……」と呟きました。

沼上氏は「映像系出身のエンジニアは自然にTA的なことはやれるんじゃないかと思います。」と語ります。一方で「育成に関しても、「俺の背中を見て育て」みたいな感じです。頭数が足りないので、むしろどうすればいいか聞きたいですね。」と、現場主義以外での、効率のよい後輩育成に関しては課題を残しているようです。

また、TAの仕事に業務効率化を行うツールを作ることも多いためか、「どんなツールを使ったらよいでしょうか?」と言った質問には、沼上氏は「TAの業務では、問題をいかに効率よく解決するかが目的ですね。技術は必要ですが、その目的を見失わないことが大切です。」とまとめました。

TAが定着した昨今とは言え、まだ企業によっては認知されていないところもあるため、「TAグループを立ち上げたのですが、社内でどのようにポジションを認知させていけばいいですか?」といった質問も挙がりました。

塩尻氏は「まず実績を作っていくことで、社内で信頼されていくんです。」と指摘。TAグループを作っただけでは仕事は回ってこないため、自分から動かないと認知は広がらないことを忠告します。

まさしく社内でTAを立ち上げたばかりの今津氏は、まずデザイン部の各部門のトップを呼んで、いま何に困っているかをリサーチしたり、デザイン部の全体集会においてもTAの存在を強調し、どんなことでもまず相談してほしいといったアピールをしたそうです。「泥臭く、信頼関係を作っていくことで、あそこならなんとかしてくれそうと思わせる雰囲気作りが大事ですね。」とまとめます。

最後に、TAがこうした座談会も含めて集まる意義についてまとめます。塩尻氏は「TA同士の横の繋がりを増やすことで、爆発的にやれることが増えたんです。いろんな会社さんの状況を聞く意義は大きいです。いろんなところで、繋がりを広げていくのが大事ですね。」と語りました。

スムーズな開発を実現するために、技術的なものももちろんながら、特にコミュニケーション能力や、関係各所との関係づくりなどの重要性が語られた座談会となりました。麓氏はGCC2019での講演を元にした、「徹底解説!セガゲームスのテクニカルアーティスト」をSEGA TECH BLOGにて公開しています。TAについてさらに詳しい内容については、こちらもチェックしてみてください。
《葛西 祝》

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