IPプラットフォーム事業を手がけるコミスマと三井住友信託銀行は2026年10月28日、アニメ製作プロジェクトを主な投資対象とするファンドの組成に向けて基本合意書を締結したと発表した。ファンドの目的は二つある。リスクマネーを供給してクリエイターへの利益還元を強めることと、これまでアニメ製作に投資する機会を得にくかった投資家に新たな投資機会を提供することだ。組成と運営は両社が共同で進め、詳細なストラクチャーは今後協議する。
事業会社や海外・個人投資家にアニメ製作投資の門戸を開く
今回のファンドの特徴は、これまでアニメ製作ビジネスへのアクセスが難しかった事業会社や投資家にも、新たな投資機会を提供しようとしている点にある。両社によると、アニメビジネスへの参画に関心はあってもアクセスが難しかった事業会社や、海外投資家・個人投資家を含むアニメ産業に関心のある投資家を対象として想定している。
ファンドの基本的な枠組みは、コミスマとその子会社が持つ「ヒットIPの創出力・調達力」と「アニメ制作力」に、三井住友信託銀行のファンドアレンジメント機能と投資家ネットワークを組み合わせるというものだ。これにより、アニメ製作事業がグローバルに資金を調達する力を高める狙いがある。両社は、リスクマネーの供給とクリエイターへの利益還元を通じて次世代の優れたクリエイターが集まるプラットフォームをつくり、日本のアニメ産業の振興につなげたいとしている。
コミスマの佐藤社長は「日本発のスタートアップ企業が世界にインパクトを与える事業をつくる上で、今回の取り組みは非常に重要な意味を持つ」とコメントした。そのうえで、金融とテクノロジーの力を活用し、マンガやアニメといったコンテンツ/IP産業と既存産業の「橋渡し役」を担う考えを示した。
市場は3.8兆円規模に、制作キャパシティの逼迫で「スタジオを持つこと」の価値が上昇
このファンドが構想された背景には、アニメ市場の拡大と制作体制の供給不足がある。日本動画協会の『アニメ産業レポート2025』によると、2024年の日本のアニメ産業の市場規模は過去最高の3.8兆円超に達した。成長を牽引しているのは、海外配信や海外での商品販売といった海外市場だ。ストリーミングサービスの普及で日本アニメはグローバル市場と直接つながり、SNSを通じたファンコミュニティの広がりもあって、サブカルチャーの枠を超えたポップカルチャーとして定着しつつある。
政府もコンテンツ産業を日本成長戦略17分野の一つに位置付けている。コンテンツ産業の海外売上高を2024年の6.1兆円から2033年に20兆円へ、そのうちアニメを2.1兆円から6兆円へと伸ばす目標を掲げる。
一方、制作の現場では需要に供給が追いついていない。老舗やメジャーのスタジオの多くは、数年先まで制作スケジュールが埋まっているという。こうした状況では、確かな制作力を持つスタジオを抱えていること自体が、世界のアニメ市場で強い競争力になる。今回のファンドは、制作需要の高まりを背景に、アニメ製作事業への資金調達力を強化する狙いがある。
原作から制作まで手がけるスタートアップと、資産運用を強化する信託銀行
コミスマの強みは、原作IPの創出からアニメ制作までを自社グループで手がけられる点にある。同社は、オリジナル作品を中心とするマンガアプリ「GANMA!」を起点に、440作品以上の自社IPを生み出してきたスタートアップだ。近年は毎年100作品以上のペースで新作マンガを創出している。代表作『山田くんとLv999の恋をする』は、国内の累計発行部数が紙と電子版の合計で650万部を突破した。TVアニメ化や実写映画化に加え、17言語で海外出版されており、マンガ発の大型IPに成長している。
制作を担うのは、100%子会社のアニメスタジオQzil.la(クジラ)だ。ハイエンドなアニメーション制作を手がける新世代のスタジオで、2026年9月4日に公開された劇場アニメ『SEKIRO: NO DEFEAT』(原作はフロム・ソフトウェアの『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』)を制作した。このほか『キングダム』第6期のOP/EDや『チェンソーマン』第1期11話のEDなどの実績があり、業界を代表するクリエイターが多数在籍している。
三井住友信託銀行側にとっては、このファンドはグループの成長戦略に沿った取り組みでもある。三井住友トラストグループは2026年5月に公表した中期経営計画(2026~2028年度)で、資産運用ビジネスを成長の中核領域と位置付けた。グループ全体で運用力を高め、付加価値の高い投資機会をつくることを掲げている。今回の取り組みには、オルタナティブ投資の選択肢を増やすとともに、日本のコンテンツ産業の発展に貢献する狙いがある。
三井住友信託銀行のフェロー役員投資金融開発部長の峯岸英人氏と成長企業支援部長の横田政明氏は、アニメ産業を「世界的な成長ポテンシャルを有する重要産業」と位置付けた。信託銀行として培った資金仲介機能と投資家ネットワークを生かし、グローバルなアニメ市場に強みを持つコミスマグループとともに新たな資金循環の仕組みをつくることで、クリエイターの挑戦を後押しし、コンテンツ産業の持続的な成長とイノベーションの強化に貢献するとしている。
両社は今後、ファンドの詳細なストラクチャーについて協議を重ねるとしている。







