帝国データバンクが、200万社を収録する信用調査報告書ファイル「CCR」ほか外部情報をもとに、アニメ制作会社を対象とした業界調査を行った。同様の調査は2025年8月に続く11回目を数える。制作市場は初の4千億円を突破も、ピークアウトの可能性が指摘された。また、人手不足により制作キャパシティに限界感があるとし、2026年の市場は5年ぶりの縮小を辿ると予想された。
・2025年のアニメ制作業界動向
同調査によると、2025年(1~12月期決算)におけるアニメ制作業界の市場規模(事業者売上高ベース)は、前年(3698億7400万円)を9.9%上回る4065億8600万円となった。前年の伸び率(4.9%)を上回り、市場規模は初めて4千億円を超え、過去最高を更新した。テレビ放送市場から、Netflixをはじめとした動画配信プラットフォーム向けの需要が旺盛で、全体では制作本数が非常に多い1年であった。また、劇場版など大型案件の納品が集中するなど、元請制作・専門スタジオともに案件量が豊富だった。
市場全体としては、二次利用を含むライセンス(IP)事業が好調だったほか、製作委員会への出資による二次収益の還流、プロデュース機能を強化することで自社オリジナル作品やタイアップ作品の製作を受託するなど、グロス請~専門スタジオを中心に元請事業へ参入する動きもあり、売上高が大幅に増加した制作会社もみられた。従来のTVアニメシリーズ依存から、高単価・長尺の劇場版、ゲーム向けフルCGなど、高単価・高品質が求められるメディアへのシフトも加速した。
2025年の制作会社1社当たりの平均売上(収入)高は13億3700万円だった。コロナ禍による制作遅延などを背景に一旦は減少に転じたものの、2021年以降5年連続で増加し、集計可能な2000年以降で最高を更新した。「元請・グロス請(発注者・受託双方のケースを含む)」で増加が顕著な一方、下請(受託者)となる「専門スタジオ」では小幅の伸びにとどまるなど制作態様によって格差があるものの、全体では売上高の増加傾向が続いた。
2025年における業績動向では、アニメ制作業全体で「増収」が39.7%となった。増収の割合は2021年以来、4年ぶりに4割を下回った。他方で、「前年並み(横ばい)」(39.7%)は前年から4pt上昇し、過去10年で最高となった。「減収」(20.5%)は前年(22.0%)から1.5pt低下し、減収割合は集計可能な2001年以降で最低を更新した。
損益面では、「増益」となった企業が45.7%を占め、4年連続で4割以上の制作会社が増益となった。「減益」(18.9%)、「赤字」(34.6%)のいずれも前年から割合が低下したものの、人件費や外注費の高止まりが常態化している。そのほか、円安の定着による海外外注費の高騰、制作工程の高度化に伴う制作期間の長期化・遅延により、納品時期が次期へ「期ズレ」するケースが多発しており、単年度の業績が急激に赤字化する構造的リスクを孕むとした。
2026年も引き続き、アニメ制作の安定した需要が多くみられる。ただ、2025年以前に多かったメガヒット劇場版アニメの反動による減収が大手を中心に顕在化している。これまでアニメ制作市場をけん引してきた配信プラットフォームからのオリジナル作品でも、無尽蔵な制作資金の流入が落ち着きを見せ始めるなど、日本アニメへの投資フェーズも一服傾向が強まっている。
制作現場においても、アニメーター不足が深刻化するなかで制作現場のキャパシティが限界に達しており、品質担保や労働環境改善のために案件を受託できない事態も発生している。そのため、現状の業績ペースで推移した場合、2026年のアニメ制作市場は2021年以来5年ぶりに前年を下回る可能性があるとした。
・制作態様別の動向
制作態様別に平均売上高をみると、直接制作を受託・完成させる能力を持つ「元請・グロス請」では、2025年の平均売上高は27億9500万円で、前年(25億600万円)を2億8900万円上回って5年連続の増加となり、過去最高を更新した。
業績動向では、「増収」が前年比2.9pt増の53.8%、「減収」は同4.1pt減の17.3%となり、減収割合は3年ぶりに2割を下回った。損益面では、「増益」が48.4%となり、前年から大幅に上昇した。他方、利益を減らした「減益」は前年比5.1pt減の21.9%、「赤字」は同5.7pt減の28.1%となり、赤字と減益を合わせた「業績悪化」の割合は50.0%を占めた。

元請・グロス請では、「IP(二次利用権)の有無」と「制作原価(外注費・労務費)のコントロール力」によって、損益が極端に二極化する構造が定着した。近年の傾向として、原価率が高く低利幅になりがちなアニメ制作から、VODサービスを経由した過去作品の配信、リバイバル、キャラクターといった二次利用など、高い利益率が期待できる自社IPを活用した収益体質へと変化しているとする。
こうしたなか、海外配信やゲーム化、商品化権など自社IPの二次利用を展開できる制作企業では、グッズ売り上げや配給収入によって業績が安定化し、過去最高クラスの利益を確保したケースも見られた。また、アニメ制作需要の増加を背景に価格交渉が「制作側優位」に傾いており、人件費などの単価高騰を見積もり段階で価格に転嫁し、製作委員会や大手出版社への価格交渉も行ったことで、1話あたりの単価引き上げを勝ち取る動きが広がった。
価格転嫁が難しい制作企業でも、豊富な案件量を背景に採算性を重視した受注に傾斜し、意図的に制作本数を抑制したほか、複数案件の並行稼働を控えることで、制作遅延や外注費の増大といった事態を防ぐ動きも顕著だった。
一方で、自社IPを持たない中堅中小の元請・グロス請では、制作・納品による「フロー収益」が収益源となるなか、業界全体で深刻化する「人手不足」と「外注コスト高騰」の影響を強く受けていた。制作案件数の確保で売上高は確保できたものの、アニメーター不足で制作スケジュールが遅延しやすく、コストが収入を大きく上回る逆ザヤに陥るケースが目立つ。
外注先となるフリーランスアニメーターや海外スタジオへの外注単価も高騰しており、交渉力の弱い制作企業ではこの原価上昇分を価格転嫁できず、作れば作るほど損益が赤字となる悪循環に陥っているケースも散見される。制作工程の内製化比率を高めることで収益力改善を目指し、アニメーターの自社雇用も進むなか、固定費としての人件費も膨張し、コスト増のペースが売上高の増加率を大きく上回る形で「減益」「赤字」となる制作会社が多かった。

下請としてアニメ制作に携わる「専門スタジオ」では、2025年の平均売上高は4億9900万円となり、5年連続で前年を上回った。同業態としては、アニメバブル崩壊前後の2007年(4億2200万円)以来、17年ぶりに4億円台に回復した前年に続き2年連続で4億円台を維持した。
業績動向では、「増収」は32.3%、「減収」は22.2%となり、「前年並み」(45.5%)が4割以上を占め最も多かった。損益面では「増益」が42.9%を占め、過去10年間では2018年(46.3%)に次ぐ高さとなった前年(44.4%)から低下した。「赤字」は41.3%を占め、前年(37.0%)から上昇した。
専門スタジオでは、大手からの低単価なグロス請やスポット案件に依存するケースが多いほか、自社の「稼働人員数」がそのまま売り上げの上限値となりやすい。ただ、近年は旺盛なコンテンツ需要に伴い、元請・グロス請が自社内で捌ききれなくなった作画や原画、動画制作の受託案件が増加しており、売上高の押し上げた。
アニメのデジタル化が進んだことでデジタル作画やコンピュータ・グラフィックス(CG)制作に強みのある企業や、これまでデジタル機器などのハードウェア投資を積極的に行ってきた企業では、イベント向け映像制作をはじめアニメ制作より高単価な案件受注を増やし、増収となったケースもみられた。
他方で、アニメーター不足は専門スタジオでも同様にみられ、従業員の退職や休業によって物理的な処理能力が低下し、やむを得ず減収となるケースもみられる。自社のキャパシティを超える案件を受注した結果、外注先となるフリーランスや別スタジオへの外注費が膨張し、売上高の増加以上にコストが増加したことで、結果的に赤字に転落するケースも散見された。
また、近年は専門スタジオが従来の下請工程から脱却し、単独で元請制作案件を受注する動きもみられる。こうした取り組みは利益率を高めるメリットがある一方、これまで元請先が負担していた制作費用をすべて自社で被ることになり、計画通りに進まない制作工程や納期遅延の発生、さらに不足するマンパワーを外注で補い、赤字幅を拡大させたケースもみられる。
今後の展望・見通し
2025年のアニメ制作市場規模は初となる4000億円を突破し、過去最高を更新した。国内外の動画配信向けを中心に需要自体は依然として高水準を維持しているものの、人件費や各種外注費の急激な高騰により、制作単体での採算確保は限界に達しつつある。さらに、深刻なアニメーター不足による制作期間の長期化や納品遅延がコストを押し上げ、需要増が利益に結びつかない「利益なき繁忙」と表裏一体の状況が定着している。
足元ではアニメ制作会社の経営破綻も散発的に発生しており、急速に拡大した需要に対する制作能力の限界と、制作原価の急激な高騰を背景に、単なる案件の消化から、制作効率化と収益性を最優先する展開への転換が求められているとする。
今後のアニメ制作業界では、経営基盤とビジネスモデルによる二極化や多極化がより鮮明となるとしている。強力な自社IPや二次利用権を持つ大手・系列制作企業は、VOD配信や商品化による高いストック収益を生かし、AI等の技術投資や待遇改善で人材を囲い込むほか、M&Aを含めた中小スタジオの系列化・子会社化によって制作能力の向上を図る動きを強めている。
また、フルCG制作や高度なデジタル撮影など独自の技術力を強みとするブティック型専門スタジオも、大手から高単価で指名受注を獲得することで高い収益性を確保している。他方で、自社IPを持たず制作請負のみに依存するフロー依存型の中小スタジオは、人件費や海外外注費の高騰に対して価格交渉力を持たず、自社での人材育成も難しいため、コスト増の直撃を受けて赤字化や欠損が長期化する企業が散見される。
日本アニメがインターネット配信などを通じてグローバルコンテンツ化を進めるなか、労働環境の適正化やクオリティ維持、将来世代への技術継承といった課題は依然として残る。2020年代後半のアニメ制作業界は、制作本数の増加による売上規模拡大のフェーズから、収益性を重視した経営やデジタルを活用した制作効率化が進むとみられる。同時に、少なくとも300社超が現存する制作スタジオの統合といった業界再編を中心に、収益力に乏しい中小零細スタジオの淘汰が進む可能性があるとした。







