「EVEは死につつある。その過程を、我々は"生きる"と呼ぶ」―"AIにとってのラスボス"『EVE Online』開発元ヒルマーCEOに聞く、DeepMind提携と1億ドルの"フロンティア"【インタビュー】 3ページ目 | GameBusiness.jp

「EVEは死につつある。その過程を、我々は"生きる"と呼ぶ」―"AIにとってのラスボス"『EVE Online』開発元ヒルマーCEOに聞く、DeepMind提携と1億ドルの"フロンティア"【インタビュー】

社名変更の背景、DeepMindとの研究提携、『EVE Frontier』の狙い、そして"リフレッシュ"を掲げる日本市場への再注力まで。来日したヒルマーCEOにじっくりと話を聞きました。

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『EVE Frontier』――もう1本のMMOを正当化する「4つの条件」

――そうしたら、『EVE Frontier』の話も伺っていきたいと思います。改めて、『EVE Online』との関係性や、いまの開発状況を教えてもらえますか。

ヒルマー:『EVE Frontier』はプレアルファ段階です。現在は、実施中のテストを通じてプレイできますテストサーバーは1年以上、18か月近く稼働していて、これまでにおよそ20万人がテストに参加してくれました。いまは5日間のトライアルを提供しているので、ファウンダーパックを買わなくても試せます。ゲームが作られていく過程を追いかけるのが好きな人には、まさにそういう物語のゲームなので、ぜひ触ってフィードバックをもらえたら嬉しいですね。来年には何らかの形でベータ版に移行することを目標としています。ただ、現在の開発段階はアルファ版、あるいはプレアルファ版にあたるという認識です。

――『EVE Online』との関係でいうと、いま『EVE Online』を遊んでいる人たちに、この新しいユニバースにも入ってきてほしいのか。それとも、別のユーザーにアプローチしたいのか。どちらの優先度が高いんでしょう?

ヒルマー:いま『EVE Frontier』をプレイしているのは、大半が「かつて『EVE Online』を遊んでいたけれど、いまは遊んでいない」人たちです。現役の『EVE』プレイヤーではなく、いわば出戻り組が、「創造の途上にある世界」に戻ってきてくれている。そういう状況です。

――それから、ブロックチェーンとゲームの関係についても伺いたくて。『EVE Frontier』はトークンを発行して、ゲーム内通貨もあって、という仕組みだと思うんですが、いま世界的には、ブロックチェーンゲームの一時期の盛り上がりは過ぎている気がします。まず、この点はどう考えていますか?

ヒルマー:そもそも「ブロックチェーンゲーム」という考え方自体が、少し奇妙だと思っています。『EVE Online』を作ったとき、実は『EVE』は「データベース上に作られた世界初のゲーム」でした。それまで誰も、データベースを使ってゲームを作った者はいなかったんです。当時の他のMMOはどれも、サーバー上のファイルに書き込んでいるだけで、SQLデータベースでゲームを運用してはいませんでした。でも我々は誰にも「世界初のデータベースゲームを遊びに来てください」なんて言いませんでしたよね。

ブロックチェーンも同じです。あれは誰も気にしないし、誰も気にする必要のないバックエンド技術です。人々が気にかけるべきは、ゲームそのものです。ブロックチェーンゲームを開発していた人たちの多くは、ブロックチェーンそのものやトークン、そしてそれを取り巻く要素に意識を向けすぎてしまい、本当に重要なことを見失っていたのだと思います。それは、「ゲームを作ること――特に良いゲームを作ることは、この世界で最も難しい仕事の一つだ」ということです。

面白い話があって、最近AI業界の人たちとよく話すんですが、普通は「AIを作るほうが難しいだろう」と思うじゃないですか。ところがAIの人たちは決まって私に言うんです。「ゲームを作ってるんですか。それは大変でしょう」と。実際、その通りなんです。ブロックチェーンゲームを手掛けた人たちの中には、ゲーム作りの経験があまりなく、良いゲームを作ることの難しさへの敬意が足りない人もいたのでしょう。何かしらのゲームを作ること自体は難しくなくても、良いゲームは非常に難しい。偉大なゲームとなれば、世界中で年に数本しか生まれないのですから。

――いまのお話だと、ブロックチェーンやNFT自体はゲームの売りではなく、あくまでバックエンドである、と。ただ、正直に言えば、わざわざそれらの技術を使わなくても実現できるゲームのようにも思えるんです。それでも、あえてこの要素を入れたかったのはなぜですか?

ヒルマー:我々はすでに『EVE Online』を作っているわけですから、もう1本MMOを作るには、相当に高いレベルの正当化が必要です。その新しいMMOは、『EVE』には解決できない何かを解決するものでなければならない。そうでなければ、『EVE Online』を改善し続ければいいだけです。実際、我々は常に『EVE』をより良いゲームにし続けています。ただ、『EVE』ではどうしても変えがたいことが、いくつかあるんです。

第一に「没入感」です。『EVE Online』は何年も前に作られた、いわばポイント&クリックのゲームです。それ自体は悪いことではありません。でも私は、宇宙船を「操縦する」ことの没入感を高められないか、ずっと考えてきました。『EVE Frontier』では、実際にコントローラーで宇宙船を飛ばせます。PlayStationのコントローラーでも操縦できますよ。よりドッグファイトに近い、戦艦同士がぶつかり合うような体験です。

第二に「サードパーティー開発」。『EVE』の周りにはAPIを使ったサードパーティー開発の文化があって、皆がAPIでクールなものをたくさん作ってくれています。ただ、APIでは世界の状態を「読む」ことはできても、「書き込む」ことは非常に難しい。スマートコントラクトなら、誰でもゲームの状態を読み、書き込めるようになります。我々は「デジタルフィジックス(Digital Physics)」と呼ぶルールセットを実装していて、誰でも『EVE Frontier』の、クライアント側だけでなくサーバー側に、新しい機能を追加できるんです。これは従来のデータベースでは非常に難しいことで、実にエキサイティングです。

第三が「開かれた経済」です。リアルマネートレーディング(RMT)は『EVE Online』でも、あらゆるMMOでも大きなテーマです。皆、アイテムを現実のお金で取引したがる。でもEULAで禁止されていて、我々は違反者をBANしています。それでも人々はやり続けるし、必ず抜け道を見つけてくる。私には止められません。そこで私は、プレイヤー同士がゲームのルールやシステムの枠組みの中で、自由に価値をやり取りできる仕組みを実現したいと考えました。

これは技術的にも法的にも複雑です。プレイヤーがデジタル資産に対して、より強い権利を持てるような仕組みを構築する必要があります。現状、『EVE Online』の中にあるものはすべて私が――いまはFenrisが――所有していて、プレイヤーには貸し出すことしかできません。自社が保有するデータベースの中では、所有権を付与できないんです。欧州のMiCA(暗号資産市場規制)、米国の市場構造をめぐる法制、さらに日本でも関連法制度の整備が進んでおり、こうした取り組みによって、より明確な道筋が見えつつあります。完璧ではありませんし、もともと金融商品のために作られた枠組みを、皆で継ぎ接ぎしながら整えている状態ですが、それでも可能にはなった。

私はアイスランド出身です。アイスランドはかつて、通貨規制と資本規制の下にありました。そして経済を開放したことが、アイスランドにとても良い結果をもたらしたんです。だから私にとってこれは、「開かれた経済のゲーム」を作るということなんですよ。

そして第四が「BOT」です。『EVE Online』ではクリックボットのようなもので、人間を介さずにゲームをプレイさせるボッティングが横行していて、我々はそれと戦い続けなければなりません。これも非常に厄介な問題です。私は、ボットと人間が同じゲームを一緒にプレイできるような解決策を見つけたかった。そしていまや、それは「AIエージェントと人間」の問題になりつつあります。そこまでは予見していませんでしたが、ボットやAIエージェントは、いずれも関連する課題領域に関わるものです。

より深い没入感、より自由なMod開発、開かれた経済、そしてAIエージェントと人間が同じゲームを遊ぶことへのより良い対応。この4つが、「もう1本のゲームを作る」ことを正当化する条件でした。これらを『EVE Online』に後付けするのは、非常に難しいんです。

「語るのではなく、見せる」――ブロックチェーンへの不信にどう向き合うか

――日本のユーザーは「ブロックチェーン×ゲーム」と聞くと、まず身構えるんですよ。クオリティの低いゲームに投機のお金だけがわっと集まって、経済が立ち上がらないまま、最後はアセットごとどこかに消えて無価値になる。そんな光景がこの数年繰り返されてきたので。法規制の面でも、ユーザーに権利を渡すのはすごく難しいと各社が言っていて、実は『EVE Frontier』に近い構想を諦めた日本の会社も少なくないんです。そこをどうクリアして、日本のユーザーに届けたいですか?

ヒルマー:我々のアプローチは基本的に、「語るのではなく、見せる」です。ゲームはいまアルファ版として公開されていて、ただ遊べばいい。いまならファウンダーパックを買わずに、5日間参加できます。失うものは何もありません。ウォレットを用意したり、暗号資産取引所の口座を開設したりすることから始める必要もありません。ただゲームを遊ぶだけです。それで気に入ったら、遊び続けてください。

それに、私が何を言っても仕方ないですよ。私はこの会社のCEOですよ? 私の言うことなんて、誰が信じるんですか(笑)。ゲームはもう公開されているんだから、実際に遊んでいるプレイヤーたちのほうが、私よりうまく説明してくれるでしょう。好奇心があるなら、いますぐ試せます。まだごく初期の開発段階にあるアルファ版で、開発途中の状態ですが、それもまたこの段階ならではの面白さがあります。あるいは来年、誰かがこのゲームについて良い話をしていたら、そのときに覗いてみてください。

スペースゲームが好きなら、サバイバルゲームが好きなら、複雑でとことん手厳しいゲームが好きなら――『ELDEN RING』や『DARK SOULS』、『Demon's Souls』のような歯ごたえのあるゲームが好きなら(笑)、テストしてみてください。ものすごくハードコアですから。あるいは『EVE Online』を遊ぶのでもいいんですよ。同じくらい素晴らしくて、ブロックチェーン要素は一切なくて、そして同じくらいハードコアです(笑)。

――ちなみに、『EVE Frontier』をブラッシュアップしていく方向性として、「ここはもっと磨かなければ」という要素はありますか?

ヒルマー:宇宙船を操縦する、より没入感のある体験を目指しているので、それを本当に確かなものにするための磨き込みですね。チームはいま、「飛んでいる感覚」を実現しようと懸命に取り組んでいます。というのも、宇宙で「飛ぶ」ことは、本当は現実的ではないんです。宇宙に空気はなく、飛んでいるわけではない。本物の宇宙航法をそのまま再現したら、混乱の極みになるでしょう。だから我々は、巨大な構造物の中を飛び回るときに「気持ちいい」と感じられる飛び方を、いわば発明しようとしているんです。ライティングの解決も、物理の解決も非常に複雑で、この磨き込みだけで優に1年はかかると思います。いまテストしているのは、そのごく初期のバージョンです。

そして、ここが一番難しい部分でもあります。『EVE Online』でこれに挑まなかったのには理由があって、この体験を上質に作り上げることと、MMOとしてスケールさせることを両立するのは、恐ろしく複雑なんです。



《宮崎 紘輔@Game*Spark》

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