「EVEは死につつある。その過程を、我々は"生きる"と呼ぶ」―"AIにとってのラスボス"『EVE Online』開発元ヒルマーCEOに聞く、DeepMind提携と1億ドルの"フロンティア"【インタビュー】 | GameBusiness.jp

「EVEは死につつある。その過程を、我々は"生きる"と呼ぶ」―"AIにとってのラスボス"『EVE Online』開発元ヒルマーCEOに聞く、DeepMind提携と1億ドルの"フロンティア"【インタビュー】

社名変更の背景、DeepMindとの研究提携、『EVE Frontier』の狙い、そして"リフレッシュ"を掲げる日本市場への再注力まで。来日したヒルマーCEOにじっくりと話を聞きました。

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2026年5月6日(水)、『EVE Online』の開発・運営元として知られるCCP Gamesが、親会社パールアビスからの独立と「Fenris Creations」へのリブランディングを発表しました。独立はマネジメント・バイアウト(MBO、経営陣による買収)の形をとり、同時にGoogle DeepMindとのAI研究パートナーシップ、およびGoogleによる少数株式投資も明らかにされています。

2003年にサービスを開始した『EVE Online』は、全プレイヤーが単一の宇宙を共有するSF MMORPGとして23年にわたり運営が続く、ライブサービスゲームの草分け的存在です。プレイヤー同士の裏切りも詐欺も大戦争も許容する苛烈なゲームデザインと、かつて専任のエコノミストを置いて運営されたことでも知られる精緻なゲーム内経済が特徴で、日本にも熱心なコミュニティを抱えています。

その開発元が『黒い砂漠』や『紅の砂漠』で知られるパールアビスという上場企業の傘下を離れ、AI研究の最前線に立つGoogle DeepMindと組む――ゲーム産業とAI産業が急速に接近する2026年を象徴するようなニュースといえるでしょう。

今回、スタートアップカンファレンス「IVS2026」(7月1日~3日・京都)への登壇などのため来日した同社CEOのヒルマー・ヴェイガル・ペトゥルセン(Hilmar Veigar Pétursson)氏に、単独インタビューの機会を得ました。取材は7月22日(水)、東京都内にて逐次通訳を交えて実施。独立の経緯、『EVE Online』が"AIにとってのラスボス"と呼ばれるゆえん、DeepMindとの提携で目指すもの、開発費約1億ドルをすべて外部調達でまかなう新作『EVE Frontier』、そして「再注力」を掲げる日本市場への取り組みについて聞いています。

北欧神話から熱力学第二法則までを縦横無尽に行き来するヒルマー氏の語りは、英語ということも相まって高難度ミッションでした。しかしその迂遠な語り口の中にこそ、23年間ひとつの宇宙を回し続けてきた経営者の思想が凝縮されています。可能な限りそのまま再現したので、じっくりと味わってみてください。



太陽を飲み込む狼――社名「Fenris」に込めた破壊と創造の循環

――今日はよろしくお願いします。まずは何と言っても、5月に発表された独立と「Fenris Creations」への社名変更の話から伺わせてください。この決断に至った背景と、新しい社名に込めた思いを聞かせてもらえますか。

ヒルマーCEO(以下、敬称略):少し経緯からお話ししましょう。私たちは2018年にパールアビスとパートナーになり、いずれは一緒にゲームを作ろうという構想を持っていました。ただ実際には、お互いが自分たちのゲーム作りで手一杯だった。彼らは『紅の砂漠』の開発で多忙を極めていました。素晴らしいゲームですよ。私自身、200時間ほどプレイしています。一方で私たちは私たちで『EVE Online』や『EVE Vanguard』などを作り続けていました。

そこで昨年のある時点で、私のほうから「MBOという形にしてはどうか」と持ちかけ、検討を始めたんです。ちょうど同じ時期に、Google DeepMindとは研究パートナーシップの話を並行して進めていました。これらがうまく重なり合い、Googleおよびアイスランドの投資家の支援を受けたMBO(マネジメント・バイアウト)に加え、Google DeepMindとのパートナーシップ締結も発表できたというわけです。

同時に、社名をFenris Creationsに改めました。フェンリス(フェンリル)は、もちろん北欧神話に登場する狼です。太陽を食らい、終末「ラグナロク」をもたらす存在ですね。アイスランド人である私たちは、フェンリスやトール、オーディン、フレイヤといった北欧神話を、それこそ赤ん坊の頃から学んで育ちます。ずっとそこからインスピレーションを受けてきました。

フェンリスの神話を掘り下げていくと、面白いことがわかります。1980年代に、あるアイスランド人がカナダで興味深い本を書いていて、彼は「狼の口」と呼ばれる、フェンリスを象った星座を見つけ出しているんです。6月になると、太陽はその狼の口の中に沈み、やがて口から抜け出していく。

つまり私の考えでは、フェンリスとは星座であり、我々の過去であり、同時に「エントロピー」――熱力学第二法則のような――の表現でもあるんです。それは破壊の形象です。『EVE Online』も『EVE Frontier』も『EVE Vanguard』も、すべて美しいものを築き上げ、そして破壊するゲームです。多くの場合、破壊されるのは戦闘で撃沈される宇宙船ですが(笑)。

破壊が創造につながる。宇宙船を作り、それが破壊され、また作らなければならない。この破壊と創造のループこそが『EVE』を永遠に生かし続けているものです。23年経った今もゲーム内経済が健全に回り続けているのは、まさにこのためです。

Fenris Creationsという社名は、我々の歴史と、星々への参照と、熱力学第二法則。それらすべての深い表現なんですよ。

――難しいですね……(一同笑)。いや、なんとなくは、なんとなくはわかります。つまり、破壊と再生のようなものを社名やシンボルに込めている、と。だとすると、いまの御社はその循環のどの局面にいるんですか?

ヒルマー:それは常に続いているものだと思っています。何かを創るためには、何かを破壊しなければならない。ほとんど分子科学のような話です。刀を打つには、鉄を取り、その鉄を壊して鋼にする必要がありますよね。何かが創られるとき、必ず別の何かが消えている。だから私にとってそれは、創造の局面と破壊の局面が交互に来るようなものではなく、終わりのない循環なんです。構造と混沌。創造と破壊。エントロピーと生。

EVEコミュニティには「EVE is dying(EVEは死につつある)」という有名なミームがあります。それこそサービス開始1か月目から言われ続けている(笑)。それに対して私はこう返すんです。「EVEは死につつある。我々も死につつある。鳥も、木々も、太陽も、宇宙もそうだ。そしてこの死にゆく過程――我々はそれを『生きる』と呼びますが――の中でこそ、我々は互いに出会うのだ」と。

――なるほど。その哲学というか死生観は、この23年間の運営の中で培われていったものなんですか?それとも、もっと前からずっとそう考えていた?

ヒルマー:『EVE Online』のゲームデザインドキュメントの冒頭に書かれた最初の一文は「Death is a serious matter(死は重大な問題である)」でした。そして我々の会社としての中核的な存在意義は「現実よりも意味のある仮想世界を創造する」ことです。……そういえば最近、「イミガアル」という日本語を覚えたんですよ。

意味というものは、維持するためにエネルギーを注ぎ続けなければならないものから生まれる、と私は考えています。何かがあなたにとって意味を持つのは、たいていの場合、それが失われうるからです。永遠に手元にあり続けるものは、時間とともに意味を失っていく。死は重大な問題である。創造と破壊、エントロピー、熱力学第二法則。これは我々が生きる現実の世界そのものに刻み込まれている原理であって、そこから着想を得た世界は、より意味のあるものになるんです。

――そういう"ヒルマー哲学"みたいなものは、『EVE Online』というゲームに埋め込んでいるものなんでしょうか。それとも、ユーザーに届けたいものなのか。その辺はどうでしょう?

ヒルマー:「鉄が鉄を研ぐ」と言いますが、当初はぼんやりとしていた考えが、『EVE』に携わる中でどんどん研ぎ澄まされてきた、というほうが正確でしょう。私が『EVE』に何かを与えたのと同じくらい、『EVE』が私にこの哲学を教えてくれたんです。仮想世界を作り続けてきた30年間で学んだことの集大成ですね。

独立から6~7週間、「変わったのはメールアドレスとロゴくらい」

――いまの話にも通じると思うんですが、社名が変わったからといって、おそらく大きく変わるものはないですよね。それでも、これだけの思いを社名に込めた以上、「変わるもの」と「変わらないもの」があるはずで。そこを伺いたいです。

ヒルマー:独立からまだそんなに時間が経っていませんからね。私のメールアドレスと、社名とロゴが変わった以外、目に見える変化はありません。新しい名前には、これから徐々に馴染んでいくのだと思います。ただ、Google DeepMindとの研究パートナーシップは大きなテーマで、私の仕事は確かに変わりつつあります。最近はもっぱらそちらに取り組んでいて、この提携をめぐっては多くのエキサイティングな計画が動いています。

一方で、典型的な『EVE』プレイヤーに「何か変わった?」と聞いたら、具体的には何も変わっていないはずです。拡張はこれまで通り半年ごとにリリースし続けていますし、いまは6月に配信した「Cradle of War」を第1章とする、3拡張構成の物語アークの最中です。11月に次の章が来て、来年6月にさらにその次が来ます。所有構造が変わったことは長期的には影響してくるでしょうが、短期的にプレイヤーが感じる変化はないでしょう。

……ああ、日本のプレイヤーの皆さんは、今後数か月のうちに、我々が日本に少しフォーカスを強めていることに気づくかもしれませんね。日本語ローカライズをリリースしてからずいぶん経ちますし、いま我々は日本のプレイヤーベースと日本全体への取り組みを、再び加速させようとしているところなんです。

――ちょうど話が出たので、日本の『EVE Online』ユーザーやコミュニティについて先に伺わせてください。日本のコアなゲーマーに愛されるゲームであることは間違いなくて、熱狂的なユーザーもいます。そのユーザーベースの変化や、ローカライズへの熱量、日本市場をどう見ているか――ヒルマーさんの考えを聞かせてください。

ヒルマー:まずはローカライズです。いま我々は、日本のプレイヤーと日本市場へのアプローチを刷新している最中で、日本のプレイヤーからのフィードバックを強く求めています。コミュニティチームは以前から日本の声を集めてきましたが、いまはもっと「行動モード」に入っている。ローカライズの品質、翻訳物の品質、カスタマーサポートの体験などについて、常にフィードバックを受け取っています。

そして、ご指摘の通り『EVE』は非常にハードコアなゲームで、日本には非常にハードコアなプレイヤーがいます。つまり、彼らは我々の同志なんです。我々はハードコアな人々のために、ハードコアなゲームを作っているのですから。

パールアビスとの8年間――「友人として別れる」という選択

――Google DeepMindの話もぜひいろいろ伺いたいのですが、その前に。先ほど少し触れられた、パールアビスとやってきた約8年間を、経営者としてどう振り返りますか。そして改めて、このタイミングで離れた理由や狙いを聞かせてください。

ヒルマー:パールアビスとの時間は、とても楽しいものでした。彼らはMMOを作る会社で、我々もMMOを作る会社です。MMO作りから学んだことを、お互いにずいぶん共有し合ったと思います。ただ、彼らは『紅の砂漠』の開発で本当に忙しく、我々も自分たちのゲームで忙しかった。当初計画していたような「一緒にゲームを作る」段階には、結局至らなかったんです。

彼らが『紅の砂漠』に集中していたこと自体は、とても良いことでした。200時間プレイした私が保証しますが、実に素晴らしいゲームです。ただ、「一緒にやっていく」という戦略は、当初の構想通りには進みませんでした。それなら、ということで、DeepMindと話を進めていたのと同じタイミングで、会社を買い戻すことを我々から提案しました。パールアビスとは友人のままでいながらも別れることにはなりましたが、私たちがDeepMindと新たな旅に踏み出し、再び独立した企業となるための道筋を築いてくれました。とても良い形になったと思います。いまでも友人として会えば、近況を語り合う仲ですよ。

――ヒルマーさんとしては当初、パールアビスと当時のCCPとで、一緒に何かゲームを作りたかった、ということなんでしょうか。

ヒルマー:それは目標の一部でした。当時のパールアビスは、国際展開の拡大や投資など、いまとは違う戦略を描いていた会社で、CEOもCFOも現在とは別の人物でした。その後、彼らは『黒い砂漠』のセルフパブリッシング、そして『紅の砂漠』の開発と、どんどんそちらに集中していった。拡大路線の優先度は下がっていったわけです。統合の目的だったものをお互いに追求していないのなら、友人のまま別れて、我々は我々の道を、彼らは彼らの道を行くのが筋が通っている。そういうことです。



《宮崎 紘輔@Game*Spark》

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