一般財団法人中東協力センター(JCCME)は、特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)との共催で、2026年5月18日に「ゲームビジネス市場・企業進出環境調査報告会」を東京・VIPO内ホールにて開催しました。コンテンツ・エンターテインメント産業の大手・中小企業を中心に60名が参加し、サウジアラビアのゲームユーザーの実像に迫るセミナーとなりました。
本セミナーでは、ルーディムスCEOの佐藤翔氏がファシリテーターを務め、朝日新聞ミドルイーストホールディングスCOOの川崎紀夫氏が定性調査として有識者インタビューの報告を、中東協力センター参事の山崎健太氏が調査概要とエンドユーザーインタビューの報告を行いました。本記事では、セミナーで語られた内容をお伝えします。


サウジアラビアのゲーム市場――国家戦略が牽引する成長
セミナー冒頭、山崎氏からサウジアラビアの基本情報が紹介されました。面積は日本の約5倍となる214万平方キロメートル、人口は約3,530万人で、そのうち自国民が約6割を占めます。とりわけ14歳以下の人口が全体の24%と日本の約2倍にのぼり、若い世代の厚みがゲーム市場を支える土台となっています。

サウジアラビアのゲーム産業を理解する上で欠かせないのが、国家変革ビジョン「ビジョン2030」です。このビジョンのもとでゲーム・eスポーツは戦略産業として位置づけられ、「国家ゲーム&eスポーツ戦略(NGES)」では、経済貢献や雇用創出のほか、「ゲーム会社250社の創出」「世界に認知されるゲームタイトル30本を国内スタジオで制作」「プロeスポーツ選手数で世界トップ3入り」という野心的な目標が掲げられています。山崎氏は「日本でも経済産業省を中心に政策はありますが、(サウジアラビアは)それとは比べものにならないくらい本気だ」と率直に語りました。
この戦略を推進する中核が、政府系ファンドPIF(Public Investment Fund)傘下のSavvy Games Groupです。ScopelyやESL FACEIT Groupの買収に続き、EA(エレクトロニック・アーツ)の買収も2026年6月末までに完了する見通しとのこと。PIFは任天堂、ネクソン、カプコン、コーエーテクモホールディングスなど日本のゲーム企業にも出資しており、世界的なeスポーツハブとしての地位確立を目指しています。

リアルの場でも動きは活発です。首都リヤド近郊には大型テーマパーク「Qiddiya City(キディヤ・シティ)」が2025年12月にオープン。2030年には「ドラゴンボール」テーマパークの完成が計画されており、将来的にはIPパークとして複数のIPを展開する構想です。2030年にはリヤド万博も控えています。
eスポーツでは、2024年から始まり、2026年で3回目を迎えるeスポーツワールドカップ(EWC)に日本のZETA DIVISIONやDetonatioN FocusMeなどが参戦。さらに2026年からは国対抗形式のeスポーツネーションズカップ(ENC)も始まり、100カ国以上が参加する予定です。
川崎氏が示した市場の基本データ(JETRO「MENAゲーム市場環境分析(2025年3月)」に基づく)も、ポテンシャルの大きさを裏付けるものでした。市場規模は約18億USD(約3,000億円弱)で年率約9%成長。ゲーマー人口は約2,500万人と総人口の7割超にのぼり、男女比は69対31で女性の割合も増加傾向にあります。ゲーム関連の一人当たり年間支出は世界平均の2倍、ユーザーの6割がアプリ内購入経験を持ちます。デバイスはモバイル・PC・コンソールがまんべんなく利用されており、リヤド、ジッダ、ダンマーム、メッカの4都市でゲーマーの9割を占めます。

山崎氏による日本との比較推計(参考値)では、ハードコア+コアゲーマーの人口比率がサウジアラビアでは約30%、日本では約9~10%と約3倍の差があるとの見立てが示されました。「サウジアラビアの人口が日本の3分の1だとしても、熱心なゲーマーの割合が3倍であれば、ほぼ同規模のマーケットと見なせるのではないか」との指摘です。
調査の概要と手法
JETROによる定量調査で中東・北アフリカのゲーム市場の全体像は把握できるようになりましたが、山崎氏は「消費者、つまりゲーマーについての日本語情報は足りていない。具体的なユーザーイメージが湧かないことが、日本企業の進出の障壁になっているのではないか」という問題意識を示しました。この仮説のもと、今回の定性調査が企画されたとのことです。
調査は朝日新聞ミドルイーストホールディングスが受託し、2024年6月~10月にかけて実施されました。対象地域は首都リヤド、第2の都市ジッダ、東部のダンマームの3都市。川崎氏は「3都市を回ると、カルチャーも歴史的背景も違い、多様な文化を持つ国である」と、調査地域の多様性を強調しました。
手法は4つ。デスクリサーチ(現地メディア、X、TikTok、Discordなど)、現地調査(アーケードゲームショップ、ゲームカフェ、EWCなど)、有識者インタビュー7名、そして約80名のゲームユーザーへのインタビューです。ユーザーはプレイ時間に基づき、ハードコアゲーマー(1日5時間以上)、コアゲーマー(1日2~5時間)、カジュアルゲーマー(不定期)、ノンゲーマーの4クラスターに分類されました。
有識者インタビュー――現地のキーパーソンが語る日本への期待と注文
川崎氏は、サウジアラビアのゲーム・eスポーツ業界の有識者7名へのインタビュー結果を報告しました。
サウジeスポーツ連盟会長も務めるファイサル王子は、サウジアラビアの王族の中核に位置する人物であり、日本を「第2の家」と表現するほどの親日家です。eスポーツの「物語」を世界に伝えていきたいと語る一方、日本企業に対しては「ローカライズ」を求めました。






