飯野賢治が遺したもの、伝えたいもの―新作ゲームコレクション『ONE-DOT GAMES』飯野由香氏&飯田和敏氏インタビュー!『太陽のしっぽ』『アクアノートの休日』などについても訊いた 2ページ目 | GameBusiness.jp

飯野賢治が遺したもの、伝えたいもの―新作ゲームコレクション『ONE-DOT GAMES』飯野由香氏&飯田和敏氏インタビュー!『太陽のしっぽ』『アクアノートの休日』などについても訊いた

飯野賢治氏が遺したものとは。妻の飯野由香氏と友人の飯田和敏氏にお話を聞かせてもらいました。

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飯野賢治が遺したもの、伝えたいもの―新作ゲームコレクション『ONE-DOT GAMES』飯野由香氏&飯田和敏氏インタビュー!『太陽のしっぽ』『アクアノートの休日』などについても訊いた
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ゲームクリエイター・飯田和敏氏のハマっているゲーム

――ここからは、ゲームクリエイターの飯田和敏さんの関わってきたさまざまな作品についてお聞かせください。立命館大学のプロフィールでは、ハマったゲームに『The Last of Us』『グランド・セフト・オートV』『Ingress』の名前があります。その他に最近ハマったゲームはありますか?

飯田和敏氏:このプロフィールを作った時期は結構時間があったんですが、最近はあんまり長い時間ゲームをやれなくなってます。積みゲーが多い状態ですが、インディーゲームにはいくつかハマっていますよ。プレイ時間も短いですからね。

好きなので言うと、ちょっと古いけど1本が『Unpacking』ですね。これは衝撃を受けて、ずっと遊んでました。もう1本が『Vampire Survivors』ですね。こちらも200時間ぐらい遊んでいます。

『Unpacking』

直近で言えばこの2本にとてもハマっていますが、他のヴァンサバ系ゲームも結構やってますね。

―― ヴァンサバ系のゲームはどのあたりにハマっていますか?

飯田和敏氏:これは僕の感じ方が独特なのかもしれないですけど、始めた途端に一生懸命コントローラーで操作してるんですけど、このゲームって“基本的に方向キーしか使ってない事”に気付くんです。そこで1回頭がサッと冷えるけど、始めると再び思い切り遊ぶというのを繰り返しちゃう。

これは、プレイヤーの「ヴァンパイア」ゲーム体験っていうのを引っ張り出してきて、個々にあるゲーム体験を繋ぎ止めるような作品なんじゃないかと思うんです。実際にやってみると、ストーリーもよく語られてなかったり、極めて断片的なゲーム体験ですよね。そこに文脈を見出すのは個々のプレイヤーです。

僕の場合は1978年ぐらいからずっとビデオゲームをやってきたので、すべてのゲーム体験が喚起されて、自分の中で大きなゲームになってると。それは新しいと思うし、なんと言えばいいのか、上手く例えることが難しい作品です。

――なるほど。

飯田和敏氏:だから『Vampire Survivors』という作品は一人一人感じることが違うと思うんです。僕はドラッグのようなゲームだと思ってます。とにかく弾幕的なものをドッジしていると気持ちがいい。

ゲームってこうじゃないと、というのも感じますね。そんなに語らなくても面白いし、別に途中でやめたっていい。ゲームとしても30分で区切りがつくという。

とは言え、そろそろ『Vampire Survivors』からは卒業して、次の旅に出かけようと思ってます(笑)。

――『Unpacking』『Vampire Survivors』なんかは、そのジャンルとしても珍しい形を生み出したゲームだったと思います。

飯田和敏氏:でも、昔ほど色々やれてないので、もっとゲームで遊びたいと思っていますよ。とにかくたくさん積んであるゲームを消化していきたいですね。

『アクアノート』『太陽のしっぽ』『巨人のドシン』の哲学

――『アクアノートの休日』『太陽のしっぽ』『巨人のドシン』と個性のあるゲームを作られていて、名前を出したら「ああ、あのゲームを作ったんだ!」とわかる方も多いと思います。ゲームを作る上での、大事にしているルールだったり、哲学だったり、こういうものを提供したい、という部分を教えて頂ければ嬉しいです。

飯田和敏氏:実はですね、僕は自分でゲームを作るのがめちゃめちゃ下手くそなんだなと思うんですね。職業的ゲームデザイナーではないと。

これは僕の原体験として、あるゲームで遊んでいて、途中までは面白かったのに、ある時期から急に冷めてしまうことがあって。これは、子供の頃に見ていた「西遊記」で、悟空が暴れ回っているのに実際はお釈迦様の手のひらの上でしかなくて、悟空がガッカリするという、その感覚に近いものです。

結局ゲームは楽しいんだけれども、誰かが作ったお膳立ての中で遊ばされてると。それはなんかムカつくなと考えちゃって、それが80年代ぐらいからあったんです。だから一時期、趣味としてゲームから離れてた時期があったんです。

だけど、ウィル・ライトの『シムシティ』にとても惹かれたんです。筋書きもないし、西遊記の例えなら、お釈迦様がそこまでコントロールしていない。そんなゲームがあったんですね。ウィル・ライトは『シムアース』という作品も作っていて、これはちょっと評価が難しいゲームなんだけど、とても魅力的でした。

こういうクリエイターがいるんであれば、自分の感覚っていうのも、ゲームというフォーマットは許容してくれるんじゃないかなと思いました。もちろんこれは賭けで、最初に『アクアノートの休日』を作る時は極端なものを作ろうと考えて、もし受けたら世界はいい世界だし、受けなかったらお呼びじゃなかったんだなと。

結果として、96年あたりのプレイステーションのカオスな状況っていうのが、多分いい方向に作用して『アクアノートの休日』みたいなゲームも有りなんだっていうことが、売り上げとともに証明されたんですね。嬉しかったですよ。普通にヒットをしたっていうこと以上に、自分のこの居場所が「この世界では許されるんだ」みたいな思いがありました。

それであらためてゲームを真面目にやろうと思ったりもするんですが、常になんか脱線しちゃうんですね。『GTA』みたいなAAAの作品も大好きだし、本当はこういうのを作りたいのかなとも思うんだけど、自分で作る時にはそこからどんどん外れてしまうんです。

だから、これは自分はゲーム作りが下手くそなんだな、職業的ゲームクリエイターではないんだなと思ってますね、いまだに。

――『アクアノートの休日』を最初にやったとき、いきなり海に放り出されて、何をやったらいいのかわからなくて。説明書の最初に「解説書は不要」と書かれているじゃないですか。だから最初にとにかく触ってみて、LRボタンを押したら音が出て「なんだろうこれ?」ってなったりしました。

飯田和敏氏: (笑)。いや、すいません。

――少しずつ遊び方を覚えていって、そのうち魚が見えてきて、そこからどんどん世界が広がっていきました。やっぱり新しい魚を初めて見た時は嬉しいし、割と早い段階で大きい魚も出てきてくれるのも嬉しかったです。

飯田和敏氏:僕はデビュー作の『アクアノートの休日』が、もう限界のような極端なケースだったんですね。だから、他の作品を作っていく内に少しずつですけど丸くなっていったんじゃないかとは思います(笑)

――「ARTDINK GAME LOG」の第1弾で『太陽のしっぽ』が発表され、さらに第2弾が『アクアノートの休日』と、いきなり飯田さんの作品がラインナップに並んでビックリしました。

飯田和敏氏:実は、この復刻というのは全く予測してなかったんですね。ただ『太陽のしっぽ』なんかは、狩野英孝さんがすごく面白い実況を上げてくれたりしたのもあってか、実は『太陽のしっぽ』のファンでしたって僕に言ってくれる人も多かったんですよ。

とは言ってもやっぱり過去の作品だから、ゲーム実況で見ましたっていう人はいるけれども、遊んだっていう人は少なくなってきてるし。特に若い世代はわからないですよね。教えてる大学生たちもそうですし「あの先生威張ってるけど何者なんだ?」と思われてるかもしれませんよね(笑)

あと、僕は子どもがいるんですけど、これまで「父が何をしてきた人なのか」ということが、これまであんまりわかってなかった感じです。それが今、現行機で移植されたことで伝えやすくなるなら、これは悪くないよなと思います。

でも、アートディンクでは『アトラス』『ハウ・メニ・ロボット』『トキオ』『ルナティックドーン』みたいな名作がある中で、僕の作品でいいの?と言う思いもあります。でも、今後の名作が出てくる露払いをできればいいのかな、とも思いますね。我ながらめちゃくちゃ丸くなったなと思います(笑)

――『アクアノートの休日』は目標がないゲームで、当時ではあまり同じようなゲームはなかった印象です。でも完全に放り出されるわけじゃなくて魚と交流したり、漁礁を自分で作ったりもできて、ある程度の干渉と観察が楽しめるゲームです。あらためてゲームの発想について聞かせてください。

飯田和敏氏:そうですね、せっかくですし『アクアノートの休日』についてあまり言ってないことを出しちゃいましょうか(笑)

僕がゲームをやってる時に気になることとか、映画を見てる時に気になることがあって、例えば「このカメラって誰が撮ってるんだろう」と考えちゃうんです。今見ているのは誰の視点なのかなっていうのが気になるタイプなんですね。

それがPOV的な作品であれば、そこがきちんと物語の中に織り込まれてるからストレスじゃないんですよ。でも「スター・ウォーズ」のデス・スターが爆発するシーンは一体誰の視点なんだろうかとか、いちいち気にしちゃうと、映画を見るどころじゃなくなってしまうんです。

音楽なんかもそうなんですね。映画なんかだと、その場で鳴ってる音楽だったらわかるんですけど「この音楽は、この人たち聴いてないよな」っていうのがダイレクトに観客に聴こえてくるタイプもありますよね。これがあると混乱してしまうんですよ。

僕はゲームの中で、それを一旦シンプルにしたかった。つまり、アバターとか物語とか、そういう感傷的な世界を置かない、1対1の関係で「どうなの」と問いたかったし、自分はそこからしか始めることが出来なかったんです。

大学でいろんな研究者の人たちと話して、映像、特にサウンドトラックの研究をされてる先生から色々教わることがあります。「誰が聴いてるのか」じゃなくて、映画というコンテンツの百年の歴史の中でどんな議論があって、どうやって整理されているのか、というのを体系的に教えてくれるんです。

そしてゲームはその応用だという話を聞いて、僕もなるほどと思いましたね。

◆“次”のエンターテインメントの姿

飯田和敏氏:あるクリエイターの発言で、今のインディーゲームは面白くて困るというのがあったんです。自分たちが一生懸命作った面白いゲームが目立たなくなっちゃうという、苦悩を語っている記事を読んで、ああ、こういうことがあるのかと思いました。だから、いろんな前提を疑うような実験っていうのはしにくいかもしれないですよね。

だから“次”のエンターテインメントの姿があるのかなと思ってて。次というのは、やっぱり「自分が作る」ってことだと思うんです。ゲームを買って消費して終わりじゃなくて、その世界づくりにコミットするという感覚が『マインクラフト』以降だんだん育ってきてるから、これがもっと一般的なものになっていくんじゃないかと。

その過渡期に大学でゲームを教えるっていうこともあるんだろうなと思います。だから、もっと先は幼稚園や保育園で「みんなで絵を描きましょう」っていうのと同じように、ゲームで「迷路を作ってみましょう」とか「シティの市長になってみましょう」とか、そういうロールプレイングが行われていくんだろうんじゃないかなと思います。

それは「作る」っていう遊びが流行るという感じですかね。今の業界で言えばUnityなんかがインディーゲームの支えになってるのは、まさに学習コストがかつてに比べれば低くなってる事があると思うし、その状況がどんどん加速しているんだと思っています。

――確かにそうですね。『マインクラフト』もですが、海外だと『Roblox』なんかも子供が遊んでいますし、思っている以上に今の子供達ってクリエイティブな遊びに触れているなと感じます。

飯田和敏氏:うん。 子供達の砂場遊びなんかも、いわば究極のゲームですからね。ワールドメイキングです。

僕自身が「これでいいのかな?」と思って最近触っている遊びの一つなんですが、AIの音楽生成アプリ「Suno」があります。これを触ってから他人の作った音楽をほとんど聴かなくなっちゃったんですよ。自分が生成した音楽は、やっぱり自分の琴線に触れるようになっていますね。

それは色々な仕組みでAIが動いていたり、元になっているのは外部の音楽があるということなんだけど、それを編集して、自分用のカスタマイズやリミックスをしていくような感覚で、AIが新しい楽曲を作っていくと、しっかりと自分が望むものが形作られていくんですよね。

ずっとやってたら自家中毒になって、どこかでバーストするのはわかってるんだけど、やっぱりやめられないっていうかね。

それとは別に自分で楽器を演奏する楽しみとかが統合されていくと、結局のところ「元通り」っていうことになるんだと思うんですよ。だけど、作るという自分が関与するっていう体験を踏まえてるから、ちょっと変わったもの、“進化した元通り”になるんじゃないかなと思います。

生成AIが作るコンテンツについてはいろんなハレーションも起きているし、特にアニメーション、漫画、ゲームのファンたちは距離を置いている人も多いですよね。もちろん、その気持ちもわかるんですけれども、ちょっと視点を変えると、過去の文化資産を自分用にリミックスしていくようなものじゃないかなと。

で、それが問題かっていうと、僕はそこまで問題と思わない。もし、ちゃんと還元していくという形まで進むことができれば、このハレーションは別の形のエネルギーになっていくんじゃないかなと思うし、僕はそうしてみたいなとは思ってますね。難しい問題ではあるんですけどね。

『太陽のしっぽ』は開発も“原始人的”だった?

――飯田さんの『太陽のしっぽ』は本当に大好きな作品で、新しいサウンドトラックが出るってタイミングで紹介記事を書いています。あらためて本作の開発についてや魅力を教えていただければ嬉しいです。

飯田和敏氏:『アクアノートの休日』で手応えを感じて、もう1本作ろうということになったんですが、次の開発期間はあまり長くなかったんですよ。確か開発期間は10ヶ月くらいで、メンバーも数人という状態でした。『アクアノートの休日』のチームは解散してたから、ほとんど初対面のような状態だったんですよ。

初めてのメンバーと10ヶ月ぐらいの短い期間で何ができるのかと考えました。最初は簡単にできるわけないだろうと思ってたんですが、一方で「できるわけないことをやる」のが楽しいわけです。僕がゲーム作りのアマチュアだと言ったように、初めて会う人や新人なんかも参加していたんです。もちろんベテランの方もいました。

だから、初めてのメンバーだからこそ、拙いけどできる事というのがたくさんあったんだと思います。「それはゲームのセオリーに反してるよ」となっても、こっちは「アマチュアだし知らないよそんなこと」というある種の開き直りができるわけで。その開き直りの中で確立したのが『太陽のしっぽ』の世界なんだろうなと思うんですよね。

技術的には『アクアノートの休日』で作ったジオメトリー、海底の高低差を作るっていうのは、結構新しい開発方法だったんです。実はこれ、ポリゴンモデルじゃなくて、頂点データだけを渡してプレイステーション上で生成しているんです。そうしないと、あんな巨大なデータは持てないんですよ。

『太陽のしっぽ』は、その技術を海上に持ち上げたというところから始まっているんですよ。あの広大な『太陽のしっぽ』のマップをモデリングしてたら、絶対プレイステーション上では動かなかったと思います。



――『太陽のしっぽ』のマップはかなり広いですからね。

飯田和敏氏:結構先進的なことをやってたいたんですよね。それはやっぱりセオリーを知らないというのもあったと思います。

このプレイステーションというプラットフォームで、何ができるんだろうかというのを原理的に考えました。ハードウェア上でポリゴンを描画していくのを活かすためには、こちらではあんまり作業しないほうがいいんだろうなと。そんな発想ですよね。だから当時の開発メンバーも、やっぱり“原始人的”だったんでしょうね(笑)

――自分にとって『太陽のしっぽ』のマップって、やりたい放題に飛び回って、走り回って、突然寝たりして楽しむものでした。こんなとんでもない技術の恩恵を受けてたんだなと、あらためて驚かされます。

飯田和敏氏:昭和のナンセンスギャグ漫画だった谷岡ヤスジさんの作品だとコマに線が一本引いてあって、そこから上が空、下が地面という読ませ方をする画風でした。

このシンプルな表現が成立するのは面白いなと思いました。例えば線の下側でドタバタとキャラクターが走っていくのを読めば、次から読者は自然とそこが地面だと理解する。こういった影響はすごく受けていると思いますね。谷岡ヤスジラブです(笑)。

――これはもう作品ファン全員の思いだと考えていますが『太陽のしっぽ』に登場する和菓子はとても印象的です。飯田さんも御自分のコラムなどで語っていることも多いですが、あらためてその経緯やエピソードを聞かせて頂ければ嬉しいです。

飯田和敏氏:『太陽のしっぽ』では、原始人はとにかく水を飲みたいだろうなと考えて、オアシスや川で水を飲むんだというふうに最初作っていたんですね。でも、半透明を作るというのが当時のプレイステーションの処理ではすごく重くなってしまうんです。

ゲーム内でも海なんかはあるんですけど、普通のフィールドに水場を作ってしまうと、ものすごくフレームレートが落ちてしまうんです。走る爽快感を阻害してまで、半透明なリアルな水を出せないというトレードオフの中で、じゃあどうやって水を出そうかと悩んだんですね。肉なんかは“マンガ肉”という記号もあるので、すぐにできたんです。

そんなある日、デザイン雑誌をパラパラめくっていたら「京菓匠 鶴屋吉信」さんというお店の和菓子一覧っていうのがバーッと載っていました。その中に水引という和菓子があり、これが水をモチーフとしたものだという記事が書かれていて、それを見た時に「あった!」と思ったんですね。

記事の中には電話番号が載っていたので、鶴屋吉信さんに「ゲーム作ってるものなんですけど感銘を受けたんで、和菓子を貸してくれませんか」みたいなお話をさせてもらったんです。

鶴屋吉信さんの本店は西陣にあって、京都の茶道の世界ではみんなそこで和菓子を買うような、めちゃめちゃ敷居の高い世界でした。そんなところに行って交渉したのは、考えると無茶なことだと思うし、今だったらなかなかできませんね。そういうところは飯野さんに似たかも知れないね(笑)

飯野さんも「マイケル・ナイマンに曲を頼むぜ」とか「次の広告はカヒミ・カリィだ!」とか言ってて、僕は「こいつ何言ってんだ」っていつも思ってたんです。でも、次の週に会うと「ほら、これだよ」みたいに成果を見せられて「ああ、言ってるだけじゃなかった」と思わされましたね。

あの時代のゲームクリエイターは相互に影響してたかもしれないですね。僕は【トキワ荘】みたいな空気はあったんだと思うんですよ。ゲームを作るうえで「もっと表現として高めていこうぜ」みたいなことを話し合うような場面もありましたね。

飯野賢治という男がそこで(トキワ荘の)誰の役だったのかは、ちょっとわからないですけど(笑)。

――飯田さんの作品は音楽も印象的で、昨年出た『太陽のしっぽ』の新サントラを聴いてあらためて思わされました。ゲーム世界の中での音楽の調和というか、不自然じゃないものとする作り方について、その考え方を教えてください。

飯田和敏氏:僕は音楽がすごく好きなんですけど、自分の作品の中ではあまり作ったものは使わないんですよね。好きで聞いているものを、自分の周囲にいる方々にお願いすれば、いいものができるという感じですね。

小島秀夫さんもそんなことを言っていました。『DEATH STRANDING』ではSILENT POETSさんを起用していて、僕は元々好きだったので小島さんに「どうやって繋がったんですか」と聞いたんですよ。そうしたら「友達だったんだよ」と。それでお願いしたら、その曲と名前が全世界に響き渡ったという。

そこまでスケールは大きくないですが、僕も割とそんな感じで周囲にミュージシャンの友達は多いんです。彼らに「次こういうゲーム作ろうと思ってるんだけど、何を聴いたらいいかな?」と聞くと、みんな好きな音楽のことを教えてくれました。それで「ああ、こういうのがあるんだな」と勉強になります。

『巨人のドシン』の時なんかが一番わかりやすいですね。僕には普段から色々な音楽を教わったり、ギターの面白い弾き方を2人で開発するミュージシャンの友人がいるんです。『巨人のドシン』は怪獣映画・特撮映画オマージュだから伊福部昭さんを起用したかったんです。

でもゲームは南国のトロピカルなムードもあって、その2つを融合させたかった。それで当時トロピカル風のイメージに合うマーティン・デニーさんという人がいて、その友人に「2人を融合させたイメージの曲を作って」とお願いしました。「どちらもあなたから教わったんだからできるよね!」と(笑)。

それで思った通りの曲が完成したのですごいなと思いますよね(笑)

――ゲームを作る上で作曲家の方とお話して、世界観やスタイルをしっかりと共有して作ってもらう形に近いんですね。

飯田和敏氏:まさにそうですね。だから「こういう感じの音楽を作ってくれ」とは言わないで、基本的にはずっとおしゃべりしてることが多いです。「今、何が面白いの?」みたいな話をしていたり。

最近はボカロPたちがすごく活躍してますね。僕からすると、ある意味で突然変異的なものが多すぎて、ちょっと難しい部分がある。それでも僕の子供から「何が面白いか」を教わって聴いてみて、面白いと言うのは理解できるんですけどね(笑)

ボカロPの人たちはそれぞれユニークな個性を持っています。彼らは時々グループを作ることがあって、基本的にはDAWを使ってやってるんですが、その内に楽器を持ち寄ってバンドスタイルで演奏してみるっていう人たちも出てきたんですよ。これって自分の身体に音楽を逆インストールするみたいな感じで、それが面白いんです。

僕が昔好きだったシューゲイザーというスタイルの音楽を彷彿とさせるように、シンセのテクスチャーが作用されているんですよ。いわゆるグリッチ的なサウンドだけだったら難しかったですが、バンド的な要素が入ると、スッと自分の文脈に入ってくる。

そういう個々の体験を引っ張り出して、それらを繋ぎ止めるという意味で『Vampire Survivors』と一緒なのかもなとも思います。

――現在『ONE-DOT Eyes』の開発を進められていますが、他に何か手がけているもの、あるいは計画しているもの、これをやってみたいなと思っているものはありますか?

飯田和敏氏:ゲームではないんですけれども、実は今映画を作ってるんです。先日、40分ほどの作品を完成させました。

『揺れる楽園』という作品で、生成AIを利用して僕ともう1人で制作したんです。制作期間的には一ヶ月で、サブスクリプション代以外の予算はほとんどかからずにiPhoneだけで制作したんです。「WORLD AI FILM FESTIVAL 2026 in KYOTO」というコンクールにも出展しましたよ。今後は自主上映とかで公開していきたいと思っています。

どうしても生成AIは色々と言われることもありますが、触ってみると面白い部分はしっかりあります。ひとつは「視点」の話です。モノを見るのには目や視覚に似たもの、つまりレンズやカメラというメカニズムが必要なんですよ。それを排除するのが僕にとっての生成AIで、別の“ダイレクト感”を感じます。それが気持ちいい。

例えば、自分の見た映像の記憶の中に「親と繋いでいた手を離してしまって、子供が人混みで迷子になる」というワンシーンがあります。これを生成AIで再現してみたんですが、母親の方がわざと手を離すような映像が出てきたんですよ。

これは、日本が敗戦して引き上げる時の混乱で、過酷さや疲労のなかで魔が差してしまう……考えたくないけど口減らしのためかも知れないなと。僕は元々そのエピソードで「人混みの大変な状況の中で、思わず離れてしまった」という物語だと思ってたんだけど、生成AIは色々な可能性や切り口を作り出してくる。

もちろん真相はわからないんですけどね。世界の見方とか、自分の思い込みが結構反転していくような体験が、この生成AIを使った映像作りにはあるだなと思います。それは、今の僕にとってめちゃめちゃ楽しいことです。

『揺れる楽園』という映画です。よろしければ、皆さんの町にスクリーンを抱えて上映に行きますので、よろしくお願いします(笑)

――最後に、Game*Spark読者の方へメッセージをお願いします!

飯野由香氏:沢山の方々にご協力いただいた『ONE-DOT GAMES』がいよいよリリースされます。

当時『one-dot enemies』で遊んでくださった方はもちろん、飯野賢治のことを知らない若い世代の方にも、ぜひ気軽に触れていただきたいです。

無料配信ですので、1ドットから広がる世界をどうぞお楽しみください。

飯田和敏氏:由香さんの言葉を継ぐようになりますが、飯野賢治という存在の作品だけじゃなく、彼の自由な精神のあり方をね、僕らは今でも刺激を受け続けてるし、真似していいことだと思っています。

僕らがバリバリやってた30年前よりも、今の方が色々と堅苦しい感じがするんですよ。いろんな場面でね。生活の色々な場面でふと、感じることがあります。縮こまって生きていくのが正しい姿に見えかねないんです。

でも、みなさんに「そうでもないんだよ」という精神性、“飯野賢治を楽しむ”ところを『ONE-DOT GAMES』にはめ込んで行きたいと思っています。

――本当にありがとうございました!


『ONE-DOT GAMES』は、2026年5月17日にiPhone向けに無料配信が開始。Android向けも順次配信予定です。今回のリリースを記念して、2026年5月22日から24日に京都・みやこめっせで開催される「BITSUMMIT PUNCH」にて、fYtOのブースも出展されます(ブース番号:1F-E02)。

ブース内では『ONE-DOT GAMES』のオリジナルTシャツやピンバッジ、当たりが出れば「飯野賢治オリジナルグッズ」も貰える缶バッジカプセルトイが用意されています。

《Mr.Katoh@Game*Spark》

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