2002年の前身「東京国際アニメフェア」から数え、長きにわたり国内外の優秀なアニメーション作品を紹介してきた「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)」。長編と短編の両部門でコンペティションを実施し、多種多様な才能の発掘とクリエイターへのスポットライトを当て続けてきた。
この歴史ある映画祭において、今年のフェスティバル・ディレクターを務めるのが西岡純一氏だ。TAAFは、これまでどのような理念のもとで歩んできたのか。そして、世界的な需要の拡大やAI技術の台頭など、激動の時代を迎える日本のアニメーション産業において、映画祭が果たすべき真の役割とは何か。
今回のTAAF開催に向けた思いと、これからの日本アニメの展望について、西岡氏にその詳細を聞いた。
TAAFがこれまで果たした役目
――TAAFはこれまで、日本に外国の優秀なアニメーション映画をたくさん紹介するなど、重要な役割を果たしてきたと思いますが、これまでを振り返っていかがですか。
西岡:TAAFは長編と短編の両方のコンペティションを行っており、国内作品だけでなく海外作品を積極的に紹介してきたという自負があります。両方を行うのは非常に労力と手間がかかります。例えば、1000本近い短編の応募作品をすべて見るのは大変で、一次選考委員の方々にも多大なご協力をいただいています。
これまで数多くの作品を紹介し、中には商業ベースに乗り、2作目、3作目と作り続けている監督もいます。新人発掘や監督への注目を集めるといった意味では、貢献してきたと思います。

――TAAFの精神において一番大事なものは何でしょうか。
西岡:一番大事なのは、中立で公明正大であることです。例えば、「スポンサーが大きなお金を出すからこの作品を上映してほしい」「協賛金を出すから賞をください」といった要求は絶対に受け入れません。審査員や一次選考委員も、毎回できるだけ新しい人にお願いするよう配慮しています。今年は話題性の観点から審査員を1ヶ月前に発表しましたが、公明正大にやるという基本精神は揺らぎません。
――スタッフに光が当たる機会は多くないので、アニメ功労部門も貴重な場になっていると思います。
西岡:日本アカデミー賞のように、美術や照明など細かな部門ごとに裏方の方々を表彰する仕組みは素晴らしいと思っています。アニメーション業界でもそこまで細かく表彰できればいいのですが、ジャンル分けが非常に難しいんです。例えば、今年のアニメ功労部門に選ばれた安彦良和さんは、監督作品も多数ありますが、アニメーターとして評価したいという思いがあり、ご本人にご相談して肩書きを選んでいただいたケースもあります。
また、TAAFでは新しい作家や人材の発掘が重要だと考え、子どもたちに向けてアニメーション作りの楽しさを伝えるワークショップを開催し、種まきをしています。そうした子どもたちが成長し、アニメーションの道に進んでくれれば願ったりですが。
数年前から、アニメーション業界を目指す日本の学生に向けた「学生賞」も新設しました。日本の学生作品の中で一番優れたものに賞を授与して、アニメ制作のモチベーションになればという狙いです。
――愛知や新潟など、アニメーション映画祭が日本でも増えつつあります。そうした映画祭の先鞭をつける役割も果たしたと言えるのではないでしょうか。
西岡:そうですね。各地で映画祭が頑張ってくれるのは良いことだと思いますし、ぜひ続けてほしいです。
一方で、新鮮な作品を揃えるためには、他の映画祭との駆け引きも生じます。コンペティション作品ではありませんが、今回はオープニング作品としてアカデミー賞にもノミネートされている『ARCO』を出してもらえたのは非常に良かったです。アカデミー賞の授賞式とTAAFの開催期間が被ってしまうため、監督が来日できないのは残念でしたが、素晴らしい作品を揃えられたことは大きな成果です。

映画祭は作家を発掘する場所
――AIに代表される技術の進化、そして、日本アニメの人気が世界で高まるなど、アニメを取り巻く環境は大きく変化していますが、西岡さんは今後、日本のアニメがどうなっていくかについて、どのような見解をお持ちですか。
西岡:日本アニメーションの勢いは、しばらくは続くと思います。ディズニーやピクサーの作品の人気がここ1、2年で少し頭打ちになってきていますよね。その分、日本のアニメーションが世界の人に見られるようになっている。
CGではない、手描きですごく迫力のあるアニメーションがあるんだということに、特にコロナ禍の時期に皆が配信で見て気づき、その魅力を知ったというのも大きかったと思います。さらに、海賊版ではなく正規配信されるようになり、見た人からのフィードバックもちゃんと日本に入ってくるようになりました。
アニメーション業界の労働環境についても、ここ5年ほどで大きく改善されてきています。未だにニュースで言われるほど酷い状況ではなく、各社に労基署が入り、深夜残業の見直しや残業代の支払いなどが徹底された結果、夜8時頃にはきちんと帰れるような会社も増えましたし、「動画を一生懸命描いても食べていけず、実家暮らしでしかアニメの仕事はできない」といった状況もだいぶ減ってきています。アニメーターが不足していることもあり、固定給を支払って育成しようという動きが、大手を中心に広がっています。業界全体が改善されているので、その点についてはそんなに暗くないと思っています。
さらに、漫画やライトノベル原作のアニメが大量に作られていて、題材には事欠きません。そういう強みがあるので、この勢いは5年、10年と続くような気がしています。
――一方で、オリジナルのアニメが今後どうなっていくのかという点も少し気になります。
西岡:TAAFのコンペティションに入ってくる海外の作品を見ていると、社会的な意識が高く、戦争や環境問題、LGBTQといったテーマを扱う作品も多いです。日本のアニメーションが今のまま、そうしたテーマを描くことなく進んでいった場合、いつまで見てもらえるのかなと。その点には危機意識があります。

漫画から良いものを選び、アニメーション会社が卓越した技術で映像に仕上げていく、その分業体制はある種の成功のシナリオや方程式としてあっていい。ただ、それだけでは寂しいというのも確かにありますね。
ジブリや、細田守監督のスタジオ地図など、作家性が強い監督のオリジナル作品を作るのは、決まった成功の方程式がないため、やはり苦労します。それでも、そういった作品が当たるのは夢がありますね。
――そういう作家を発掘する場として、映画祭は機能すると思われますか。
西岡:もちろんです。若手がチャレンジする場合、個人作家は短編から入ることが多く、「この人はすごい」という評価をうければ次回作のオファーが来ます。注目される場を与えるという意味で、映画祭はすごく意義があると思っています。



AIの凄まじい進化を実感
――変化という点では、やはりAIは大きな存在だと思いますが、応募作品にAIを用いた作品などはありましたか。
西岡:ありました。ただ、現状のAIには独特の質感があり、見れば一発で分かってしまうんですよね。特に多いのは、壮大なSF的な世界をリアルな映像で作ってくるケースです。ストーリーも全然魅力的ではなく、話が破綻しているものが多かったです。ただ、来年や再来年になると、かなり質が向上してくると思います。
――現状、TAAFにはAIに関するガイドラインはありますか。
西岡:今のところないです。「クオリティが高い作品であれば良いのではないか」という、前フェスティバル・ディレクターの考え方を踏襲しています。ただ、1、2年後はどうなるか分かりません。
本当にこの1年での進歩が凄まじいですから、来年どうなっているかは想像もつきません。
――最後に、今年のTAAFを楽しみにされているお客様へ、抱負やメッセージをお願いいたします。
西岡:この4日間のプログラムについては、かなり良いものを揃えることができたと自負しています。どのプログラムをご覧になっても満足いただける内容になっています。
世界中から様々なクリエイターを呼んで映画館に登壇してもらったり、宿泊してもらったりしています。池袋にはアニメイトの本店をはじめ、アニメ関連のショップがたくさんあります。そうした街を歩いていると、偶然隣に「さっき舞台挨拶をしていた監督がいる」ということも起こり得る環境です。そこから交流が生まれたら素晴らしいなと思っています。ぜひこの4日間、アニメーションに染まる池袋の街に足を運んでいただけると大変嬉しいです。







