Epic Games Japanは、GTMF2025(Game Tools & Middleware Forum 2025)にて「Unreal Engine 5.7 注目ポイント紹介!」と題した講演を実施しました。登壇したSenior Software Engineer, Developer Relationsの鈴木卓氏は、リリースされたばかりの「Unreal Engine 5.7(以下、UE5.7)」について、その開発テーマと主要な新機能を技術的な観点から解説しました。

UE5.7では「パフォーマンス」「スケーラビリティ」「ワークフロー」の3つを柱に掲げ、現行世代ハードウェアでの60fps動作の安定化や、開発者のイテレーション速度向上などに注力しています。本稿では、レンダリング機能の進化から、AIを活用したエディタ機能まで、講演で語られた注目ポイントをレポートします。

実用段階に近づくレンダリング技術:「MegaLights」と「Substrate」
UE5.7のレンダリング分野における最大のトピックは、「MegaLights」がベータステータスへ移行したことです。UE5.5で導入されたこの機能は、大量の動的ライトを効率的に処理する仕組みですが、今回のアップデートにより、今後の破壊的な変更が予定されていない段階へと進みました。

鈴木氏は、「おそらく来年の春以降にリリースされるUE5.8でProduction Ready(実用段階)へ移行できるよう開発を続けている。UE5.8へ更新予定のプロジェクトでは、ぜひ導入を検討してほしい」と述べました。UE5.7ではグルーム(毛髪)への対応やシャドウイングの改善、ノイズ低減などが実施されています。
また、次世代マテリアルシステムである「Substrate Materials」がProduction Readyとなりました。UE5.7で新規作成するプロジェクトではデフォルトで有効化されます。鈴木氏は「レガシーなマテリアルシステムはUE5.9を目処に廃止予定であるため、これからのプロジェクトではSubstrateの有効化を推奨する」としています。
なお、SubstrateはGBufferにマテリアル情報をエンコードして格納する「AdaptiveGBuffer」を用いますが、パフォーマンス維持とプラットフォーム対応のため従来と同じGBufferフォーマットを用いる「BlendableGBuffer」などの最適化も導入されています。

「Nanite Foliage」による高密度な自然環境の構築
実験的機能(Experimental)ながら注目度が高いのが「Nanite Foliage」です。『ウィッチャー4』のデモでも活用されたこの技術は、高密度な植生を低コストで描画することを可能にします。

これを支えるのが「Nanite Assembly」です。これは、樹木のような複雑なメッシュを「幹」と「末端パーツ(葉や枝)」の組み合わせとして扱い、効率的にレンダリングする仕組みです。さらに、遠距離描画時のシルエット崩れを防ぐ「ボクセルレンダリング」や、アニメーションするNaniteメッシュを固定機能ラスタライザで描画する「Nanite Skinning」を組み合わせることで、映画品質の植生表現とパフォーマンスの両立を目指しています。

コンテンツ制作を加速する「PCG」と「World Partition」
ワールド制作においては、「PCG(Procedural Content Generation)フレームワーク」がついにProduction Readyとなりました。UE5.2での導入以来、機能追加が続けられてきましたが、今後はより安心して実制作に投入できます。UE5.7では、PCGを編集するための専用モード「PCGモード」や、Nanite Foliageを作成するための「Procedural Vegetation Editor」が追加されています。

また、広大な世界を管理する「World Partition」では、「Fast Geo streaming」プラグインが実用段階に入りました。鈴木氏は「効果が劇的であるため、従来のサブレベルワークフローを利用しているプロジェクトがWorld Partitionへ移行する強い動機になる」と、その性能向上を強調しました。

キャラクター表現とアニメーションの統合
キャラクター分野では、キャラクターカスタマイズソリューション「Mutable」に「データレスモード」が追加されました。これにより、アセットとオブジェクト間のハード参照を分離し、プリコンパイルなしで動的なアセット生成が可能になります。

アニメーションに関しては、「モーションマッチング」と「チューザー」の統合が進みました。従来はモーションマッチングテーブルを介して切り替えていた挙動を、チューザーによって柔軟にフィルタリングし、評価できるようになります。これにより、開発者はより直感的に複雑なキャラクターアニメーションを制御できるようになります。

開発効率を劇的に改善する「イテレーション」と「AI」
開発現場の効率化に直結する機能として、「Incremental Cooking(差分クック)」が紹介されました。これは変更されたアセットのみをクックすることで時間を短縮する機能です。Epic Gamesの「City Sample」を用いた比較では、UE5.1と比較してクック時間が約4分の1に短縮され、メモリ使用量も数割減少したデータが示されました。


さらに、エディタ機能として「AIアシスタント」が実験的に導入されました。これはEpic Gamesが持つ公式ドキュメントやエンジンコードを学習したLLM(大規模言語モデル)を利用できるチャットボットです。

企業ユースで懸念されるコンプライアンス面について、鈴木氏は「プロジェクト内の固有コードや機密アセットを認識することはなく、入力内容(プロンプト)が学習に利用されることもない」と明言しました。ただし、フィードバックボタンを押した際の情報は個人情報を削除した上で収集されるとのことです。
まとめ
今回の講演では、UE5.7が単なる機能追加にとどまらず、実際のゲーム開発現場における「実用性」と「効率」を強く意識したアップデートであることが示されました。
特に、MegaLightsの実用化へのロードマップや、PCGのProduction Ready化、そしてIncremental Cookingによる待ち時間の短縮は、現在進行形のプロジェクトにとっても大きなメリットとなりそうです。次世代の表現と日々の開発効率、その双方を追求するデベロッパーにとって、UE5.7は重要なマイルストーンとなるでしょう。
Unreal Engine 公式サイト






