「自分の欲を満たすために活動しています」メカ傭兵生活シム『MechWarrior 5: Mercenaries』湧浦カラン氏インタビュー【有志日本語化の現場から】 | GameBusiness.jp

「自分の欲を満たすために活動しています」メカ傭兵生活シム『MechWarrior 5: Mercenaries』湧浦カラン氏インタビュー【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回はVTuberの有志翻訳者に話を訊きました。

文化 その他
『MechWarrior 5: Mercenaries』
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海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は2025年10月に公式日本語対応が行われたメカ傭兵生活シム『MechWarrior 5: Mercenaries』の有志翻訳者に話を訊きました。

日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。


連載第27回は、メカ傭兵生活シム『MechWarrior 5: Mercenaries』の有志翻訳者で、VTuberでもある湧浦カラン(わくうら からん)氏に話を訊きました。

好きなものはシェアしたい

欲望があるからモチベーションが維持できます

――自己紹介をお願いします。

湧浦カラン氏(以下、敬称略)メック戦士系VTuberの湧浦カランです。『MechWarrior 5: Mercenaries』日本語化Modの翻訳協力と広報を担当しています。視聴者からは「メックの妖精」と呼ばれることもあります。

――本作の魅力はどんなところですか?

カランとても一言では言い表せないのですが、あえて言うなら、シンプルなロボットアクションゲームでは「ない」ところが魅力です。

メックと呼ばれるロボットは、火力、装甲、放熱、弾薬などの分配を考えながら改造します。戦闘ではダメージを受ける部位を調整して機体を守り、逆に敵の武装を狙って攻撃することで相手を無力化します。実際のパイロットになった気持ちで戦えるロボットパイロット・シミュレーションと表現するのが近いですね。

――有志翻訳に携わるようになったきっかけは何ですか?

カラン本作の日本語化Modは当初X(旧Twitter)だけで公開されていたので、探すのが非常に大変でした。そこで、Modの制作者である「えと」さんにコンタクトを取り、導入方法の解説や宣伝に協力させてもらったのが有志翻訳に参加したきっかけです。ありがたいことに、導入動画は15,000回以上再生されました。

――失礼ながら、日本では比較的マイナーな作品であることを考えると、すごい再生数ですね。

カラン過去作をプレイしていた人も多いようです。特に、『MechWarrior 2』にはPlayStationやセガサターンで発売された作品もありましたから。(編注:IPの一部作品の関係者の言によれば、『2』は当時全世界で累計700万本以上を売り上げたとされています)

――なぜボランティアで活動しているのですか?

カラン私は好きなものを共有したいタイプの人間だからです。素晴らしい体験ができるこのゲームを心置きなく他の人に勧めたい。でも、それには言葉の壁が邪魔になる。だから、翻訳Modのお手伝いを始めました。全部私欲のためです。

――その手伝いを無償で行っているのはなぜですか?

カラン仲間が欲しいからです。先ほど言われたように本作は日本ではマイナーです。新規プレイヤーが増えて有名になって欲しいですが、それには多くの障害があります。特に、日本語非対応というのは一番高いハードルでした。

そのハードルの解除が有償になってしまったら、「じゃあいいや」と諦める人は多いと思います。そもそもライトゲーマーにとってはModの導入すら手間ですから、新規参入の障害はできるだけ排除したいのです。そして、このゲームの魅力を味わって貰えれば、きっとハマってくれる。それだけの魅力がある作品だと思っています。

――有志翻訳に一番必要な能力は何だと思いますか?

カランモチベーションの維持だと思います。そして、モチベーションを維持するのに必要なのが欲望です。ゲームを快適にプレイしたいとか、英語だけでは友達に勧めにくいとか、そういう欲望があるからモチベーションを維持できるのです

――これまでのインタビューで愛や情熱を挙げた人は多いですが、欲望とは個性的ですね。

カラン欲望は大事ですよ。私は自分が気に入ったものを他の人にも気に入って欲しいという「シェアしたがり」の性分で、結局のところ、自分の欲を満たすために活動しています。Xを巡回して本作の設定や難易度で悩んでいる人の手助けをしていますが、それも新規プレイヤーにやめて欲しくないからです。

誰もが遊べる環境を目指して

日本語化Modは不要になって欲しかった

――本作の有志翻訳が始まった経緯を教えてください。

カラン日本語化Modの制作者である「えと」さんは、元々Paradox Interactive版の『BATTLETECH』や、『MechWarrior』の対戦版にあたる『MechWarrior Online』の日本語化Modを制作していました。その流れを汲む『MechWarrior 5: Mercenaries』日本語化Modを私が見つけたのが始まりです。

そのModも最初は機械翻訳(コンピュータによる自動翻訳)によるものでした。文章量が膨大だったため、少人数による手作業ではなかなか翻訳が進まなかったのです。そこで、Discord上にある私のファンコミュニティサーバーに集まっていたメック戦士の中から作業者を募り、翻訳に協力し始めました。実際に作業者が集まりだしたのは2021年初頭からです。

――Mod制作者の「えと」氏は現在翻訳に参加していないのですか?

カラン他の作業の都合で時間が取れないとのことで、現在はあまり参加していません。

――それでは、カランさんが翻訳チームを引き継いでリーダーになったのですか?

カランリーダーは特に決まっていません。私の立場はあくまで「翻訳協力者&広報&作業サーバー提供者」です。VTuberという立場が広報として便利なので私が窓口になっています。翻訳チームを引き継いだというより、協力者を募って翻訳チームを拡大したというのが近いでしょう。

――リーダーがいないとのことですが、翻訳者の間で議論や対立が起きた時はどう解決しましたか?

カラン確かに議論はありました。例えば、本作の作品世界である「バトルテック」の専門用語をどう翻訳すべきかといった議論です。その時はサーバー内の翻訳者部屋で、どの訳にするのが良いか話し合いや多数決をして決めました。

そして、議論の結果は共通の用語として用語集に登録しておきました。複数の翻訳者が参加していると、そういった用語の翻訳に違いが生じますから。

――今回の公式日本語対応と有志翻訳の関係を教えてください。

カランまず、デベロッパーから私のもとに「日本語の公式実装にあたり、日本語化Modのデータを参考にしたい」というDMが届きました。しかし、私はあくまで翻訳チームの一人ですから、Mod制作者の「えと」さんに相談しました。その結果、私が代表して交渉にあたることになり、現在に至ります。

有志翻訳が公式翻訳にどこまで採用されたかについては、詳しい内容までは分かりません。参考としてModのデータを提供しましたが、それをデベロッパーがどのように処理したのかまでは把握していません。

――翻訳データを提供するにあたり、翻訳者の間でどんなやり取りがありましたか?

カランModの権利は制作者の「えと」さんにあると考えているので、まず許可を取り、その後、Discord上で翻訳者に外部への情報提供を伝えました。

翻訳者は15人以上いましたが、翻訳の提供について議論が起きることはありませんでした。むしろ皆さん喜んでいました。そもそもMod自体は誰でもダウンロードできる形式で配布していましたし、翻訳者は翻訳に参加するくらいこのゲームが好きだからだと思います。

――デベロッパーとの交渉で苦労したことはありますか?

カラン交渉で苦労したことといえば報酬ですね。翻訳に参加した人数も多かったですし、全員が同じ量の作業をしたわけでもありません。どうしようかと悩んだ結果、クレジットに名前を載せてもらう形に落ち着きました。

――有志翻訳が公式翻訳に影響を与えたことで、考え方は変わりましたか?

カラン考え方自体は変わっていませんが、これでようやく私の日本語化Mod導入動画が不要になるとスッキリしました。

――それは残念な気持ちですか、それとも嬉しい気持ちですか?

カランもちろん嬉しい気持ちです。常々「こんなものが必要な環境なんて、コンシューマー機で遊ぶ人が参入できない証拠じゃないか」と思っていましたから。日本語化Modは不要になって欲しかったのです。本作が公式日本語対応したその日に動画のサムネイルも差し替えました。

湧浦カラン氏の日本語化Mod導入動画。サムネイルが差し替えられている。

有志翻訳を支えたアイデア

誤訳があった場合はすぐにその場所が分かるようになっています

――今回の有志翻訳で特に工夫した点はどこですか?

カラン先ほど述べた通り、使用する用語の統一です。翻訳者が増えると表記揺れが発生しやすくなるため、用語をリストアップして、なるべく同じ訳語を使用するよう心がけました。

――機械翻訳はどんな役割を果たしましたか?

カラン作業用のスプレッドシートを見ると分かりますが、「英語の原文→リストアップした用語だけを日本語に置換→機械翻訳→手作業で翻訳」という流れで作業していました。ですから、すべての翻訳の下地には機械翻訳が入っています。機械翻訳サービスにはDeepL翻訳を使用していました。

英語原文

After weeks of brutal fighting, New Delos has fallen at the hands of Wolf's Dragoons. All five Dragoon BattleMech regiments descended on New Delos with a vengeance after the execution of 28 of it's staff by Anton Marik.

用語置換

After weeks of brutal fighting, New Delos has fallen at the hands of ウルフ竜機兵団. All five Dragoon バトルメック regiments descended on New Delos with a vengeance after the execution of 28 of it's staff by Anton マーリック.

機械翻訳

数週間にわたる残酷な戦いの末、ニューデロスはウルフズ・ドラグーンの手によって陥落した。アントン・マリクによってニュー・デロスのスタッフ28名が処刑された後、ドラグーンのバトルメック5連隊は、復讐のためにニュー・デロスに降り立った。

手動翻訳

数週間にわたる苛烈な戦いの末、ニュー・デロスはウルフ竜機兵団の手によって陥落した。アントン・マーリック公爵の手によって、竜機兵団の共同創設者であるジョシュア・ウルフ及びその部下27名が処刑された後、竜機兵団のバトルメック5連隊は、復讐のためにニュー・デロスの地に降り立った。

――自動で用語を置換するこの手法は他の有志翻訳にも応用が効きそうですが、どのように実現しているのですか?

カランすみません。スプレッドシートの管理は「えと」さんが対応していたため、私では分かりません。後ほど確認して回答します。

後日「えと」氏より得た回答

用語の置換にはGoogle Apps Scriptを利用しています。その他の外部ツールは使用していません。実行用のボタンは作成していなかったので、直接スクリプトを再生して適用していました。ノリと勢いで作ったので、詳しい動作内容はよく覚えていません。

――翻訳したテキストがゲームに正しく反映されているかの検証はどのように行いましたか?

カラン簡単に説明すると、リリース用と検証用で2種類の日本語化Modが存在します。検証用のModでは、それぞれの翻訳テキストの最後に「翻訳テキスト@番号」という形で番号が振られていて、誤訳があった場合はその番号ですぐにその場所が分かるようになっています

――それは面白い工夫ですね。その番号は何を表しているのですか?

カラン作業用スプレッドシートの行番号です。

――シンプルで分かりやすいですね。スプレッドシートで活動している有志翻訳なら、すぐにでも応用できそうです。その番号は自動的に振られるのですか?

カランはい。これも「えと」さんが設定してくれているようで、翻訳を変更すると検証用Modにその翻訳が反映された上で番号が振られます。

――翻訳する上で特に創意工夫が必要だった表現はありますか?

カラン本作の作品世界である「バトルテック」は40年の歴史を誇るSFボードゲームです。そのため、大量の設定や独自の歴史があり、翻訳には苦労しました。一番記憶に残っているのは軍隊の階級です。作品に登場する勢力ごとに制作者が念頭に置いている現実世界の国が異なるため、同じ単語でも実際の階級が異なる場合があり、その扱いには非常に苦心しました。

――そうした問題はどのように克服したのですか?

カランこれに関しては専門家に助言を頼みました。「バトルテック」の原著を網羅し、Wikiの内容まですぐに引用できる、まるで生き字引のような方がおりまして。

――原著を網羅とは只者ではないですね。

カラン怖いですよ。Discord上のサーバーで『MechWarrior』の雑談をしている時に疑問があると、さっと現れて、さっと解説して、その答えが載っている本を紹介して去っていくんです。怖いというよりも畏怖ですね。とても尊敬しているgRikさんという方で、Xでも度々「バトルテック」にまつわる小ネタを発信してくれています。

――翻訳にはどのような辞書や事典を利用しましたか?

カラン基本的にはDeepL翻訳ですね。辞書は人それぞれだと思いますが、私はDeepL翻訳を使いつつ、単語が分からない時はWeblio辞書などを使用していました。詳しい背景情報が欲しい時は、sarna.netという「バトルテック」専用のWikiを参照しました。

――有志翻訳を通じて特に苦労したことはありますか?

カラン苦労話というほどではありませんが、すでに翻訳した文章を他の人が上書きしてしまう問題がありました。ある翻訳者が口調や言い回しを統一しているのに、他の翻訳者の意思が入って統一が崩れてしまうのです。複数人で翻訳する際にはよくある話なのでしょうが、日本語の難しさを実感した瞬間でした。

――口調を統一するのは用語の統一より難しそうですね。

カラン日本語は口調でキャラクター性を表現しますからね。キャラクターの性別が不明な場合に男女の口調を使い分けることにも苦労しました。本当に初期の話ですが、チュートリアルで解説をしてくれる主人公の父親が女性口調だったこともあります。

――有志翻訳をしていて一番嬉しかったことを教えてください。

カランそれはやはり、有志翻訳が実を結んで公式日本語対応が行われたことです!

言葉の壁を乗り越えるために

日本語化Modがあるだけでハードルは低くなります

――これから有志翻訳を志す方へ一言アドバイスをお願いします。

カラン最初の方でも言いましたが、日本人は日本語非対応というだけで手を出さなくなってしまう人が多いです。ですが、日本語化Modがあるだけでそのハードルはかなり低くなります。一人では作業が多くて辛いでしょうから、仲間を募ってみると良いと思います。「有志の集まり=コミュニティ」ですから、そのメンバーが集まって気軽に交流出来る場所もあると良いかもしれません。日本語への翻訳は大変ですが、ぜひ色々なゲームを日本語化して世に知らしめてください!

――有志翻訳者としてゲーム開発者やゲーム業界に伝えたいことはありますか?

カラン日本語翻訳は難しいです。他の言語に比べて翻訳のコストが大きいと思います。ですが、日本人は「外国語へのハードル」が非常に高いです。日本語非対応という時点で買う気をなくす人が多いのです。ですから、完全機械翻訳でも構わないので日本語に対応していただければ、日本人の購入率はかなり上がると思います。ぜひ日本語の導入をお願いいたします!

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

《FUN@Game*Spark》

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