1週間の気になる生成AI技術・研究をいくつかピックアップして解説する連載「生成AIウィークリー」から、特に興味深いAI技術や研究にスポットライトを当てる生成AIクローズアップ。
今回は、大規模言語モデル(LLM)を活用して日本の国会議員のこれまでの発言を分析して政治的立場をまとめた研究「KOKKAI DOC: An LLM-driven framework for scaling parliamentary representatives」を取り上げます。
東京大学とトロント大学に所属する研究者らが発表したこの研究では、議員の国会での発言から政治的立場を数値化し、視覚的に表現することで、有権者が選挙時に情報に基づいた判断をしやすくすることを目指しています。
この研究結果は既に「kokkaidoc.com」というウェブサイトで公開されており、各議員の発言が整理され閲覧できます。また発言から分析された政治的立場をグラフで可視化し、政党や議員の立場を直感的に知ることができます。

▲KOKKAI DOCのトップページ
研究チームが開発したフレームワークには3つの主要技術があります。まず第一に、国会議員の発言を要約することでノイズを除去し、より一貫性のある意見の表現を生成しています。第二に、議員のスピーチから政治的対立軸を自動的に抽出することで、研究者のバイアスを減らしています。第三に、2000年から2024年にかけての政党の立場の変化を時系列で分析し、政治的立場の変遷を追跡しています。

▲KOKKAI DOCでは各議員の発言がまとめられている
この研究では、防衛政策、原子力発電、経済政策、少子高齢化対策、気候変動などのテーマについて議員の立場を分析しています。
例えば、防衛政策における自衛隊の憲法明記の是非や防衛予算の増額について、自民党と公明党は賛成側に、立憲民主党と共産党は反対側に位置していることが視覚的に示されています。原子力発電所の再稼働については、自民党が賛成、共産党が反対の立場にあり、立憲民主党はその中間に位置しています。

▲原発に関する政党/議員の政治的立場を可視化した図。グラフの色丸は各議員を示しており、クリックするとその議員の発言が表示される
研究チームは政党の時系列分析も行い、興味深い結果を得ています。例えば、防衛予算の増額に関して、自民党と公明党は2009年までは賛成の立場でしたが、民主党政権時代の2009年から2012年の間は反対の立場にシフトしました。このシフトには2011年の東日本大震災も影響し、政党の焦点がより緊急の問題に移った可能性があります。その後、2014年のロシアによるクリミア侵攻を機に再び賛成の立場に戻っています。
原子力発電については、2011年の福島第一原発事故後に自民党と公明党は慎重な姿勢をとりましたが、エネルギー危機とロシアの侵攻を受けて2013年以降再び原発推進の立場に回帰していることが示されています。