『カブトクワガタ』がもたらしたゲームアクセシビリティの”革命”―開発者×ユーザー鼎談で見えた「ReadSpeaker」の魅力 | GameBusiness.jp

『カブトクワガタ』がもたらしたゲームアクセシビリティの”革命”―開発者×ユーザー鼎談で見えた「ReadSpeaker」の魅力

『カブトクワガタ』の音声読み上げ機能に関する記事が話題となった猫氏と、同作の開発者である植村比呂志氏、高橋剛氏に鼎談していただき、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性と未来について、ユーザー、開発者それぞれの目線からお話しいただきました。

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『カブトクワガタ』がもたらしたゲームアクセシビリティの”革命”―開発者×ユーザー鼎談で見えた「ReadSpeaker」の魅力
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この記事はReadSpeakerでの音声読み上げに対応しています。

2023年3月20日、Twitter(現名称はX、本稿ではTwitterと表記)で、ある投稿が大きな話題を呼びました。Nintendo Switchでリリースされた『カブトクワガタ』は、日本のゲームアクセシビリティにおける革命である――そう高らかに声を上げたのは、全盲のソフトウェア開発者である「(@nyanchan2013)」こと野澤幸男氏(以下、猫氏)でした。

カブトムシとクワガタムシを愛する少年を主人公とする甲虫冒険RPG『カブトクワガタ』は、HOYA社によるTTS(Text to Speech/音声合成によるテキスト読み上げ機能)「ReadSpeaker」を導入しており、ゲーム中のテキストや文字情報をリアルタイムで読み上げます。

ReadSpeakerには日本語、英語、中国語をはじめとする44言語以上がラインナップされており、様々な特徴や言語、キャラクターを持つ約80の話者が用意されています。DNN型音声合成と波形接続型音声合成という2つの方式を採用し、短時間の収録からAIが生成した音声を肉声のように感情豊かに読み上げる事が可能なソフトウェアです。

2023年8月現在、88ヶ国超11,000社以上の企業が導入している世界No.1の音声合成ソリューションですが、ビデオゲームでの導入事例はいまだ途上にあるといえます。そんな中、『カブトクワガタ』はどのような経緯でReadSpeakerを導入したのでしょうか?

今回、『カブトクワガタ』の音声読み上げ機能に関する記事が話題となった氏と、同作の開発者である植村比呂志氏、高橋剛氏に鼎談していただき、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性と未来について、ユーザー、開発者それぞれの目線からお話しいただきました。

ReadSpeaker 公式サイト


ReadSpeakerでゲーム画面に映るすべての情報を音声化

――まずは簡単な自己紹介をお願いします。

植村比呂志氏(以下、植村):ゲームクリエイターの植村です。かつてはセガに所属しており、今回同席している高橋さんと一緒にトレーディングカードアーケードゲーム『甲虫王者ムシキング』を手がけました(2003年リリース)。

当時、月刊コロコロコミックの編集(後に編集長)だった和田誠さんともご縁ができて、3年ほど前に和田さんから「もう一度、虫のゲームを作りませんか?」とお声がけいただいたのが『カブトクワガタ』の開発につながりました。本作ではディレクターを務めています。

――『カブトクワガタ』の開発体制はどのようなものだったのでしょうか。

植村ゲームソフトの企画・開発を手がけるニゴロデザインの代表取締役で、『甲虫王者ムシキング』の開発にも携わっていた高橋さんにある程度お任せしています。高橋さん、開発体制の説明をお願いできますか?

高橋剛氏(以下、高橋):ニゴロデザインの高橋です。2021年に植村さんから声をかけてもらいましたが、自社だけで開発するのは難しかったので、過去のツテも頼りながらスタッフを確保していきました。

『カブトクワガタ』の開発者である植村比呂志氏(写真左)と高橋剛氏(写真右、リモート参加)

植村カブトクワガタ』は完全リモート体制で制作しました。スタッフにはDiscordでやりとりをしつつ自宅で制作作業をしてもらいましたので、まだ直接会ったことがない人もいます(笑)。

――猫さんも自己紹介をお願いします。

氏(以下、):全盲のソフトウェア開発者、といいます。現在は金融システムの開発に携わっています。独学でプログラミングを学び、10歳の頃から趣味でゲームを作っているので、ゲーム開発歴は16年ほどになります。

近年は、ビジュアルを必要とせず音だけで楽しめるゲームの可能性を追求する試み「オーディオゲームセンター」にも携わっています。

『カブトクワガタ』の読み上げ機能に関する記事が話題となった猫氏。自身もゲーム開発に取り組んでいる

――ありがとうございます。それでは本題に入らせていただきます。2023年3月20日、猫さんがTwitterで投稿した『カブトクワガタ』に関する投稿がネット上で大きな話題を呼び、植村氏の耳に届くまでになりました。どのような経緯で投稿するに至ったのでしょうか。

カブトクワガタ』は3月15日にリリースされるやいなや「カオスなゲームが出たぞ」とTwitterでトレンドワードになり、私もすぐに知るところとなりました。

プレイ動画をチェックしてみると、キャラクターのセリフのみならず文字入力インターフェースでカーソルが指している文字なども読み上げていることに気が付き、すぐに購入しました。

私は視覚障害がありますので、起動したゲームをタイトル画面からスタートさせるだけでも大変なのですが、『カブトクワガタ』はそこでもテキストを読み上げてくれるのでスムーズに始められました。それを確認した瞬間、「これは記事にしてブログで公開しなければ」と思いましたね。

――その記事が、瞬く間に話題となりました。

バズるだろうとは思っていましたが、予想を超える勢いでした(笑)。そして、よい意味で話題になれば化学反応も起こるというもので、このような鼎談の場まで用意していただいて……。今日という日を、とても楽しみにしていました。

――『カブトクワガタ』に実装されているテキスト読み上げ機能が、アクセシビリティの観点からどのように優れていたかをあらためて教えてください。

アイコンとして画面に表示されている情報などもすべて読み上げてくれたり、プレイヤーが虫を捕まえるパートでは自由に動かせるカーソルが虫に重なると音が鳴ってくれたりと、「画面に映るすべての情報を音声化する」ことの意味を分かってくださっている方が制作しているのだとすぐに分かりました。

そのおかげで、私が普段プライベートや仕事で使用している画面読み上げソフトと比べても、なんら遜色のない快適さでプレイできました。

――植村さんと高橋さんは、猫さんが受けた感動についてどう思われましたか?

植村実は、ReadSpeakerの採用は視覚障害をお持ちの方に向けての施策ではなかったんです。順を追って導入の経緯をお話しします。

私がかつて手がけた『甲虫王者ムシキング』は、まだ漢字をあまり読めない未就学の子供たちも大勢遊んでくれたゲームでしたので、後年にニンテンドーDSで発売した『甲虫王者ムシキング グレイテストチャンピオンへの道2』で他社の音声合成エンジンを組み込むことにしました。音声で読み上げれば、読めない字があっても情報が伝わりますからね。

その試みがユーザーさんに大きく評価されましたので『カブトクワガタ』でも継承するべきだと考え、今回はHOYAさんのReadSpeakerを採用するに至りました。その後、猫さんの記事を拝見して、アクセシビリティの面でも大きな意味があったとようやく気付きを得た次第です。

猫氏の記事は、すぐに開発者の2人の目にも届いたという

高橋私も同時期に猫さんの記事を拝見し、感激しました。アクセシビリティのことはもちろん、一般のユーザーの方ではなかなか実感しづらい「音声合成ソフトがゲームに組み込まれているのは、実はすごいことである」ことにも言及していただけているのが嬉しかったです。

日本のゲームにおけるアクセシビリティの現状と展望

――一部のタイトルをのぞけば、個々のゲームソフトにおけるアクセシビリティはまだまだ発展途上にあると言えると思います。みなさんはそんな現状をどのように捉えていますか。

植村私は『カブトクワガタ』をあらゆる年齢の方に遊んでほしくてテキスト読み上げ機能を搭載したので、そういう意味でももっと合成音声を組み込んだゲームが増えていいと思っています。

しかし、『カブトクワガタ』では「読み上げ機能をオフにできればもっとよくなるのに」というご意見も見られ、もしかしたら健常者の方のなかにはアクセシビリティをノイズのように感じている人もいるのかもしれないと気付きました。

まだ読めない字が多い小さな子供や、視覚に障害をお持ちの方のことを私たちになぞらえて考えると「ゲーム内の文字が架空の言語で書かれている」ようなものですよ。それを日本語で読み上げてくれるのですから、私にとってはオンオフを切り替えられるようにすることは考えられませんでした。

高橋開発者の視点で見ると、アクセシビリティを考慮したゲームを作るのは工数の面で厳しいと思っている方もいるかもしれませんが、実装するのはそこまで手間ではありませんでした。『カブトクワガタ』は少人数体制のインディーゲームですしね。

またアクセシビリティとは異なる観点ですが、ReadSpeakerを採用することで、全てのセリフを声優さんに読み上げてもらうのと比べて、制作時間にかなりのゆとりを持てるのは明確なメリットとして押さえておくべきことだと思います。

「全盲の自分もゲームで遊べたら」という一心で、これまでにさまざまなゲームを試してきました。2020年に発売された『The Last of Us Part II』を皮切りにアクセシビリティに配慮されたゲームソフトも増えつつあります。

しかし、それまでは「メニュー画面の項目の順番を覚える」、「ボタンを押す回数を記憶する」、「キャプチャーボードでゲーム画面をPC上に表示させ、画像認識ソフトで読み上げる」など、さまざまなハックを駆使した結果、なんとか遊べるゲームが数本見つかったら御の字、というレベルでした。

カブトクワガタ』がReadSpeakerを導入したのは小さな子供たちのためだったとのことですが、きっかけはどうあれ、結果的にブラインドアクセシビリティにも優れたゲームが日本から出たことの意義は大きいと思います。

猫氏は、『カブトクワガタ』の優れたアクセシビリティを熱く語ってくれた

――『The Last of Us Part II』は60以上ものアクセシビリティ項目が用意されており、障害を持つプレイヤーのクリア報告が多数見受けられるゲームでした。

これは教科書的な話になってしまいますが、アクセシビリティの定義は「誰もが同じようなコストで、同じものを、同じように使える」というものです。植村さんはこだわりがあって音声読み上げのオンオフ切り替えを実装しなかったとのことですが、原義を鑑みると「選択可能であること」も同じくらい大切な要素です。

とはいえ、どの程度のアクセシビリティをどのように実装するかというのは、理想と現実、予算と優先度など、さまざまな問題が絡むので正解はないだろうとも思います。

個人的にはゲームをリリースしてそこで終わらずに、ユーザーとコミュニケーションを取りながら適宜アップデートをしてもらえると嬉しいのですが。

植村『カブトクワガタ』発売後、戦闘時のルーレットに音を入れたのは猫さんの記事のおかげです。本来は大きい数字を指したタイミングを見計らってボタンを押して止めるシステムですが、猫さんのように視覚障害をお持ちの方の場合は完全に運任せになってしまうと知り、一番大きな数値を指した時に音が高くなるようにアップデートで変更しました。

――それならば、音だけで“目押し”ができます。

植村はい。しかも、健常者の方にもよい効果があることが分かりました。ルーレットが回る音の高さに変化が付いてリズムが生まれることで、タイミングを合わせやすくなったんです。多くの人がもっと遊びやすくなる要素はたくさんある、ということを教わった気分です。

――直接のやり取りではありませんでしたが、ユーザーとクリエイターでコミュニケーションが成立していたわけですね。

私も嬉しいです、ありがとうございます。『カブトクワガタ』は発売直後にたっぷりとプレイしたので最近ご無沙汰だったのですが、また最初からプレイし直してみようと思います。

他に私から望むことは「アクセシビリティに優れたゲームを作った人は、作ったことを自慢してほしい」ということです。それは本当にすばらしいことですし、宣伝することで当事者たちからの声が届きやすくなるかもしれません。

もしくはリリース前、開発段階のうちから当事者たちの声を聞くのも重要だと思います。もし、そうした取り組みのために力になれることがあれば、私も微力を尽くしたいです。

全盲ユーザーのプレイスタイルに見るアクセシビリティ導入の課題

――ゲームクリエイター、アクセシビリティ機能のユーザーというそれぞれの立場から、お互いに質問してみたいことはありますか?

植村私は、ゲームの楽しさの幅を広げるもののひとつには、協力プレイや対戦プレイがあると考えています。猫さんは、協力/対戦プレイをどのように遊ばれますか?

協力プレイは、パートナーが目の見える人であれば、ある程度の音が分かればプレイできます。例えば私は『戦国無双』の協力プレイを楽しんだことがありまして、(協力プレイヤーの操作するキャラの)足音を頼りにその後についていき、一緒に敵の大軍を倒すこともできました。

対戦プレイについては、画面の左右にいるキャラの音がそのままステレオ音声になっている格闘ゲームであれば、結構いい戦いになったりしますね。

本鼎談を機に、お互いに気になっていることを質問し合っていただいた

植村ステレオ音声だけで分かるものですか?

そうですね。これについては『ストリートファイター6』のサウンドアクセシビリティが特に優れており、自分のキャラが左右どちらにいるか、相手との距離はどのくらいか、各種ゲージの残量はどのくらいかなど、さまざまな状況が音(SE)で分かるよう設定できるので、とても分かりやすいです。目が見える方と対等…とまではいかないかもしれませんが、接戦になることもあります。

――こちらからもみなさんにおうかがいしたいのですが、「合成音声機能と相性がいいジャンル」というものはあるでしょうか?

植村やはりスポーツ、競馬などの実況をともなうゲームでしょうか。合成音声ならリアルタイムで変わっていく状況を逐次読み上げられるので、相性がいいと思います。

高橋テキスト要素が中心となるゲーム全般ですね。クイズゲームなども相性がいいと思います。

お二人に同意です。トレーディングカードゲームは読み上げ音声に感情を込める必要もないので、特に相性がいいジャンルだと思います。

ReadSpeakerはアクセシビリティに優れたゲームを実現させる

私自身もゲームを作っているので気になるのですが、コストや工数という意味で合成音声をゲームに組み込むハードルはどの程度だと感じましたか?

植村インディーゲームとしては、コスト面はまだ高いと言わざるを得ません。しかし、高いクオリティの合成音声を実現させてくれた研究開発などへの対価はもちろん支払ってしかるべきですので、むやみに安くしてほしいと思っているわけではありません。

――HOYA社は、SwitchのゲームソフトにReadSpeakerを組み込むSDKを2021年11月15日から提供していますが、認知度にまだ課題が残るという認識をしているそうです。

海外はアクセシビリティの導入が盛んですが、日本でも「もっと合成音声を実装しよう」という風潮になるといいですね。

――最後に、ReadSpeakerをゲームに導入しての感想や魅力をあらためて教えてください。

植村ReadSpeakerはレスポンスが早く、アナウンサーのように流ちょうな日本語で読み上げてくれるのが魅力です。

カブトクワガタ』は近日のアップデートで虫1匹1匹に名前を付けられるようになる予定で、虫の名前もReadSpeakerがきちんと読み上げてくれます。さらに愛着がわくと思いますので、楽しみにお待ちください。

高橋今も進歩し続けているのが同じ開発者として嬉しいし、ありがたいです。ReadSpeakerは「777」と入力するだけで「ななひゃくななじゅうなな」と読んでくれるなど使い勝手がとてもいいので、作る側としても本当に助かっています。

私はあくまでユーザーとしてですが、Switchのゲームソフトに組み込まれたReadSpeakerが、あれほどのレスポンスの速さで問題なく動いている事実に感動しました。『カブトクワガタ』とReadSpeakerに、本当にありがとうという気持ちでいっぱいです。


全盲の猫氏が楽しくプレイできたと笑顔を見せた『カブトクワガタ』。合成音声導入のきっかけはまだ漢字が読めない小さな子供たちのためとのことでしたが、キャラクターのセリフを読み上げさせるに留まらない細やかな気配りは、ゲームのアクセシビリティにおける音声合成の可能性を見事に示したといえます。

アクセシビリティの概念は海外でゲームの領域にとどまらず法整備が着々と進んでおり、遠くないうちに日本も歩みを合わせるであろうことは想像に難くありません。さまざまな人が同じ労力でひとつのゲームを楽しめるための土台作りとして、ReadSpeakerは大きな力となるのではないでしょうか。

グローバルブランドとして世界展開するHOYA社の音声読み上げソフトウェア「ReadSpeaker」は、44言語以上の多言語展開、肉声のような感情表現、様々なシーンに対応可能なカスタマイズ性、ユーザーに寄り添う徹底したテクニカルサポートを掲げ、ゲーム開発はもちろん、電話の自動応答、機器への組み込み、デジタルコミュニケーションなど、世界中のさまざまなシーンで活用されています。

ゲーム開発用途としては、Unity、Unreal Engine両対応の合成音声を提供するプラグインがコンソールの各プラットフォーム向けにリリース予定であるほか、最新バージョンの無料トライアルも提供中。ご希望の方は是非こちらからダウンロードしてお試しください。

ReadSpeaker 無料トライアルの詳細はこちら

他にも、ゲーム開発に最適な音声合成(TTS)サービスが多数用意されています。詳しくはReadSpeaker公式サイトをご確認ください。

ReadSpeaker 公式サイト
《取材:多賀秀明,執筆:蚩尤,撮影:小原聡太,編集:多賀秀明》

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