とある有志の翻訳者インタビュー「面倒なことは管理者がやってくれますし楽ですよ」【有志日本語化の現場から】 | GameBusiness.jp

とある有志の翻訳者インタビュー「面倒なことは管理者がやってくれますし楽ですよ」【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回はこれまでと異なり、翻訳プロジェクトの管理者ではない一般の有志翻訳者から見た有志日本語化を取り上げます。

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海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回はこれまでと異なり、翻訳プロジェクトの管理者ではない一般の有志翻訳者から見た有志日本語化を取り上げます。

日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。

有志日本語化には、デベロッパーやパブリッシャーが許可する範囲内で行われるものと、無許可のものがあります。許可されているものには、Mod(ユーザーによる改造)が公式に認められている場合や、直接許可を得ている場合などがあり、最近はインディーゲームを中心に有志日本語化が公式日本語版として採用される例も出てきています。



連載第11回は有志翻訳者A氏(仮名)に話を訊きました。A氏は現在ある有志日本語化プロジェクトの管理者をしていますが、今回は管理者になる前の一般翻訳者の立場で回答してもらいました。忌憚のない話を訊くため、名前や関わったゲームタイトルは伏せています。


一般の翻訳者から見た有志日本語化


臆面もなく言えば、エゴで活動していますね
――有志日本語化に参加したきっかけを教えてください。

A氏あるゲームについて、日本語でプレイできないかとネットを検索したのが始まりです。それまでも既に完成されている日本語化Modで様々なゲームをプレイしていましたが、「翻訳作業中」というのは初めてで、それなら参加してみようと思いました。

――参加を決める際にためらいはありましたか?

A氏特になかったと思います。もともと長文に挑む気はなく、簡単な単語を少し翻訳するくらいの気持ちでした。また、匿名ということもありました。

――匿名でなければ参加をためらったと思いますか?

A氏恐らくはそうですね。当時の私は英語が苦手だと思っていましたし、その翻訳作業所がどんな雰囲気なのかも分からなかったので少し不安でした。しかし、特定の範囲ごとに翻訳担当者が割り振られて責任を負わされるようなことは無かったので、杞憂に終わりました。

――有志日本語化に参加して最初に戸惑ったことを教えてください。

A氏自分が翻訳したものが正しいか、誤訳ではないかという不安ですね。翻訳する上での決まりごとにも困りました。

――他の翻訳者に間違いを指摘されることはありましたか?

A氏匿名の翻訳作業所で編集履歴が残らないため、間違いを指摘されるどころか無言で修正されていることさえありました。その一方で、長文の翻訳指導を受けたこともあります。

――「誤訳でないか」という不安はどのように解消されましたか?

A氏最初の頃は、自分が翻訳したところを何度も確認していました。翻訳の見直しではなく、他人からのコメントや修正がないかの確認です。そのうち「そこまで気張らなくていい」と考えるようになり、自分からコメントを残したり疑問ありの状態にして、あとは他の参加者にお任せするスタンスになりました。


――翻訳者同士のコミュニケーションに問題が生じたことはありますか?

A氏私は当事者ではありませんが、翻訳プロジェクト内に話し方が高圧的な方がいて、それが原因で論争になったことがありました。

――そのような時はどのように解決していますか?

A氏そのプロジェクトでは管理チームが流れを把握し、注意勧告や是正勧告を出し、守られない場合は追放処分を下すという手順を取っています。

――管理者の言動に疑問を感じたことはありますか?

A氏別のプロジェクトで、細かい用語を統一しようと議題に上げても議論されずに虚しくなったことがあります。翻訳率が100%になって落ち着いていたこともあり、管理チームが機能していなかったのだと思います。

――プロジェクトに対して「自分ならこうしたい」と思ったことはありますか?

A氏様々な翻訳作業所の良いところを他の翻訳作業所でも実践したいと思いました。そのような思いで、自分も有志日本語化プロジェクトの管理者になりました。

――有志日本語化に参加して嬉しかったこと、困ったことを教えてください。

A氏ゲームをプレイしていて「自分ならこう表現するな」とか「この表現は気になるな」と思った部分を、その通りにできるのは嬉しいですね。一方、「他者の表現と自分の表現をどこまですり寄せるか」については今も困っています。

――なぜボランティアで活動しているのですか?

A氏自分がゲームの世界に没頭するためです。つまり、英語の文章に直面した時にゲームを中断して、いちいち意味を確認せずに済ませることが目的です。臆面もなく言えば、エゴで活動していますね。Modとしてまとめる作業など面倒なことは管理者がやってくれますし楽ですよ。


翻訳について思うこと


一介の翻訳者にそんな芸当はできませんでしたから
――有志日本語化に一番必要な能力はなんだと思いますか?

A氏他の方も言っていたことですが、日本語の表現能力だと思います。翻訳作業に参加し始めてふと長文に目をやると、機械翻訳のような「日本語としてどうなの?」という訳がゴロゴロあって、それに自分が耐えられなかったですね。それまではあまり現実の中で表現を気にしたことは無かったのですが、そこからは「日本語警察だ!」と言わんばかりに校正するようになりました。

――辞書やツールはどのように利用していますか?

A氏辞書はもっぱらWeblioですね。時々英辞郎 on the WEBも利用します。助動詞などの文法表現で困った時は、昔使っていた「総合英語Forest」という書籍を利用しています。以前は機械翻訳にGoogle 翻訳を使っていましたが、今利用しているのはDeepL翻訳ですね。

――翻訳者もコンピューターに関する知識は必要ですか?

A氏ほぼ必要ありません。翻訳作業所での編集の方法がわかれば十分です。Modを導入するより簡単だと思います。

――翻訳で苦労したことはありますか?

A氏機械翻訳で発生する無駄な半角スペースを修正する作業が大変でした。ゲームによっては半角スペースのあるところで自動的に改行されるのですが、プレイ中に不可解な改行を見つけて他にもないかと調べてみたら、何百と見つかりました。

――すべて手作業で修正したのですか?

A氏はい。管理者なら出力したファイルを一括置き換えで処理できるのでしょうが、一介の翻訳者にそんな芸当はできませんでしたから。


未来の有志へのメッセージ


――有志日本語化に参加したい方はなにから始めればいいですか?

A氏まずは、その翻訳作業所のルールを確認してください。たいてい翻訳作業所のトップにあります。なければ、交流ページなどで質問した方が後々面倒なことにならないと思います。

――これから参加する方へ一言お願いします。

A氏それぞれのプロジェクト管理者が日本語化できる状況を構築してくれているので、参加者は「ただ好きなところを翻訳するだけ」でいいのです。無理に翻訳しなくてもいいし、不安なところはその旨をコメント欄に書き添えておけばいい。そうすれば、日本語化されたゲームで言語によるストレスを感じること無く遊べるのですから。

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
《FUN@Game*Spark》

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