人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線 | GameBusiness.jp

人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線

メビウスよりPS Vitaで発売された『グノーシア』。本作のプロデューサーであり、インディゲーム制作集団プチデポットを率いる川勝徹氏に、アナログゲームとデジタルゲームの変換についてたっぷりとお話いただきました。

ゲーム開発 プロデュース
人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線
  • 人狼ゲームではなくキャラクターゲーム!?『グノーシア』川勝徹氏に聞く、アナログゲームとデジタルゲームの境界線

デジタルゲーム制作者の間でアナログゲームの人気が高まっています。しかし、アナログゲームのメカニクスをそのままデジタルに移植し、失敗する例も少なくありません。こうした中『汝は人狼なりや(人狼ゲーム)』をベースにメビウスよりPS Vitaで発売された『グノーシア』は、希有な成功例だと言えるでしょう。本作のプロデューサーであり、インディゲーム制作集団プチデポットを率いる川勝徹氏に、アナログゲームとデジタルゲームの変換について聞きました。





『グノーシア』とは


アナログゲーム『汝は人狼なりや(人狼ゲーム)』をベースに、世界観を漂流する宇宙船内に置き換えたSF人狼ゲーム。ゲームはループもののビジュアルノベルに似た構造をとり、プレイヤーは船内で行われる「人狼ゲーム」を繰り返しながら、全員で14人いるキャラクターの経歴や人となり、人類を襲う謎の生命体「グノーシア(=人狼に相当)」の正体、そして世界の謎を徐々に解き明かしていく。1ゲームは15分程度で終了し、成績に応じて経験点がもらえ、スキル獲得に使用できる。ゲーム終了後すぐに次の並行世界に移動し、次のゲームが始まる点もポイントだ。

プレイヤーはゲームの前に登場するキャラクター数(5人~15人)、自分が所属する陣営(乗組員側かグノーシアか)、役職などを選択できる。ゲームはターンベースで進行し、ターンごとに乗組員同士で議論を行い、最も怪しいと思われる人物を一人ずつ、コールドスリープさせていく。その後、グノーシアが乗組員を一名、消滅させていく。これを繰り返しながら、プレイヤーが乗組員なら、全てのグノーシアをコールドスリープさせること。グノーシアであれば、乗組員の過半数がグノーシアになるまで、生き延びることが目的だ。

乗組員側には、夜間に特定の乗組員がグノーシアか否か判定できるエンジニア(人狼ゲームにおける占い師)。コールドスリープされた乗組員が本当にグノーシアだったか調べられるドクター(霊能者)。グノーシアからの襲撃に対して乗組員を一人だけ守れる守護天使(狩人)などの役職が存在する。これに対してグノーシア側は、エンジニアやドクターになりすまし、嘘を言うことも可能だ。グノーシアの人数は、登場するキャラクターの数によって、最大6人まで選べる。このほか人間だがグノーシアに味方するAC主義者、人類ともグノーシアとも敵対するバグなどの役割も存在する。

いずれの場合も、途中で自分がコールドスリープさせられたり、グノーシアによって消滅させられたりしたらゲームオーバーとなり、次のゲームが始まる。


人狼ゲームとは

村人陣営と人狼陣営の2つに分かれたプレイヤーたちが、それぞれの陣営の勝利をめざして戦うパーティゲーム。ゲームは判定役をつかさどるゲームマスターによる司会のもと、参加者間の会話と推理をもとに進行する。

ゲームには夜と昼のフェーズがあり、夜フェーズでは人狼陣営によって村人のうち1人が襲撃される。また、占い師は1人の村人を特定し、人間か人狼かを確認できる(襲撃も確認もゲームマスターに対する申告で行われる。その間、他のプレイヤーは目を閉じなければならない)。昼フェーズでは生き残った村人と、村人の中に潜む人狼とで議論が行われ、処刑者が1人選出される。これを繰り返して全ての人狼が処刑されれば村人陣営の勝利。村人のうち過半数が人狼になれば、人狼陣営の勝利となる。

ヨーロッパの伝承ゲームをベースに、2001年に米Looney Labs.から商業版カードゲーム『Are You a Werewolf?』が販売されたのを契機に、各社からさまざまなバージョンが発売されていった。そのため世界中でさまざまなローカルルールが存在し、役職も多岐に分かれる。日本には2010年代に上陸し、テレビのバラエティ番組に取り上げられるなどして、2013年ごろより人気を博していった。インターネット上でのサービスや、コンピュータゲーム版もリリースされている。


人狼ゲームの「重さ」を「軽さ」に変換


――遅ればせながら『グノーシア』発売おめでとうございます。人狼ゲームをベースとしたSFアドベンチャーゲームなんですが、その翻案っぷりがすごいですね。

川勝徹氏(以下、敬称略):ありがとうございます。2012年にPlayStation(PS) Mobileという、法人でも個人でも自由にゲームを作ってAndroidやPSPむけに発売できるというサービスがスタートしましたよね。そこで「1人で遊べる人狼ゲーム」を軽く作って、サクッと出したいな、というところから企画が始まりました。ただ、インディゲームの常でサクッと出せるわけもなく(笑)

――確かに(笑)

川勝気がつけばPlayStation Mobileのサービスも2015年に終了してしまいました。ただ、その時点で基本部分である程度遊べるものができていて、けっこう手応えを感じていたんで、このままプラットフォームをPlaystation Vitaに変更して、メビウスさんにも協力いただき、本格的に家庭用ゲームで開発することにしました。ただ、そこからさらに、4年かかってしまいましたね(笑)


――BitSummit2018でデモをプレイさせていただき、これはおもしろいなと思ってみていました。

川勝実際、『グノーシア』のためにPS Vitaを買って、待っていたというユーザーさんもいらっしゃっいました。約束が果たせて良かったです。

――ゲームを遊んで最初に驚いたのが、その「軽さ」です。もともと人狼ゲームって「重たい」じゃないですか。みんなで遊ぶゲームだから、それなりに1プレイの時間がかかるし、グループ同士で争うゲームだから、変な会話をして足を引っ張ったりすると、いたたまれない気持ちになったりもしますよね。推理力や交渉術も求められるから、負けた側が嫌な気持ちになったりもする。

川勝はいはい。

――そういった「重たさ」がすべてクリアされていて、それこそ何も考えずにボタンを押していくだけでストーリーが進んでいき、自分の陣営が勝っても負けても、それなりに経験点が入って、すぐに次のゲームが始まる。これって素晴らしいなと思いました。デジタルゲームならではというか。

川勝人狼ゲームがベースになっているのは事実なんですが、人狼ゲームならではの濃い部分ではなくて、キャラクターゲームとしての魅力も引き出したかったんですよ。1プレイを15分で終わるようにして、周回プレイを繰り返して、だんだんキャラクターの正体がわかっていって。その過程でキャラクターの愛着がわくようにして、自分だけの物語体験を楽しめるようにしていって。その上で最終的に、世界観だとか、グノーシアの正体だとか、より大きな仕掛けが解き明かされていくという感じで。

――ループものですね。

川勝そうですね。メンバーにアドベンチャーゲーム好きが多いですし、個人的にも『シュタインズ・ゲート』のようなループものが好きでした。また、人狼ゲームのデジタルゲーム版では『レイジングループ』という名作がありました。そこで、ストーリー面でこの二つと勝負するのではなく、メカニクス側でのアプローチなら、新しい体験のゲームになるんじゃないかと。

――そもそも、なぜ人狼ゲームに注目されたんですか?

川勝2012年にアパートを経営するタワーディフェンス型シミュレーションゲーム『メゾン・ド・魔王』を出した頃から、徐々に日本中で人狼ゲームがブームになっていきました。そんな中、うちのチームのプログラマーが人狼ゲームを遊んで、いきなり処刑されてしまったことがあったんですよ。それも「カードをめくる手つきがプロくさい」というだけの理由で(笑)。あとは何もすることがなくて、ずっと見ているだけだったという。


――たしかに人狼ゲームでは、毎ターン1人ずつ必ず処刑していかなければいけませんよね。そのため最初のうちは誰が殺されるかなんて、運まかせになりますよね。

川勝それで逆に興味がわいて、私のもうひとつの仕事場である大学や専門学校で、聞いてみたんです。そうしたら、「人狼ゲームについて聞いたことはあるけれど、遊んだことはない」という学生が多かった。そこで、「人狼ゲームの遊びにくいところを、デジタルゲームにすることで改善していけば、おもしろいんじゃないか」と潜在的な需要があることがわかってきたんです。キャラクターの魅力を押し出す、ループものにする、SF的な世界観にする、といった要素は、それがベースになっていきました。

――その発想が慧眼ですよね。ちなみにプログラマーの方は何と言われていましたか?

川勝もともと小説が好きで、アドベンチャーゲームにも興味があったし、作ってみたいと。で、初心者にとって対人戦の人狼ゲームで理不尽に感じるところを取り除いて楽しく感じられる要素を磨こうとメンバーと話し合って決めました。『グノーシア』はプログラマがシナリオも書いています。こんな長いシナリオを書いたのは初めての経験でしたが、自分で書いてみたいと申し出があり、チャレンジしてみようと。さらにデザイナや私も参加し、多くのアイディアやネタ出しなど、設定や内容を含めて1年以上かけて共に作り上げました。自分がやりたいというモチベーションが一番大切で、それがないと何年もの開発なんてとても続けられません。最後までやり切れて良かった。

――本作では主人公が何も知らないところからゲームが始まって、最初の14~5周くらいはチュートリアルを兼ねたシナリオが展開していきますよね。ただ、ルールがそこまで細かく教えられるわけではありません。実際「より詳しく知りたい場合はヘルプメニューを参照してください」と、けっこう割り切られているじゃないですか。

川勝そうですね。

――その一方で周回を重ねるたびに、どんどんキャラクターが増えていくので、その魅力で押し切られたような感じでした。次はどんなキャラクターが出てくるんだろう、どんなイベントが発生するんだろうって、それが気になってゲームを進めていましたね。正直、誰がグノーシアかなどは、二の次で。実際に結果がどうあれ、ゲームは進みますし、経験点ももらえるわけで。

川勝そこが人狼ゲームじゃなくて、キャラクターゲームという所以ですね。自分自身、スタートボタンを押したら、すぐにゲームを始めたい派なんです。それに、お客さんって基本的に、説明書を読まないじゃないですか。そのため世界観の説明なども最小限に留めて、すぐに人狼ゲームが始まるようにしました。また、基本的なルールはチュートリアルの中で、シナリオに溶かし込むようにしています。

その上で、ゲームのたびにキャラクターが増えたり、スキルが増えたり、乗組員側の役割が増えたり、キャラクターの過去が明らかになっていったりと、どんどん体験がドライブしていくように調整しました。他に各々の役割やスキルの細かい説明などは、遊んだ人が自分自身で発見していってほしかったので、ヘルプメニューにまとめることにしました。


――このあたりの情報の出し方と切り分け方が絶妙ですよね。逆にある程度ユーザーを選ぶ作りにもなっていると思うんですよ。たとえば、スマホの基本プレイ無料&アイテム課金ゲームでは、もっとチュートリアルに時間をかけますよね。

川勝そうですね。パッケージゲームならではの作りになっていると思います。PS Vitaというプラットフォーム特性も重要で。ぶっちゃけ今、PS Vitaを遊んでいるユーザーさんで、アドベンチャーゲームが好きな人って、ものすごく手練れが集まっていると思うんですね。なので、こんな風にある程度わりきった仕様でも、ちゃんと自分なりにゲームの中身を読み解いて、ついてきてくれると思ったんです。そうしたことを考慮した結果ですね。

――なるほど、ちゃんとターゲットユーザーにあわせた仕様になっているんですね。

アナログからデジタルへの「抽象化と誇張化」


――先ほど本作が「人狼ゲームをベースとしたキャラクターゲーム」だと言われましたよね。ここが結構、重要なポイントで。というのも、人狼ゲームってみんなが一度に集まって、わいわい会話しながら遊ぶからおもしろい部分もあるじゃないですか。それをデジタルゲームに翻案すると、どうしても抜け落ちてしまう部分がある。端的にいえば口八丁、手八丁でだまし合いをする要素などは、デジタルゲームに入れられないじゃないですか。ある程度、抽象化せざるを得ない。

川勝そうですね。

――逆にそんなふうにして元になる遊びを抽象化したぶん、デジタルゲームならではの誇張を加えて、魅力を足してあげないと、つまらないゲームになってしまうと思うんです。実際、アナログゲームが好きなゲームデザイナーほど、この罠に陥ってしまいがちです。その結果、アナログゲームをそのままデジタルゲームに移植して、憤死してしまうことがあります。それで思ったんですが、川勝さんは人狼ゲームのマニアというわけでは、ありませんよね?

川勝おっしゃるとおりで、人狼ゲームのおもしろさを解析しつつ、人狼ゲームとは距離を置いて、一般人の見方を心がけるようにしました。当初、私自身が人狼ゲームが苦手で、色々と面倒なゲームだと偏見の目でみていたくらいです。たとえば、このゲームでエンジニアが二人いたら、どちらかがグノーシアということなんですよ。でも、そんなの初心者プレイヤーには、すぐにわからないじゃないですか。何回もループを重ねながら、徐々に理解してもらえればいい。それに何回も繰り返して遊べるのが、デジタルゲームの良いところですし。

ただ、これが人狼ゲームだと1回のプレイ時間がそれなりにかかるので、何回も繰り返して遊ぶのが難しいですよね。そのため、つい無意識のうちに上級者プレイヤーが初心者プレイヤーにマウントをとりがちです。口に出して言わなくても、ちょっとした態度や仕草で出てしまうかもしれない。そういったところが、「人狼ゲームに興味はあるけれど、遊んだことがない」人が多い理由なんだろうなと考えていました。ここがまさにターゲットユーザーなので、その思いを大事にするようにしました。


――その上で人狼ゲームの抽象化にあたる部分が、誰がグノーシアかを決める「議論」の部分で、誇張化にあたる部分が、議論を有利にリードできる「スキル」だと思うんです。このゲームデザインはどこから出てきましたか?

川勝人狼ゲームって「他人を疑う」ことで成立しているゲームなので、極端な話をすると「疑うこと」と「かばうこと」しかないんです。そのため『グノーシア』では、「疑う」を攻撃する、「かばう」を防御すると、それぞれ置き換えました。そのため、最初は「議論型RPG」だと言っていました。おっしゃられるとおりで、お互いの因果関係だとか、ストーリー的な意味合いだとか、いろんな要素を付け加えることはできるんですが、それをやっていくと「繰り返し遊べる」というループものの根幹部分と矛盾をきたしてしまうんですね。そのため、そこは個々のキャラクターの経歴をはじめ「ミステリアスな要素が、ゲームを通して次第に明らかになっていく」という部分に逃がしました。

――なるほど。そこは英断ですね。実際に『グノーシア』で、ミステリアスな要素がなくなったら、かなり飽きられやすいゲームになってしまうでしょうね。

川勝実際に開発中、テストプレイで何回も遊ぶじゃないですか。そうすると4~50周したあたりで、飽きてきちゃうんですよ。これではまずいと思って、イベントをかなり追加していきました。また、開発バージョンでは「スキル」もなくて、「疑う」と「かばう」しかありませんでした。それだと、やっぱり単調になってしまうんですね。経験点をためてスキルをアンロックしていくというのは、プレイヤーのモチベーション維持にも効果的なので、途中からスキルが追加され、議論のバリエーションを増やしていきました。

――ちなみに乗組員が14人いるというのは、どのように決まったのですか?

川勝特に理由はないんですが、5~6人しかいないと繰り返し遊ぶ中で、パターンが類型化しやすいんですね。これが14人くらいいると、グノーシアも6人まで入れられるし、エンジニアやドクターなど、いろいろな役職も入れられるし、より多彩なゲーム体験ができるだろうということで、決まりました。

――なんとなくですが、その中でもグレイ型宇宙人風の「しげみち」が、狙われやすい印象があります。

川勝しげみちはキャラクターの設定上、性格がよすぎて嘘がつけないタイプなので、言動で論理的破綻をきたしやすいんですよね。なので、議事録を見るとすぐにわかっちゃうという。逆に、しげみちは疑われやすいとわかっていれば、それを逆手にとって、かばったりもできますよね。

――かばったり、疑ったりといった行為の結果は、ゲームを重ねることで累積されていくんですか?

川勝それぞれのキャラクターは互いに「信頼度」と「友好度」という内部的なパラメータを持っています。信頼度は「このキャラクターはグノーシアか?」という度合いで、ゲームのたびにリセットされます。これに対して友好度は、ゲームを重ねることで累積されるパラメータで、「グノーシアか否か関係なく、人間として好きか、嫌いか」という度合いです。そのためキャラクターごとに「グノーシアくさいけど、好き」「人間だと思うけど、嫌い」といった、より複雑な関係が生まれていく可能性があります。これが細かい台詞やイベントの開示条件などに影響を与えています。


――ちなみにAC主義者とバグはどちらも人間なので、「グノーシアか否か」という基準では判断ができないですよね。実際に遊んでいて、せっかくグノーシアを全滅させられたと思ったら、バグが生き残っていて敗北することもあります。このあたりの「判断のつかなさ加減」については、NPC側でも同じなのでしょうか?

川勝性格もあるので、必ず合理的な判断をするとは言い切れない点で人間と同じですね。

――なるほど、それでいろいろと妄想がかき立てられるわけですね。ちなみに、話を伺っていると、「抽象と誇張」だけでなく、「商品として成立させるためのボリューム感と、飽きずに楽しませるための仕掛け」が大量にこめられているように感じました。

川勝そうですね。BitSummit2017で初めてデモしたバージョンは、「疑う」「かばう」しかなくて、本当にシンプルなものでした。そこからユーザーの要望などをできるだけ反映させ、テストプレイを重ねながら、次第に今の形にブラッシュアップされていきました。

――もう一つ、このゲームで感じたのは、遊んでいてテンポがすごく良いことです。1回15分で終わるという点が最たるものですね。そのためには「1つのイベントシナリオを短くする」ことと、「ボタンを押した時のレスポンスを良くする」という二つがあると思います。

川勝「シナリオを短くする」ことでいえば、プログラマーがシナリオライターを兼務していたことが大きいですね。そもそも説明しすぎるシナリオが好みではないんですよ。できるだけ短くして流し読みしても、なんとなく意味がわかるレベルの情報密度にしています。個人的なコンセプトは「人狼ゲームをベースにしたキャラクターゲーム」なので。その一方で飽きずに遊んでもらうために、イベントの数を追加するなど、増えていったシナリオもあります。

――プログラマーがシナリオを書くというのは、非常に効率がいいですね。ちょっとした修正でも、すぐに反映させられます。

川勝あとみんなご近所さんで、自転車で10分くらいの場所に住んでいることもあって、何かあれば深夜問わず顔をつきあわせて作業をしています。とても気持ちのよい関係ですよ。この体制があってこそ、上手くいっているのだと思います。

――それは興味深いですね。実際にビジュアルノベルにしろ、ソーシャルゲームにしろ、ほおっておけばどんどんシナリオが長くなっていくじゃないですか。シナリオライターは基本的に文章で表現したいタイプの人種ですし、ユーザーがそれを望んでいるところもあります。でも、個人的にはゲームで長い文章を読むのが苦手なタイプなんです。

川勝僕らもアドベンチャーゲームは大好きなんですが、ご指摘のようなことも感じるわけです。なので本作では、いかに文章をそぎ落とすかに気を配りました。絵で語り、音で語った上で、本当に必要な部分だけ、シナリオをピンポイントで書くという感じです。

――もう一つ、ボタンのレスポンスについては?

川勝僕らはレスポンスが命だと思っているので、アドベンチャーゲームなのに60フレームを死守しました。プログラマーがフルスクラッチでゼロからコードを書いています。実際、AIの思考プログラムと同時並行で処理しようとすると、隅々までプログラマが手を入れる必要がありまして。ゲームエンジンやミドルウェアなどを使うことがなかったので、起動ロゴなどの表示もなく、起動後すぐにゲームを始められます。

――それはすごいですね。ただ、『グノーシア』はさまざまな情報を集めて、推理させる要素があるため、どのようなUIにするかで、大きく体験が変わってしまいます。そのためには、何度も開発中に作り直しが必要になります。フルスクラッチだと、ちょっとした修正でも時間がかかってしまうのではないですか?


川勝それはそのとおりです。そのため画面遷移をはじめとした、土台部分は最初にしっかりと設計しておきます。ただ、その上でテストプレイを通して「ああしたい」「こうしたい」という部分は必ず出てきますよね。たとえばキャラクター表で表示される能力値は、開発段階ではありませんでした。でも、やっぱり欲しいね、と誰かが言い出すんです。そうした意見が通るか否かは、変な話ですが、その人が普段からどれだけチームに貢献しているか。能力値でいえばサウンドの人間が言い出しました。「あいつが、そこまで言うなら仕方がない」という感じですね。

――ただ、どんな修正でもゲームはプログラマーが実装してナンボですから、プログラマーに負荷がかかりそうな気がします。モダンなゲームエンジンも、そうしたプログラマーの負荷を下げる方向で進化してきました。それとは正反対の、かなりプログラマー主導型の開発スタイルのように聞こえます。

川勝そうですね。そのためプログラマーのモチベーションは非常に重要です。ただ、これはプログラマーだけではなく、チーム全体で言えることです。だから「やりたくない」ことはやらないし、誰かに「やってほしい」ことであれば、自分が普段から貢献して、背中で主張する必要がある。これも普段から家が近くて、濃密なコミュニケーションができているからです。たとえばククルシカというキャラクターの登場シーンなんですが、歌もののBGMが流れてますよね。

――環境音というか、フレーバーソングというか、具体的な歌詞はわからないんですが、世界観にあっていますよね。

川勝あれはデザイナーの声をサンプリングした上で、要素ごとに分解し、リミックスして、機械的に再生しているんです。ブレスや抑揚などはサウンドが一つずつ手で指定しました。

――そうなんですね。それは気づきませんでした。

川勝うちならではの、サウンドのこだわりだと思います。

――インディゲーム開発には、それぞれのチームでそれぞれの事情があります。『グノーシア』も同じで、自分たちの強みをうまく生かした開発が行われたわけですね。

適切な素材を適切に調理することの重要性


――ちなみに、ここまで言っておきながらなんですが、人狼ゲームって良くできていますよね。『グノーシア』を遊びながら、あらためてそう思いました。実際、100周も200周も楽しめるのは、人狼ゲームだからですよね。これは『パズル&ドラゴンズ』をはじめ、大ヒットしているソーシャルゲームに共通して言えることです。土台のゲームデザインが悪ければ、そんなに何回も遊べないですよ。

川勝そのとおりですね。さっき冒頭の14~5周くらいをチュートリアルに使っているといいましたよね。そこで人狼ゲームのルールをストーリーで説明しているんですが、なんだかミステリー小説を読んでいる感じになるんです。それだけシステムが良くできているんですよ。

――ただ、どんな素材でも調理法を間違えると、駄目になってしまうわけで。そのための工夫がいろいろと行われていることが良くわかりました。

川勝ありがとうございます。メンバー全員の努力の結果ですね。誰一人ぬけても完成しませんでした。


――ちなみに『グノーシア』では、乗組員の数や役割を自由に変更して遊ぶことができますよね。川勝さんは、どういった組み合わせ遊ぶのが好きですか?

川勝12~13人くらいで、AC主義者とバグを外して遊ぶのが好きですね。役職については、守護天使が好きです。「こいつだけは俺が守る」みたいなところがあるじゃないですか。

――ありますね。そのあたりは人によって違いそうです。

川勝プレイスタイルによって、キャラクターに対する思い入れも違うでしょうし。

――逆にAC主義者やバグは上級者向けですよね。立ち振る舞いが難しくて、論理的破綻をきたしやすいところがあります。

川勝そんなふうに、本作では難易度を自分で決められる余地を残しました。そういう意味では、いわゆるバランス調整ってあまりしていないんですよ。

――前作『メゾン・ド・魔王』はXbox 360を皮切りに、さまざまなプラットフォームに移植されましたが、『グノーシア』はどうでしょうか?

川勝まだ何も決まっていないのですが、いろいろと検討していきたいですね。ただ、フルスクラッチで作ったゲームなので、移植の手間がかかるのは事実です。

――他に本作は選択肢を特殊なメカニクスで置き換えたビジュアルノベルゲームという側面もありますね。『逆転裁判』シリーズをはじめとして、海外市場でも人気が高まっているジャンルです。海外展開などは考えられていますか?

川勝いろいろとお問い合わせも頂いていますが、移植の検討も含めて考えていきたいです。アジア圏で人狼ゲームが好きな国や地域であれば、親和性も高いのかなと思っています。

――興味深いですね。まだまだ、いろいろと秘密が隠されていそうですが、ここで一旦終わりたいと思います。ありがとうございました。

《小野憲史》

関連ニュース

特集

人気ニュースランキングや特集をお届け…メルマガ会員はこちら