テトリスエフェクトの感動的な音楽体験はいかにして作られたか?~Wwiseをフル活用したインタラクティブサウンドの構築【CEDEC 2019】 | GameBusiness.jp

テトリスエフェクトの感動的な音楽体験はいかにして作られたか?~Wwiseをフル活用したインタラクティブサウンドの構築【CEDEC 2019】

水口哲也氏率いるエンハンスが開発し海外メディアからも賞賛された『テトリスエフェクト』。CEDEC 2019では、その音楽的演出について同社の武藤昇氏が解説しました。Audiokinetic Wwiseを用いたサウンド構築のテクニックに迫ります。

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テトリスエフェクトの感動的な音楽体験はいかにして作られたか?~Wwiseをフル活用したインタラクティブサウンドの構築【CEDEC 2019】
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日本最大のゲーム業界カンファレンス「CEDEC 2019」で基調講演を務めた水口 哲也氏が率いるエンハンス。同社の最新作となる『テトリスエフェクト』は、米国ワシントンポスト紙や欧州Eurogamer誌でも数々のゲームオブザイヤーを受賞するなど評価が高く、CEDEC Awards 2019のサウンド部門にもノミネートされるなど、国内外で評価の高いタイトルです。本稿では、CEDEC 2019で行われた「心地よいインタラクティブゲームのための効果的な音楽的演出とその作り方」セッションをレポートします。

登壇者の武藤氏は2000年に「metalmouse(メタルマウス)」というユニットで音楽活動をスタートし、数多くのRemixを手がけたサウンド・プロデューサー。エンハンス代表の水口氏がプロデューサーを務める元気ロケッツの「Heavenly Star」のRemixを担当したことがきっかけで水口氏と出会い、『Rez Infinite(2016)』から開発に参加しています。

エンハンスの目指すビジョンと、テトリスエフェクトのサウンド設計



エンハンスでは、人の五感を刺激する新しい体験を創造することを目的としており、これに向けたさまざまな分野の事業展開や研究開発を行っています。代表的な作品は『Rez Infinite(2016)』や『ルミネスリマスター(2018)』で、他にも共感覚の研究として「SYNESTHESIA SUIT」、「SYNESTHESIA X1 - 2.44」などのハードウェアの開発も行っています。



エンハンスの手掛けた最新作『テトリス エフェクト』は、完成されたゲームシステムを持つテトリスに、Journey(旅)の要素を付加した作品です。「ジャーニーモード」は27ステージあり、共感覚的な感情を想起させるためにBGMとSE、ビジュアルが連動する個別の演出が各ステージに組み込まれています。武藤氏は、全編通してプレイしても飽きや集中力の切れが来ないよう、ビジュアルや音楽の微調整をトライアンドエラーで行っていきました。

講演冒頭では『テトリス エフェクト』で用いられたいくつかの楽曲が披露された。
代理店オタリテックの協力のもと会場へPMC IB1S-AIII(100万円を越える3wayスピーカー)を持ち込むなど、音質への徹底ぶりが伺える(なお、手元のモニターはPMC twotwo.5)。


初期ステージ「The Deep」のサウンドデザイン



楽曲の構成や制作手法については、テトリス エフェクトの一番はじめのステージ「The Deep」をもとに解説が行われました。「The Deep」コンセプトは、「深海から生命が生まれ、宇宙へと飛び立っていくような意識のステージ」であるとのこと。基本的には海がベースとなっており、プレイヤーは飛び交うパーティクルが魚などの生命を形作る過程を体験します。

冒頭は静かなシンセパッド、盛り上がり部分では特徴的な女性ボーカルが入っていくような楽曲構成となっており、その中でも特徴的なのは深いリバーブの掛かったクラップ(拍手)のサウンドです。他のトラックと比較しても極端に強いリバーブが掛かっており、これによって広い空間・開放感を感じさせる効果を生むとともに、VRモードにおけるパーティクルと同期した演出をより印象的なものにしています。



基本となるビートはキックとハイハットとクラップの4つ打ちで、非常にシンプルな構成。「The Deep」はフェイズが進むごとに深海から宇宙に抜けていくステージであるため、ビート感を失わずにシンプルに進んでいくという表現を行う目的で、あえて複雑なグルーヴは排除しています。

また、音色の選定にもステージの世界観が強く反映されています。例えばキックは生命の鼓動を感じさせるように、TR-808(通称八百屋、世界的に有名なRolandのリズムマシン)やEDMのような”完全にデジタルな音色”ではなく、オーガニックな雰囲気の生音系のサンプルを使用。ハイハットも同様に、デジタル系の音色ではなく生音系のサンプルを活用しています。

クラップは2種類用意されており、明瞭なアタック感を持つ音色と、大胆にローパスフィルタを掛けたくぐもった印象の音色(あたかも遠くで鳴っているかのような音色)が交互に再生されることで、広い奥行き感を演出しています。

リバーブのDecay Timeは8秒と非常に長く、通常のMIXであればあまり用いない設定だが、ビジュアルとは合致しているため、ゲームの奥深い、広大な場所にいるという状況と合わせると違和感なく演出の一旦を担うことが出来ている。

一方、ベースの音色については、「全てをオーガニックな音色にこだわりすぎると、別の文化的な要素が見え隠れする原因にもなります。音色の偏りをなくすために、ここではJUNO系のベースの音色を使用しました」と説明。また、上モノとなるシンセパッドについても、「生命がうごめいている感じの出る音色」を選択したと語りました。

ベースラインは、キックをトリガーとしたサイドチェインを用いてうねりを与えている。また、このサイドチェインは上モノのパッドなどにも適用されている。

「The Deep」には女性ボーカルが起用されています。まずはサウンドトラックなどにも用いるためのフルコーラスを制作し、これをもとにボーカルを録音。その後、ゲームに組み込むことを考えながら、フェイズごとの楽曲遷移の際に違和感のないようフレーズ単位で波形編集して行きます。

注意すべき点は、歌の途中で遷移してしまうと「言葉の意味の分かる方にとっての違和感になる」ということ。また、”海の中で声だけがずっと響き続けるというイメージ”を具体化するために、歌詞の言葉の最後だけディレイをONにし、声を長い間ループさせるという工夫も行われています。

ボーカルには2種類のディレイが用いられている。片方は通常の歌モノと同じような設定になっているが、もう片方は海に言葉が響き渡るような演出を再現するため、長いFeedback Timeが1/4で設定されている。これをオートメーションでON/OFFすることで、言葉の最後だけを飛ばしている。

このように、音色の一つ一つが吟味され、さらにビジュアルと組み合わさることで得られる心理的効果は大きく、武藤氏は「音ひとつにこだわることで、楽曲に意味が生まれます。これがビジュアルと合致することで、体験に意味が生まれます」と語りました。



Wwiseを用いたインタラクティブサウンドの構築



制作された楽曲は、Audiokinetic Wwiseを用いてゲーム内に実装されています。「Wwise」は豊富な機能を備えた、最先端のゲーム開発用インタラクティブオーディオソリューションで、ゲームエンジンだけでは実現の難しい複雑なオーディオ処理を可能にするミドルウェアです。

Wwiseによる実装は、「タートルの夢」というステージのサウンドデザインを具体例としながら解説されました。このステージは事前に用意された明確なBGMがなく、テトリスの移動音、回転音、着地音、消去音の効果音のみで楽曲が構成されています。






また、ゲーム自体がフェイズ1~3の3段階に分かれており、これに応じて楽曲も進化して行くというギミックとなっています。

講演では、それぞれテトリスが移動、回転、落下、消去される効果音の実演が行われました。落下音はドラムのような音色、左右の移動は2種類の音階を持つフレーズ、回転音はドラムマシンのサンプルがランダムに割り当てられ、ユーザーの操作によってビートを奏でる役割を担っています。消去音はキックとシンバルを同時に再生するようなヒット系の音色となっており、これらが組み合わさることでインタラクティブに楽曲を生成することが出来ています。また、落下音などは10種類以上の素材がランダム再生される仕組みになっていますが、これはWwiseの標準機能であるランダムコンテナを用いて実装されています。

実演では、それぞれの効果音がどういった音色かを確認したあと、全てを組み合わせたサウンドが披露された。テトリスの操作は上手い人とそうでない人によってスピード感やプレイスタイルが変わるが、誰がプレイしてもある程度音楽的になるよう細かな調整が行われている。

これらの効果音は、効果音用の「Actor-Mixer Hierarchy」ではなく、通常はBGM素材などを格納する「Interactive Music Hierarchy」に全て配置されています。これは効果音を楽曲にクオンタイズさせる目的です。

クオンタイズとは、演奏・再生されたオーディオを最も近いグリッド位置に自動的に移動させる機能で、主に演奏タイミングの補正を目的として利用されています。 ここでは効果音を16分音符の単位でクオンタイズすることで、整然とした音楽を奏でることができています。逆に、クオンタイズをしないと操作タイミングがそのまま効果音の再生のタイミングとなるため、素早いプレイングだと音自体も連続して再生されてしまい、音楽と認識することは出来ません。

実際のWwise画面。無音のトラックをMusic segmentに用意し、効果音を紐付けたのち、Stingerでクオンタイズの設定を行う(StingerはInteractive music Hierarchyでないと有効化できないため、今回はActor-Mixer Hierarchyを利用していない)。コード(和音)もこれと同様の仕組みで変化出来るように設定されている。
また、同作は映像側はクオンタイズされていないものの、人は映像と音を同時に認識すると合致しているように感じるため、音のみのクオンタイズで特に問題はないという。

こうしているうちに、ユーザー自身が「ひょっとしたら、自分のゲームプレイが音楽になっているかも知れない」と気付き始めます。その後、ゲームが進行したフェイズ2では、徐々に明確なメロディが聴こえてくるようになり、フェイズ3では人間の声素材やストリングスがさらに追加されるという盛り上がり演出となっています。

フェイズ2への移行は、Real-Time Parameter Controls(以下RTPC)が用いられています。RTPCはゲームエンジンから受け取った情報をWwise側のパラメータに紐付ける機能で、ここではフェイズ1からフェイズ2に進行するという情報をもとに、新たに追加されるサウンドのボリュームが増加する仕組みとなっています。

フェイズ2のはじまりを0、終わりを1とするタイムラインを作成し、これを回転音の新たなメロディラインのボリュームに紐付けて利用している。フェイズ2の終わりに向かうにつれ、徐々にボリュームが上がっていくことで、より音楽的に盛り上がるような演出となっている。

また、講演内では、WwiseとUE4をリアルタイムで繋ぎ、SEのクオンタイズの有無を聴き比べたり、Wwise側で設定したRTPCの効果をUE4でリアルタイムにプレイしながら確認を行うなど、実際の開発環境さながらの実演が行われました。

「タートルの夢」では、プレイヤーの操作によってインタラクティブに音楽が奏でられるように設定することで「プレイヤーが自ら音楽を発見すること」自体がひとつの楽しみになっているほか、こうした要素がビジュアルと通底したコンセプトである時、よりよい体験が得られると武藤氏は説明しました。

UE4での実演画面。クオンタイズの有無や、フェイズによる音の違いを確認しながら講演が進んでいった。



おわりに、武藤氏は「自分が考えるゲームサウンド」として、「ひとつひとつの音を重視し、音に含まれる背景を考え、聞き手にとって情景が見えるサウンドをつくり、これをビジュアルとマッチさせた時に心が動く最高の体験が出来るのではないかと考えています」と語り、講演を締めくくりました。



Audiokineticについて


Audiokineticは最先端の総合インタラクティブオーディオソリューションや革新的なワークフローを提供し、インタラクティブオーディオ制作の統合されたアプローチを提案します。「Wwise」は、革新的なインタラクティブ体験の制作を実現する、コスト効率の高い包括的なオーサリングツールおよびオーディオエンジンをサウンドクリエイターやオーディオプログラマーに提供します。

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https://www.audiokinetic.com/ja/about/careers/A1AEDAA346/

エンハンス社について


エンハンス(エンハンス/本社:米カリフォルニア州/代表:水口哲也)は、2014年に設立された、独立系スタジオ兼パブリッシャーです。これまで『Rez Infinite(2016)』、『ルミネス リマスター(2018)』、『テトリス エフェクト(2018)』などを世に送り出し、米国The Game Award最優秀VR賞(2016)、SXSW 2019 Gaming Awards Excellence in Musical Score(2018)をはじめとするアワードを受賞しています。エンハンスのチームメンバーは、XR分野のテクノロジーの進化とともに、今までにない共感覚的な体験や新しいエンターテイメントを創造することに情熱を注ぎ続けています。

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https://enhance-experience.com/jobs
《神山大輝》

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