世界のゲームを楽しむためにーDeNAが取り組むローカライゼーション業務の体系化 | GameBusiness.jp

世界のゲームを楽しむためにーDeNAが取り組むローカライゼーション業務の体系化

ビデオゲームが世界中でリリースされる現在、ローカライゼーションはより重要になっています。そこで日本のモバイルゲームを代表するディー・エヌ・エーでは、どのように取り組んでいるかが語られました。

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世界のゲームを楽しむためにーDeNAが取り組むローカライゼーション業務の体系化
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ビデオゲームが世界中でリリースされる現在、さまざまなタイトルの面白さを伝えるために、各地域へのローカライゼーションは重要なタスクです。日本でも海外作品のリリースが増えており、ローカライズの比重は年々、大きくなっています。

2月22日、渋谷・ヒカリエにてディー・エヌ・エー(以下、DeNA)が主催する「Game Developer’s Meeting ローカライズ勉強会 Vol.1」が開催されました。増加していくローカライゼーションの業務をいかに対処するのか、そして業務効率化のために用いられている、ツールや手法も解説された勉強会の模様をお届けします。

「ローカライゼーション」とはどんな役目なのか?



今回の勉強会では、DeNAのグローバル推進部ローカライズグループに所属し、グループマネージャーを務める藤村弘也氏が登壇しました。

あらためて、ローカライゼーションとはどんな仕事なのでしょうか?藤村氏はわかりやすい例を挙げます。「社内会議で「お疲れ様です」と言いますよね?これを英語ではなんて言うでしょうか?」

藤村氏が過去に、外国人社員から「なぜ日本語では、疲れてもいないのに「お疲れ様です」と言うのですか?」と質問されたところ、ねぎらいの言葉だと説明しました。では英語ならどう答えるか聞かれたところ、「Thank you for coming.」と返したそうです。

「その外国人社員から「英語では“疲れた”って言ってないじゃん!」と言われました(笑)。こうした言葉文化のズレを調整するのがローカライゼーションです」と藤村氏はまとめます。

DeNAのローカライゼーション事業


モバイルゲームの大手であるDeNAでは、世界各国へゲームのローカライゼーションを活発に行っています。『FINAL FANTASY Record Keeper』を英語圏でリリースしたほか、中国語圏で『天華百剣 -斬-』をリリースしています。

また、海外作品の日本展開に合わせたローカライズにも注力しており、社内でもローカライズチームは重要な役割を担っているのだそう。テンセントと提携した『伝説対決 -Arena of Valor-』では国内での配信・マーケティングのみならず、ローカライズも手掛けており、最近では『荒野行動』で知られるNetEase Gamesの『永遠の七日』も日本版のローカライズを担当しました。

「DeNAのゲーム事業部で扱うゲームタイトルは、ジャンルや特色も様々で、開発するチームの仕事の仕方においても色々です。」と藤村氏が説明するとおり、現在DeNAでローカライズタイトルだけでもゲームジャンルは多種多様なラインナップです。「どんなジャンルであったとしても、ローカライズの品質を保ち、各地域のお客様にゲームを提供するのが我々の仕事」と自らの役目を語ります。

いかに業務を体系化し、膨大な翻訳量を捌くか



ではDeNAのローカライゼーションの現場は、実際にはどのようになっているのでしょうか?「会社がグローバル展開をするときに、ローカライズグループだけが置いてけぼりにされることがあってはならない」と藤村氏は語り、いくつかの課題を提示しました。

ひとつは、ローカライズグループの業務が体系化されていない点を挙げます。藤村氏は「現場の力量だけでローカライゼーションを行っていた」と振り返り、どんな問題が起きているかというと「業務が煩雑化してしまい、スムーズに進行できなくなる」と説明しました。

先述したように、DeNAは多様なゲームを展開しています。今後も様々なゲームを展開するためにも、ローカライゼーションの業務を体系化し、シンプルにすることが必要だと藤村氏は語っています。


そのために、どうすべきでしょうか?藤村氏は「開発環境をローカライズ仕様にしなければいけない」と解説します。翻訳はローカライズだけではなく、開発チーム、翻訳会社、LQA(言語の品質保証を行う)チームそれぞれが関わりますが、各チーム間で文字列の共通認識ができていないと、混乱が生じたり、テキストがプログラムの中に直接書かれたものを抜き出して翻訳し、それをプログラムに戻す作業が必要だったり、多くの場面で業務を滞らせるポイントが発生してしまうとのこと。


さらに「文字列が一元管理されていない」問題も、現場を苦しめるポイントに挙げました。藤村氏は「あまりにも煩雑すぎて、テキストの品質コントロールができず、業務が現場のマンパワーに依存してしまう」と、これらの問題がスタッフに重くのしかかることを説明。

業務しにくいポイントを残したまま、マンパワーに頼ってしまうことで新たな問題を引き起こすことを指摘していきます。「手作業をするのでミスをしてしまいますし、バグも見逃してしまうんです。そのバグの対応で、余計に工数がかかってしまい、慢性的に残業状態になるんです」と労働環境やワーク・ライフ・バランスにまで影響する根深い問題であることを強調しました。


このような現場にかかる負担に対し、藤村氏はまず「開発環境がローカライズ仕様になっていない」問題解決に「ローカライズTRC(Technical Requirements Checklist) 」の導入を挙げました。これは文字列のID管理や、IDの命名規則といったマスターチェックを行うリストであり、開発タイトルすべてに導入できればローカライズしやすい環境にできると語ります。

この解決方法は、CEDEC2015で行われた、株式会社サイバーコネクトツーのローカライズ室に所属していたティル・スティル氏の講演「ローカライズフレンドリーなゲーム開発のための社内ガイドライン入門」など、他社の事例も参考にして「DeNAの開発における独自のローカライズ規格を策定し、ローカライズTRCとして開発した」とのことです。


次に「文字列が一元管理されていない」問題の対処には、DeNAがローカライズ業務用に開発中である支援ツール「LION」の導入を挙げました。これを利用することで、数字やタグの整合性や、禁止文字などをチェックするだけではなく、過去翻訳の管理なども可能であり、バグのない品質で納品することができるそうです。現在、機能強化を進めており、将来的には外部ツールとのAPI連携も視野に入れているといいます。

DeNAが公式に作成したLIONの解説スライド

以上のローカライズTRCとLIONの導入により、業務上のボトルネックを多く取り除くことができるといいます。「基本業務をシンプルにし、体系化する」具体的な施策がまとめられました。

ゲームのために、多様な経験をもつコーディネーターも必要



藤村氏はこのように、いかにローカライズ業務を体系化するかに尽力していますが、最初からこの仕事をしていたわけではないそうです。なんと、かつてロンドンでバンド活動をしており、ギタリストとして活躍していたといいます。帰国後には音楽プロデューサーとして活動するなど、元々は音楽業界で仕事をしていました。

そうした経験を踏まえ「ローカライズコーディネーターには、一定の業務スキルに加えて、いろいろなタイプの方がいてほしい。経験や得意分野が千差万別あっていいんです」と語ります。


ローカライズコーディネーターとは、「開発チーム内のテキストローカライズ責任者。外部の翻訳会社と連携して、業務を推進していく役割」と藤村氏は説明します。大事な立場に思えますが、どうしていろんなタイプの方がいてほしいのでしょうか?その理由については「ゲームはエンターテインメントだから、経験や得意なものが多様であるほうがいい」と解説しました。

実際にロンドンでのバンド経験を経た、藤村氏ならではのマネジメント論も語られました。「ギタリストとして演奏していたとき、ひとりで頑張って、いい音を出そうと弾いてはいけない。バンドのメンバーが演奏しやすいように弾くのが大事なんです。そうすると音楽が掛け算みたいなクオリティが出るんです」と過去の経験を話します。「マネジメントもバンドでギターを弾くことに似ています。ローカライズのメンバーが気持ちよく働きやすいようにすることが大事なんです」とまとめました。



世界のさまざまな地域でゲームを展開するときの、文化の差



ローカライゼーションではさまざまな地域の文化差を考慮することも重要です。セッションの最後には、事前に参加者から募った質問を、藤村氏が答えていく形で、異文化について説明していました。

まずはじめに「中国の規制や表現方法について」という質問では、「英語表記が許容されない」と解答。香港や台湾、韓国で許容される英語表記であっても、中国でゲームを展開する場合にはすべて中国簡体字に置き換える必要があると言います。

続いて「香港と台湾へ展開する場合、同じ中国繁体字を使用してますが、翻訳も同じで問題ないか」と、ふたつの国の文化差を懸念した質問もありました。こちらは「基本的には同じテキストで良いと思いますが、別の翻訳テキストを用意するかどうかは、ゲームタイトルによります」と藤村氏は解答しました。

たとえば香港の時代劇ゲームであれば、香港繁体字に寄せていくべきだといいます。野球ゲームを翻訳するのであれば、台湾も野球も盛んなため、台湾繁体字寄りにしていくべきと説明しました。香港と台湾で、別々の繁体字テキストを用意するかどうかは現地のマーケットがどれだけ大きいかで判断すべきと語りました。


藤村氏は同じ言語を使う国同士でも、場所が変われば言葉の意味も違う文化の例を、具体的な経験から話します。「初めてのアメリカ旅行で、ニューヨークに行ったんです。そこでマクドナルドに寄ったんですね。そこでアメリカ人男性が「バスルームを貸してください。」と言うのです。」

藤村氏は「お風呂場を貸してくれ?何を言っているのだろう?」と思ったそうですが、なんとそれはトイレのことだったそうです。他にも、ロンドンで、イギリス人だけで経営しているラーメン屋によったところ、頼んだラーメンが人肌くらいの温度しかなかったそうです。藤村氏は思わず店員に文句を言ったところ、イギリス人のスタッフに「熱かったら食べられないじゃないか。」と言い返され、まわりのお客さんも同調したそうです。


「外国ではこのような文化の違いが頻繁に起こるんです。常識や、普通だと思うことは日本でしか通用しないのです。」と藤村氏は語りました。「だからこそ、異文化を面白がることが大切です。ローカライズ業務に関わるのであれば、文化の違いがどのくらい衝撃的なことか知っておいたほうがいいんです。」


そんな文化の違いの中でも、特に気にすべきなのは各地域のNGワードだと言います。藤村氏は「基本的に入手しておくべきです。」と語り、各地域の機関からガイドが入手できるため、参照することが推奨されました。

さらなる課題解決に向けて―機械翻訳の導入



ローカライズ業務をスムーズに進めるにあたり、藤村氏は今後、導入を考えているのが機械翻訳だといいます。「一連のローカライズフローでは、ローカライズTRCと、LIONの運用効果が高くはないフェーズがあることを指摘します。それが外部の翻訳会社による翻訳と、LQA(翻訳した言語が実際にプレイした時に大丈夫かどうかのテスト)のフェーズです。

「翻訳会社さんが行った翻訳が、LQAのフェーズで引っかかってしまうんです。なぜか?ゲームが開発中のものなので、正確な翻訳を行うための資料が揃わない環境で翻訳しなくてはならないからです。そこで完成度の高い翻訳は至難の業です」と、藤村氏はこのフェーズの問題を解説します。


「翻訳者が実機でゲームプレイしながら、翻訳を確認できれば良いと思いませんか?」そこで機械翻訳のNMT(Neural Machine Translation)を利用することを考えていると語りました。これはAIに自動学習させることで、精度の高い翻訳を実現することが狙いです。藤村氏は「翻訳会社の作業に、この機械翻訳を導入し、翻訳者がテスターと協力して翻訳作業を行えるようにします。」と展望を説明します。


ただ現段階では、本格的な導入の前にいくつかの課題があることも説明しました。AIに自動学習させるための翻訳のデータベースの問題や、開発スケジュールに機械翻訳を落とし込めるかといった問題があり、こちらはまだ研究中のようです。

今回の勉強会で、藤村氏は「DeNAのローカライズグループの価値を上げたい」とまとめました。その言葉通り、多くの知見に溢れたセッションとなりました。
《葛西 祝》

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