Nintendo Switchは玩具からデバイスへの社業スイッチ【Re:エンタメ創世記】 | GameBusiness.jp

Nintendo Switchは玩具からデバイスへの社業スイッチ【Re:エンタメ創世記】

企業の歴史は人の歴史であり、社会の歴史である。今さらゲーム専門メディアで任天堂の歴史を細々と語ることは避けるが、ざっとおさらいをしておこう。

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Nintendo Switchは玩具からデバイスへの社業スイッチ【Re:エンタメ創世記】
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始まりの終わり、終わりの始まり

企業の歴史は人の歴史であり、社会の歴史である。今さらゲーム専門メディアで任天堂の歴史を細々と語ることは避けるが、ざっとおさらいをしておこう。

1889年に「花札」の製造業として任天堂骨牌が創業、1902年には日本で初めての「トランプ」を製造。山内家としての3代目、故・山内溥氏が1949年9月に代表取締役社長に就任。その後、日本初のプラスチック製トランプの製造に成功し、1960年代には、当時まだ珍しかったディズニーからのライセンス許諾に成功し、ディズニートランプとして販売し大成功を納めた。

任天堂(故・山内溥氏)にとっての娯楽とは何か

経営者ならば誰しもが理解できると思うが、企業が提供する商品やサービスによって社会への貢献をするとともに、社業を成長させ、そこに集う社員の生活を保全し、向上させることでもある。

そのため、プラスチックトランプ製造によって得た利益を任天堂は様々な商売に展開した。トランプの販売も一巡し、徐々に娯楽の多様化が求められる中で、ボードゲーム、玩具などの製造と販売に乗り出す。なかでも当時ヒット商品は故・横井軍平氏が開発した「ウルトラハンド」、今思えばなんとも他愛の無い商品だが当時は斬新だった。同じく横井氏に依るピッチングマシン「ウルトラマシン」。ふわふわと飛ぶボールをいかにミートさせるかで少年たちは誰しもが苦戦を強いられた玩具だった。「ラブテスター」も刺激的なアイテムだった。少年少女が合意のうえで手を繋ぐことができるというドキドキ演出玩具だったが、こちらも今思うと平和でピュアで罪作りな玩具だった。さらにはレーザークレー射撃システム、光線銃など挙げればキリが無いほどの玩具を製造販売してきた。任天堂にとっての娯楽は玩具であり、ありそうでなかった玩具を世に送り出してきた歴史である。

赤字一掃する家庭用ビデオゲームビジネスへの参入

玩具の延長線か、それともありそうでなかったものとしての延長線か今となっては非常に曖昧だが、1978年になると業務用ビデオゲーム機の販売を開始する。おそらくはアタリの「PON」や「ブレイクアウト」などのブームに便乗した商品だったが、それらの在庫基盤を流用して展開が始まったものと思われる。同時にこの時期の任天堂の業績は芳しくなく、後に1980年の携帯型ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」で奇跡のV字回復を果たして借金を清算し、その後、家庭用ビデオゲーム機「ファミリーコンピュータ」を1983年7月15日に発売することで、現在のゲーム産業での盤石の地位を築いた。

おそらく、これらの流れのなかで故・山内溥氏は「色々とやってみても、最後はなるようになる…」という感覚が「運を天に任せる」というある種の神がかり的な経営理念に昇華したと思うのは考え過ぎだろうか。

玩具を貫いたポリシーと異なるスイッチ

2016年10月20日、日本時間の23時に世界同時発表された、任天堂「NX」改め「Nintendo Switch」に関する情報は未だ少ない。公開されているのはプロモーションムービーと公式サイトの情報のみ。過去のゲームボーイやNintendoDSなどと同様に持ち歩きが可能なサイズではあるが若干大き目なサイズ感の本体に「Joy-Con」というコントローラーを両サイドにアタッチすることができる。おそらく全体の長さは25センチくらいになるのではないだろうか。となると、カジュアルに持ち歩くという感覚にはなりにくい気もするがどうだろう。本体はドックに設置、プラグイン・アウトの手間を省いたあたりは、プロセッサーユニットを奢ることでコストを度外視し利便性を優先したということになるだろう。



戸外でのプレイ、連携プレイ、ネット対戦などの象徴的なムービーを観る限り今回の「Nintendo Switch」が狙っているターゲットは従来型の携帯ゲーム機よりもやや上の層かもしれない。実際にムービーに出てくるスタイル像も、ティーン層+アルファのポジションを感じさせる。

おそらく市場的に売れることは間違いないだろうが、それがどれほど売れるのかと言う点では懸念すべき事項もある。任天堂が目指しているNintendo Switchのポジションとターゲットが現在のスマホユーザーと被っているという点である。

もちろん家庭用ゲーム機と携帯ゲーム機の両方の良いところ取りのゲーム機でというコンセプトだろうが、果たしてその両立が可能かという点は意見が分かれるところだろう。世界的に見ても、スマホとそこをポータルとして遊ぶゲームユーザーというスタイルは確立したと言っても差し支えはないだろう。つまり、そのスタイルとの直接対決をするということになる。

玩具からライフスタイルを変えるデバイスへ…

「Nintendo Switch」という名前が象徴的に感じるのは、任天堂がゲームユーザーを中心にした消費者のライフスタイルのスイッチ変革を提案しているということであると思う。

それは過去にもソニーが開発したウォークマンで、それまではデカいラジカセを持ち歩くしかなかった音楽を聴くスタイルに変革を興した。さらに、携帯電話が流通し人々の仕事やプライベートの活動に柔軟性を起こすことで変革をもたらした。そして持ち運べるPC、スマホが我々の生活の利便性を高めると同時にゲームやアプリでスキマ時間を奪っていった。

従来の任天堂のデバイスは玩具の域を出なかったと思っている。そして任天堂もそれを良しとしてベースとドメインを超えることなく展開をしてきたと思う。今回は「Nintendo Switch」は明らかに異なるコンセプトのもと開発されているツールであり、ポータルであり、高性能デバイスとして市場の判断を仰ぐつもりなのだろう。

コンテンツはマリオ、ゼルダなどの世界的に強力なIPがある。そしてそのポテンシャルはすでにナイアンテックやアップルとの取組みでも一定以上の評価が出ている。そしてそのコンテンツを有効に活用したスイッチを準備した。

それはそれで任天堂らしい。急ぎよく運を天に仰ぐためにスイッチ(「Nintendo Switch」)はそこある。そしてそのスイッチは2017年3月発売でどのような変化をもたらすのだろうか。

ちなみに、2015年3月17日にDeNAとの業務資本提携を発表した際に新型ゲーム機「NX」の発表をしたことを考えると、3月17日(金曜日)に発売される可能性もある。ちょうど発表から2年…なんともカッコいいストーリー展開ではないだろうか。玩具からデバイスへの社業のターニングポイント、そして任天堂と歴史に新しい一歩だが、大きな一歩が刻まれることを期待している。


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■著者紹介
著者:黒川文雄(くろかわふみお)
プロフィール: 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。

(c)2016 Nintendo 
《黒川文雄》

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