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逆方向のアイドルビジネス「さくら学院」の成功と「閉校」の理由とは

さくら学院は、アイドルビジネスの常識を覆した独自路線で熱狂的なファンを獲得し、着実なビジネスモデルを築いて安定成長を続けているかに見えたが、活動停止となった。その成功の方程式と終了理由を考察。

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逆方向のアイドルビジネス「さくら学院」の成功と「閉校」の理由とは
  • 逆方向のアイドルビジネス「さくら学院」の成功と「閉校」の理由とは
  • さくら学院ホームページよりhttps://www.sakuragakuin.jp/

2021年8月31日、アイドルグループ「さくら学院」が11年5ヶ月の活動に幕を閉じました。

さくら学院は、従来のアイドルビジネスの常識を覆した独自路線で熱狂的なファンを獲得し、着実なビジネスモデルを築いて安定成長を続けているかに見えていました。

しかし、コロナ禍で状況は急変し、1年前に「閉校」を決定しました。

さくら学院の独自路線はどのような課程で構築され、いかにファンの熱狂を維持し、それがなぜ突然の閉校となってしまったのか?

所属事務所のアミューズは東証一部上場ですが、さくら学院の業績はIR資料で収益への貢献が軽く触れられているだけで、具体的な数字は開示されていません。

ここでは、外部から観察できるさくら学院の過去11年5ヶ月の活動内容や運営側への取材記事などを元に、さくら学院の独自ビジネスモデルを考察し、アフターコロナ時代のエンタメビジネスを考えます。

「さくら学院」とは?

さくら学院は、2010年に結成した女性アイドルグループです。

小学5年生から中学3年生で構成された「成長期限定ユニット」で、メンバーは中学3年の義務教育終了とともにさくら学院を卒業しなければならない、というのが最大の特徴です。

学校コンセプトを徹底的に作り込み、私立名門校風の制服で学院生活をテーマに友情と克己の楽曲を歌い踊り、まるで本物の学校のように部活動や各種学校行事を行い、エンターテイメントであると同時に教育ドキュメンタリーにもなっています。

Perfumeのコレオグラファーであり、リオ五輪閉会式の演出家でもあるMIKIKO氏が指導する、高度なダンスパフォーマンスも人気の理由だとされています。

卒業生からは、世界的人気のメタルダンスユニット・BABYMETALを筆頭に、モデル&女優の三吉彩花と松井愛莉、ラブライブ!声優の佐藤日向など、多数の人材を輩出しています。

さくら学院ホームページより https://www.sakuragakuin.jp/

さくら学院が「学校」になるまで

さくら学院が結成された2010年は、AKB48が「ヘビーローテーション」でチャートを席巻し、「アイドル戦国時代」が本格化していました。ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)、東京女子流、スマイレージ(現・アンジュルム)もこの年にメジャーデビュー。第1回Tokyo Idol Festival(TIF)も開催された、まさにアイドルの時代で、AKBのビジネスモデルを真似たアイドル運営が日本全国に乱立しました。

一方でさくら学院が所属するアミューズは、サザンオールスターズ、福山雅治、Perfumeなどのトップアーティストを擁する大手芸能事務所です。

さくら学院は結成当時から、AKB的なアイドルビジネス(握手会ビジネスによるCDの大量販売など)は念頭になかったと、さくら学院の「校長」として運営に関わる放送作家の倉本美津留氏は述べています(「さくら学院 10th Aniversary『Thank you…』」/2021年)。

当時アミューズの執行役員としてさくら学院のプロデューサーだった千葉伸大氏は、アニメ主題歌のために結成された小学生アイドル「可憐Girl's」が、活動期間を限定にしたことでメンバーが急速に成長したことにヒントを得たと語っています。そこから、

“卒業時期、ゴールを設けて切磋琢磨することで、意欲や輝きを引き出しというコンセプトの下、「成長期限定ユニット」「教室エンタテインメント」と銘打って”

デビューさせたとしています(日経BPの情報誌「東京ストーリー教育特集号」インタビュー/2012年)。

開始当初は制服と「学院日誌」というルーズリーフに手書きするブログしかなく、Tokyo Idol Festivalへの出演が決まってから、デビュー曲「夢に向かって」が制作され、可憐Girl'sに引き続き、MIKIKO氏がコレオグラファーに就任しました。秋に最初の単独ライブ「さくら学院祭」が行われ、MCとして芸人出身の脚本家・森ハヤシ氏が「担任の先生」に就任。自らの挫折を語りながらバラエティと人生の師匠として師弟関係を築き、生徒達を温かく指導する姿がさくら学院の魅力のひとつとなっていきます。

翌年には「オープンキャンパス」(学校説明会)が行われて、倉本美津留氏が校長に就任。倉本氏は7か条の校則を制定し、さくら学院生は「アイドルを超えたスーパーレディを目指す」とし、以後、これが在校生と卒業生の行動原理となります。学者や文化人を講師に呼んで体験的に学ぶ「公開授業」が始まり、転入式・学院祭・卒業式の三大行事(ホール公演)のフォーマットが決まり、さくら学院は徐々に「学校」としての体制を整えていきました。

しかし、この頃のさくら学院は、ユニバーサルミュージックからメジャーデビューしたこともあって、通常のアイドルビジネスに近い展開も見られました。CD発売時には大手CDショップでリリースイベントを行い、公開授業のチケットとCDやDVDが抱き合わせ販売されることもありました。

インディーズ・アイドルとなって独自路線を強化

2014年度をもって、開校メンバーが全員卒業したのと期を同じくして、さくら学院はユニバーサルとのメジャー契約を終了し、アミューズ単体で楽曲の制作販売を行うインディーズ・アイドルとなりました。

いわば、これがさくら学院の第2ステージの始まりで、従来のアイドルビジネスと異なる方向性が目立ち始めます。

元々多くなかったテレビ出演はさらに減り、新譜販売はアミューズ公式オンラインショップか全国のタワーレコード店舗に限定。AmazonやiTunes Storeでの新規販売もなくなりました。その代わりCD販売に伴うリリースイベントも抱き合わせ販売もなくなりました。

一方で、アルバムCDのジャケットは、コストがかかるこだわりの一枚写真にするなど、世界観のチューニングに磨きがかかります。

BABYMETALのブレイクをきっかけにアイドルを知らないメタラーや音楽好きの父兄(ファンの通称。女性でも小学生でもファンは「父兄」)が急増。彼らはアイドルオタク目線よりも親目線でさくら学院を応援することで、独特のファンコミュニティーが築かれ、高いロイヤリティが形成されていきました。

ライブも公開授業も、チケットは即ソルドアウトするのが常態となり、物販もイナゴのような父兄にあっという間に買い尽くされます。多くのアイドルがメジャーデビューを目標にするなかで、さくら学院はインディーズになることで、安定した顧客を確保していったように見えます。

アイドルビジネスの常識を覆した?

アイドルグループとしてのさくら学院のビジネスを考察するなら、それはどのぐらいの規模だったのでしょうか? まず、現在のアイドルビジネスの在り方を確認してみましょう。

2000年代のアイドルビジネスの柱は以下のようになっています。

  • CD、Blu-ray、写真集などコンテンツのパッケージ販売

  • ライブコンサートの開催

  • Tシャツ、タオル、生写真、チェキなどグッズの販売


このうち、数字として比較しやすいのが、パッケージ販売数とライブコンサートの動員数です。よく知られているように、AKB48は、握手会と総選挙というギミックを使って一人当たりのCD購入数を膨大に増やし、CD販売枚数=人気のバロメーターという従来の評価基準をハックして、国民的アイドルへの道を駆け上がりました。国民に話題を提供することで、地上波テレビの露出も増え、ライブ動員数も跳ね上がって、東京ドームで4万8000人、日産スタジアムで7万人を動員。国民的アイドルの座をモーニング娘。から奪っていきました。

2021年現在、AKB48のCD売上は100万枚以上を維持していますが、テレビ露出量はだいぶ減り、コンサート会場の規模も3000人程度に縮小しています。一方、現在人気の乃木坂46は数万人規模のドームコンサートを年に複数回行えますが、CD販売枚数は50~60万枚に留まっています。

ももいろクローバーZのCD売上は長らく3万~5万枚レベルですが、毎年、西武ドーム(キャパシティ:3万8000人)とさいたまスーパーアリーナ(同:1万2000人~3万7000人)でのライブをコンスタントに行えており、動員力を維持しています。

モーニング娘。'21のCD売上は11万枚程度で、ライブ会場は武道館や代々木第一体育館(同:1万2000人)となっています。女性ファンの比率が増えたことが、復活の要因とされています。なお、大型ライブの象徴でもある武道館のキャパシティは、エンドステージで6000人~7000人。センターステージで1万人とされています。

さくら学院にとって、いろいろな意味で先輩であるPerfumeは、世界的な知名度を持ち、東京ドームライブを行う一方で、CD売上は5万枚程度です。

このように、アイドルのCD売上とライブ動員数の相関性は薄くなっています。

世界的に見ると、CD販売は廃れ、ダウンロード販売からさらにサブスクリプションに移行しています。音楽ビジネスはパッケージ販売からライブビジネスと物販に移行したとされています。

物販が重視されるのは、コンテンツに比べると企画制作にかかるコストが安く、利益率が高いからでしょう。1曲作るには、作詞、作曲、編曲、録音、ミキシング、プレスと多数の工程が必要ですが、グッズの制作は専門業者に発注すれば、素人でも即できるほど簡便化されています。

こういった理由から、ライブ動員数を増やし、来場者に沢山のグッズを買わせて客単価を上げることが収益性を上げ、アイドルに限らず音楽ビジネスの基本となっているようです。

コロナ禍で、有観客ライブができない期間が続いた頃、無観客有料配信や、ライブ配信でサインしたCDを送る「ネットサイン会」も行われましたが、規制が緩くなるに従い、リアルライブと物販に回帰しているようです。

さくら学院のビジネス規模

次に、さくら学院のビジネス規模を考えてみます。

さくら学院はシングルCDを2014年度以降発売していません。毎年発売していたアルバムCDは、初動売上で3000~4000枚。ライブDVD/Blu-rayが初動1500枚程度でこれが年に2回。ネットで有料配信していたレギュラー番組の購読者が、再生数から見て3000~5000人。

ライブ会場は、キャパ2222人の中野サンプラザと、キャパ2493人の横浜県民ホール大ホールがよく使われていました。

ここでは、さくら学院史上最大規模となるはずだった2019年度(2019年5月~2020年3月。実際には8月まで延期)を中心に、他のアイドルグループと比べてみます。

2019年度さくら学院のライブ会場

  • 2019年5月 文京区シビックホール:1800人

  • 2019年8月 マイナビ赤坂BLITZ:1300人×2回公演

  • 2019年10月 KAAT神奈川芸術劇場ホール:1300人x2回公演

  • 2019年12月 舞浜アンフィシアター:2100人

  • 2020年2月 マイナビ赤坂BLITZ:1300人×2回公演

  • 2020年3月 TSUTAYA O-EAST:1300人*

  • 2020年3月 パシフィコ横浜国立大ホール:5000人*

* チケット完売するもコロナで開催中止

同時期のAKB48を見ると、「AKB48全国ツアー2019~楽しいばかりがAKB!~」は、2019年7月から12月の間に全国で計20公演を行っており、会場のキャパシティは1500人から2000人程度。最終4公演のTOKYO DOME CITY HALLが3300人となっています。また翌2020年1月にもTOKYO DOME CITY HALLで公演。

ハロープロジェクトのアンジュルムは、同時期に武道館1公演、パシフィコ横浜2公演を含む63公演を行っていますが、地方公演には500人前後のライブハウスも多く含まれています。

こうして見ると、さくら学院は公演数は多くないものの、1公演の観客動員数では、中堅メジャーアイドルに近いと言えます。

公演数が少ないのは、全員が小中学生でしかも地方在住者が多く、レッスンに長く時間をかける、などの理由があるでしょう。

東京と横浜限定で活動する小中学生インディーズ・アイドルグループとしては、充分な集客力と言えると思います。

さくら学院は赤字?

では、これらの事業でさくら学院はどのくらいの利益を出せていたのでしょう?

一部アイドルオタクの間には「さくら学院は赤字に違いない」という信仰みたいなものがありました。メジャーレーベルを離れ、テレビにも出ず、握手会をしないどころか、シングルもリリースしない。アイドルビジネスの一般的手法の多くに背を向けたやり方で、利益が上がるとは想像できないのでしょう。

また、「さくら学院はアミューズの育成機関である」と信じられていて、「育成機関だから利益度外視に違いない」という予想もありました。

しかし、一部上場企業が赤字事業を10年も野放しにするでしょうか? もし本当に育成を目的とするなら、決算時にその旨が報告されるのではないでしょうか。

毎年アルバムCDにクレジットされる「職員室」のメンバーには、社長、副社長、専務などが名前を連ねています。卒業式のリハーサルでは「職員室の偉い先生の厳しいチェックがある」という森ハヤシ氏の証言もあり、インディーズに転じた2015年度は株主総会でのお披露目もしています。むしろ経営陣肝いりのプロジェクトだったように見えます。

ここでは、2019年度がコロナ禍にもし飲み込まれなかったら、という前提で試算を行ってみました。公演の売上は動員人数×チケット代で、パッケージの売り上げは販売枚数x単価でわかります。公演の場合は物販を伴うので、それに対する平均売上を予想してチケット売上げに上乗せしました。ひとりで1万円以上買う人もいれば、買わない人もいるので、平均で数千円の上乗せをしています。父兄の熱量が高いライブの物販は上乗せ多め、公開授業やライブビューイング(LV)は少なめにしています。

あまり細かく書くと生々しすぎるので、ざっと試算を書くと

  • ライブ9公演 約4億6000万円程度

  • ライブ公演のLV3回 4100万円程度

  • 公開授業 5公演x3コマ 4000万円程度

  • ライブ公演のBlu-ray/DVD 2枚(計4枚) 5000万円程度

  • アルバムCD/レコード(4種) 1400万円程度

  • 写真集 750万円程度

  • 有料配信番組 3600万円程度

  • 総売上 7億円程度


2020年3月期のアミューズの決算は、売上588億600万円で、営業利益51億5500万円。営業利益率は8.8%、これを適用すると、さくら学院の利益は6200万円程度。年に数本しか新曲を作らず、衣装もほとんど使い回しの制服で、他のアーティストより経費はかなり少なそうなことを考慮すると、営利10%で7000万円。営利15%で1億円。

既存アイドルの手法に背を向けて、ひたすら丁寧に楽曲制作と練習に励む。それでもし年間1億円の利益を上げられるなら、運営にとっても、アイドル本人たちにとっても幸せなことです。

さくら学院3つの強み

アイドル運営として理想的に見えるさくら学院のビジネスは、なぜ可能になったのでしょうか? ここでは、3つの理由を挙げます。

クオリティ

さくら学院の最大の強みは、その楽曲クオリティの高さとパフォーマンス力の高さにあります。父兄の多くは、まずBABYMETALの圧倒的なクオリティに打ちのめされ、その源流であるさくら学院にも気付いて沼にハマる、というのが鉄板ルートとされています。

そのクオリティを担保しているのは、膨大な時間投資です。楽曲制作のためにも、長い時間をかけてメンバーや作家とコミュニケーションを行っていることが、職員室によって語られています。

卒業式で必ずかかる代表曲「未完成シルエット」は、1年間かけてメンバーの心の成長を取材し、それを作家に伝えて昇華させたそうです。曲を受け取ったメンバーは自分事(じぶんごと)として受け取り、練習によって表現を昇華する。披露されたパフォーマンスは父兄と後輩の間で伝説として残り、後輩たちはそれを伝統として受け継ぎ、さらに高いレベルを目指すため、毎年レベルアップしていると言われます。

さくら学院のレッスンは8時間に及ぶこともあり、水分補給のために2リットルのペットボトルがひとり1本必要だといいます。オーバーな表現でしょうが、1cm単位でダンスの精度が要求されると言われ、卒業生は、辛い練習に悔し涙を流し続けた果てに、本番ステージの喜びがあったから最後まで顔笑れた(頑張れた)と異口同音に語っています。

また、楽曲ごとにメンバー間で話し合ってイメージを決め共有するといったことも、大切な活動として行われています。単なるダンスや歌唱のスキルを超えて、「表現とはなにか」を突き詰める。そういった高いレベルでの探求が、アイドルの中で行われていたのです。

多くのアイドルは毎週のようにライブや握手会その他のイベントがあり、練習に避ける時間は多くないでしょう。パフォーマンスを徹底的に磨き込む時間があるからこその、クオリティだと思われます。

世界観

さくら学院のもうひとつの魅力が、緻密に作り込まれた世界観でした。まるで宝塚音楽学校のようなリアル学校であるかのように諸要素が構成された結果、メンバー、卒業生、関係者、父兄のすべてが、さくら学院という「学校」が存在するというファンタジーを共通認識とするようになりました。

衣装の制服に始まり、校章、校則、授業、担任の先生と校長先生、部活動、生徒会、修学旅行や林間学校、寮生活、学年末テスト。そして転入式、学院祭、卒業式の三大行事。学校コンセプトのアイドルグループは幾つもありますが、ここまで作り込んだ例はほかにありません。

しかも、そこでは実際に厳しく温かい教育が行われ、挫折と成長と感謝がある。成長をウリにするのは日本のアイドルの常ですが、さくら学院では、父兄(ファン)も成長を支える重要なファクターとして迎え入れられ、そこに関わっていると感じられる。学院日誌のコメントなどを通して、メンバーと父兄のコミュニケーションが行われ、メンバーも森先生も校長も、父兄に常に支えられていると語り続ける。父兄は消費者から同じ世界を作る共同作業者になっていきました。

ある意味で、その世界に没入できる体験型の教育ドキュメンタリー。一種のVR(バーチャルリアリティ:仮想現実)であり、それがさくら学院が父兄のロイヤリティ=愛を限りなく高めた秘密だと言えます。

少数限定

さくら学院はメジャーアイドルに比べると、メディアへの露出が少ないです。公演数も少なく、一度見逃すと次の機会は数ヶ月後になる。それを父兄は残念がり悔しがる。

会場のキャパシティはいつも抑え気味でチケットは常に争奪戦となります。

握手会もリリースイベントもない中で、年にただ1回、卒業生と会って話せる「お渡し会」というイベントがありました。卒業写真集を購入したファンに、本人がサインを書いて渡してくれるというイベントですが、抽選制なので、とても狭き門でした。父兄は推しメンバーが決まると、その子の卒業の何年も前から、お渡し会に出られることを祈ります。

こうした日常的な父兄の飢餓感が、さくら学院への想いをさらに燃え上がらせていました。

さくら学院の運営(職員室)は、CDの売上枚数やライブの動員人数の多さで競うのではなく、特定のロイヤルユーザーとの関係性を深めることで、長期的に高い単価と利益率を維持できていたと思われます。

また、デリケートな小中学生をタレントとして扱っていく上でも、上品で質の高い少数の顧客にフォーカスすることが必要だったのかもしれません。

閉校の理由とこれから

マスマーケティングや、情動を煽るような「AKB商法」に頼るのではなく、ロイヤルカスタマーとの良質な関係を築く。アイドルビジネスの、ひとつの理想型を実現しつつあったかに見えるさくら学院ですが、突然のコロナ禍に見舞われ、卒業公演は延期の上、中止となりました。

結局、有観客開催を諦めて、2020年8月30日、無観客の有料配信でなんとか卒業公演を終え、その2日後の9月1日に「さくら学院から大事なお知らせ」がWebページに掲載されました。

“10周年を迎え、職員室一同これまでのさくら学院の軌跡を振り返りながら、多感な時期にある生徒たちを取り巻く環境の変化、また、昨今の状況等をふまえて、今後のさくら学院の活動、育成方法について考えて参りました。

その結果、さくら学院設立当初から掲げてきた「生徒たちが夢を実現し、一人一人が様々な分野で活躍できるスーパーレディーに成長していく」という目標の為には、より個々にあった育成を強化し、個人それぞれに特化した活動に注力していくという変化が必要だと考え、成長期限定ユニット“さくら学院”は、来年2021年8月31日をもって現状の活動に幕を閉じることに致しました”


突然の「閉校」のお知らせでした。理由は、この10年間の環境の変化から、グループでは無く「個人それぞれに特化した活動に注力していく」というものです。

さくら学院開校から10年の間に、世の中にさまざまな変化が起きました。

グループアイドルによるアイドルブームは終わり、YouTuberやインスタグラマーによる個人インフルエンサーの時代が来ています。マクロでは急速なグローバル化への反動が起こり、SDGsが全世界的なテーマとなりました。

そんな中で、握手会でCDを売るいわゆるアイドルビジネスは時代遅れであり、そのビジネスモデルから距離を置いていたさくら学院でさえも、アイドルという枠組みの中では、未来への可能性を閉ざされるかもしれない。

長く続く新型コロナの猛威は、地方在住の少女たちを毎週末上京させたり、長期休みには寮で集団生活をさせながら、長期的に教育し成長を期待するという、さくら学院の運営スタイルにとっては、大きな障害だと言えます。

たとえ、ワクチン接種が進んでも、変異株の脅威などでなかなか安心できる状況になりません。この状況が落ち着くのに5年はかかるという見方もあります。

さくら学院も、最後の1年はほとんどが配信によるライブやイベントでした。しかし、それによって地方や海外の父兄にとっては参加ハードルが一挙に下がるというメリットもありました。逆にラストライブは、有観客開催となったためか有料配信もなくなってしまい、海外父兄が悲嘆に暮れることになりました。つかみかけたグローバルマーケットを袖にしてしまったとも言えます。

5Gが普及し始め、高速低遅延のネットワーク接続が可能になりつつあるいま、アイドルビジネスやタレントビジネスは、それらを活かして、新しい形でロイヤルカスタマーを育成する方向に行くのかもしれません。

《根岸 智幸》

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