ゲーム会社が倒産する理由【Re:エンタメ創世記】 | GameBusiness.jp

ゲーム会社が倒産する理由【Re:エンタメ創世記】

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ゲーム会社が倒産する理由【Re:エンタメ創世記】
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■会社経営は人間経営だ

私自身も雇用されたサラリーマン経験があるので、一概にサラリーマンは楽だと言うつもりは無いが、会社を経営している代表取締役(一般に言うところの社長)の苦労は並大抵ではないだろう。例を挙げれば、まず、会社は組織運営と組織経営ゆえに、人心の掌握、適切な仕事配分、さらには営業管理、実績管理など相手の気持ちをくみ取るという努力が必要になる。この部分は人間社会で生きていくうえでは必要な部分なので会社経営者でなくとも、人として問われる資質だ。会社は人と、その人たちがもたらす仕事で成り立っている。会社経営は人間経営に他ならない。

■マネーメイキング(利益確保と資金繰り)の苦難

そして、重要なのは、それらの社員たちとともに、自分たちの企業体がどのように「社会貢献」ができるかという部分だろう。その「社会貢献」自体は色々なかたちがあると思うが、「相手から感謝される」ような、有形無形のサービスやプロダクトなどを生み出すことが、その「社会貢献」に繋がっていると私は思っている。個人的な考えを言えば、相手から直接、間接に関わらず「ありがとう」と言われる仕事や、その実績が結果的に金銭を生むと思っている。その金銭は会社にとって、栄養分であり、血となり、肉となる重要な要素である。私が経営した会社は15人程度の組織だったが、そのサイズであっても、月額の販売管理費(人件費、交通費、光熱水道費、交通費、雑費など)は1000万円くらいに及ぶことがあり、最低でも月に1000万円以上の売り上げを確保しないと赤字になる構造だった。さらにそこに新規案件の投資やら先行投資の案件などがあれば、ある程度の貯蓄と先立つ資金が無いと企業は立ち行かなくなる。

■倒産は珍しいことではない

ネットで検索すると、会社の生存率のようなものを目にすることができる。一般に創業から10年続く会社は10%に満たない。水商売(特に飲食)はもっと厳しい生存率だろう。新規開店という祝花を見たのも束の間、居ぬきで別の店舗が入っていることも多々見かける。ゲーム会社では、つい先日、5月8日、株式会社イニス改め、株式会社スピカが東京地方裁判所にて破産手続き開始の決定を受けた。負債額は3億5千万円ほど。イニス自体は平成9年に創業しており、創業から18年も経過した老舗のゲーム開発会社だったと言ってもいいだろう。報道によると、昨今はゲーム内容の複雑化や画面の精細化などにより開発負担が膨大となるものの、利益率は低く抑えられ、経営不振に陥り、今年2月に事業譲渡して、同社は今回の措置となったとのこという。ただ、従前に組織自体が分割、分社化されているので実態としてのダメージは把握しにくい。

■開発費は膨大となるものの、利益率は低い

もう1社、ゲーム開発会社の倒産があったので、そちらもコメントしておきたい。『フォトカノ』、『レコラブ』、『初音ミク -Project DIVA-』などのマニア受けするコンテンツを輩出してきた株式会社ディンゴがそれにあたる。

ディンゴが入居していたビル。4フロアを使用していた。

帝国データバンク情報によると、家庭用ゲーム市場が縮小傾向のため、売り上げが徐々に落ち、取引先への支払いに支障をきたす事態に陥っていたとのこと。2017年3月21日付けで事業を停止して、現在は自己破産申請の準備に入ったとのことだ。こちらの負債額もイニス社同様に約3億4000万円。ディンゴに関しては社員の不祥事などもあったが、それはこの倒産劇とは別モノだろう。昨今の事情としては、開発していたタイトルが軒並みリリース延期しており、古株のディレクターも今回の倒産劇の前に退社してしまった。また、倒産前には受託した案件への対応が追い付かず外部へ再受託をしたという話もあったという。

■ゲームアプリ開発費は少なくても5億…多くて10億円以内

3~5年ほど前は数千万円の予算で、ある程度品質の高いアプリゲームが開発ができた。しかし、アプリの数が増えて、全体的な品質の底上げが促進されると、よりゲーム性の高いコンテンツ、ビジュアル的にクオリティの高いコンテンツ、さらに開発予算を早期にリクープするための射幸性を高めたコンテンツがたくさんローンチされた。その中からは、月間の売り上げが数十億円というものが輩出されたこともあり、それらがスタンダードなベンチマーク・アプリになるとともに、業界全体のゲームアプリ開発コストは右肩上がりに高騰した。

4月に入って、公開企業の決算報告会などがさかんに開催されるようになるとその傾向は実態として顕著に明らかになる。4月27日、グリーの子会社Wright Flyer Studiosの荒木社長は第3四半期の決算説明会における質疑応答で、ネイティブアプリの開発費について「下は5億円弱、上になると1ケタ億円台の後半になる」と回答。さらにはディー・エヌ・エー(DeNA)は、5月11日、2017年3月期の決算発表説明会を開催し、守安代表取締役社長がネイティブゲームアプリの開発費について「1タイトルあたりの開発費は増えている。単純平均しても5億は下らなくなってきた」という回答を行った。もちろんのこと、2社とも大手のパブリッシャーであるが、ある程度、大規模のコンテンツを開発しようと思えば、そのくらいの予算はやむなしという厳しい状況を語っている。

■開発受託の手残りはどのくらいなのか?

これらの2社は内部の開発者のみでゲーム開発を行っているかどうかは不明だが、仮に外部の開発受託会社に委託した場合の外部の会社の取り分は10-15%程度ではないだろうか。このパーセンテージはあくまでも個人的な感覚数値なので、受託各社によって異なると思うが、逆にそれくらいのマージンを載せないと収支が合わないのではないだろうか。また、開発途中で何度も企画修正や仕様の変更があれば、さらに手残りのマージンはさらに減る。聞いたところによると、某大手のパブリッシャーのリテイクは根底から覆るほどの金銭的なインパクトがあると言っていた関係者もいる。仮に5億円のプロジェクトであれば、開発受託の手数料として5000~7500万円くらいが手残りとなるのではないだろうか、この金額で半年から10カ月ほど、プロジェクトを稼働させるは厳しい数値かもしれない。

■普遍なる経営課題

そうなるといくつかの作品を並行して開発受託を受けて人件費などのコストを分散させることが次のフェイズとして出てくる。これによって開発リソースを分散させることもできるが、どこかの部分で支障が起こると連鎖的に他の作品の開発に悪影響が及ぶこともある。そして、リテイクや仕様変更もそれに追い打ちをかける。冒頭に挙げた資金繰りにもダイレクトに影響する。入金予定はあっても、今月支払う予定のカネが無いという黒字倒産も否定できない。

スマホ向けゲームは一発当れば月の売り上げが数十億円というケースも夢ではない。実際に大手のSNS系の企業がスマホコンテンツ1作品で会社が再生したことは皆さんが良くご存じのことと思う。人やメディアは成功や輝かしい側面ばかりを追い過ぎるきらいがある。実際の世の中はそんなに甘いことばかりではない。人、モノ、カネ、それらがうまく流動してこその会社経営、コンテンツ開発、そのどれかひとつでも欠けるとうまく回らない。ディンゴの顛末は夜逃げ同然で回収業者のようなトラックがビルに横付けされて、スタッフが社内の備品を運び出していたという。私が先日、確認のために訪問した際には、破産申立代理人から債権者への告知案内ビラがドアガラスには貼ってあった。


スマホ向けゲームコンテンツの開発予算が高騰し、かつての家庭用ゲーム開発費用と比較しても遜色のないレベルにまで到達している。それらをまとめる会社の代表取締役の責任は重くて広くて深い。ディンゴの経営陣、スタッフも最後まで支えてくれた顧客のために踏ん張ったことだろう。その苦労は見えないが大きなものだったに違いない。ディンゴの債権者への告知案内ビラは、しばらくすると剥がされ、ここは、リノベーションされて新しい会社が新しいチャレンジを始めることだろう。普遍なのことは、そのチャレンジに立ち向かうものはまた新しく現れるということだ。

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■著者紹介
著者:黒川文雄(くろかわふみお)
プロフィール: 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHN Japanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。アドバイザー・顧問。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。コンテンツとエンタテインメントを研究する黒川塾を主宰。『ANA747 FOREVER』『ATARI GAME OVER』(映像作品)『アルテイル』『円環のパンデミカ』他コンテンツプロデュース作多数。
《黒川文雄》

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