
皆さんは「アートディレクター」にどのようなイメージがありますか? アート全般のクオリティを磨く作画監督のような立場? それともアート制作のトップに立って主要キャラクターをデザインする仕事? 実は実際に絵を描くことよりも大切なことがあります。
2026年8月30日に東京・TOC有明で開催されたイベント「ゲームメーカーズスクランブル2026」では、「アートディレクター視点で解き明かす、新規プロジェクトの立ち上げ方」のタイトルでセッションを実施。
過去、プロジェクトの立ち上げに何度も関わったというNHN PlayArt株式会社アートディレクター・マネージャーの藤田大介氏が登壇し、これからアートディレクターを目指す人や、アートディレクターになったばかりの人へ向けて、入門編となる「アートディレクターとは?」について、オリジナルIPと他社IPの2つの事例をもとに解説してくれました。

◆アートディレクション/アートディレクターとは?

藤田氏によると、「アートディレクション」「アートディレクター」とは、そもそも“プロジェクトにおけるアート領域の責任者であり管理者”とのこと。ビジュアル作業を担当することももちろん間違いではありませんが、求められる資質はプロジェクトマネージャーのようなスキルです。
具体的には、プロジェクトのコアとなる要素を見極め、アートチームの個々の得意スキルを活かして配置し、ノイズがあればそぎ落とす。マネジメント能力がもっとも大切という意味においては、極論を言ってしまえばアートスキルがなくても成立します。ただしアートの分野に精通していた方が、提案したり、チームを導きやすくなったりするので、一般的にはアートチームから選出するのが自然です。
それでは実際にどのようにアートディレクションをしてきたのか? プロジェクトには自社オリジナルIPと他社のIPがあり、そのどちらに分類されるかで関わり方が大きく異なります。そこでまずは自社オリジナルIPを例にアートディレクションの実例を紹介しましょう。

◆オリジナルIPをディレクションする

藤田氏が立ち上げから参加した『#コンパス 戦闘摂理解析システム』とは、NHN PlayArtとドワンゴが共同開発した3対3の陣取りバトルゲームです。
2015年に開発がスタートして2016年にサービス開始。10年前の市場といえば、現在と異なりファンタジー世界が主流で、なおかつスマホへの負担軽減のために3頭身のキャラクターがおもだった時代です。
他作品に埋もれず、独自性を打ち出そうと考えた藤田氏は、そういったトレンドとは異なる路線を模索することにしました。その取っかかりとなったのが「トレンド以外の要素」という“除外の考え方”です。

自社オリジナルIPのようにフリーハンドで関われるタイトルは、自由にやれる範囲が広すぎて脱線しかねません。そこで「トレンド以外の要素」を探ることで基準点を設定し、あえて視野を狭めることで考えやすくしたわけです。
こうして「やらないこと」を設定したら、次は本格的なコンセプト作りです。
本企画はNHN PlayArtとドワンゴの共同開発タイトルですから、まずニコニコ動画の「やってみた文化」からインスピレーションを受ける形で、ゲーム単体で考えるのではなく、ニコニコというプラットフォームの文化も含めて設計する方針を決めました。
またディレクター視点で統一したくなるデザインラインをあえて統一せず、作家の個性を活かすという、作家性を重視したキャラクター作りで各デザインを進めました。
それではどうやって世界観を統一したのか? 答えはセルシェーディングです。つまり当時はそれほど浸透していなかったセルルックに注目し、バラバラだったキャラクターを質感で同じ世界観に統一したわけです。
ただし作家を完全に自由にさせていたかと言えばそうではなく、キャラクターが入り乱れるという構造上、シルエットだけで判別できるデザイン、テーマカラーを明確にして識別可能にすること、「セクシー」「イケメン」などワンフレーズで表現できる分かりやすいテーマ設定が最低限のルールとして徹底されました。それを踏まえて上がって来たものについては、なるべく活かす方向でディレクションすることとなります。

ディレクションのポイントは「シンプル・イズ・ベスト」。コンセプトが過不足なく盛り込まれているのを前提に、それ以外の要素を削ぎ落として、表現すべきものを浮き彫りにする。ポイントとなるのは、誰でも描けるようなシンプルさ、そしてサムネイルにした時にひと目でそのキャラクターだと分かるくらいの視認性です。
そのようにして、本作では作家の個性が強く打ち出されるキャラクターを多く生み出したのでした。


◆それでは他社IPはどうなのか?
続いて解説されたのは、サービス展開中のゲーム『DISSIDIA DUELLUM FINAL FANTASY』をもとにした他社IPの実例です。
『DISSIDIA DUELLUM FINAL FANTASY』は長い歴史を持つ『FINAL FANTASY』シリーズを扱うため、その蓄積を尊重しつつ、独自性の部分では、スクウェア・エニックスのキャラクターデザイナーである山下美樹氏のイラストをベースにすることで方針が決定しました。理由は、リアルCGもセルルックも類似表現が多く、埋没する可能性があったのに対し、作家の個性なら独自性が打ち出せると考えたからです。

その際、気を付けたのは視認性の部分でした。今回はキャラクター、モンスター、背景と情報量多くそのままではスマートフォンの小さな画面では視認性が悪くなってしまいます。そこで、キャラクターはイラストルック、背景モンスターはリアル寄りのルックで差別化し、それを環境光やポストプロセスで包み統合しました。

また長期展開するシリーズをリリースする際、どの程度オリジナルを踏襲するかも問題です。オリジナルを開発した当時はその時代において最新技術を投入していましたが、今となっては新たな技術が登場していたり、当時は技術不足などの理由で諦めた演出などもあったりしました。
そのような事情もあり、藤田氏は「クリエイティブとは継承の責任があるもの」と定義付けします。歴史のある作品は現代の技術に合わせたアップデートを目指すのが現在のクリエイターの責任であり、ただ当時を再現するのではなく、そうやってバトンを回すことで次のプロジェクトに価値を引き継ぐ。そうしないとバトンが途中で止まってしまうと訴えました。
しかしフリーハンドで担当者の自由にできるかと言えばそうでもなく、他社IPは最終的には版元に判断が委ねられます。
そこが他社IPの難しいところです。しかし譲れない点があればただ諦めるのではなく、妥協点や折衷案を提案しつつ調整することも大切だと語りました。

◆アートディレクションの注意ポイント
実例で紹介したディレクションの注意点ですが、気を付けるべき点はまだまだあります。まずスマートフォン向けゲームは、小さな画面が前提となっているため、どこまで明確にディテールが表示されるのか、その物理的な限界を知る必要があります。気合を入れて描き込んでも、ゴチャついていたり、デザインが潰れてしまったりしては意味がありません。

見やすさという点では、ゲームとして間違った情報をプレイヤーに伝えてはいけない為、RGBの扱いもコントロールしてます。
キャラ背景等の世界観と、UIエフェクト等プレイヤーの判断に関わる2グループに分けてRGBとHDRの表現域に注意し、上限と下限に制限を設けて視認性を上げる事も必要です。雰囲気で設定するのではなく、きちんと数字を基準にするべきでしょう。失敗するとゲームプレイを阻害する要因になります。

そのほかキャラクターの立ち位置も、意味を持たせることで意図を明確に伝えやすくなります。舞台には上手(かみて)と下手(しもて)があり、観客から見て右手が上手、左側が下手となります。目上の人物や主役が上手、そのほかが下手に立つのが一般的で、それを意識することで直感的な情報伝達が可能になるというわけです。


またひとつの演出にかける時間も、上限と下限をつけることでストレスを感じさせない進行にできます。とくに繰り返し目にするような演出は少しでも長いとプレイヤーのストレスになりますし、短すぎると物足りず、やはり感情移入を損ないます。

このようにアートディレクターは、多岐にわたって情報量や演出のコントロールをするポジションだと言えるのです。
最後に藤田氏は、プロジェクトのコンセプトに向き合い、それを理解して、コンセプトを貫くのがアートディレクターの仕事であると繰り返しました。その中で注意点として、知ったかぶりをしないこと、分からない時は分かる者に任せることで自分の成長にもつなげるのが大切だとしてセッションを終えました。






