2015年に設立され、10年間ホラーとテクノロジーを融合させた“ホラテク”で多くの人を恐怖の渦に陥れてきた株式会社闇。最近では人気ホラー作家の梨氏、テレビ東京の大森時生氏と協業した「行方不明展」や、雨穴氏とコラボした「変なプリ」などで知られています。
そんな闇は7月1日に、ゲーム事業への進出を発表。なぜ今ゲーム事業へ進出したのか?その狙いはなにか?Game*Sparkでは取材を実施しました。
プロデューサーはホロライブのホラーコンテンツを手掛けた人物
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、自己紹介をお願いします。
株式会社闇 藤田翼氏:よろしくお願いいたします。株式会社闇の藤田と申します。ゲーム事業ではプロデューサーとして、作品の創出の軸となるポジションを務めます。
――株式会社闇として、ゲーム事業への進出を決めた理由は何でしょうか?
藤田:弊社はこれまで制作会社として、様々なクライアント様とホラーのクリエイティブを受託ベースでやってきました。そこで培ってきたホラークリエイティブチームとしてのブランド力を活かし、今後は自社で作品を作っていくフェーズに入りました。ホラーというジャンルはゲームとの親和性が高く、ビジネスとしても確立されていると考え、まずはホラーゲームから挑戦することにしました。
実は私自身も以前の職場でホラーゲームの企画プロデュースを手掛けた経験があり、その時の面白さが原体験として残っています。闇でもそういった作品作りができればいいなと思ったのも理由の一つです。
――以前の職場というのは?
藤田:カバー株式会社で、ホロライブプロダクションの『hololive ERROR』という企画のプロデューサーを務めました。普段のタレントさんのファン層とは別のアプローチで作品を作り、非常に面白い仕事でした。
――ありがとうございます。現在、ホラーゲーム業界は大手からインディーまで成熟している印象がありますが、このタイミングで公募を始めた狙いや理由は何でしょうか?
藤田:公募のタイミングは、会社の方針という側面があります。個人の考えですが、ソーシャルゲームやAAAタイトルのような莫大な予算をかけたゲームは万人受けするように作られますが、そうではない個人のクリエイター達が作っているようなゲームは尖り切ったコンセプトが薄まっていない作品になり、より強い体験ができます。そういった作品が受け入れられている土壌は現在もあると思っています。
ゲーム自体にもトレンドや波があり、好調不調は時期によるとは思います。ただ、コンテンツとしては世界も含めるともっと広がり、ゲーム市場自体は成長していくと考えています。売り方を変えれば、まだまだ伸びしろがあるジャンルだと思っています。
先述したようにVTuber業界で働いていたこともあったので、その観点からも、配信業界が成長するということは、配信の為のコンテンツを求める人や、別のベクトルのクリエイターも増えるということです。特に感じたのはホラーゲームは配信との相性が良く、ネタにしやすい、拡散されやすいという強みがあるということです。そこが我々が得意なホラージャンルに特化したゲーム事業を始めるメリットだと考えていますね。
MBSグループならではの二次展開
――公募にあたって、公式サイトにはMBS(毎日放送)グループならではの支援があると記載されていますが、グループ全体で手厚く見ていくという感じでしょうか?
藤田:ゲーム事業に関しては闇独自の取り組みという側面が大きいのですが、弊社はMBS(毎日放送)グループなので、そのリソースも活用したメディアミックスがしやすい体制が整っています。ホラーゲームの作品は二次展開しにくいものが多いと思いますが、弊社はこれまでリアルイベントや映像など、様々な活動実績がありますので、それらを掛け合わせることで、ホラーゲームクリエイターの皆様にとってメリットになるのではないかと考えています。
――ゲームだけにとどまらず、様々な展開も視野に入れているということですね。
藤田:そうですね。ヒットしたものや、広げたいと思うような作品が生まれた時には、ゲーム以外のところでも展開を考えています。
――二次展開はお化け屋敷や映像コンテンツなどいろいろ考えられると思いますが、どのような方向性を求めているのでしょうか?持ち込む企画は二次展開を意識して作った方が良いのでしょうか?
藤田:リアルイベントやアニメ、ドラマ、映画など、様々な展開があると思うので、作品それぞれに合ったメディアミックスの仕方をクリエイターの方たちと一緒に話して決めていきたいと考えています。
企画に関しては、まずはヤバそうなコンセプト、自由な発想で作っていただいたものをベースに、実現していく段階で、ビジネス的な観点からキャラクターを入れた方が二次展開しやすいといった調整をさせていただく可能性はあります。まずは企画として面白いものというのが大前提です。
――ゲーム制作には時間がかかるイメージがありますが、何年後ぐらいまでに最初の作品を出したいというビジョンはありますか?
藤田:2、3年後までには数本の作品が並んでいるような状況を作れたらいいなと考えています。
――現在人気を得ているホラー作品は、パニックものやグロテスクなものよりも、身近なものに関連する恐怖やモキュメンタリーなどが多い印象です。今回の募集ではどのようなものを求めているのでしょうか?ゲームジャンルやホラージャンルとしての方向性はありますか?
藤田:ゲームのジャンルとしては縛りを設けておりません。様々な“怖い”を並べていく方が良いと思っているので、幅広く作品を作りたいと考えています。
ただ、大事にしたいポイントは、ゲームの中にクリエイターが表現したい闇や違和感、そしてプレイヤーに体験させたい恐怖がしっかり込められていることです。そういった作品であれば、ジャンルに縛られず、クリエイターと一緒に作っていければと思っています。
――私個人的には驚かすタイプのホラーがあまり得意ではないので、モキュメンタリーホラー的な新しい方向性のゲームも期待しています。
藤田:ジャンプスケアはジャンプスケアでひとつのジャンルとして成り立っていますし、モキュメンタリーホラーもトレンドですが、それ以外にも新しいホラーのトレンドを作れるような作品を生んでいきたいと思っています。ぜひ自由な発想で、クリエイターの方に応募いただきたいです。
今のゲーム業界のニーズは“個性や作家性の強さ”
――今のゲーム業界はどのように見られていますか?
藤田:個人的な考えですが、大規模な商業的作品や運営が必要なソーシャルゲームのようなものは、お客様側が食傷気味になっているのではないかと感じています。運営が必要なゲームはより多くのお金を払ったほうが楽しめるような傾向が強く、逆にインディーのゲームは買い切りでしっかり個性的な作品を楽しめるのがいい所で、根強い人気があるのではないでしょうか。
最近では、『8番出口』や『都市伝説解体センター』といった作品がヒットしていますが、これは消費者のニーズが変わってきている証拠だと思います。個性や作家性の強い、ニンテンドウ64や初代PS時代のような個性的な作品が求められているのではないでしょうか。
――最近感心したホラーゲームはありますか?
藤田:まだ未リリースですが『氷点下30度の絶望』という作品が気になっています。冷凍庫の中で女の子の先輩と死ぬまでの時間を過ごすという内容で、ビジュアルは可愛いのですが、中身は重くて苦しい話というギャップが面白いと思いました。

あとは、『SAEKO: Giantess Dating Sim』というゲームも気になっています。小さい主人公が巨大な少女にいろいろさせられてしまうというゲームで、フェチを感じられるような要素もありながら、ホラーゲームといえるような要素も取り入れられている点が面白いと思いました。
闇が出す作品としてはこういったものを受け入れられないということはなく、作品の中でどういう体験をさせたいのか、どういう表現コンセプトなのかが詰まった作品であれば大歓迎です。

――今回、事業を立ち上げる上で、アドバイザーとして著名なゲームクリエイターを起用することは考えていますか?
藤田:今のところ、アドバイザーやコンサルタントのような形での起用は考えていません。むしろ、ゲームクリエイターとしてゲームを作りたいと思っている方であれば、著名な方でも一緒にやれる可能性があるのなら、ぜひやりたいと考えています。
――株式会社闇は梨氏や雨穴氏といったクリエイターとも協業した経歴がありますが、今後、著名なクリエイターやIPとのコラボレーションはありえるでしょうか?
藤田:そうですね、ありえる話だと思っています。闇ももっと有名にならなければいけないという状況の中で、ホラーのクリエイターさんと作品を作って話題になるのも良いのですが、枠を超えて、今までホラーをやったことがなかった、むしろやりたいと思っていたという著名なクリエイターさんと一緒に面白い怖い作品を作るなんてのもいいなと思っています。
――最後に、応募を考えているクリエイターの方と、ゲーム事業進出に期待しているファンの方々に向けて、それぞれメッセージをお願いいたします。
藤田:クリエイターの皆様に対しては、最高に尖った闇深い作品、他の会社では絶対にできない企画を、ぜひ弊社と実現しませんか? 面白くて怖くてヤバい企画を、ぜひ一緒にやりましょう。
ファンの皆様には、質の高い、良い意味で寒気がする体験を提供できるような作品を作れたらと思っています。ゲーム業界としては挑戦者側なので、ぜひ応援していただけたらありがたいです。
株式会社闇のゲーム作品が見られるのはまだもう少し先になりそうですが、新たな風を吹き込む可能性を秘めています。「良い意味で寒気がする」、大きな魔力を秘めた次なる話題作が生まれそうで、いまから非常に期待が高まります!
ホラー好きの方は作品を楽しみに、今後の情報に注目してみてはいかがでしょうか。