NVIDIAの「DLSS」やAMDの「FSR」は、今やPCゲーマーにとってはお馴染みの技術となりました。
これらの設定をオンにするだけで、フレームレートが劇的に向上し、より快適なゲームプレイが実現します。しかし、これらの技術が具体的に何をしているのか、正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。 実は「DLSS」や「FSR」は単一の技術ではなく、複数の高度な技術を組み合わせた技術ブランドの総称です。そして、その中核をなすのが「超解像」「AIアンチエイリアシング」「フレーム生成」という、それぞれ全く異なる目的を持った技術なのです。
本稿では、コアゲーマーの皆様が自身の環境と目指す効果に合わせて最適な設定を選べるよう、これらの技術がそれぞれ何であり、どのような違いがあるのかを詳しく解説していきます。
超解像 (Super Resolution) - パフォーマンス向上の切り札
まず、最も基本的かつ広く利用されているのが「超解像」技術です。これは、多くの方が「DLSS」や「FSR」と聞いてイメージする機能でしょう。
目的: ゲームのパフォーマンス(フレームレート)を向上させること。
仕組み: 超解像の基本的な考え方は非常にシンプルです。まず、ゲーム画面を本来表示したい解像度(例:4K)よりも低い解像度(例:フルHD)で内部的に描画(レンダリング)します。これにより、グラフィックボード(GPU)にかかる負荷を大幅に軽減できます。 そして、その低解像度で描画された映像を、AIなどの高度なアルゴリズムを用いて目標の解像度(この例では4K)まで拡大(アップスケール)するのです。
単純に画像を引き伸ばすだけでは、ぼやけたり、ディテールが失われたりしてしまいます。しかし、「DLSS」や「FSR」の超解像技術は、過去のフレーム情報や、(事前に)AIが学習した膨大な高画質画像を参考にすることで、あたかも最初から高解像度で描画されたかのような、高品質な映像を復元、あるいは生成します。 結果として、ゲーマーは描画負荷を軽くして高いフレームレートを維持しつつ、高解像度のシャープな映像を楽しむことができるのです。
代表的な技術
NVIDIA DLSS Super Resolution (GeForce RTXシリーズが必要)
AMD FidelityFX Super Resolution (FSR) (多くのGPUで利用可能)
AIアンチエイリアシング (AI Anti-Aliasing) - 画質を極めるための選択肢
次に紹介するのは、超解像と非常によく似た基礎理論を持ちながら、その目的が全く異なる「AIアンチエイリアシング」です。
目的: 物体の輪郭に現れるギザギザ(通称「ジャギー」)を低減し、純粋な画質向上を追求すること。
仕組み: この技術は、超解像のように過去のフレーム情報や、(事前に)AIが学習した膨大な高画質画像を参考に画像の質を上げますが、超解像と違ってパフォーマンス向上のために解像度を落とすことはしません。ネイティブ解像度(表示したい解像度そのもの)で描画された映像に対して、ジャギーを滑らかにする処理のみを行います。基本的には、引き延ばし倍率1倍の超解像と捉えてもよいです。例えば「FSR」ではこれのみを利用するモードは「ネイティブアンチエイリアシング(英語のゲームではNative AAと記載されることも多い)」として実装されています。
では、それが通常のアンチエイリアシングにくらべ、どのような効果をもたらすのでしょうか? 現代のゲームで主流のアンチエイリアシング技術である「TAA (Temporal Anti-Aliasing)」は、時間的な(Temporal)情報を利用してジャギーを効果的に消しますが、副作用として映像全体に若干の「ぼやけ」や、動く物体の残像(ゴースティング)を生じさせることがあります。
一方、AIアンチエイリアシングは、AIの力を利用してジャギーの原因となる部分を正確に特定し、補完します。そのため、TAAのようなぼやけをほとんど発生させることなく、非常にクリアで安定した映像を得られるのが最大の特長です。通常の超解像と比べてパフォーマンスの向上の効果はありませんが、最高の画質でゲームを体験したいと考えるプレイヤーにとって、新たな選択肢となります。
代表的な技術
NVIDIA DLAA (Deep Learning Anti-Aliasing) (GeForce RTXシリーズが必要)
フレーム生成 (Frame Generation) - 究極の滑らかさを実現する革新的技術
最後は「フレーム生成」です。これは、超解像とは全く異なるアプローチでフレームレートを飛躍させる技術です。
目的: フレームレートを飛躍的に向上させ、究極的に滑らかな映像を実現すること。
仕組み: 通常のゲーム描画では、GPUが1フレームずつ順番に映像を生成していきます。しかし、フレーム生成技術は、GPUが生成した「現在のフレーム」と「一つ前のフレーム」の間に、AIが全く新しいフレームを予測して生成・挿入します。AIは、2つのフレーム間の映像の変化と、ゲームエンジンから受け取る「モーションベクトル(オブジェクトがどの方向にどれだけ動いたかという情報)」を解析することで、その中間に存在するはずのフレームを極めて正確に作り出します。
例えば、GPUが60fpsで描画しているところに2倍のフレーム生成を適用すれば、フレームとフレームの間にAIが生成したフレームが1つ挿入されることで、モニターには120fps相当の映像が映し出され、驚くほど滑らかな視覚体験が得られます。 ただし、この技術には注意点もあります。AIが生成するフレームは、あくまで過去のフレームを基にした「予測」であり、プレイヤーの最新の入力が反映されたものではありません。そのため、表示されるフレームレート(映像の滑らかさ)は劇的に向上しますが、操作に対する画面の応答(入力遅延、レイテンシ)はわずかに増加する可能性があります。NVIDIA ReflexやAMD Anti-Lag+といった低遅延技術との併用が推奨されるのはこのためです。
ここまでの内容で気づいた方もいるとは思いますが、以前から存在するTVモニタなどでも同じような理論のフレーム補完あるいはモーション補間(名称はメーカーごとに異なります)機能が搭載されているものがあります。ただし、それらに対しゲーム用途では大きなアドバンテージを持っています。
また、最新世代である「DLSS4」では間に挟むフレームを1つ(通常比2倍)ではなく2つ(通常比3倍)、3つ(通常比4倍)まで増やせるマルチフレーム生成が利用可能です。
代表的な技術
NVIDIA DLSS 4 Multi Frame Generation (GeForce RTX 50シリーズ以降が必要)
AMD FSR 3 Frame Generation (AMD Fluid Motion Frames) (多くのGPUで利用可能)
まとめ:それぞれの技術は独立したもの。目的に合わせて使い分けよう
ここまで見てきたように、「超解像」「AIアンチエイリアシング」「フレーム生成」は、本来はそれぞれが異なる目的を持つ、独立した技術です。
技術名 | 主な目的 | 解像度の変更 | フレームレートへの影響 |
---|---|---|---|
超解像 | パフォーマンス向上 | あり(低→高) | 向上 |
AIアンチエイリアシング | 画質向上(ジャギー低減) | なし(ネイティブ) | ほぼ変化なし |
フレーム生成 | フレームレートの大幅向上 | なし | 飛躍的に向上 |
しかしながらユーザーの手に届く際に使われる「DLSS」や「FSR」といった呼称は、これらの技術をまとめたブランド名であり、ゲームのグラフィック設定画面では、これらの機能を個別にオン・オフできることがほとんどです。また、機能を使えるかは、ゲーム側がFSRやDLSSに対応しているか、またFSRやDLSSの世代や、グラフィックボードによって大きく異なることにも注意が必要です。
FSRやDLSSの世代(名称の後ろにつく数字)が増えることで上記のものに加えて新たな機能が使えるようになったり、既存の機能でもより高速で、より美麗な結果が得られることが多くなります。前述のとおり、基本的にはゲーム側でどの世代の技術を使っているのか、というのも大きいためユーザー側で意識することは少ないでしょう。
「Lossless Scaling」やその他ゲームごとのModなどを使うことで、本来対応しないゲームでそれらの技術を使うことができるケースもありますが、特にオンラインマルチのあるタイトルの場合では利用規約などには留意してください。
ぜひ、次にお気に入りのゲームのオプションを開く際には、これらの設定を意識して調整してみてください。より快適なゲームが楽しめるかもしれません。
※UPDATE(2025/6/21 9:50):記事本文の内容を調整しました。コメント欄でのご指摘ありがとうございます。