「フェイクニュースに踊らされず、勝手な想像に留めない」ジャーナリストが見た生のウクライナ情勢―藤原亮司氏インタビュー 3ページ目 | GameBusiness.jp

「フェイクニュースに踊らされず、勝手な想像に留めない」ジャーナリストが見た生のウクライナ情勢―藤原亮司氏インタビュー

いちゲーマーにとっても対岸の火事とは言えない今回の侵攻について、3時間のロングインタビュー。

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「フェイクニュースに踊らされず、勝手な想像に留めない」ジャーナリストが見た生のウクライナ情勢―藤原亮司氏インタビュー
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ロシアのハイブリッド戦術はおおむね阻止された?


――サイバー戦争というか、いわゆるハイブリッド戦争としての側面ですね。

藤原:ロシアへのサイバー攻撃を行なっているという、二十代前半の若者にも取材をしました。元々はプログラミングや打ち込み系の音楽を作ったりしていたお兄ちゃんたちだったわけですけど、自分たちのコンピュータのスキルを活かして、侵攻が始まってからロシアの企業だとか、フェイクニュースを流すサイトをダウンさせていくというようなことをやって「これが自分たちが得意な技術を活かしてできる、ロシアへの抵抗だ」と。

彼らがターゲットにしているのは、ロシアに限らずアジアとかいろんな国にあるサーバーで、それを潰していくという。

――フェイクニュースの発出は別として、例えばウクライナの生活インフラや国家の機能を狙うようなサイバー攻撃は、予想に反して低調なようですね。それはなぜだと思われますか?

藤原:いや、ロシアはそれもやったんじゃないんでしょうか? 2月24日にウクライナに侵攻を始めるときに、ロシアはまず空爆をしてウクライナの対空攻撃能力を削ごうとしたわけですが、うまくいかなかったわけですし。

ウクライナ国内の軍事関連のシステムを、サイバー攻撃でどんどん潰そうとしたんだろうけど、ウクライナ側もそれに対抗したので、潰しきれなかったから対空兵器や基地が残ったんだと思うんですね。ハッカーたちに聞くところでは。

――ロシア側としては防空システムに関してサイバー攻撃の成果をかなり当て込んでいたけど、うまくいかなかった、という可能性があるわけですね。

藤原:ハッカーである彼らが言うには「ロシアとの戦争は物理的に兵器を使った2022年2月24日に始まったものじゃない」と。サイバー空間では、ロシアはウクライナに対して何年も前からずっと攻撃を仕掛けていて、その延長線上にあるのが今回の軍事侵攻だと。

だから、サイバー攻撃は今も続いているし、自分たちは今もそれに反撃を仕掛けているのだ、という話でした。

――物理的な戦争もドンバス地域では続いていましたし、それは別におかしな話ではないかもしれませんね。ちなみにサイバー戦争の近縁ジャンルとして、今回の戦争ではドローンの活用がかなり話題に上っていますが、現地でのドローンの運用について、何か見たり聞いたりしたことはありますか?

藤原:いや、見られなかったですね。例えばドローンの訓練なんかも取材したかったんですが、軍事機密ですからね。

キーウから35kmくらい東側の街ブルバリーで、ロシアの戦車隊がやられた映像が広く知られていますが、あれはドローンで撮っていますしね。偵察ドローンだけじゃなくて、攻撃ドローンも多用されています。ドローン自体は、シリアやイラクでも多用されていますし、例えばイスラエル軍はガザ攻撃に使っていますから。

取材できたものとできなかったもの

――生々しい話になりますが、実際の戦闘や、ウクライナ軍、ロシア軍の作戦行動は取材しましたか? それとウクライナ国内で実際にロシア軍の攻撃を受けた地域を見たかどうかについてですが。

藤原:今回ウクライナ軍は作戦行動にメディアを同行させるようなことはいっさいしませんでしたので、戦闘自体は見ていません。もちろん、ロシア軍の姿もです。

――ではウクライナ側に外国人義勇兵がいたかどうかについてはどうですか?

藤原:リヴィウにもキーウにも見かけました。彼らは正体を明かしませんがホテルに泊まっていたり、道を歩いていたりすると普通に会いますね。

――それはウクライナ軍の統率の下にいるという形でしょうか? あるいはPMC(民間軍事会社)や傭兵部隊として、彼らだけでまとまって戦闘に参加したりすることもある形なのでしょうか?

藤原:ウクライナ軍に入って、その指揮下で動く形だと思います。徴募事務所もあって、そこは軍によって管理されていますので、独自に動くことはできないはずです。

PMCは入っていないと思いますね。PMCが動くまでもなく、ウクライナには各国の軍事顧問や特殊部隊が入っていますから、PMCが動く余地はないと思います。

――少なくとも2014年以降は、武器の供与に伴って各国から軍事顧問が入っているはずですよね。

藤原:携行対戦車ミサイル「ジャベリン」にしても、携行対空ミサイル「スティンガー」にしても、教えないことには使えないですからね。NATOの正規軍は入っていなくても、軍事顧問はもともといっぱい入ってきていたわけです。

――軍事顧問はあくまで教官で、個人で集まってきて前線に出る外国人義勇兵とは別のはず、という認識で正しいでしょうか。

藤原:実際のところは分からないですが、もちろん軍事顧問は前線に出ない建て前であるはずです。例えばどこかの国の特殊部隊員が「ウクライナ軍との共同作戦」で前線に出て死亡すれば、NATOに加盟していない現時点では問題になります。個人として参加している外国人義勇兵は前線で戦っているでしょうが。

――なるほど、実際に戦闘に参加する外国人義勇兵はやはり、命令で来たわけではないフリーランスだと。ところで先ほど、ウクライナ軍はメディアをいっさい同行させなかったとのお話でしたが、戦闘自体を目にすることはありましたか?

藤原:いいえ、それはありませんでした。取材に対するウクライナ側の対応はかなりきっちりしていて、キーウ周辺でロシア軍が攻め入ったところも、戦闘が続いている間、メディアはいっさい入れませんでした。

戦闘が終わってウクライナ軍が取り返したタイミングで、ウクライナ軍に従って取材に行けるメディアは、初日がBBC、CNN、AP通信、二日目はアルジャジーラ、ロイターなどと決まっていて、三日目になるとスペインやオランダのテレビ局などヨーロッパのほかのメディアや、我々だとかも入っていっていいよ、という感じなんですよ。

だから、良い意味でも悪い意味でもすごく管理されていて、戦闘地域を自由に取材できた外国メディアはないはずです。戦闘場面の写真や映像はすべて、ウクライナ側から出たものですね。

――提供映像だ、ということですね。だからといって後ろ暗いところがあるというわけではないんでしょうけど。

藤原:軍が戦闘をしている地域にメディアを入れるのは治安上問題だし、部隊の作戦行動にも支障をきたしかねません。

仮に従軍できたとしても、相手は強大な装備を持つロシア軍なので危険すぎます。銃撃戦の現場には僕も何度も入ったことがありますが、それは危なくない……というか、「気を付けよう」があるんですよ。でも砲撃戦とか空爆とかは、もう避けようがない。そういうことをやっている現場には、やはり兵士以外の人間は連れて行けないですね。

――例えば中東の内戦などで生じた戦闘地域にメディアが入れてしまうのは、お互い何も管理していないから、ということなんでしょうか?

藤原:それもありますし、現地勢力が見せたい、つまり勝っている戦いだとか、そういう条件もあります。そうしたときは従軍できますけど、負けていたり、勢力が拮抗していたりする戦場は安全を確保しようがないので従軍はできないですね。

――そう考えると今回、ウクライナ側が安心して宣伝に使えるような戦闘は、そうそうなかろうという話ですね。

藤原:ロシア側の機甲部隊をジャベリンで攻撃したような映像は効果があったでしょうけど、あれもやはりウクライナ軍自身が撮ったものを資料映像として提供しています。

――同行取材を許可できるほど安全な場面ではないのだ、ということなのか。そりゃ「RPG-7」みたいな対戦車ロケット弾よりはいいでしょうけど、戦車からの弾が余裕で届く距離から使わざるを得ない点は変わらないわけで。

藤原:キーウ北部は森林が多かったりするので、地形を活かせばジャベリンも非常に有効に使えた、ということなんでしょうね。上からの軌道で攻撃できますし。

――ベラルーシからの一本道でロシア軍の車列が泥濘を避けていて……といった報道もありますけど、作戦的な側面と、実際のところウクライナ軍側が被った損害については、事態が一段落するまで詳しい情報は出てこないんでしょうね。それらについて、現地では何か情報を耳にしましたか?

藤原:いや、耳にしていないですね。ウクライナ軍の損害について公表されている数字があるとしても、正しいものかどうかは分からないですね。正確な数字は公表できない、というところだと思います。病院取材もしようと思ったんですが、規制がめちゃくちゃ厳しくて。プレスカードを取っただけでは駄目で、別途保健省からの許可証が必要なんですけど、これがまあ下りない。要は負傷兵とかを見せたくないんだと思います。

――それはほかの国でもだいたい同じような感じなんでしょうか?

藤原:いや、必ずしもそうではないと思うんですけど、こんなヨーロッパの、社会システムが高度に整った国での戦争というのはあまりないですからね。

負傷者の映像を、敵側に効果的に使われてしまう懸念がありますし。ロシアは情報戦を仕掛けてくるので、そのあたりはデリケートなんだと思いますね。

――なるほど、どうかするとウクライナ側が何かを隠している……という見方に繋がりかねないだけに、微妙な論点ではありますね。

いつも犠牲になるのは市井の人々だ
《Guevarista@Game*Spark》

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