「画面上の英文を読み取ってそのまま翻訳できます」―ゲーム向け汎用翻訳支援ツールPCOT作者ぬるっぽ氏インタビュー【有志日本語化の現場から】 | GameBusiness.jp

「画面上の英文を読み取ってそのまま翻訳できます」―ゲーム向け汎用翻訳支援ツールPCOT作者ぬるっぽ氏インタビュー【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は視点を変え、人間による翻訳ではなく機械翻訳の利便性を高めるアプローチに迫ります。

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翻訳支援ツールPCOT(サムネイル)
  • 翻訳支援ツールPCOT(サムネイル)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(基本機能)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(基本機能)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(基本機能)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(基本機能)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(固定翻訳)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(固定翻訳)
  • 翻訳支援ツールPCOT使用例(画像翻訳)

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は視点を変え、人間による翻訳ではなく機械翻訳の利便性を高めるアプローチに迫ります。


日本語化とは海外のゲームを日本語で遊べるようにすることです。その中でも、デベロッパーやパブリッシャーによる公式の日本語化ではない、ユーザーによる非公式な日本語化を有志日本語化(有志翻訳)と呼びます。一般的にボランティアで行われ、成果物は無償で配布されます。


連載第15回は、ゲーム画面の英語を読み取り自動的に翻訳するフリーソフト「PCOT」の作者ぬるっぽ氏に話を訊きました。


ヌルポインターストライク
(翻訳支援ツールPCOTの配布サイト)


PCOTの機能紹介 その1(基本機能)

PCOTの使い方は簡単。翻訳したいゲームを選択し、好きなタイミングで位置を指定するだけです。すると自動的に英文が読み取られ、日本語に翻訳されて表示されます。

とあるゲーム画面の一部。左上に表示されている英文を翻訳したい。

PCOTのショートカットキーを押し、マウスをドラッグして読み取り位置を指定する。

すると、PCOTに英文と翻訳結果が表示される。

DeepL翻訳と連携すれば、さらに翻訳精度が向上する。


翻訳支援ツールPCOTとは?



――PCOTを使えば画面に表示された英語をそのまま翻訳できるというのは本当ですか。


ぬるっぽ氏(以下、敬称略)本当です。PCOTはOCR(光学的文字認識)と呼ばれる技術を利用し、画面上の英文をそのまま機械的に読み取って翻訳することができます。


――画面上の文字を直接読み取るということは、どんなゲームでも使えるのですか。


ぬるっぽ基本的にはどんなゲームでも使用できます。ただし、フルスクリーンのゲームには非対応で、一部使用できないゲームもあります。見た目がフルスクリーンと変わらない全画面のボーダーレスウィンドウの場合は使用できます。また、読み取りが困難なフォントも存在します。


――翻訳はどのように行うのですか。PCOT自体に翻訳機能が内蔵されているのですか。


ぬるっぽPCOTはGoogle翻訳を利用して翻訳します。また、より翻訳精度の高いDeepL翻訳との連携も可能です。DeepL翻訳を利用するには、お使いのPCに無償の専用ソフトウェアをインストールする必要があります。


――PCOTは無償で使用できますが、英文の読み取りや翻訳まで無償なのはなぜですか。


ぬるっぽ英文を読み取るプログラムの部品や翻訳に用いるサービスに、無償で提供されているものだけを厳選しているためです。


――PCOTには非常に豊富な機能があるため、最初は使い方がわからない方もいるのではないでしょうか。


ぬるっぽ万人向けに開発したものではないので、説明が足りないのは痛感しています。幸い利用者が使い方を詳しく説明してくださったブログや動画がありますので、配布サイトの紹介リンクからご覧いただければある程度の使い方は分かると思います。


――PCOTの対応ゲームをまとめたWikiを開設したそうですが、初心者向けマニュアルを追加する予定はありますか。


ぬるっぽ考えてもみませんでした。さっそくWikiの管理人に相談したいと思います。


PCOT対応ゲームWiki

PCOTの機能紹介 その2(固定翻訳)

PCOTにはゲームの翻訳に特化した機能がいくつも用意されています。その一つが読み取り位置をあらかじめ記憶しておき、ショートカットキーを押すだけで即座に翻訳する機能。人物のセリフなど英文の表示位置が決まっている場合に便利です。

あらかじめ読み取り位置(画面右下)を記憶させておくと……。

英文が変わっても位置を再指定せず即座に翻訳できる。


翻訳支援ツールPCOT開発秘話


導入のしやすさがなによりも大事だと思っています


――改めてPCOTを開発したきっかけを教えてください。


ぬるっぽ以前、『Eschalon: Book I』というゲームが公式に無償化されたことを知りました。しかし、日本語版が存在しなかったため日本語化の情報を探していたところ、synctamさんのブログでゲームの翻訳に特化したツールの記事を見つけたのです。ところが、ハードディスクがクラッシュして開発プロジェクトが停止してしまったようで、それならば自分で作ろうと思い開発に至りました。


――有志翻訳による日本語化ではなく、機械翻訳の利便性を高めるアプローチを取ったのはなぜですか。


ぬるっぽ『Eschalon』シリーズは技術的にテキストを書き換えて日本語化することが難しいため、OCRと機械翻訳に頼らざるを得なかったのです。


――翻訳ツールではなく、翻訳支援ツールと銘打っているのはなぜですか。


ぬるっぽ翻訳ツールと銘打っても良かったのですが、機械翻訳の内容をそのまま信用できるかは微妙です。そのため、利用者がゲームを翻訳しながら遊ぶ支援をするツールという意味合いで翻訳支援ツールと銘打っています。


――PCOTを公開するまでの経緯を教えてください。


ぬるっぽ元々自分用に開発したツールなので公開の予定はありませんでした。身内の人間は英語のゲームに興味がなく、誰にも動作検証を頼めなかったのは辛かったですね。そのような事情から需要がないと思い込んでいて、公開するかどうか迷いました。synctamさんのブログに伊達直人というハンドル名でプログラムの場所をコメントするだけにしようと考えたこともあります。つまりタイガーマスクですね。結局、synctamさんに成果報告をしたかったので公開することにしました。


――なぜ無償で公開しているのですか。


ぬるっぽ無償で公開しているのは、販売するには作りが荒過ぎるのと、英語のゲームをプレイしたくてもできない方が私の他にもいるのではないかとの思いからです。


――完成度が高くなれば無償でなくなる可能性はありますか。


ぬるっぽ要望への対応や不具合修正をお約束できないので、販売する予定はありません。たとえ完成度が高かったとしても、趣味の範囲で公開している限りはフリーソフトという形態は変わりません。


――PCOTは無償で提供されている技術だけを採用していますが、無償提供に対するこだわりはありますか。


ぬるっぽこだわりはあります。PCOTは導入のしやすさを第一に考えていて、ダウンロードして実行するだけですぐに使用できます。しかし、有償のOCRや翻訳サービスを利用した場合、利用者の資金援助に頼るか、利用者側で有償のサービスに登録していただかなければなりません。いずれにせよ、利用までのステップが増えてしまいます。


――有償の技術を利用してさらに翻訳精度を高めることよりも導入のハードルを下げることを優先しているのですね。


ぬるっぽ利用者の間口を広げるためには、導入のしやすさがなによりも大事だと思っています。


――英語やプログラミングは昔から得意でしたか。


ぬるっぽ英語は昔からさっぱりです。むしろ、PCOTを開発してさらに読まなくなった気がします。昔は漫画家を目指していたので、プログラミングについてはだいぶ遅くに習得しました。


――プログラミングを学んだきっかけはなんですか。


ぬるっぽ漫画家になることに挫折した際、曲がりなりにも絵が描けるならプログラミングを覚えればゲームを作れるかもしれないと思ったのがきっかけです。


――面白いきっかけですね。それでゲームは作れましたか。


ぬるっぽ未経験でIT業界に入ったまでは良いのですが、業務システムに衝突判定などというものは存在せず、勝手が違って本格的なゲームはまだ制作できていません。



PCOTの機能紹介 その3(画像翻訳)

ゲームの翻訳に特化した機能はまだあります。英文が一瞬だけ表示されて消えてしまう場合はのんびり位置を指定できませんが、PCOTにはスクリーンショットを撮りためてあとからゆっくり翻訳する機能が備わっています。

一瞬で消えてしまうメッセージ(画面中央)を翻訳したい。

スクリーンショットを撮り、あとから位置を指定できる。拡大も可能。


――PCOTのようなツールを開発する上で一番必要な能力はなんだと思いますか。


ぬるっぽ自分の思い描いた動作が実現できるか、その後に続く処理と調和できるかをあらかじめ見極めるプログラミング能力でしょうか。加えて、最近のインターネットは有意義な情報がとても多いので、それを上手くすくい上げる検索能力も必要だと思います。


――PCOTを開発する上で苦労したことを教えてください。


ぬるっぽOCRも機械翻訳も無償で使えるものがなかなか見つからず苦労しました。OCRは無償で使えるものを見つけたのですが、翻訳についてはどうしても回数制限がついて回り、根本的な解決には至っていません。


――特に実現が難しかった機能はなんですか。


ぬるっぽ画像を読み込んで翻訳する機能の画像表示は自前で実装していますが、非常に難しかったです。画像を拡大して表示する際、そのまま拡大すると大量のメモリを消費するため、表示している部分のみを描画する処理を組み込んでいます。しかし、拡大後のマウスポインターの座標が取得できず、とても苦労しました。最終的にはアフィン変換という手法で解決しました。


――他にも利用者に見えないところで工夫していることはありますか。


ぬるっぽPCOTは設定を弄れば非常に多くのことができますが、使用するだけなら特に設定の必要なく使えるように工夫しています。また、英語のゲームではしばしば文章や単語を強調するために大文字を用いますが、機械翻訳はこのような表現が苦手です。そこで、元の翻訳結果のニュアンスを損なわないように大文字と小文字を内部で適宜変換しています。他にも、引用符があると翻訳精度が落ちる問題があるため、これも対策しています。


――開発にはどのようなツールを使用していますか。


ぬるっぽPCOTはVisual Studioで開発しており、無償のCommunityエディションを使用しています。他に使用しているツールはMicrosoft Excelくらいでしょうか。Excelは大まかな動作の流れを図に書いたり、計算式を組んだりと様々な方面で役立っています。


――開発に使用しているツールで一番高価なものはなんですか。


ぬるっぽ間違いなくExcelですね。



PCOTの機能紹介 その4(辞書登録・名詞登録)

ゲームには特別な名前や用語が登場することがあります。機械翻訳はこうした単語が苦手ですが、PCOTには利用者が作成した辞書にもとづき翻訳の前と後にそれぞれ単語や文字を置き換える機能があります。

ゲームに登場する特別な用語をあらかじめ辞書に登録しておくと……。

機械翻訳が苦手とする単語があっても正しく翻訳できる。


翻訳支援ツールPCOTが目指すもの


人手による翻訳はまだまだ需要があると思っています


――PCOTを公開して嬉しかったことを教えてください。


ぬるっぽ思った以上に反響があり、PCOTのお陰で人生が変わりそうというありがたいお言葉をいただきました。自分では想像だにしていなかったのですが、英語のゲームを買うだけ買って日本語化されるのを待っている方は結構いるようです。そうした方々が英語のゲームをプレイする助けになった意義は大きいと感じました。


――逆に困ったことはありますか。


ぬるっぽ困るのは、利用者の環境でユーザーインターフェイスの表示がずれたり、再現できないエラーが出た時の対処法ですね。たいていはPCOTがウイルスと誤検知されるのが原因ですが、ごく一部の環境で発生する問題はいまだに解決の目処が立っていません。個人で作成しているツールなので、その辺は仕方がないのかなと思っています。


――利用者から多く寄せられる要望を教えてください。


ぬるっぽ常時監視して欲しい、毎回ショートカットキーを押すのが面倒、翻訳結果をゲーム画面に直接表示して欲しいといった要望が多いです。しかし、無償で無制限に利用できる機械翻訳が存在しないことや、OCRの読み取り精度の問題など課題が多く、実現は難しいというのが正直な意見です。その他、フルスクリーンへの対応もありますが、難易度が高く実現には至っていません。


――フルスクリーンへの対応が難しい理由はなんですか。


ぬるっぽ現状のPCOTでも全画面のボーダーレスウィンドウには対応しているのですが、昔ながらのフルスクリーンは画面の描画領域に上書きして表示する必要があるため、非常に難易度が高いです。


――サポート対象外なので自己責任になりますが、マルチモニター環境でも動作しますね。


ぬるっぽプライマリーモニターにゲームを表示している場合は問題なく使用できると思います。サブモニターにゲームを置くとおかしなことになりそうですが、環境がないので試せていません。


――作者から利用者に伝えたいことはありますか。


ぬるっぽ当初の想像以上にたくさんの利用者に使用していただけて、とても感謝しています。頂いた要望をすべて実現するのは難しいですが、これからも温かく見守っていただけたら幸いです。



PCOTの機能紹介 その5(履歴登録)

PCOTが画面を読み取り、翻訳した結果は簡単に保存できます。プレイ中のメモ代わりに便利です。

気になるセリフや覚えておきたい情報も簡単にメモできる。


――PCOTを開発して見方が変わったことや新しく気づいたことはありますか。


ぬるっぽ利用者が作者の想定を上回る使用方法を模索してくれたことでしょうか。無償で動画を録画・配信できるOBS(Open Broadcaster Software)との連携や、ショートカットキーを音声で起動するといった応用です。有意義な要望を頂けた時にも新たな気づきを得られることが多いです。


――音声で操作するというアイデアは面白いですね。


ぬるっぽちなみに、PCOT自体にも翻訳結果を読み上げる機能があります。ただし、Windowsに元から入っている音声でしか読み上げられないので、同梱のテキストファイルに無償の音声合成ツール「棒読みちゃん」との連携方法を記載しています。


――人間による翻訳とPCOTのような翻訳ツールはどのような関係を築くのが理想だと思いますか。


ぬるっぽPCOTを必要としない世界が理想ですね。一口に翻訳支援ツールと言っても、翻訳者を支援するためのツールとゲームを直接翻訳するためのツールは似て非なるものだと思っています。ゆくゆくは翻訳者を支援するための翻訳支援ツールが主流になって欲しいです。


――興味深いです。以前のインタビューでは海外の有志翻訳者が有志翻訳を必要としない世界こそ理想だと語っていました。


ぬるっぽ機械翻訳の精度が上がったとはいえ、人手による翻訳に比べるとどうしても品質が下がってしまいます。ですから、人手による翻訳はまだまだ需要があると思っています。


――PCOTを翻訳に利用している有志翻訳者はいないのですか。


ぬるっぽ聞いたことがないので分かりませんが、翻訳者を支援するツールは過去の訳文や原文の類似度をデータベースで持つなど方向性が違います。PCOTは翻訳者が翻訳の支援に使用するのには向いていないのではないでしょうか。


――PCOTは第三者の部品やサービスを利用して動作します。そこから生じる制約や第三者の権利に対する配慮について教えてください。


ぬるっぽ第三者の権利への配慮として、利用した部品のライセンス表記を同梱のテキストファイルに記載しています。ライセンスはMITライセンスなど利用しやすいものを選んで組み込んでいます。制約で苦労しているのは翻訳が無制限に利用できないことです。そのため、無償で無制限に利用できる機械翻訳を常に模索しています。


いっそのこと、自社で翻訳エンジンを保有している企業に買収していただけたら、PCOTの寿命が伸びるという意味で私も含めて皆が幸せになれそうなのですが。


――買収の可能性まで考えているとは思いませんでした。


ぬるっぽPCOTは読み取り精度の向上や機械翻訳に適した文字の変換など、様々な面で努力してきました。しかし、根本的な寿命はGoogle翻訳やDeepL翻訳のご機嫌しだいであり、いつ終わってしまうか分かりません。利用者がPCOTを便利だと思えば思うほど、いつ無くなってしまうか気が気でないのではないでしょうか。その点、自社で翻訳エンジンを保有している企業に買収していただけたら、寿命が保証されるので利用者にとっても良いことなのではないかと思います。


――買収の目処は立っているのですか。


ぬるっぽまったく立っていません。現状では絵空事でしかありません。



PCOTの機能紹介 その6(画像加工)

PCOTには画像を加工する機能が内蔵されています。使いこなすには知識が必要ですが、標準では読み取れない文字が読み取れることもあります。

文字色と背景色の組み合わせが悪く、文章が読み取れない場合に役立つ。


――これから翻訳ツールの開発を志す方へアドバイスをお願いします。


ぬるっぽOCRの読み取り精度は無償のライブラリでも十分実用的なレベルですが、決して完璧ではありません。PCOTの取っている手法とは真逆のアドバイスになりますが、読み取り精度と翻訳精度を上げたいのであれば、有料のライブラリやAPIを使用するのも一つの手です。そして、ゲーム翻訳ツールはまだまだ未発達な分野だと思います。PCOTを踏み台にして、今後素晴らしいツールがどんどん出てくることを願っています。


――有志翻訳コミュニティやゲーム業界に伝えたいことはありますか。


ぬるっぽ有志翻訳コミュニティの皆様はとても熱意にあふれた方ばかりです。方向性は違いますが、私も熱意をもってPCOTを作り上げました。開発のモチベーションを保てたのも、そんな有志翻訳コミュニティの皆様の熱意と応援のお陰です。この場を借りてお礼申し上げます。


権利の関係上厳しいとは思いますが、ゲーム業界の皆様には有志翻訳の参入が容易になる制度作りを行っていただきたいです。また、おしゃれなフォントだけでなく、OCRで読み取りやすいシステムフォントや無地に近い背景が選べるオプションを用意していただけたら、ゲーム翻訳ツールの開発者としてとても助かります。


――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。

《FUN@Game*Spark》

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