有志翻訳者とローカライズ会社の本音トーク「頑張っている者が『有志』『商業』で分断されてしまうのは悲しい」【有志日本語化の現場から】 2ページ目 | GameBusiness.jp

有志翻訳者とローカライズ会社の本音トーク「頑張っている者が『有志』『商業』で分断されてしまうのは悲しい」【有志日本語化の現場から】

海外のPCゲームをプレイする際にお世話になる方も多い有志日本語化。今回は匿名座談会形式で、海外ゲームの有志日本語化に携わる方々と、海外ゲームを日本向けにローカライズしている会社の方に話を訊きました。

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有志日本語化の現場から(匿名座談会)
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有志日本語化と公式日本語化の関係


ただ働きさせられているだけではないのかという思いがあります
――有志日本語化と公式日本語化の関係について考えをお聞かせください。

B氏口火を切ってみることにしましょう。日本語化の媒体としては、やはり有志Modより公式の方が良いと思います。国内のメーカーが関わること以上に“公式”であることは大きいです。ユーザーに特別な操作を要求することがなく、なにより配布が安定しています。今では手に入らなくなった日本語化Modも多いですからね。逆に言えば、翻訳者が商業翻訳家である必要はそれほどありません。

A氏自分もメーカーが公式な翻訳場所を提供するのが良いと考えるようになりました。

B氏商業翻訳でも様々な事情で途中から品質が落ちることはありますし、ひどいときには翻訳者が数回変わったりする場合もあります。一方で、商業翻訳に多少なりとも関わっている身からすれば、配布は公式であっても翻訳自体は熱量のある方にやらせて欲しいと思います。

C氏公式が有志翻訳を吸収する時はコミュニティに何らかの貢献をしてもらいたいですね。無料で使えるからと言って企業がそれを使って儲ける一方、コミュニティを疲弊させてしまうのは正しくないと思います。

B氏このあたりは複雑ですね。開発元が有志翻訳を公式として取り入れたのち、それをコンソールで発売する場合は該当するのかとか。逆に、コンソールで発売するにあたり、国内パブリッシャーが行った翻訳の改善やブラッシュアップをPC版に反映するのは慈善事業でしかありません。しかし、そうしなければユーザーは不満を抱くでしょう。

A氏公式が有志翻訳を吸収するなら、プロジェクトの開始時に「翻訳した成果物を使用する権利はメーカーに譲渡する」と取り決めておかないと後で揉めます。

C氏有志翻訳はいったい誰のものかという議論があって、そこが問題を複雑にしていると思います。10人で翻訳している有志翻訳は、10人がそれぞれ権利を持つのか、それともリーダーが1人で持つのかという議論です。


B氏最近その問題が噴出したのが『Divinity: Original Sin 2』の有志翻訳ですね。

C氏どんなことがあったのでしょうか?

B氏同作では有志翻訳を公式訳として採用したのですが、その後にコンソールでの展開が明らかになり、有志翻訳を一部ブラッシュアップしたものが用いられました。結果として、当時の有志翻訳者の一部や外野が「そんなことは聞いていない。成果のただ乗りだ」と不満を示したのです。有志翻訳チームのリーダーは公式訳への採用について同意していました。

A氏付け加えるとすれば「有志翻訳の権利はメーカーに譲渡します」とルールに書いてありました。

D氏オリジナルに日本語訳がなく、有志翻訳の日本語訳がある場合、弊社なら開発元に彼らの翻訳を活かせないかと提案します。有志翻訳された日本語訳は本当に熱量が高いと思っています。ただ、その扱いは本当に難しいとも思っています。多くのユーザーに楽しく遊んでもらえるのが一番ですが、お金が絡むのでなかなか難しいですね。機会があれば翻訳をした方に、その熱量を他のタイトルでも活かしてみないかと声を掛けたいと思います。

B氏商業翻訳と有志翻訳は共に歩み寄っていけるのではないかとお考えなのですね。

D氏そうですね。その熱量が活かされないのはもったいないです。情熱は何かしらの形で報われるべきだと思います。

B氏有志翻訳と商業翻訳の両方を知る身としても同意します。頑張っている者が“有志だから”、“商業だから”だけで分断されてしまうのは悲しいことです。どちらの翻訳が優れているかがユーザーの論争の的になる場合もありますから。

A氏もし自分がメーカー側だとすると、有志翻訳は厄介な存在だと思います。

C氏有志翻訳と公式翻訳が互いに歩み寄るには、まだ準備が整っていないと思います。問題になるのは有志翻訳が不特定多数で行われる場合です。有志翻訳を最終的に誰かに譲渡するなら、始める前に協力者と何らかの契約を結んでおく必要があり、この準備を整えないと『Divinity: Original Sin 2』のような問題は必ず起きるでしょう。しかし、果たしてそれは有志翻訳と言えるのか。ただ働きさせられているだけではないのかという思いがあります。


日本語化を取り巻く法律と契約


法改正の議論の中でModの概念自体が枠外に置かれています
――日本語化を取り巻く法律と契約についての考えを教えてください。

A氏先ほど言おうとしたのは、有志翻訳はメーカーにとって邪魔なのではないかということです。メーカーから許可を得て有志翻訳を進めているケースは多いですが、メーカー側はいつ事情が変わるかわかりません。例えば、日本のパブリッシャーからコンソール版の日本語化の話が来れば、対応したくなることもあるでしょう。しかし、有志翻訳を許可していると、パブリッシャーとの契約に支障をきたすかもしれません。

B氏日本の著作権法を厳密に遵守するため、最近の有志翻訳は開発元の許可を得て活動する必要が出てきています。それがメーカーの活動に何らかの悪影響を与えないかという疑問ですね。ここはやはりメーカーの方の率直なご意見をうかがいたいと思います。

D氏ローカライズ会社としては、あまり気にしていません。しかし、開発元の中には気にするところもあります。一方、有志翻訳者がいることによって彼らのタイトルに触れる機会も多くなりますから、コミュニティを大事にしたいという気持ちはあると思います。

B氏有志翻訳があるから公式日本語版を販売しないという可能性は、ゼロではないわけですね。そこから日本向け公式販売が行われるかどうかは、ローカライズ会社の腕の見せどころでしょうか。

D氏そうです。いい励みになります。

C氏有志翻訳を取り入れることが決まった場合、ソフトの価格は下がるのでしょうか?

D氏翻訳コストを回収できるかどうかは、ローカライズにおいて常に頭を悩ませる問題です。有志翻訳を取り入れることができればコスト回収の敷居が下がり、開発元によってはそれでローカライズを決めるところもあるでしょう。翻訳のコストが浮いたことによって、価格が下がるかどうかは開発元との協議になります。大手でない場合、たいていの開発元は苦労しています。関わった人が報われるように、情熱と対価が折り合うところを見つけたいですね。


A氏最近の著作権法や不正競争防止法の改正は、企業を保護する方向に向かっているのが気になります。有志翻訳の手順やルールなどのテンプレートが作れると良いと感じています。

B氏根源的にModとはメーカーの意図しないデータ改造ですから、法改正の議論の中でModの概念自体が枠外に置かれています。ゲーム側にModのインターフェースが用意されていれば、メーカーに改造を許可する意思があると捉えられますから、状況は大きく変わるでしょう。このあたりのことは、次の著作権法改正の時に海外系メーカーの日本法人に頑張って欲しいところです。

D氏海外系メーカーの日本法人は基本的に販促がメインなので、なかなか難しいですね。ですが、日本で盛り上がっていることが海外に伝わり、本社が放置するのは惜しいと思ったら、何かしらの協力関係を結べると思います。

A氏せっかく日本語版が出ても、コンソール版だけでSteamにやって来ないケースが多くて悲しいです。

D氏権利関係の問題ですね。日本のパブリッシャーがコンソールで契約を結んでいるので、Steamへの反映がされない、あるいはできない。ユーザーからは不思議に見えますよね。

A氏翻訳したものの権利は日本のパブリッシャーが保有したままなのでしょうね。

D氏そういう契約になっていることがあります。Steamに反映した際の利益分配で、開発元と日本のパブリッシャーの折り合いがつかない場合があります。

B氏まことしやかに囁かれる、コンソール版の売り上げが落ちるからという話ではなく、もっと入り組んだ理由ですね。

D氏コンソール版の売り上げが落ちるからという理由はないと思います。海外ならまだしも、日本は棲み分けされていますから。


日本語化の現場からのメッセージ


――最後に、開発者や業界に伝えたいことを自由に述べてください。

A氏有志翻訳の側からすると、日本のパブリッシャーが日本語版を出すと決まれば、揉めたくないのでプロジェクトを閉じたくなります。できれば、インタビューの時に「有志翻訳にはない翻訳を目指します」などと言っていただけると、有志翻訳もやりやすくなります。Game*Sparkのようなメディアは、インタビューの際に有志翻訳の話題をメーカーにどんどんぶつけて欲しいと思います。

B氏皆がなるべく幸せになれる形で商業翻訳と有志翻訳が折り合いをつけて、仲良くやっていける流れになって欲しいと思います。それこそ有志翻訳者の中から意欲にあふれた人たちが、副業であっても、少しずつローカライズ会社とともに新たなプロジェクトに進んでいくといった流れです。ラブ・アンド・ピースです。

C氏ゲームの開発者には、文字コード、禁則処理、IME、日付、フォントに気を配っていただけると助かります。インド系の文字を出したいという開発者の意見も聞いたことがありますが、その前に日本語や中国語にきちんと対応していただきたいというのが本音です。業界にはコミュニティへの貢献をしていただけると助かります。コストを下げるためだけに有志翻訳を採用するのでは悲しいです。

D氏有志翻訳者の皆さんは、貴重な“人財”です。有志翻訳で腕をならしたら、こちらの門を叩いてくださいね!

――本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。
《FUN@Game*Spark》

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