これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係 3ページ目 | GameBusiness.jp

これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係

セガゲームスがリリースした『コトダマン』の勢いが止まりません。500万ダウンロードを突破した本作のプロモーション戦略を改めて分析するとと、現在のアプリマーケティングに必要なものがみえてきました。

市場 マーケティング
これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係
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あなたも私も“開発者”


事前登録者10万人から一気に500万ダウンロード達成に至るまでの原動力は一体何だったのでしょうか。TVCMもSNS広告もほとんど展開していなかったということは、ほぼ口コミ、つまりフォロワーの推奨によってここまで拡散されたと考えるべきでしょう。それを示すように、リリースの前日には事前登録者によって、次のようなユーモア溢れる推奨メッセージが一斉にツイートされています。

実は私が開発に関わっているコトダマンというゲームが明日配信されます。楽しいゲームに仕上がっていると思うので、皆さんぜひ遊んでみてください

「開発に関わっている」とありますが、プログラムを書いたりして実際に開発業務に携わったわけではもちろんありません。『コトダマン』では、Twitterでのコミュニケーションを「開発会議」(リリース後は「運営会議」)と見立て、事前登録者を含むフォロワー全員を「開発協力者」と呼んでいたことから、このような言い回しになったのでしょう。なお、このツイートについて『コトダマン』のマーケティング担当者へ取材を行ったところ、これは公式アカウントによる主導ではなく、ユーザーの間で自然発生したものだといいます。

さて、ここで新たな疑問が湧き上がってきます。本来、推奨行動はそう滅多には起きないとされていたはずです。では何故、『コトダマン』のフォロワーたちは自発的に推奨ツイートを生み出し、そして今も尚、様々な手段によって推奨し続けているのでしょうか。それも一人二人ではありません。業界で“大事件”を起こすほどの規模なのです。

推奨行動、特にゲームを誰かに薦めるという行為は、マーケティングや運営事業者への不信ゆえになかなか実行できなかったり、素直に受け止められないという問題があることは先ほど書いたとおりです。その原因となっているのがユーザー vs 運営というよくある二項対立なのですが、『コトダマン』のケースが画期的なのは、公式アカウントのフォロワーに開発協力者という新しいポジションを与えて運営サイドに迎え入れることで、「あなたも私も開発者」という包摂的な関係を結ぶことに成功している点です。これは単なる言い替えではなく、ゲーム内のクレジットにはリリース日までにフォロワーとなってくれた人全員の名前がきちんと表示されています。

開発協力者一覧(公式サイトより)https://kotodaman.sega.jp/staff/


また、キャラクターのネーミング案をフォロワーから募集するなど、リリースまでの間に様々な“共創”が行われてきました。そして、共創を通じて、『コトダマン』というゲームは単に提供されるもの(サービス)ではなく、共に了解された議題へと変貌していったのです。開発会議(現:運営会議)ではゲームの仕様が追加・改善されていく過程がTwitterで随時報告されています。Twitterは会議の場ですから当たり前といえばそうですが、やはり共創の醍醐味は「“あなた”がいてくれたから、このゲームはここまで進化できたのだ」というメッセージを互いに送り合うことにあるでしょう。共創が成立した時、“あなた”とはファンが運営を指す言葉でもあり、運営側がファンを指す言葉にもなります。『コトダマン』を語るとき、ファンと運営は完全に置換可能な同じ文脈にあり、これこそが互いに包摂された関係であることの証左なのです。

包摂と共創の「トライブ」


包摂された両者は、同じゲームを愛好することで共同性を形成し、互いに影響を与え合うようになります。このような感覚の共同性を本稿ではトライブ(tribe)と呼びたいと思います。トライブとは元々、一族という意味ですが、ファンコミュニティとは似て非なるものです。ファンコミュニティとは、事業者からファンへ与えられた、あるいは黙認された交流の場であり、そこでファンはほとんど好きなように振る舞うことができ、より内部へ、より深部へ綿密なリレーションを張り巡らせていきます。

これに対し、トライブは一族の一人としての役割を期待されると同時に、そのゲームをより良くしたい、より盛り上げたい、より楽しみたいといった気持ちから、外部へと領域(territory)を拡大しようとします。トライブにおける役割とは、上級者が初心者にアドバイスをしたり、ファンアートでみんなを盛り上げたり、オフラインイベントの様子をレポートしたりと様々ですが、トライブが存続、拡大していくために、その人ができる範囲での貢献が期待されます。もちろん、運営事業者もまたトライブの一員ですから、積極的に発言し、相応の役割を果たさなくてはなりません。しかし、それはユーザーへの奉仕ではなく、双方向の貢献なのです。

こうして見ると、『コトダマン』は(運営側が意図していなかったかもしれませんが)包摂と共創によってトライブの形成に成功した、初めてのスマートフォン向けゲームだったのではないでしょうか。

従来のファンコミュニティは内部でいくら熱狂を惹起させても、結局コップの中の嵐で終わってしまうことがしばしばでした。しかし、トライブでは一族の期待と未来を背負って外へと向かうため、従来のファン像とは比べものにならないほど能動的に推奨を行うのです。それは今も尚、熱心に『コトダマン』を布教しているファンの姿に丁度重なります。

中川大地氏の『現代ゲーム全史 文明の遊戯史観から』によれば、『パズル&ドラゴンズ』は「パッケージゲームに引けを取らない“ゲームらしさ”を持ちうることを誰の目にも明らかなかたちで示し」たゲームであると位置付けられています。そして、翌年には『モンスターストライク』がリリースされます。同作はマルチプレイによるLANパーティ的な楽しさをベースに、大規模なマーケティングによってファンに熱狂をもたらし、ゲームとマーケティングが一体となった手法を確立させました。これがスマートフォン向けゲームにおけるマーケティングのスタンダードとなりつつあったのです。

昨年末に開催されたイベント「賞金総額4億円 モンストBINGO」の様子


ところが今、『コトダマン』はマーケティングに地殻変動を起こそうとしています。ゲームも面白いし、ゲームを介して生まれるコミュニケーションも楽しい、という点では『モンスターストライク』とよく似ています。が、そのコミュニケーションはマーケターによって予め設計された熱狂ではなく、どう転ぶかわからないものを皆で一緒に創り出していく面白さがあります。その意味で、『コトダマン』はまさに、共に闘い、ことばを交わし合うRPGであり、これからの展開が楽しみでならないのです。

【著者プロフィール】
神谷美恵
PickUPs!所属のライター。1984年生まれ。
http://pickups.jp/
神谷 美恵

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