これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係 | GameBusiness.jp

これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係

セガゲームスがリリースした『コトダマン』の勢いが止まりません。500万ダウンロードを突破した本作のプロモーション戦略を改めて分析するとと、現在のアプリマーケティングに必要なものがみえてきました。

市場 マーケティング
これは大事件だ。ノンプロモーションで500万DL突破の『コトダマン』が示した、ファンと運営の新しい関係
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ゲーム業界で今、最も注目されている課題は「ファン作り」かもしれません。Twitterの公式アカウントの運営から話題のバーチャルYouTuberを起用した実況動画まで、ファンを増やし、盛り上げるためのあらゆるプロモーション施策が行われています。

ファン(fan)とはもともとfanatic(狂信者)の略語ですが、今になってなぜ、ファンがマーケティングの中心に据えられるようになったのでしょうか。これまでは、コンシューマー向けタイトルでも、スマートフォン向けのゲームアプリでも、新規ユーザーの獲得に主眼を置いたマーケティングが主流でした。そのタイトルをまだ知らない人、まだプレイしたことがない人に向けて情報を届けることがマーケティングの至上命題だったのです。

その風向きが変わったのはここ1~2年です。スマートフォン向けゲームも過当競争に陥り、ゲーム会社のマーケターたちが頭を抱えるところに一筋の光明として立ち現れたのがファンの存在でした。ファンは毎日心から楽しみにしてログインし続け、SNSでファンアートを制作したり、互いに攻略法をアドバイスしたりして、自発的にコミュニケーションを図り、繋がり合おうとします。また、ゲームの外ではグッズを買い求めたりして、消費意欲も旺盛です。これまでは蚊帳の外に置かれがちでしたが、実はファンこそがコミュニティを活性化させ、安定的な収益をもたらす存在だったのです。

ファンの推奨行動をいかに生み出すか


ファンと一般のユーザーで最も大きな違いとなるのが、推奨行動の有無です。普通のユーザーは主に自分が楽しむためにゲームをプレイしますが、ファンはそれだけでなく、周りの人やフォロワーに向けて、そのタイトルを推奨、つまりオススメしようとします。友達に直接薦めることもあれば、SNSでそのゲームの素晴らしさを熱く語って、関連情報をシェアすることもあるでしょう。レビューサイトで高い点数をつけることも推奨行動のひとつと言えます。推奨行動は必ずしも消費金額とは連動せず、コンテンツに対するファンの思いが様々な形となって表出するのです。


推奨行動の興味深い一例としては、インディーゲーム『Undertale』のケースが挙げられます。『Undertale』はトビー・フォックス(Toby Fox)氏が個人制作したレトロゲーム調のRPGで、2015年にSteamでリリースされました。同作はシナリオ、キャラクター、バトルシステムのいずれも非常に独創的でありながら、どこか懐かしさを感じさせるという実に秀逸な出来映えで、英語圏ではIGNなど大手ゲーム系ニュースメディアで絶賛が相次ぎ、優に20を超える賞を受賞しています。しかし、『Undertale』は英語表記だったため、当時日本ではほとんど知られていませんでした。そこで、有志のファンによって翻訳が行われ、日本語対応パッチが無償で配布されるようになったのです。翻訳は驚くべきクオリティであり、英語ならではのジョークや造語も丁寧に日本語化されていたおかげで日本のユーザーも『Undertale』独特の世界観を十分に楽しむことができました。作中には『MOTHER2』『真・女神転生』『東方Project』といった日本の名作ゲームへのオマージュがちりばめられており、それも相まって、日本でも瞬く間に大変な話題作となったのです。その後、正式な翻訳版がPlayStation4およびPlayStation Vita向けに配信され、2017年には「プレイステーションアワード2017」でインディーズ&デベロッパー賞を受賞し、日本のゲーム史にもその名を刻むこととなりました。

地味にも見えるこのインディーゲームが海を越えて波及したのは、やはりファンによる後押しがあったからこそです。彼ら自身はそれほど自覚的ではないかもしれませんが、翻訳パッチの開発は日本のゲームファンに対する強い推奨として機能していたと言えるでしょう。そして、これほどの影響力を、もし企業が実現しようとしたならば、莫大な広告投資が必要だったはずです。しかし、ファンはコンテンツへの純粋な奉仕活動として推奨に取り組み、従来のプロモーション施策では考えられないほどの宣伝効果を生み出しました。マーケターがファンに注目する理由は、実はここにあるのです。マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラー(Philip Kotler)も、著書「マーケティング4.0」で“マーケターの役割は、認知から最終的に推奨に至るまで、カスタマー・ジャーニーの間中、顧客の道案内をすることである”と言っており、今やゲーム業界のみならず、マーケティングとは、いかにファンの推奨行動を引き出すか、というアプローチにシフトしつつあります。

ゲームビジネスのカスタマー・ジャーニー


ゲームが好きな人にとって、ゲームのファンになることはちっとも難しいことではありません。気に入ったタイトルを見つければ自然にその作品のファンになっていくものであって、自分はファンになるべきかどうかをいちいち悩んだりすることはまずないでしょう。一方で、マーケターはファン作りのために血道を上げています。ですが、YouTubeの再生回数が伸びたとか、Twitterで何回リツイートされたとか、いわゆる“バズった”話はよく耳にするものの、ファンが増えたという成功例は管見の限りほとんど見当たりません。考えてみると、これは何とも妙な話です。このすれ違いは一体どうして生じてしまうのでしょうか。

私は仕事柄、ゲーム系企業のマーケターと関わることも多いのですが、彼らはとても真面目で、売り出したいゲームの特長を毎日一生懸命考えています。それは心打つストーリーと魅力的なキャラクターであったり、戦略性の高いバトルシステムだったりするのですが、何にせよ、「ゲームの面白さを知ってもらえれば、ファンになってもらえるはずだ」という一念で、TVCM、メディアミックス、YouTuber施策といったマス広告へ多くの予算を投下していくのです。しかし、これはちょっと意地悪な言い方かもしれませんが、知ってもらう、つまり認知を向上させれば、はたしてファンが増えるものなのでしょうか。

先程引用したコトラーの「マーケティング4.0」では、顧客がプロダクトやブランドを初めて知った瞬間からファンになるまでの一連の流れをカスタマー・ジャーニーと呼んでいて、その間にはいくつかのステップがあるとしています。そのステップとは、認知(Aware)、訴求(Appeal)、調査(Ask)、行動(Act)、推奨(Advocate)の5つで、まとめて「5A」とも言います。



この5Aを見てみると、認知から即座に推奨行動に至るわけではないのがわかります。さらに厄介なことに、カスタマー・ジャーニーは5Aを順番に降りていくとは限りません。そのステップに到達した人の割合(コンバージョン率)は産業それぞれの特性に大きく依存し、ゲーム業界のようにコモディティ化が進んで競合相手が多数存在している産業においては、コンバージョン率は下図のような金魚型を示します。



最初のステップである“認知”は、テレビや雑誌、ゲーム系のニュースサイトなどを中心に、多くの人へ一様に訴求するマス広告によって獲得されるものです。しかし、次のステップの“訴求”に進む人はかなり少なくなってしまいます。なぜなら、マス広告は特定の事実を伝えるのには効果的ですが、人の態度(好き嫌い、振る舞い)を変容(コンバージョン)させる力は思いのほか限定的だからです。マーケターの中には、マス・メディアによって拡散された情報こそが人々に直撃して態度変容を引き起こすという考え方(弾丸理論)を未だに信奉している人もいますが、そのプロダクトやブランドを「知ること」と「好きになること」は全く別次元の話だと考えるべきでしょう。この点をきちんと理解しないままマス広告を展開してしまうと、大抵「そのゲームを知ってはいるけど、どうでもいい」という状態に陥り、なかなか関心を持ってもらえません。このような難しさ故に、“訴求”段階でコンバージョンが大幅に下がってしまうと考えられます。

さて、3つ目のステップ“調査”では一転してコンバージョン率が拡大します。これは、そのゲームを“認知”した人が、ほとんど関心がない状態のまま“訴求”段階をスキップして、“調査”にスライドしてきたことを示しています。“調査”のステップでは文字通り、SNSでそのタイトルの評判を検索したり、アプリストアのレビューを見たりして、本当にプレイする価値のあるゲームかどうかが審査されるのです。この時、周りにそのゲームのファンがいれば、彼らの推奨行動によって好意的に評価されやすくなり、逆に、推奨が不足していると、多くの場合は厳しい審査で不合格を言い渡され、そこでカスタマー・ジャーニーが途絶してしまいます。この“調査”においてマーケターが留意すべきなのは、ユーザー同士のコミュニケーション、評価、あるいはユーザーによって生成しされたコンテンツが、より重要な判断材料とされる点です。つまり、運営事業者が直接関与しづらい情報やコンテンツこそが、カスタマー・ジャーニーの継続を左右するということになります。

『コトダマン』が起こした大事件
神谷 美恵

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