任天堂かくあるべし・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第30回 | GameBusiness.jp

任天堂かくあるべし・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第30回

1月30日、任天堂の経営方針発表会を受けて、ネット上には様々な分析記事やツィートやブログなどが氾濫しました。かくいう自分の今回のコラムもそのなかの一つです。あしからず。

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1月30日、任天堂の経営方針発表会を受けて、ネット上には様々な分析記事やツィートやブログなどが氾濫しました。かくいう自分の今回のコラムもそのなかの一つです。あしからず。

任天堂の岩田社長をはじめ経営陣は無能ではないでしょう。来るべき時は認識していたはずで、座して死を待つ、豪華客船の最後のような感覚は無いと思います。十分に次のステージの構想はされているはずで、そこにおいては安易に著名なキャラクターやゲームをスマホ化展開などという愚挙はないと思います。

残念なことは山内オーナーの逝去ですが、ネット時代やネットゲームを完全に否定していた御仁ですので、今期、岩田社長をはじめてとして、何らかの新しい施策(それがスマートフォンへの安易なIPの移植ゲームだとは申し上げません)への舵取りにとっては従前よりも自由に思考や実行ができるという点ではプラスに働くのではないかと思うのです。

その選択肢のなかでスマートフォンでの展開がポイントだ・・・という声がネット上にあるようですが、個人的にはそう思いません。そこに至るには任天堂の成り立ちや、今までの経営方針を大きく変えなければいけませんし、簡単にそのようなことができるとも思えません。そんな簡単にスマフォ・ビジネスだとか貴重なキャラクターやコンテンツを安売りするほど「落ちぶれちゃいねーよ」ということです。

任天堂の歴史は遊びの歴史です。創業は1889年。花札の商店としての創業。

その後、三代目の山内溥氏によって、プラスチック製のトランプの製造し、そのトランプにディズニーのキャラクターを権利許諾を取りヒットを納めます。その後、若き日の横井軍平氏(故人)が手掛けた「ウルトラハンド」や「ラブテスター」「光線銃」などを企画販売します。僕はその当時、小中学生だった時期と重なることもあり、任天堂のそれらの「玩具」は思い出深い商品となっています。

1980年代に入ると携帯ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」を企画製造し大ヒット、現在に至る家庭用ゲーム機とソフトの礎を築きました。この当時すでに山内オーナーは50代だったということですから、チャレンジに値する人生と、山内氏の「運を天に任せる」という哲学を象徴していると思います。そしてご存じのファミコン、スーパーファミコン、そしてゲームボーイで企業としての沸点を迎えることになりました。

しかし、盤石と思われた任天堂も過去には危機を迎えます。1995年に発売した「バーチャルボーイ」がそれです。今でこそコレクターズアイテムとなったそれですが、発売当時、期待は高かったものの、漆黒の世界に赤いLEDライト使用したそれは今のオクラス・リフトを彷彿とさせるマシンでした。

しかし、その「バーチャルボーイ」が完全に失策に終わり、リアル漆黒の時代が任天堂に襲い掛かります。その後、ゲームキューブを経て、2004年に発売したニンテンドーDSで息を吹きかえします。このように歴史のなかで俯瞰して見れば大きなうねりのなかで任天堂は成長してきました。

そこにおいてはハードとソフトの両輪があってこその任天等的ビジネスモデルがありました。セカンド・サードパーティからのソフトの受託製造というビジネスの構造があり、その部分に於いては絶対に損をしない仕組みがあります。

もちろん、コンシューマー向けのソフト製造が斜陽化している中で、任天堂がその部分の収益をアテにしているとは思えませんが、任天堂を支えるビジネスモデルのなかでは重要な位置を占めていると思います。パブリッシャーでありながらもデベロッパーでもあり、プロダクションでもあるという構造です。

ユーザーとのコミュニケーション機能、すれちがい通信などのSNS的な機能、多人数対戦など様々なトライをしてきましたが、それが後発のスマートフォンなどの機能やソーシャルゲーム的な機能のなかにうまくアレンジされて取り込まれてしまったことにより、任天堂の顧客層が大いに流入してしまったのが現状です。

またライフスタイルや面倒くささを忌避するユーザーからプラグアンドプレイ式のゲームスタイルが敬遠されたことも要因と言えるでしょう。

とは言え、某大手ハード+ソフトパブリッシャーのようにインディーズゲームを草刈り場とばかりにそのジャンルの取り込みに血道をあけるようなことは、任天堂は行わないと思います。

子供が月のお小遣いで買えるソフト、そして、それを1カ月や2カ月かけて十分に遊びつくすというビジネスモデル=「玩具」こそが、任天堂が標榜してきた展開です。それを簡単に捨て去るようなことはありえないでしょう。

キャッシュフローは潤沢で、このまま赤字が続いても数十年は倒産することはありえないといいます。

山内オーナー亡き後、岩田社長にとっては真価を問われ、なおかつ新しい道を切り拓くことになると思いますが、AppleやGoogleなどと一線を画したような独自のポータルやデバイスにとらわれない新しい発想のエンタメ・玩具的なビジネスを提示してほしいと思います。

■著者紹介
くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、ギャガにて映画・映像ビジネス、セガ、デジキューブ、コナミDE、にてゲームソフトビジネス、デックス、NHNjapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどエンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。

現在はインディーズゲーム制作中「モンケン」 電子書籍 「エンタメ創造記 ジャパニーズメイカーズの肖像 黒川塾総集編 壱」絶賛販売中

ツイッターアカウント ku6kawa230
ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』
ニコニコチャンネル 黒川塾ブロマガ」も更新中。
《黒川文雄》

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