変わった任天堂、一つになろうとするソニー、王道を行くマイクロソフト 三者三様のE3・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第31回 | GameBusiness.jp

変わった任天堂、一つになろうとするソニー、王道を行くマイクロソフト 三者三様のE3・・・平林久和「ゲームの未来を語る」第31回

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●コードカッターの時代
  • ●コードカッターの時代
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●コードカッターの時代

E3 2012はゲームの国際見本市の枠を越えて、メディア産業、メディアに接する人の生活の変化を象徴するイベントだった。

マイクロソフト、ソニー・コンピュータエンタテインメント、任天堂。家庭用ゲーム機メーカーが恒例のプレゼンテーションをした。共通項として挙げられるのは、インターネットを使って映像コンテンツが観られる点だ。ネットフリックス(Netflix)、フールー(hulu)、アマゾンビデオ(Amazon Instant Video)等が提供するテレビ番組や映画を、オン・デマンドで視聴できる。もはや驚きのないニュースのようだが、この姿は過去に描いた夢の絵図だ。

2000年代の用語で言えば、「通信と放送の融合」。1990年代の用語で言えば「マルチメディア」。1980年代の用語で言えば「ニューメディア」。昔は、絵に描いた餅だったものが、現実に食べられる餅になったのである。

Xbox360も、プレイステーション3も、Wii Uも、テレビの視聴スタイルを変えようとしている。

E3開幕前の5月、アメリカでは注目すべきイベントが行われていた。The Cable Show 2012、全米のケーブルテレビ事業者が集まるビジネスショーだ。アメリカでは全世帯の約6割に普及していたケーブルテレビだが、この数年「コードカッター」に悩まされてきた。コードカッター=線を切る人。ケーブルテレビの解約者が激増していることにから生まれた俗語だ。

アメリカで最大のシェアを持つケーブルテレビ会社は、コムキャスト(Comcast)社だ。日本語版のグーグルで検索するとアシスト機能によって「解約」の文字が出るほどである。

「コードカッター」を少しでも減らすため、同ショーでケーブルテレビ大手5社が、各社が展開する約5万か所のWi-Fiホットスポットを自由に使えるに提携したことを発表した(参考記事:The Wall Street Journal)。しかし、ケーブルテレビによる放送の根本的な手直しにはなっていない。むしろ、ライバルとも言える通信を頼りにした施策だ。

今年のE3の特徴として、アメリカでは伝統的なテレビの視聴スタイル、ケーブルテレビの存在感が霞んでいく。こんなことを実感した。「番組」は、インターネットで好きな時間に好きなものを選んで観る。番組視聴する時間を決めるという権力は、放送局から視聴者に移った。そんな時代の訪れが明確になったのだ。

●Wii Uについて

Wii Uのプレス発表、ならびに実際に遊べるゲームの展示が行われたが、熱気を感じなかった。昨年はデモンストレーション映像が流れ、画面つきコントローラの新しい用途がスクリーンに流れるたびに場内は歓声に沸いた。任天堂ブースには長蛇の列ができ、午前の遅い時刻に並んだのでは体験できないほどの人気ぶりを示していた。熱気を感じなかったのは、去年との情報の「差分」があまり多くなかったからだろう。

『ピクミン3』『Nintendo Land』は任天堂のゲームソフトらしく、触った瞬間に遊び続けたくなるソフトだ。『LEGO CITY: UNDERCOVER』もおもしろいシリーズ展開が期待できる。会場では『パノラマビュー』。モニターに映った映像の上を見たければWii U GamePadを上に、右を見たければ右に動かすと正面の画面では見えない景色が見られるデモンストレーションを行なっていた。ユニークな技術展示だった。

だけれども、はじめてニンテンドーDSを触ったとき、はじめてWiiリモコンを握ったとき、と比較してみる。これはゲームに革命をもたらすような製品だ。絶対に買わなくてはいけない。あの時のような強い衝動が湧いてこない。

Wii Uを次世代機と他のメディアは呼ぶが、私は現行WiiをHDテレビに対応させた上位機種のような印象を持っている。ハードウェアとソフトウェアを見るかぎりでは。

Wii Uの真の価値は、E3での出展よりも6月4日に岩田社長が行った「ニンテンドーダイレクト」でのプレゼンテーションのほうに強く出ている。大きく言ってしまえば、任天堂自らがはじめた、ビジネスモデルの大転換を宣言したにも等しい重大発表だった。

既報のことなので要点のみを述べると、(1)任天堂が独自のソーシャルネットワークを持つこと。(2)またそのネットワークはPC、スマートフォン等のマルチデバイスアクセスが可能であること。(3)任天堂ネットワークと呼ばれる、過去の任天堂マシンのゲームをすべてアーカイブ化する構想が述べられたこと。

この3点セットに、今のゲームユーザーが求めているものがある。
つまり、WiiがWii Uというハードウェアに変わったことよりも、任天堂が変わったことに価値があると言いたいのだ。

●Zbox!

今回のE3開催以前から、世界のゲーム産業におけるXboxの株はじわじわと上がり続けていた、との感想を持っている。

ハードウェアの販売台数だけではない。今後の展望がしっかりと見えているからだ。Xboxの開発段階のコードネームは、DirectX based Console Machineと呼ばれていた。つまり、Windows PCで開発でき、将来はPCでも遊べることが念頭に置かれていた。また、ビル・ゲイツは1994年にラスベガスで開催されたコムテックス(COMDEX)で、インターネットに接続されたオン・デマンド型のテレビの登場を予見しており、セット・トップ・ボックスの必要性を基調講演で訴えていた。

すなわち、Xboxは生まれながらにして、ソフトウェアはPC上で稼働し、ハードウェアはテレビの外部接続端子につなぐのではなく、テレビそのものを制御する装置という設計思想を持っていたのだ。

今回のE3で発表された音楽配信、映画配信、ESPNの番組の拡充、Bingと連動した動画の音声検索、現行Xbox360ソフトのPC、スマートフォンへの対応は、あらかじめ決められた路線を走っているようで、特に驚きはない。驚きがないと同時に、ブレのなさを感じた。任天堂は変わったのが強み、マイクロソフトは変わらないのが強みという対比的な見方もできる。次世代のXboxは「何をすればいいのかが明らか」という点では、他プラットフォームよりも優位な地位にあるというのが個人的な見解だ。

ビル・ゲイツが来日した際に、複数名を囲んでディナーをともにしたことがある。同席していた、ある大手サードパーティの社長が尋ねた。「マイクロソフトはどこまで本気にゲーム事業をするつもりなのか?」と。ゲイツ氏はやや顔をこわばらせたあと、気を取り直してからこういった。「Xboxはロングタームで考え、本気で取り組む事業です。たとえXboxが負けたとしてもZboxで勝利するでしょう。XYZ、Zは第三世代の意味です。MS-DOSも、Windows(3.1)も改良を重ねて第三世代で開花しました」。次世代のXboxはまさにこの会話に登場したZboxにあたる。

●One SONYへの道

大きなトピックスがなかったプレイステーション。今年は体制準備の年で、来年のE3で次世代のプレイステーション4を発表するのではないだろうか。Xboxの次世代機がメディアボックスとなるならば、メディアステーションの性格を帯びて市場で激突するだろう。

SONYには、ゲーム、映画、音楽のコンテンツが豊富にある。モバイル事業も、ネットワーク事業もある。音と映像にかかわるありとあらゆるデバイスもある。これらを生み出す人材もいる。しかし、ハワード・ストリンガー前社長が「サイロ」と呼んだように、これらがそれぞれ壁を立て、グループ内で連携できないのが重要な企業課題である。平井新社長は、垣根を払ってひとつのソニー、One SONYにすると指針を打ち出している。

私は岩田社長が示した任天堂の変革路線を強く支持するが、ある意味でハードルを乗り越えるのは簡単だ。任天堂はもとからOne Nintendoだからだ。任天堂ピクチャーズや、任天堂ネットワークエンタテインメントや、任天堂ミュージックエンタテインメントや、任天堂マーケティング・オブ・ジャパンという企業はない。つくっているハードウェア製品も、ニンテンドー3DS、Wiiと指で数えられる範囲内である。

SONYは持っているがゆえの悩みを抱えている。だが、One SONYが実現したならば圧倒的な強みを示す。次世代のプレイステーションが勝つためには‥‥もう少し洗練させた言い方をすると、社会に存在する意味を持つためには、ハードウェアの性能よりも何よりもOne SONYの達成が重要だろう。

つまりプレイステーションの将来は、製品やサービスの形はマイクロソフトと似ていて、企業改革のひな形は任天堂にある。そんな見方をしながらE3エキスポ2日目を迎えている。 

私ごとになるが、今回の出張でちょっとしたトラブルがあった。
飛行機内で読書するために、SONY Readerを持参した。E3開幕前夜、読みかけの小説を読んでいたら眠ってしまった。愛用しているSONY Readerは枕の下にもぐり込んでいた。

取材を終えてホテルに戻るとSONY Readerがなくなっていた。ハウスキーパーが枕元に置いたチップとともに、持ち帰ってしまったのだ。私はフロントに行き、盗品のレポートを書くことになった。翌日、ハウスキーパーはチップと勘違いしたと謝りながら、私の持ち物を返しに来てくれた。ボスから怒られたのか、あまりにも落ち込んでいる彼女に、SONY Readerのページめくりをしながら、「これはいい製品だ」と声をかけて目にやさしい電子ペーパーの画面を見せた。

ロスアンゼルス在住のメキシカンと思われる彼女は、「SONY is great!」と何度も言っていたのが、この原稿を書いている約7時間まえのできごと。世界のSONYのブランド力は強いのだ、という余韻が残っている。

■著者紹介
平林久和(ひらばやし・ひさかず)
株式会社インターラクト(代表取締役/ゲームアナリスト)
1962年・神奈川県生まれ。青山学院大学卒。85年・出版社(現・宝島社)入社後、ゲーム専門誌の創刊編集者となる。91年に独立、現在にいたる。著書・共著に『ゲームの大學』『ゲーム業界就職読本』『ゲームの時事問題』など。現在、本連載と連動して「ゲームの未来」について分析・予測する本を執筆中。詳しくは公式サイト、公式ブログもご参照ください。Twitterアカウントは@HisakazuH、Facebookアカウントはhttp://www.facebook.com/hisakazu.hirabayashiです。
《平林久和》

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