OpenAIのサム・アルトマンCEOは、米決済大手Stripeの共同創業者ジョン・コリソン氏のポッドキャスト番組に出演した際に「個人のPCに大量のDRAMを保有させることには問題がある」と指摘しました。この発言は、話題がローカルAIの普及によって、データセンターへの依存が低下するのではないかという話になったときに出てきたものです。
アルトマン氏は「多くの人たちがローカル推論を活用することを求めている」とし、「そうなればDRAMの供給不足の問題は解決されると思い込んでいるからだ」と続けました。
オープンソースLLMの性能が向上すれば、ユーザーは自分のPCにAIモデルをダウンロードし、ローカル環境でAIによる推論タスクをこなすことが可能になります。ローカルLLM環境の構築が注目を浴び始めた当初には、その実行環境として大容量・高速なユニファイドメモリーを搭載し、なおかつ低騒音なPCとして、Mac Studioの人気が急上昇しました。その結果、アップルからの供給が追いつかない事態も発生しました。

ところが、アルトマン氏は、ローカルAIを活用するという考え方には資源配分上の問題があると指摘しています。
同氏いわく「世界全体の資源配分という観点から見ると、実はこれはかなり問題がある」とのことです。その理由は「世界中の人々が、供給量の限られたDRAMをそれぞれのPCの中に大量に抱え込んでしまい、さらにそのメモリーが時間全体ではわずか5%しか使われない状態になるからだ」と述べています。
アルトマン氏はさらに、供給が制約されている環境では、クラウド上でDRAMを最大限に活用するほうが効率的だと主張しています。つまり、個人がそれぞれの環境でメモリーを保有し、必要なときだけ電源を入れるよりも、それをすべてデータセンターに集め、24時間ノンストップで稼働させ、多くのユーザーで共有するほうが、世界全体としては限られたメモリー資源の有効活用になるとの主張です。
AIモデルの推論では、モデルの重みだけでなく、処理中のデータやキャッシュ(key-value cache)などにも大量のメモリーが必要になります。特に、大規模モデルや複数のエージェントを並列で動かす場合ほど、メモリー容量と帯域幅が重要になります。
一方、一般的な家庭用PCでは、搭載されているDRAMのすべてが常時使用されるわけではありません。
アルトマン氏の指摘は、こうした利用率の低いメモリーが世界中の個人端末に分散している状況と、データセンターに集約されたメモリーを高い稼働率で利用する状況を比較するという視点からの見解と言えるでしょう。
ただ、この考え方はローカルAIの普及を支持する人々の主張とは対照的なものとも言えます。ローカルAIには、プライバシーを確保しやすいことや、通信遅延を抑えられること、インターネット接続がなくても動作すること、クラウド事業者への依存を避けられることといった利点もあります。
また、個人用PCはすべてがAIのために使われているわけではありません。むしろ、個人用PCをローカルLLMのために使っている人のほうが、いまはまだ少数派と考えられます。
人々が個人用PCでやっていることをすべて、いずれはAIがこなすようになると考える人もいるかもしれませんが、少なくとも現時点では、一般的なPCの利用に必要なメモリーまで、単純に無駄とみなすことはできません。
アルトマン氏の発言は、ローカルAIそのものの否定というよりも、世界全体のAIリソースをひとつの大きな資源と捉えた場合、そこから最大限の性能を引き出すには社会全体でどのように資源配分するのが合理的かという、メタ的(俯瞰的)な視点からの発言と捉えるのが良さそうです。
また、OpenAIはオープンソースのAIモデルも提供してはいるものの、その事業の柱はデータセンターで稼働するクローズドソースモデルとなっています。収益拡大を考えるなら、ローカルAIを普及させてサブスクリプションを減らすよりも、データセンターの建設を続けていくビジネスモデルを擁護したいのは当然かもしれません。
アルトマン氏は、RAM供給と同じような視点から、データセンターの建設、独自チップの開発、ロボットによる製造設備の自動化などについても言及しており、AI需要が増加し続けるのなら、ただGPUやDRAMを増産するだけでなく、エネルギー、半導体製造、データセンター建設を含めたサプライチェーン全体を拡張する必要があるという考えを示しています。
とはいえ、個人レベルの視点からでも、今後のAIの進歩が、これまで個人が所有していたコンピューター資源をクラウドに集約する方向に進むのか、それともローカルAIへの支持が高まり、分散型の推論環境が拡大していくのかは、今後のAIインフラを考えるうえで重要なポイントかもしれません。
ちなみに、今回の番組はYouTubeで公開されており、アルトマン氏はRAM供給の話題の他にも、PHPの脆弱性や、トレーニング中のモデルのサンドボックス化、さらにここ最近のOpenAIのモデルによる数学研究分野での成果について語っています。











