
『ZERO ESCAPE(極限脱出)』シリーズや『AI:ソムニウム ファイル』シリーズなど、数々のアドベンチャーゲームを生み出してきたゲームクリエイター・打越鋼太郎氏。2026年10月15日、自身の新会社「CRASH KEYS」を発表しましたが、その背景には、進行していたプロジェクトの突然の中止という苦境がありました。
会社自体は2025年3月に設立されており、本来は2027年に新作とあわせてお披露目する予定だったといいます。しかし、開発中止によって計画は一変。打越氏は当時を振り返り、「3日3晩寝込んだ」と語るほどの苦しい状況に置かれていたことを明かしました。
なぜ、トゥーキョーゲームスに在籍しながら自身の会社を立ち上げたのか。そして、困難に直面した今、どのようなゲームを生み出そうとしているのか。今回Game*Sparkでは打越氏にインタビューを実施。新会社設立の真意や小高和剛氏らとの関係、生成AIがもたらすゲーム制作の変化、そして今後の展望について、率直に語っていただきました。

CRASH KEYS設立の背景と、プロジェクト中止の苦悩
――まずは自己紹介と、現在の立場や役職について教えてください。
打越鋼太郎氏(以下、打越):CRASH KEYSの打越です。CRASH KEYSでは、ゲームの企画、ディレクション、シナリオ、ライティングを手がけており、僕自身もこうした仕事に30年近く携わってきました。
――CRASH KEYSは2025年3月に設立されたとのことですが、そのタイミングで会社を立ち上げたきっかけや背景を教えてください。
打越:僕は『ダンガンロンパ』シリーズなどを手がけた小高(和剛氏)の会社、トゥーキョーゲームスに在籍しており、今も立場は変わっていません。トゥーキョーゲームスは本当に良い会社で居心地も良いのですが、どうしても小高の会社という印象が強いんですよね。当然小高自身は「みんなの会社」だと言ってくれますが、外部から仕事の依頼をいただくときは、小高と仕事をしたいという方が中心です。僕と仕事をしたいと思ってくださる方にとっては、トゥーキョーゲームスという看板では依頼につながりにくい面があり、自分で仕事をマネジメントしていくために、会社を持ちたい思いました。
もう一つは、トゥーキョーゲームスには本当に天才ばかりなんです。小高を筆頭に、小松崎(類氏)や高田(雅史氏)がいて、特に小高はディレクションやシナリオ執筆など、僕と同じ領域の仕事をしています。身近に大天才がいると気持ちが落ち込んできて、年齢は彼のほうが年下ですが、出来の良いお兄ちゃんがずっとそばにいる弟の感覚なんです。そういう環境に身を置いていると人生に疲れてきてしまって、周囲の天才たちのまぶしさで目がやられてしまったので、暗闇に逃げ込んだというイメージですね。設立に2025年3月という時期を選んだのは、翌月(2025年4月)に発売された『HUNDRED LINE -最終防衛学園-(以下、HUNDRED LINE)』の開発がすべて終わって一段落ついて、次のプロジェクトも始まりつつあったので、会社を立ち上げるにはちょうどいいタイミングだったと思います。
――本来は2027年に新作の発表と合わせて会社をお披露目する予定だったとポストされていました。プロジェクトが中止になったことを受け、予定を前倒しして会社を発表することにした経緯を教えてください。
打越:プレスリリースやX、弊社サイトのお知らせでもお伝えした通り、プロジェクトが中止になったことは事実で、数か月後に入ってくるはずだったお金がゼロになってしまいました。何らかの形で仕事を得なければいけないと考え、知り合いにも相談しつつ広く仕事を募集したり、資金提供について相談したりできるように状況をアナウンスしたかったんです。会社自体は設立してあったので、発表を前倒しすることである意味インパクトも生まれると考え、今回のタイミングで公表しました。
――中止になったプロジェクトについて、可能な範囲でどのような作品だったのか、また中止がチームに与えた影響について教えてください。
打越:中止になったプロジェクトの内容については、申し訳ないのですがお話しできません。中止がわかった当日、主要メンバーで飲みに行き、詳しい事情がわからなかったので、話を聞きながら何が起きたのか、どこに問題があったのかを話し合いました。僕も含め、最初は現実のこととして受け止めきれず、その場では落ち込むというより、互いに励まし合う雰囲気でした。
僕が直接知っているのはそのときの様子だけで、チーム全体がどのように受け止めたのかまではわかりません。ただあとから聞いた話では、みんなかなり落ち込んでいたようです。今回のプロジェクトが中止になったのは、僕自身の企画力不足も一因で、チームメンバーには非常に申し訳ない気持ちです。
――公式サイトには打越さんを含めて3名のメンバーが掲載されています。峰あきらさんとササキムリさんは、どのような経緯でCRASH KEYSに参加することになったのでしょうか。
打越:まず峰あきらについては、10年以上前からの知り合いで、飲み友達やライター仲間のような関係でした。『HUNDRED LINE』で一緒に仕事をしたこともあり、僕が会社を立ち上げたタイミングで声をかけました。設立当初は僕一人でしたが、後から峰あきらが合流した形です。ササキについては、同席しているので本人から説明してもらいましょう。
ササキムリ氏:私は『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』で脱出パートのプランニングを担当したことをきっかけに、打越さんとご一緒するようになりました。その後も『AI:ソムニウム ファイル』シリーズ全作品のソムニウムパートのプランニングに関わっています。前職でいろいろなことがあり、今後について考えていたタイミングで打越さんに相談したところ、CRASH KEYSに誘っていただき、参加することになりました。
――会社について深掘りさせてください。CRASH KEYSという社名は『極限脱出』シリーズを思わせますが、この名前を選んだ理由や、込めた意味を教えてください。
打越:理由は大きく3つあります。まずCRASH KEYSは、『極限脱出』シリーズに登場する倉式茜が設立した組織の名前です。僕としては『極限脱出』という日本語タイトルはダサいと思っていて、『ZERO ESCAPE』シリーズと呼んでほしいんですが(笑)。昔から作品に登場する架空の組織を自分の会社名にしたいと思っていたので、会社を立ち上げるタイミングで採用しました。
2つ目はキャッチコピーの「壊れた鍵でなければ開かない扉がある」にも通じる、常識を破るという意味で、3つ目はかつてネットミームになった「キーボードクラッシャー」のように、キーボードを壊す勢いで、シナリオを書きまくるという意味も込めています。

――キャッチコピーの「壊れた鍵でなければ開かない扉がある」に込めた思いやビジョンを、もう少し詳しく教えてください。
打越:正確には「壊れた鍵でなければ開かない錠がある」という意味です。ただ、日本語でそのまま表現すると日常語ではなく、少し違和感があるので、キャッチコピーでは「壊れた鍵でなければ開かない扉がある」としました。
言葉のとおり、常識的な方法では開かない扉や、解決できない問題は世の中にたくさんあります。ゲームや物語を作ることで、そうした問題に独自の方法で向き合い、新しい扉を開いていきたいという思いを込めています。
――発表を見て、打越さんがトゥーキョーゲームスを辞められたのかと思った人もいたかもしれません。実際にはトゥーキョーゲームスに在籍したまま新会社を立ち上げたということですが、小高さんたちとの関係や、両社のすみ分けについて教えてください。
打越:小高とは一緒にパジャマパーティーをしてタピオカドリンクを飲むくらい、今も仲がいいです。僕は現在もトゥーキョーゲームスに在籍しているので、今後も一緒に仕事をする可能性も十分にありますし、独立したからといって関係が切れるわけではありません。トゥーキョーゲームスに在籍しながらCRASH KEYSを立ち上げ、互いに協力し、双方にとってプラスになる形で仕事ができたらと考えています。
打越氏が見据える新たなゲーム作りと生成AIの可能性
――既存の枠組みにとらわれないアイデアやオリジナル作品を手がけていくとのことですが、現時点でイメージしている作品の方向性や、打越さんらしさをどのように活かしていきたいですか?
打越:自分の会社を立ち上げたからには、僕のオリジナリティを存分に出していきたいと思っています。一方で、今のゲーム業界は大きく変化していますし、特にAIの発達によってゲームの作り方も変わっていくでしょう。たとえば僕はこれまで主にアドベンチャーゲームを作ってきましたが、従来とは異なる作り方の作品も増えていくと思います。AIと会話しながら、AIが自ら考え、プレイヤーも言葉で働きかけて進めるアドベンチャーゲームが登場するかもしれません。そうなれば当然仕組みに合わせて、シナリオの作り方も変わっていきます。ゲームがどのような形に進化しても、トリックや複雑な構造といった僕の持ち味を活かしながら、新しいタイトルにも対応していきたいです。

――具体的にはどのようなタイトルに挑戦していきたいですか?
打越:一つは原点回帰と言いますか、これまで培ってきたものを捨てるのではなく、集大成として良い部分を選び取って高めていきたいですね。これまでの手法をブラッシュアップし、現代に合わせて発展させていきたい。一方で純粋なラブストーリーや、ギャルゲーや青春恋愛モノなど、まったく違うことにも挑戦したい気持ちはずっとあります。ある意味では原点回帰かもしれませんし、SFやトリックとは関係のない、人間ドラマのような作品も作ってみたいです。
――AIに関する話もされていましたが、ゲーム制作における生成AIの活用について、どのように考えていますか。
打越:ゲーム業界において、爆弾発言かもしれませんが、僕は生成AIに肯定的な立場です。Xのポストを読んで、僕をAI否定派だと誤解している方もいますが違います。むしろAIを使えていたら状況が変わっていたかもしれない、というのが僕の言いたかったことです。
今はゲーム業界全体でAIを一切使ってはいけないかのような空気がありますが、実際には使ってよい場面もありますし、活用している人も多数います。そのため使うか使わないかの二択で考えるのは、あまりに極端ではないかと思っています。たとえば、最初のデザインや物語の構想は人間が考え、その後実際の形にしていく工程の一部でAIを使うことは、僕は悪いことではないと思っています。オリジナリティを保ちながら、制作を効率化できますし、効率化によって制作期間が短くなれば、プレイヤーにとってもメリットがありますよね。
あるクリエイターの作品が5年に1本しか遊べないとして、半分の期間で出てきたらユーザーも嬉しいですよね。もちろんAIが勝手に作ったものではなく、クリエイターが思い描いた世界をきちんと再現できるなら……という前提はありますが、AIに対して反射的に拒絶するのではなく、もう少し議論したほうがいい、というのが僕の考えです。みんなで一緒に考えていきたいです。

CRASH KEYSの今後と、ファンへのメッセージ
――続いて資金面について、CRASH KEYSはどのようなパートナーを求めているのか、投資を検討している方に伝えたいことがあれば教えてください。
打越:我々から出資者を募るのは恐縮ですが、やはり打越作品が好きな方と一緒に仕事をしたいという気持ちが強いです。作品を好きだと言ってくださる方がいれば、打ち合わせやブラッシュアップを重ねながら、二人三脚で開発を進められますし、面白いゲームができると思います。資金面だけでなく、実際に一緒に作品を作っていけるパートナーが理想です。

――Xでも積極的に仕事を募集されていましたが、特に歓迎する案件やコラボはありますか。チームを維持するための仕事として、大型タイトル以外も考えていますか?
打越:ありがたいことに、様々方から仕事の依頼をいただいています。そうした仕事を進めながら、ゆくゆくはオリジナル作品を作りたいと考えています。今は耐え忍ぶ時期と言いますか、大きく羽ばたくための助走期間ですね。案件の内容を問わず、依頼してくださる方と考えを持ち寄り、互いに高め合いながら作品を作っていけたらと思っています。そうした相乗効果のある作品にできると思いますので、ぜひ気軽に相談していただきたいです。
――公式サイトには『ZERO ESCAPE』シリーズを思わせる文言や暗号文があり、公開直後か謎解き要素ではないかと考察するファンもいました。これは遊び心で入れたものなのでしょうか。それとも今後の活動につながる要素がありますか?
打越:サイトに書かれているプロジェクト中止の話や、仕事を募集していること自体は事実ですが、暗号については僕もよくわかりません。もしかしたら、誰かにハッキングされたのかもしれません。あるいはPHP騒動でハッキングされたのかな?(笑)

――CRASH KEYSの次のプロジェクトは、準備が整い次第、順次発表していくとのことですが、いつごろを想定していますか?
打越:来年の春ごろになると思います。場合によっては、もっと早くお披露目できるかもしれません。
――突然のCRASH KEYS設立と、プロジェクト中止の発表に驚いたファンも多いと思います。最後にそうした方々に向けて、メッセージや今後期待してほしいことをお願いします。
打越:正直、これまでの人生でも3本の指に入るほど厳しい状況でした。今回、CRASH KEYS設立を発表してから仕事の相談もいただいていますが、プロジェクト中止が決まったときは3日3晩寝込んで、何もする気が起きませんでしたし、世界が白黒になるほど落ち込みました。ただファンの皆さんから温かい応援の言葉をいただき、どうにか立ち直ることができました。本当に感謝しています。
次は、ひと皮むけた「打越鋼太郎」をお見せできたらと思っていますし、皆さんと共に新しい作品を作りたいという気持ちも強くあります。まだ確定ではありませんが、クラウドファンディングも検討しており、実現すればファンの皆さんと一緒にゲームを制作していく形になると思うので、期待していただけたら嬉しいです。
――ありがとうございました。








