俳優がコロナ禍の暇つぶしにiPadで絵を描いていたら、やがてアニメーションになった――。大門嵩さんは、アニメ業界での勤務経験も、人脈も、英語力もないまま2024年の「東京アニメピッチグランプリ」で受賞。東京都の支援を受けてアヌシー国際アニメーション映画祭併催の見本市「MIFA」に出展し、現在は米国の企業とシリーズアニメーションの制作を進めている。
東京都の「アニメーション海外進出ステップアッププログラム」は、海外市場を学ぶセミナーやピッチのワークショップ、実践の場となる東京アニメピッチグランプリ、入賞者へのMIFA出展支援までを一体で設計した支援プログラムだ。参加は無料で、企画段階の作品でも応募できる。
「門は広く開かれている」と語る大門さんに、未経験からピッチを突破した舞台裏と東京都の支援の内実、そして現地で得た手応えについて話を聞いた。

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コロナ禍の暇つぶしでアニメ制作を開始
――俳優である大門さんがアニメ作品を作るようになった経緯を教えてください。
大門:役者としてなかなか売れないので、他の役者仲間と一緒に自分たちのPR目的で実写の短編映画を作り始めたんです。映画祭に出品して選ばれれば、そこにはやる気に満ちた制作者たちがいるし、役者として顔も売れるだろうと思いました。それが2010年代の頃ですね。
アニメを作り始めたのは、コロナ禍がきっかけです。撮影現場が完全にストップしてしまってやることがなくなってしまったんですよ。
周りはみんな『どうぶつの森』をやっていたので、羨ましくて僕もやろうと思ったのに、どこも品切れ(笑)。それで代わりにiPadを買って暇つぶしに絵でも描こうかなと。描いているうちに「これを24枚描けば動くんだよな」と思い始めて、アニメを作ってみたのが始まりです。
――そうして制作した短編アニメ『いっしょにねたろか?』(2020年)が高評価だったわけですね。
大門:DigiCon6というTBSさんのコンペで賞をいただきました。それで、アニメーションもいけるかなと思い、今までやってきた実写と組み合わせて何か作ってみようと考えて『マンガガールズ』(2022年)を作りました。
――『マンガガールズ』は9分45秒の短編作品で、実写とアニメーション、さらにマンガの表現も融合させたユニークな作風ですね。
大門:小さい時からマンガも大好きだったので、マンガも取り入れてみようと思ってこうなりました。話のネタは僕が小さい時に、絵を描いていて仲良くなった友達がいたのですが、それを投影させた部分があります。
――東京アニメピッチグランプリに応募しようと思ったきっかけはなんだったのですか。
大門:DigiCon6の時にお会いした方から「こういう支援プログラムがあるよ」と教えてもらったのがきっかけです。『マンガガールズ』は短編として作りましたが、色々な映画祭で多くの人から「続きが気になる」と言っていただき、短編で終わらせるのはもったいないかもしれないと思い、応募にあたって、シリーズ化の企画としてまとめることにしました。

アニメ業界経験ゼロの俳優が東京ピッチグランプリ受賞へ
――東京アニメピッチグランプリに出場するためには、セミナーかワークショップを受講する必要があります。大門さんはそれらでどんな学びを得ましたか。
大門:僕はセミナーに参加しました。アニメ業界で働いた経験は全くなく、本当に何も知らない状態でしたから、知らない単語もたくさん出てくるし、最初、話の80%くらいは何を言っているのか理解できていなかったと思います。そんな状態で、予算表の作り方など具体的なことから、ピッチに臨む心構えなどすごく勉強になりました。もう、本当に全てのことが学びになっています。
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――ほとんどアニメ制作の経験ゼロで、業界のツテもない中、東京アニメピッチグランプリで受賞するのはすごいですよね。ピッチにはどういう姿勢で臨まれたのですか。
大門:ピッチはたくさん練習しました。経験がないぶん、他の参加者とは違う部分を強調しようと思って、実写やマンガ表現を取り入れていることを前面に出しました。あとは、とりあえず本番で噛まないように気を付けました。制限時間にも気を付けて、少し余裕を持たせた構成にしておきました。
――本番はどんな雰囲気なんですか?
大門:すごく緊張しますね。大御所がずらっと並んで品定めされるような目線で見られているわけですから。手汗が半端なかったです。
東京でのピッチグランプリが一番緊張のピークでした。アヌシーでのピッチは英語ですけど、アットホームな雰囲気なので、意外と緊張しなかったです。東京アニメピッチグランプリの緊張感を経験してしまえば、大抵の事は乗り越えられるんじゃないかと思います。

「ピッチはエンタメ」東京都の支援で気づかされたこと
――受賞後、アヌシー参加に向けて準備をする中で、東京都の支援で何が一番助けになりましたか。
大門:東京都の支援は全てありがたかったです。予算表の作り方など具体的なアドバイスはもちろんですが、この事業の先輩である加藤タカさんのアドバイスが助けになりました。「アジア人を外見で見分けられない人もいるから、髪の色を派手にするといい」と言われて、青にしていったんですけど、脱色が上手くいっていなかったようで、青がほぼ入らなかったですけどね(笑)。
あと英語ピッチ講師の方の「ピッチはエンターテインメントだ」というアドバイスにはハッとしました。とにかく「声を出した方がいい」「明るく」「楽しませるのが重要だ」と強調していました。
それから、「この企画を作るのは、なぜあなたでなければいけないのか」という質問は必ずされるから考えておけというのは参考になりました。ものづくりの本質的な部分でもありますけど、そこをきちんと自分の言葉で伝えられるように、感情を乗せてしゃべる練習をしました。
――アヌシーでのピッチに臨むにあたり、準備でやっておくべきことはありますか。
大門:自分は制作に対する想いをしっかり伝えたかったので、その部分を重点的に練習しました。あとは、現地で時間があるなら他の国のピッチも生で見た方がいいです。会場がどんな反応をするのかなどを知っておくと感触が掴めると思うので。

経験豊富な通訳からノベルティ、商談セッティングまで東京都が支援
――アヌシーでは、東京都が多くの商談をセッティングしてくれますよね。実際どれくらいの企業と商談できたのですか。
大門:僕が多分一番少なかったと思うんですけど、それでも東京都ブースへの飛び込み来場者なども含めて40社くらいと会ったと思います。
――ブースでの商談では、東京都が通訳をつけてくれますよね。
大門:そうなんです。これがめちゃくちゃ優秀な方で。英語とフランス語両方できるし、こうした商談の場にも慣れている方なので、的確なアドバイスもくれるんです。その方がいなければ、何にもできなかったと思います。
――大門さんの英語力はどれくらいなんですか?
大門:「I can’t speak English」ですね(笑)。でも、せっかくアヌシーに連れてきてもらっているので、空き時間には色々なブースを回って話しかけていました。名刺を渡して、とにかくまず挨拶して、こういう企画を持っていると話して、細かいことはメールでやり取りしようぜって感じでした。それから、商談で出会った人や、自分で話しかけた人たちに、当日にメールを返して、帰国後もメールして関係をつなぐという感じです。
あと、現地には何か渡せるノベルティを持って行くといいです。
――東京都が団扇と缶バッジを作ってくれるんですよね。
大門:はい。さらに自分は手ぬぐいとステッカーを作って持っていきました。自分で手刷りした手ぬぐいです。手ぬぐいをジャパニーズハンカチーフだと言って渡すとすごく喜ばれました。日本っぽいものとか珍しいものの方が受けると思います。

――実際にどんな方と現地でお会いできましたか。
大門:最初のイメージでは出資者が多いのかなと思っていたんですけど、音響や映像の画質を向上させるサービスを提供している企業など、いろんな業者さんも来ていました。それから逆に企画を持ってくる人もいたりとか。学生さんも多かったですね。
経験・コネがゼロでも海外のアニメーション会社と契約するまで辿り着けた
――商談の中で企画に対して、どんなフィードバックがありましたか。
大門:商談で気づかされたのは、アニメーションは子どものものだという認識が、日本よりもずっと強いということです。「これ、子どもは見れるの?」って二言目には聞かれるんです。
そういう話を聞いて、あんまりどぎつい表現を入れるのはやめておこうと意識するようになりました。元々、入れるつもりもありませんでしたけど、もう少し教養っぽい要素を入れてみようかとか考えたりするようになりました。
――そうした気づきも現地に行かないと、得られないものですね。
大門:本当にそうですね。今のアニメーションの世界的な立ち位置みたいなものが実感できました。
――アヌシーから帰国後も、東京都はフォローアップ支援をしてくれるとのことですが、何が助けになっていますか。
大門:全て助かってるんですけど、具体的には、アドバイザーの今泉裕美子さんと風早完次さんに事あるごとに相談できるのが大きいです。僕はとにかく経験がなく、わからないことが多すぎるので気軽に相談できるのはすごくありがたいです。それに、僕の返信が滞っていると、向こうから「あの件、大丈夫ですか」とメールしてくれたりして、すごく手厚くサポートしてくれています。
――実際、米国企業と契約して現在、シリーズのアニメーションを制作中なんですよね。
大門:はい。僕のような完全な素人が、そこまで行けたのも東京都の支援のおかげです。いい意味で忙しくさせてもらえて本当にありがたいですね。

英語ができなくても何とかなる
――このプログラムの応募に迷われている方がいたら、なんと声をかけますか。
大門:落ちたとしても経験になるし、とりあえず応募した方がいいです。やらない理由がないですよ。経験ゼロ、コネもゼロの僕でも、米国の会社と仕事するところまでサポートしてもらえたんですから。英語ができなくても現地の商談では優秀な通訳さんがついてくれますし、人脈を広げられます。
――このプログラムで出会った方々とのつながりもできたのですね。
大門:そうですね。ここでの出会いをきっかけに合同会社S.o.Kが制作に参加している商業アニメ『女神「異世界転生何になりたいですか」 俺「勇者の肋骨で」』にもクリエイターとして参加させてもらいました。同期の人たちには本当に恵まれましたね。
アニメ業界に所属していない僕でも通っているんですから、誰でも応募していいと思うんです。門は広く開かれているので、迷っているなら飛び込んでみてほしいです。
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【東京アニメピッチグランプリ開催概要】
開催日時:令和9年2月12日(金)9:00~18:00
会場:東京都23区内の会場にて開催
応募条件:以下の①②③の条件を全て満たす方がご応募いただけます。
①セミナー4回、ワークショップ2回の計6回のうち1回以上参加した方
※説明会のみへのご参加の場合は、東京アニメピッチグランプリにはご応募いただけません。
②都内に登記がある中小企業または都内税務署へ開業届出をしている個人事業主
③その他、募集要項記載の応募資格を満たしている方(P6~10)
※過去に東京アニメピッチグランプリ最優秀賞又は優秀賞に2回以上選定された場合、東京アニメピッチグランプリにはお申し込みいただけません。
応募書類受付期間:令和8年12月16日(水)~令和9年1月7日(木)17時
募集要項など詳細:https://anime-tokyo.com/program/







