10年という長きにわたるベータテストを経て、ついに正式リリース(バージョン1.0)を迎えるハードコアFPS『Escape from Tarkov』。物語の完結、4つのエンディング、シーズン制の導入…待ち受ける新たな体験とは、どのようなものなのか。そしてDLCやコンソール版など、タルコフの未来はどこへ向かうのか。
Game*Sparkでは、開発を率いるスタジオヘッドのNikita Buyanov氏にメールインタビューを実施。これまでの歩みと今後の展望を訊きました。

10年の歩みと感謝――開発の苦悩と日本のファンへの想い
――TGS2025では多くの日本のファンがブースに訪れました。日本のコミュニティの熱量を直接感じた率直な感想を教えてください。
Nikita Buyanov氏(以下、Nikita): 最高でした! 数あるコミュニティの中でも、日本の皆さんは群を抜いて親切で、敬意を払ってくれますし、何より大きな愛情を注いでくれます。
スタジオのスタッフの中には、TGSを口実にもっと頻繁に日本へ行きたがっているんじゃないかと思う者もいるくらいですよ。なぜなら、日本で過ごす時間は私たちにとって本物のセラピーになりますから。あの場所で体験することすべてが心を癒やしてくれますし、「自分たちの作っているものは、ちゃんと人々の心に届いているんだ」と実感させてくれるんです。

――開発開始から約10年、振り返ってみて「最も困難だったこと」と、それを乗り越えて「最も誇りに思っている成果」はそれぞれ何ですか?
Nikita: この質問をされるたびに、いつも違う答えが浮かぶんですよ。私自身が成長し、新しい経験を積むことで、考え方も変わっていくからです。
今この瞬間に答えるなら、「過剰な心配をやめ、自分自身の中にあった疑念を乗り越えること」が一番の挑戦でした。そして、ある時ふと「自分はそれを乗り越えられたんだ」と気づいたんです。これは開発者に限らず、誰もが何かしらの形で経験することではないでしょうか。
一方で、最も誇りに思うことへの答えは、もう長いこと変わっていません。
それは、このスタジオと、ここに集まってくれたチームの仲間たちです。私たちが共に創り上げてきたものが、国境を越えて多くの人々を結びつけてくれました。突き詰めれば、この『Escape from Tarkov』というゲームそのものが存在していること、そしてそこに注がれた膨大な努力こそが、最大の成果だと言えます。
――『Escape from Tarkov』は、もともと『Russia 2028』というプロジェクトから生まれたと認識しています。10年にわたる『Tarkov』の開発を経て、その原点である『Russia 2028』の開発は現在も計画、あるいは進行しているのでしょうか?
Nikita: 『Russia 2028』はシングルプレイヤー用のサイドストーリーでして、現在進めている『Tarkov』本編とは少し独立した位置づけになります。『Tarkov』の物語はまだ完結していませんが、『Russia 2028』の開発が中止になったわけでもありません。「いつか実現するかもしれないし、しないかもしれない」…今はそんな状況ですね。
タルコフからの脱出は困難を極める――物語の完結と、よりハードになるコア体験
――まず、ベータ版を長年プレイしてきたプレイヤーにとって、バージョン1.0の「最大の魅力」または「最大の変化」は何になりますか?
Nikita: バージョン1.0の目玉は、なんと言ってもエンドゲームコンテンツです。プレイヤーはついに物語の核心に迫り、自らの選択に応じた結末を迎え、そして…願わくば、タルコフからの生還を果たすことができるでしょう。

――過去には非常にハードコアなバランスのワイプもありました。現在の比較的遊びやすいバランスと比べて、1.0正式版のコアなゲーム体験はどちらの方向性を目指しますか?
Nikita: ベータ期間中に行ったワイプは、すべてが実験でした。ハードコアなものから緩やかなものまで、すべて意図があってのことです。
私たちは、『Tarkov』や脱出シューターというジャンルに初めて触れる新規プレイヤーが大幅に増えることを見越して、正式リリース時にどのような体験を提供すべきか、データを分析していました。
ですから、正式版のゲームプレイは今より少しだけ難しくなります。理不尽なほど過酷ではありませんが、決して楽でもない。極端な調整は避けるつもりです。
――最終ミッションの仕様についてお伺いします。TGS2025で体験できたデモ版ではPvEが中心でしたが、本番ではPvP要素は含まれますか? また、このミッションでは装備を失うリスクなど、システム面で特別な仕様はありますか?
Nikita: PvP要素は間違いなく含まれます。プレイヤーたちは、あの最終レイドに一緒に挑むことができます。そこでは生き残るために協力し、時には共通の脅威に立ち向かう必要も出てくるでしょう。それだけ大きなものが懸かっていますから。
装備周りのシステムについてですが、これはトレーダーを介した通常の保険とは全く異なります。最終ミッションに失敗すると、挑戦する前の状態にキャラクターが戻されます。これはゲームシステムというより、物語上のルールだと考えてください。

――物語には4つのエンディングがあると伺っていますが、どのような仕組みになっているのでしょうか? 例えば、エンディングによって報酬やキャラクターへの影響は変わるのでしょうか?
Nikita: ええ、メインストーリーには複数の分岐点が用意されており、プレイヤーの選択が4つのエンディングのいずれかに繋がります。物語への没入度、行動の慎重さ、そして世界観への理解度…そういったものが問われます。多くの選択肢とその結果は、すぐには分からないようになっています。
そもそも、誰もがタルコフから脱出できるとは想定していません。ましてや、良い結末を迎えての脱出は、信じられないほど困難なものになるはずです。もちろん、迎えたエンディングによって報酬は異なります。それがどんなものかは……ぜひご自身の目で確かめてみてください。

――プレステージシステムについて、ストーリークエストを完全にクリアすることは、プレステージを行うための必須条件になりますか?
Nikita: その点はまだ検討中ですが、おそらく「イエス」になるでしょう。プレステージは、ゲームを極め尽くしたプレイヤーが、自らの熟練度を証明するために再びゼロからスタートするためのシステムです。そう考えると、やはりストーリーの完全クリアが条件になる可能性が高いですね。
――1.0でストーリーは完結しますが、今後のアップデートに伴うワイプ(進行リセット)は、どのような形式で行われるのでしょうか? メインキャラクターの進行もリセットされますか?
Nikita: アップデートに伴うワイプは、メインキャラクターとは別に用意される「シーズンキャラクター」が対象になります。皆さんのメインPMCのデータがリセットされることはありませんのでご安心ください。
――PvEモードは、現在も多くのプレイヤーが楽しんでいます。今後、PvEモードにもプレステージシステムのような進行要素や、専用のコンテンツを追加する計画はありますか?
Nikita: 専用のPvEコンテンツは間違いなく追加します。そしてPvPとは別に、PvE専用のプレステージシステムも導入する可能性が高いです。そもそもプレステージは、PvPにおける強さの指標という意味合いが強いんです。他のプレイヤーとどう渡り合い、交渉し、出し抜いていくか、その腕前を示すものですからね。PvEにも、それに似たやり込み要素を用意するつもりです。
とはいえ、私たちの本音を言えば、プレイヤーの皆さんにはもっとPvPを遊んでほしいと思っています。そちらの方がよりスリリングで面白く、何より『Tarkov』というゲームが本来目指した体験だからです。

Steamで開かれる新たな戦場――利便性の向上と、チート対策という課題
――Steamでのリリースにより多くの新規プレイヤーが参入すると思いますが、彼らが本作の厳しい世界に慣れるための、新しいチュートリアルや序盤のタスク改善などの計画はありますか?
Nikita: もちろんです。新規プレイヤー向けに、ゲームの基本を学べるコンテンツを用意しました。物語に引き込む導入映像から、チュートリアルを兼ねた最初のミッションへとスムーズに移行します。序盤のタスクもこれを意識して作られていて、例えば「Tour」というタスクでは、プレイヤーが段階的に各マップに慣れていけるようになっています。
そして何より、この10年でコミュニティと私たちが築き上げてきた膨大な情報――昨年公開した「フィールドガイド」などが、きっと助けになるはずです。
――Steamでのリリースに合わせて、Steam Deckでのプレイへの最適化は計画されていますか?
Nikita: いいえ、Steam Deckへの対応は計画していません。
――Steamの実績(Achievements)機能はどのように活用される予定ですか?本作ならではの非常に困難な実績は登場するのでしょうか?
Nikita: 可能性はありますね。既存の実績をSteamに移行させつつ、Steam限定のユニークな実績を追加することも検討しています。段階的に実装していくことになるでしょう。
――Steamではゲームの購入がより手軽になるため、チート行為を行うプレイヤーが増加する可能性も考えられます。これに対し、アンチチート体制をどのように強化していく計画ですか?
Nikita: アンチチートに関しては、これまでも膨大な労力を費やしてきました。バージョン1.0ではさらに多くの対策を導入しますので、その効果を見守りたいと思います。
――将来的には、Steam Workshopを活用したコンテンツの展開は考えられますか?
Nikita: SteamワークショップによるModサポートは計画にありますが、実現するのはかなり先の話になるでしょう。ですが、常に選択肢の一つとして検討し、動向を注視しています。
1.0への想い、そしてTarkovの未来
――バージョン1.0のリリースを目前にした今、開発チームの率直な心境(プレッシャーや興奮)を教えてください。
Nikita: あらゆる感情が一度に押し寄せてきています。プレッシャー、興奮、幸福感、悲しみ、パニック、そして自信…。まさに感情のハリケーンの中で、頭が沸騰しそうな感覚です。これは、単なる1本のゲームの、ありふれたリリースとはわけが違います。私たちの10年間の仕事の集大成なのですから。
この10年で、ゲーマーも新しい世代が登場しました。YouTubeの予告編に「少年としてタルコフに入った俺たちは、大人になってここから脱出しなければならない」というコメントがあって、まさにその通りだと感じました。
――1.0以降の展開について、まずは先日発表があったDLC第一弾「Scav Life」がどのようなコンテンツになるか教えてください。
Nikita: 「Scav Life」では、プレイヤーがScavとしての生活をさらにアップグレードできるようになります。
専用の小さな隠れ家や新しい活動エリアが追加され、果てはScavボスとしてプレイすることも可能になります。新しいマップを含め、非常に多くのコンテンツを予定しています。

――コンソール版の開発について、現在の進捗や目標など、今後の計画を教えてください。
Nikita: コンソール版はPC版からの移植になります。コンソールでも『Tarkov』の痛みと喜びを余すことなく体験できるよう、高品質な移植と操作の最適化を目指します。当然、それには全く異なるレベルの最適化が求められます。現在、この作業を任せられるパートナー企業を探している段階です。
――実写映像作品「Raid」シリーズのように、今後も他のメディアを通じてTarkovユニバースを広げる計画はありますか?
Nikita: はい、あります。正式リリース後には、中断していたすべての交渉を再開し、映像化の企画を再び本格的に進めたいと考えています。
――また、『Tarkov』はリアリスティックかつハードコアな世界観を持っていますが、将来的に他のゲームや作品とコラボレーションする可能性について、お考えをお聞かせいただけると嬉しいです。
Nikita: コラボレーションの可能性を否定するつもりはありませんし、そういったご提案にはいつでもオープンな姿勢です。私たちのSNSで時々クロスオーバー動画を公開しているのも、他のデベロッパーの皆さんの才能と作品に対する、ささやかなリスペクトの表れなんです。
ですが、こと「脱出シューター」というジャンルにおいては、なぜか誰もが私たちと競いたがります。私たちをジャンルの隅に追いやり、自分たちが取って代わろうとする。なぜなんでしょうね? 私たちはただ、自分たちが作りたいゲームを作り、それを愛してくれる特定のプレイヤー層から支持を得ているに過ぎません。名声やランキング1位を追い求めているわけではなく、自分たちの信念を、自分たちのやり方で形にしているだけなのです。
他の脱出シューター作品も含め、同ジャンルのゲームがお互いにもう少し敬意を払ってくれたら、と願わずにはいられません。我々はライバルである前に、同じゲームを作る仲間なのですから。もし、同じようなゲームを作っている企業で、私たちとの協業に興味があるなら、いつでも歓迎します。ただし、大前提として、シリアスでハードコアなミリタリー路線という私たちのコンセプトに合致していることが重要です。そこさえ合えば、きっとうまくいくはずです。
――最後に、1.0という大きな節目を迎え、タルコフの新たなスタートを祝う長年のファンと、これからタルコフに足を踏み入れる新しいファン、双方へのメッセージをお願いします。
Nikita: これはいつも言っていることですが、改めてお伝えします。『Tarkov』は簡単なゲームではありません。手軽な楽しさや癒やしを求めるなら、他に素晴らしいゲームがたくさんあります。『Tarkov』は、このジャンルのすべてを始めた、元祖「脱出シューター」です。これは一種の仮想的な試練であり、他のゲームでは、いや、もしかしたら実生活ですら味わえないような強烈な感情をプレイヤーに与えます。
ですが、忘れないでください。何よりもまず、これはゲームです。確かに、難しくて、容赦がなく、感情を揺さぶられ、失うものも大きい。それでも、これはゲームなのです。だから、どうか熱くなりすぎないでください。もう少しだけ、肩の力を抜いて楽しんでほしいのです。








