“あご”でFPSを楽しむ「障がい者ゲーマー」にゲームプレイのハードルを聞く―当事者から見たアクセシビリティとは?【インタビュー】 | GameBusiness.jp

“あご”でFPSを楽しむ「障がい者ゲーマー」にゲームプレイのハードルを聞く―当事者から見たアクセシビリティとは?【インタビュー】

身体的ハードルを乗り越え『Apex Legends』を配信中!

ゲーム開発 アクセシビリティ
“あご”でFPSを楽しむ「障がい者ゲーマー」にゲームプレイのハードルを聞く―当事者から見たアクセシビリティとは?【インタビュー】
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昨今のゲーム業界を取り巻く流れとして、どのような障がいを持つ方でもゲームが遊べるようにというアクセシビリティ化の動きが加速しています。直近では、ある程度手足が動かせる方が買ってすぐプレイできるようにと、SIEがAccessコントローラーをリリースしたのも記憶に新しいでしょう。



しかし同時に、個々人がもつ身体的なハードルの高さ、そして各々を取り巻く環境は様々だと思います。ゲーム業界がプレイのハードルをなくす世界を望んでいることを感じながらも、未だ至らぬ点は多いはずです。そこで本記事では、そうしたアクセシビリティ問題の当事者の声を聴くべくインタビューを敢行しました。

今回お答えくださったのは、YouTubeで「りくおのへや【Chin Game Player】」というチャンネルを運営しているゲーマーの「りくお」さんです。「脳性麻痺のアテトーゼ型」という障がいを抱えながらも、顎を使ったプレイにて『Apex Legends』(以後、『Apex』)配信などをされています。

ご自身がゲームを遊ぶために行ってきた工夫から始まり、ゲーム業界へ望む変化や現在の状況まで、多くのことを答えていただきました。アクセシビリティの問題に興味がある方も、そうでない方もぜひチェックしてみてください。

※本インタビューはメールとオンラインでのインタビューを通して行われました。

◆ハードルを乗り越える“ゲーム愛”。自身がゲームを通じて為したいこと、ゲーム業界に望むこと

オンラインでインタビューにお答えいただきました。

――まずは自己紹介と、ご自身のYouTubeチャンネル「りくおのへや【Chin Game Player】」でどのような活動をされているかを教えてください。

りくおさん(以後、りくお)YouTubeでゲーム動画投稿チャンネル「りくおのへや【Chin Game Player】」を運営している、りくおと申します。今回はよろしくお願いします。僕のチャンネルでは、アゴでトラックボールマウスを操作してゲームをプレイする動画を投稿しています。

主な投稿ゲームは『Apex Legends』です。ショート動画をメインにほぼ毎日投稿しており、キルの瞬間や上手くいったプレイ、ネタになりそうなところなどを切り抜いています。また、他にもマウス操作でできるゲームを色々と投稿しています。

――「脳性麻痺のアテトーゼ型」であるとお聞きしています。どのような症状なのか、ご説明いただきたいです。

りくおまず、僕の場合の症状(状況)を箇条書きで纏めました。

  • 手足が思うように動かせない。

  • 体幹機能障がいもあるので、座位が取れない。車イスに乗っている際は胸ベルトと腰ベルトが必要。

  • 上記2つの理由から、日常生活のほぼ全てを介助の手を借りながら生活。

  • 常に意図しない筋緊張が全身に入っている。ほぼ常に全身のどこかが筋緊張の影響で動いている。

  • 動画内で首が傾いていることがあるが、筋緊張によるもの。

  • 手足の急な不随意運動があり、自分や他人への怪我のリスクがあるので、車イスに乗っている際は手足もベルトで留めている。

  • 慣れない人の前や大勢の人前で喋ろうとすると全身の筋緊張が強くなってしまい、喋るまでに時間が掛かってしまう。

  • 声が低かったり滑舌が良くなく、聞き取りにくい。

首から上の障がいは手足に比べれば軽く、アゴでトラックボールマウスを操作してPC操作ができます。PCの文字入力は、PCに標準搭載されているソフト「スクリーンキーボード」を使ってマウス入力しています(平仮名はかな入力を使用しています)。

ただ、専門的な知識があるわけではなく、自分からは「自分で感じていること」しかお伝えできないので、気になった方はネットで調べていただきたいです。

――配信もされるほどのゲーマーということで、どんなゲームがお好きなのか、ご自身の「ゲーム遍歴」のようなものがあればお聞かせください!

りくお小学3年生の時に、叔母が誕生日プレゼントとして「ゲームボーイアドバンスSP」を買ってくれました。買ってくれたのは良いのですが、「やり方をどうしようか」という時に辿り着いたのが、ゴムベラを使ったプレイ方法です。

ゴムベラを口に咥えて、咥える所に2か所小さい穴を開けてそこにタコ糸を通して、S字フックを装着し、伸びるバンドのゴムをS字フックと耳にかけ、ゲームをプレイするという方法を母が考えてくれました。それで『ロックマン』などを遊んでいましたね。それから少ししたら「ニンテンドーDS」を手に入れたので、そこでもゴムベラを使いつつ、タッチペンでプレイできるゲームを中心に遊んでいました。当時使っていたものの写真があれば伝わりやすかったですね。

しばらくしたら『ワールドサッカーウイニングイレブンDS』を買ってもらいました。タッチペンでの操作ができなかったので、難易度を一番易しくして、「プレスでボールを奪ってロングボールで前線に蹴りだす。そしてフォワードがミドルシュートで点を狙う」というような遊び方をしていました。最初は上手くいかなかったんですが、自分の誕生日に初ゴールを決められたのが嬉しかったです。もちろんリプレイを見たかったんですけど、間違えて飛ばしちゃって……。もう二度と見られないと嘆きましたね。

子どもの時の話なので長く『ワールドサッカーウイニングイレブンDS』をプレイしていたように感じるのですが、今思うと1年くらいだったのかな。その間にも色んなゲームを遊んだりしてましたが、やっぱり『ウイニングイレブン』がDSのゲームでは一番長く遊んでいて、思い出に残ってます。

その後「PSP go」が発売されました。普通のPSPだと画面の両側にボタンがあって、それが自分の場合操作しにくい事情がありました。でもPSP goなら、ボタン配置が近いのでゴムベラでプレイできる。それで「仮面ライダー」のゲームなどを遊んでいました。

そうやってゲームを遊んでいたのですが、中学生の時に色々あり前歯が取れてしまったんです。そうするとゴムベラを咥えられないので「PCでゲームするしかない」となり、今のトラックボールマウスを使用するやり方にたどり着きました。PCもゲーミング用の物じゃないので、ブラウザゲームなどを遊んでいましたね。

高校生の時にYouTuberのHIKAKINさんがAlienwareを紹介していて、そこでゲーミングPCの存在を知りました。買いたかったんですが、流石に手に入らなくて。だけど色んなゲームがあるとわかったんです。

『CoD(コール オブ デューティ)』シリーズの動画を毎日色んな実況者さんなどのプレイで見ていて、「自分もやってみたい」と思いました。そして高校卒業後に自分で働くようになって、18歳の時にAlienwareのゲーミングPCと『コール オブ デューティ:ブラックオプス3』を買い、遊びはじめました。

そこでも、今YouTubeで配信している『Apex』と同じく、フルにボタンを使った操作ができないので工夫をしたんです。『Apex』だと右クリックを前進に割り当てられるんですが、『Call of Duty: Black Ops III』だとそれができなかったので、マウス奥のボタンの上に重しを置いて、キャラが常に前進できるようにして近接武器を持って戦っていましたね。

しばらくして『Call of Duty: Black Ops III』をいったん止めたのですが、それは飽きたからじゃなく、どうしても課金をしたくなったからです(笑)。1~2年くらい動画を見るのもやめました。それから「BlueStacks」(PC上でスマホのアプリが使用できるソフト)というソフトを使ってPC上で『ウイニングイレブン』のアプリ版をプレイしていました。

そのうちに、PC版の『FIFA』ではシュートとパスがマウスでできると知ったので、そちらに移りました。それが3年くらい前です。そのうちYouTubeを始めようと思い、自分が顎で操作しながらプレイする姿を世の中に発信したいなと動画を作りました。初めは『FIFA』関連の動画を上げていたんですが再生数が伸びず、『Apex』にしてみたら意外と反応が良かったのでシリーズにして、ショート動画などを上げつつ今に至ります。

――サッカーゲームとFPSが、りくおさんの中での重要な位置を占めているんですね。

りくおそうですね。ターニングポイントになったゲームだと思います。

――では次に、ゲームをプレイするにあたっての機材環境をお教えください。

りくお以下の物を使っています。

  • PC G-Tune P6-I7G60BK-A

  • トラックボールマウス Kensington Expert Mouse® Wired Trackball

  • プログラマブルキー サンワダイレクト 400-SKB075

  • 録画配信ソフト OBS Studio

  • マイク HyperX Duo Cast

――りくおさんと同じく、今後ゲームをしたいと思っている障がい者の方に向けて、アドバイスなどがあればお聞かせください。また、どうやって今の機材環境を構築されたかなどもお聞きできれば幸いです。

りくお自分の障がいの状況を考えながら、工夫してゲームをプレイしてほしいと思います。ゲーム実況をしようと思った時に、ネットで調べて「OBS Studio」などに辿り着きました。マイクはとあるYouTuberさんがオススメしていたものなどを使用して……。

何もわからない状況から始めるのは大変だと思うので、周りの人に協力して調べてもらうということが重要だと思います。

――「障がい者の方がゲームをプレイする」という事は、近年になり業界やゲーマーたちの間でやっと着目され始めた点だと思います。そんな中でアクセシビリティが向上していくゲーム業界についてどう思われますか?あるいは、まだ実感できていないというような意見でも構いません。

りくお先日、あるゲームのPC版をプレイしようと思った時に、起動後のメニュー画面がキーボード操作のみでマウス操作ができず、先に進めなかったんです。親に手伝ってもらいながら、プレイ画面まで行きました。そういう点ではアクセシビリティの問題は実感していて、視覚・聴覚障がいなどに関するアクセシビリティは進められているものの、身体障がい者向けの取り組みはまだまだという印象です。

先日SIEから発売されたAccessコントローラーも、顎のみでゲームをプレイをする私には使いづらいと思います。私のような人たちからもフィードバックがあればと、そして自分自身もっと有名になって意見を聞いてもらえたらと思います。

――どんなにハードが対応していても、先ほどお話してくださったように「メニュー画面で操作ができなかった」となればその時点で終わってしまいます。“ソフト面のアクセシビリティ”も考えさせられるお言葉でした。

りくおそうですね。ソフトだけでもダメだし、ハードだけでもダメ。両方が良くなっていかないとダメですね。自分が毎日ゲーム配信をやっていく中で、そういう部分をお伝えできればと思っています。

――りくおさんの視点から、今後のゲーム業界へどういう発展を望まれますか?

りくお障がい者向けのeスポーツチームなどは、プロアマ問わず増えていって欲しいです。自分もそういう活動をしたいと思っているのですが、中々そういった環境がないし、現状で所属できるのかという問題もあります。個人的なハードルも高いかも知れないですが、障がい者のeスポーツシーンが大きくなって欲しいですね。

――りくおさんは「あごマウス」という独自の方法でプレイをされていますが、そうしたプレイ方法特有の苦労をお聞きしたいです。

りくおいくつかありまして、まずひとつは操作できるボタンが少ないこと。これが一番苦労しています。これに伴ってショート動画を上げた時に「味方に迷惑がかかる」と書き込まれたりすることもあります。自分としてはそうならないよう努力や工夫をしていますが、色々と苦心していますね。そこで、プレイや協力・支援してくれる方を募集していて、今回のインタビューで誰か声をかけてくれる人がいないかな、と思っています。

また、障害年金などが限られていて、収入源が少ないんです。YouTubeなどで収益が入れば違うと思うのですが、万が一機材やPCが壊れた時、YouTubeの運営を維持するために協力してくれる方が欲しいと考えています。発信としてのYouTube活動を長く続けていくには厳しいかなと不安を抱えているんですが、支えてくれる方がいれば違うんだろうなと感じます。

――ゲームにおいて自分なりの「神プレイ」ができたと思った瞬間を教えてください!

りくお以下が神プレイ動画ベスト3です!

第1位

第2位

第3位

――ゲームで開けた交友関係などがあれば教えてください。

りくおまだあまり交友はないんですが、先日有名な『Apex』配信者さんたちの参加型企画に仲間入りできて楽しかったですね。これからは色んな人たちと交流してゲームを楽しめればなと思います。

――「ゲームをプレイする」という選択が、障がい者の方々の中で増えているように思います。そこで、障がい者ゲーマー同士の「横の繋がり」というものはあるのでしょうか?

りくおそれが、まだなくって。時々「私も障がいを抱えています」とコメントをいただくんですが、配信をやっている人との繋がりはないですね。でも、そういう方々との関係性ができれば良いなと感じています。

――今回お話を聞いていて、普通のゲーマー以上の苦労がある中で子どもの頃からずっとゲームをプレイされていることがわかりました。いちゲーマーとしての熱量が凄いなと敬意を抱いています。りくおさんのゲームに対する原動力、「ゲームのここが好きだ」という点についてお聞かせください。

りくお自分は身体が不自由なので健常者の人たちと比べると現実の世界では制約があるのですが、コントローラーを握ればサッカーが遊べたりだとか『Apex』で物を投げたりだとか、現実の自分じゃできない動作ができるので、ゲームの可能性を感じています。

これからVRなど色んな技術が発達して、障がいの有る無しに関わらず色んな人がゲームを楽しめる世界になれば良いですね。

――ありがとうございました。


ゲーム業界は、技術の発展とともに多くの人がゲームを楽しめるような世界に向けて歩みを進めています。しかしいまだ発展途上で、全ての障がいに対応できるような完全なものではありません。ハード面での進歩があっても、ソフトがアクセシビリティに対応していないこともあるでしょう。

りくおさんのお話を聞いて、金銭的な面も含めて多くの課題が垣間見えたインタビューとなりました。本記事が障がいの有無に関わらず、“自分自身がゲームを楽しむための工夫”を考える一助になれば幸いです。

《高村 響@Game*Spark》

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