これまで描けなかったドラマを、春日一番で描く―『龍が如く7 光と闇の行方』名越稔洋氏インタビュー | GameBusiness.jp

これまで描けなかったドラマを、春日一番で描く―『龍が如く7 光と闇の行方』名越稔洋氏インタビュー

発売が間近に迫った『龍が如く7 光と闇の行方』。シリーズ総合監督を務める名越稔洋氏に、作品に込めた思いを伺いました。

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これまで描けなかったドラマを、春日一番で描く―『龍が如く7 光と闇の行方』名越稔洋氏インタビュー
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2020年1月16日の発売日まであとわずかとなった『龍が如く7 光と闇の行方』。シリーズ最新作となる本作は「ドラマティックRPG」と銘打たれ、従来のアクションゲームから一新。さらに主人公も桐生一馬から春日一番へとバトンタッチされ、新しい物語が紡がれることとなります。

そんな『7』に込めた思いとは――シリーズ総合監督の名越稔洋氏に伺いました。

その時、一番自信があるものを出していきたい


――改めて、『龍が如く』シリーズ総合監督として、本作で名越さんが担った役割をお聞かせください。

名越稔洋(以下、名越)ゲーム性やシナリオ面で作品の方向性を決めたり、制作スタッフの進捗を見たり、プロモーションの方法を考えたりと、全体の方針を考える役目です。

――前作で桐生一馬の物語が終わりました。新しい主人公でナンバリングの新作を作ると決められた理由はなんですか?

名越ゲームでも映画でも、ナンバリングで主人公が変わる作品はありますので、さほど気にしていません。現代劇で、街遊びができて、ドラマがあって、バトルをするという大きなくくりでいえば、今作も『龍が如く』というIPの遊び方と遠くないですよね。そこで他のタイトルをつけるのも違うのかなと思います。

桐生が主人公でなくとも、ドラマの背景にある環境は地続きですから、ナンバリングにする方が自然です。議論もたくさんありましたが、最終的に「7」としました。

――シリーズ初となるRPGに挑戦されました。

名越RPGにしたことで賛否両論は出るだろうと思います。でも、シナリオにせよゲームシステムにせよ、その時に一番自信があるものを出していきたいんです。

例えばロボットモノ、SFモノになるなら、これまでとはまた違うアクションが生まれることもありえますが、人を使ったアクションはゴールした感じがありました。そこから進化することもできなくはないけれど、少しの進化でどれだけの評価をもらえるか、疑問が残っていたんです。

であれば、抜本的に変えて新しいチャレンジをしたい。主人公も、今までの系譜から外れたことを許容するきっかけにしたいと思って変えました。今回は「挑戦」という2文字で全部捉えようと考えて臨んでいます。

――出来栄えはいかがですか?

名越深いシステムのRPGは、他のメーカーさんからたくさん出ています。僕自身、覚えることが多いゲームや、マニュアルを見ながらやるようなとっつきにくいゲームは苦手なので、慣れ親しんだシステムで新しい体験をしてほしいという気持ちが強かったですね。

テンポが出にくいなど、コマンドRPGのウィークポイントもたくさんありますが、新しいゲームとして世に出す以上、そこは解消したいと考えていました。慣れ親しんだシステムだけど、テンポは良くなる。現代劇でのコマンドRPGという、絵や体験で新しさや驚きが感じられる作品になる予感はありました。それも賛否両論あったんですが(笑)、チャレンジするんだと突っ走りました。おもしろくなったと思います。


――シリーズファンの中には期待と不安の両方を抱く方もいらっしゃるかもしれません。本作の持っている『龍が如く』らしさを教えていただけますか?

名越本作には、RPGとしてオーソドックスなバトルシステムと、仲間を増やして助け合いながら成り上がっていくドラマの、2つのRPG要素があります。一人の名も知れないキャラクターが勇者になるというシナリオが、RPGとして一つのオーソドックスなものだとしたら、その意味では則っています。

強い男が強い体験をすることは、十分提案してきました。そこを期待するとアクションが一番なんですが、ゲームの楽しみ方は一つではないし、色々なパターンがあっていいと思います。

ただ、RPGだからといって大人しいものではありません。笑いや喜怒哀楽がふんだんに散りばめられているのが『龍が如く』の良いところだとしたら、それはRPGになっても盛り込まれている。『龍が如く』らしさは踏襲されているので、大丈夫だと思います。

――「RPGならできるかも」と今作から始める方もいらっしゃると思いますが、シリーズ未プレイでも楽しめますか?

名越毎回のことですが、ナンバリング作品もそうじゃない作品も含めて、そこから買っても必ず楽しめることを前提にしています。「1」から追ってもらう方が良いかもしれませんが、長い歴史のあるタイトルだと、複数のプラットフォームを挟むのでそうもいかないですよね。

『龍が如く』シリーズよりもっとヒットした大作RPGもありますし、慣れ親しんでいるという意味でいえば、「RPG」と思って買ってもらえれば違和感はないと思います。良くも悪くも変わったRPGですが、システムは割としっかりしているので、遊びやすいはずです。とにかく、難しいものを提案することだけは嫌でした。

桐生では言えなかったセリフを言わせたい


――本作は「仲間」もキーワードになっていると思います。本作のドラマならではの醍醐味は何ですか?

名越親もわからず、自分がソープランドで生まれたことしか知らない春日一番と、彼が恩人と慕う人間の息子・荒川真斗は同じ日に生まれました。境遇の異なる二人が別れ、再び出会います。

人間は生まれなのか、育ちなのか、そんなものは関係ないのか。関係ないとも言い切れるけど、やっぱり生まれた場所というのはそれなりに背負うものであって、背負ったものからはなかなか逃れることもできません。生き方に悩むというか、人間ドラマとしてジレンマの強いものになっています。

でも人は一人では生きていけなくて、その悩みに対する意志や気持ちに共感する人間が集まり、ひとつの何かを作り出していきます。春日は桐生みたいに寡黙で強い男ではないので、そこに育てがいや魅力がある気はしますね。

主人公って、色々な意味で整っているんですよ。敢えて完成されていない主人公を扱うゲームは、あまりないかもしれません。整っていない主人公をうまくドラマとゲームシステムで支えていくのが、今作の一番の醍醐味だと思います。

――その新しい主人公である春日一番の魅力はどんなところでしょう?

名越彼は他人に対して情が厚く、疑いを持たず、どちらかというと騙されるタイプの人間です。純粋ゆえにストレスも抱えるんだけど、自分の選択に後悔はしない人間なので、その純粋さに周りが惹き込まれていく。計算がないんですよね。僕はそこが非常に気に入っています。

桐生ではできなかったことをしたい、描けなかったドラマを描きたい、桐生では言えなかったセリフを言わせたいという思いがとても強かったんです。ストレス発散じゃないけれど、桐生を大事にしてルールを守ってきたぶん、今作ではそういうところを表現できたと思います。

――他にも新しいキャラクターがたくさん登場しますが、注目してほしい人物はいますか?

名越あらすじから肉付けしてシナリオ化するんですが、僕らは多分、他のチームと比べても書き直す量が多いと思うんですよ。ゲームを作り始めてからも書き直したりします。どのキャラクターを切り取っても魅力があるようにしたい。欠けている部分やつじつまが合わない部分を直すのは、結構ギリギリまでやります。

でもやっぱり今回は主人公ありきの物語なので、いちばんは主人公なんですが、その次と言われたらライバルの存在が大きいかなと思います。そういう意味では、「1」のころと何か似ているんですよね。錦山と桐生の関係の、また違う形というか。

――「1」では錦山の方が桐生に対して劣等感を抱いていましたが、今回の真斗と一番はまた違うライバル関係にありますね。

名越真斗は春日のことは眼中にないんですよね。眼中になかったはずなのに、だんだん行き詰まっていき、迫ってくるものに強いストレスを覚えてしまう。その意味では悲しい男の話になっちゃうんだけど。

作っていると毎回思うんですが、スタッフにしろ声優さんにしろ、女性はそういうキャラクターが大好きですね(笑)。悲哀の強い男がすごく好きですね、何ででしょうね。

――個人的には足立宏一が気になります。体験版では良い人オーラが出ていましたね。過去作品でいう伊達真のポジションかなと思いました。

名越近いといえば近いですね。伊達さんはサポート役でしたが、足立は自分で達成したい野望があって、背負っているものを全部解決したいんです。そこは言い訳程度じゃなくて、ちゃんとドラマとして美しく、かつできれば爽快に解決させたい思いがありました。そこができていないドラマはあまり好きじゃない。毎回(その点は)悩むんですが、足立は足立で粋な解決の仕方ができて、僕は割と好きですね。


――今回も有名な俳優さんが出演されます。シリーズを重ねる中でノウハウも溜まっているかと思いますが、キャスティングや収録はスムーズに進んだのでしょうか?

名越最初にイメージができたのは、ヤスケン(安田顕)さんだったんですよ。神経質で潔癖症のホームレスという掴みどころのない役なんですが、ヤスケンさんもいろんなお芝居をされていて、一般的にはコミカルさとシリアスさが紙一重で同居している感じを期待されている方だと思うので、ぴったりかなと思っています。

中井(貴一)さんと堤(真一)さんは、昔から名前こそ挙がっていたんですが、スケジュールが合わなかったり、撮影時間が取れなかったりしたんですね。今回当たってみたら、たまたまどちらからもOKをいただけました。お二人は声の存在感も大きいですね。

過去を振り返ると(俳優陣は)5人くらいの作品が多いんですが、今回はその3人を並べたときに「もうこれでいいな」と感じました。俳優さんの枠はまだあったんですが、3人に負けてしまうし、むしろノイズになるとすら思うくらいだったので、スタッフにもこれ以上は当たらないよと伝えました。

今まで5人だったから、3人にするのはおかしいということもないと思います。定まっていればそれでいい。女子は、今回はオリジナルの女の子にしたかったし、変に考えなかったかな。

――完成披露会でも、俳優陣からは台本が分厚いという話が出ていましたね。

名越皆さん必ず言いますね、とんでもない量だと。中井さんにはギリギリでお願いしたので、エンディングが入っていない台本をお渡ししたんですよ。でも逆に「エンディングが知りたい」と言われたので、収録日にエンディングが入った台本を渡したら、その場で最後まで読んで褒めてくださいました。最後のセリフを読んで「こういうことが言いたいんだよね。俺もこういうことが言いたいと思うんだよ」と。できない話ですけど「映画やドラマの脚本を書けばいいのに」とも言っていただけたのはうれしかったですね。

横浜は広く、深い


――今回の舞台は神室町ではなく伊勢佐木異人町です。横浜にした理由はなんですか?

名越今までも5大都市は舞台にしてきたので、新しい場所にしたかったんです。これまでも横浜という選択肢が出たことはあったんですが、東京に近いんですよね。どうせなら名古屋や札幌を舞台にしたい。そこにファンもいますし、身近なところが舞台だとうれしいだろうと考えていました。また、横浜は街として結構広くて、どこを切り取って「横浜」と言うかはみんな意見がまちまちなんです。全部盛り込むと、マップで言えば都市2個以上の大きさになって、正直作るのも大変です。

ただ、今回は新しい都市を舞台にする中で、蒼天堀や神室町の素材はあるし、リニューアルしたデータもあるので、使わない手はない。広大だけどチャレンジしようと、色々な課題があった街をターゲットにしました。

広さゆえの大変さばかり考えていたんですが、マップをゲーム化するために仕切ってみると、繁華街や埠頭、みなとみらいや中華街、それにちょっと怪しい地区もあり、要素が広くて深いことに気がつきました。

――横浜は場所によって色々な顔がありますよね。

名越そうですね、ひとつの街なんだけど、バラエティに富んでいて、濃度が高い。その点は作ってよかったと思います。

――神室町も通りをまたぐと雰囲気が変わる印象がありました。

名越神室町は通りによって、PlayStationの機能でカラーのフィルタを若干いじっているんですよ。わずかでも生理的に「違う場所に来た」と感じられるよう、通り1本でもなるべく差別化できるようにデザイナーが調整していました。明暗だけじゃなくて、少し赤かったり青かったりするフィルタをかけて変えていたんです。

――今回の横浜はもっと大胆な変化が楽しめますか?

名越そうですね、その点は遊びのバリエーションにつながっています。ドラゴンカートを作ったのも、広さが遊びになるようなプレイスポットを入れたかったからなんですよね。良いチョイスだったと思います。


――バリエーションという意味では、本作でもさまざまな組織が出てきますね。

名越本作では、近江連合、横浜星龍会、コミジュル、横浜流氓と様々な組織が出てきますが、それら個々の特徴について

港町は歴史的に人種が混沌としていることが多く、裏社会でも人種の壁が組織の違いとなって代々存在してきたところなんです。今作でも、日本、韓国、中国の組織が協定を結び、互いの領域を侵害しないよう均衡を保っていました。そこに土足で入ってぐちゃぐちゃにしてしまうのが春日なんですが、ぐちゃぐちゃにしながらも、均衡の裏にあった暗い背景や問題を解決していく話にしてあります。

単純に組やチームの名前が違うだけではなく、個性を出したかったんです。今までは組織の長が女性であることはなかったんですが、今回は韓国の組織(コミジュル)がそうです。中国の組織(横浜流氓)の長は若者でチャラかったり、日本のヤクザは大御所だったり。世代も性別も違うけど、そこでなされる会話がフレッシュなんですよね。ヤクザ同士の啖呵もカッコいいけれど、今作では世代の違いから生まれるピリピリ感が楽しめます。ドラマの膨らみとして、色味の違う組織が出るのは良い結果につながったかなと思いますね。

――女性が組織の長というのもすごく新鮮です。バトルで女性が戦うのも初めてですね。

名越女性が出てもいいんじゃないかと思っていましたし、どこかで参戦させたいとも考えていたんですが、桐生のドラマには合わなかったんですよね。桐生が参戦させないだろう、一緒に戦おうとは言わないはずだと思って、入る余地がありませんでした。春日の場合は違う考え方もできるかなと、前向きにシリーズのルールを変えたところでもあります。

韓国組織の女の子とはプライベートでも仲が悪いんですが、会話がコミカルです。気持ちの片隅では好きなんじゃないかと思えるような会話にしたり、今までの『龍が如く』シリーズとは少し違うテイストも入れています。

――キャラクター同士の会話でも今までとは異なるテイストが味わえて、深みが出ますね。

名越熱い男のドラマというバックボーンはありますが、今までのドラマになかった尾ひれはひれがバランス良く入っている方が、今回は広がりが出て良いかなと思いました。

おもしろければありだと思うんですよ。「これがあると『龍が如く』じゃない」「こういうのがないといけない」という考えはチーム内でもあります。それはファンを大事にしたい気持ちと紙一重ですが、逆に僕らが思い込みすぎていて、伸びしろを失っていたりするので、おもしろいと感じたら実行して作品に盛り込んでいくことを、全編を通して積極的にやったつもりです。

仕事は2度目、3度目が一番いい


――主題歌で湘南乃風さんを迎えるのは『龍が如く0 誓いの場所』に続いて2回目です。中田ヤスタカさんと一緒に作るという座組になったのはなぜですか?

名越春日が『ドラゴンクエスト』が好きで、ファミコンで遊んでいたという設定を入れたかったので、8bitゲームサウンド風の音源を入れたいと考えていました。実は、最初にお声がけしたのは中田さんだったんです。ただ御存知の通り中田さん自身は歌わないので、歌手を立てないといけません。

では誰なのかというときに、これが新しくお願いする人だと難しい。正直に言うとコラボって読み切れないんですよ。特に今回は僕が体を壊したこともあって時間がなかったんです。中田さん(の起用)はチャレンジになるんですが、歌う人は過去にいい仕事ができた実績のある人に頼みたい。加えて、二者が掛け合わさったら一体何ができるんだろうという前向きな違和感がある存在と考えると、湘南乃風はおもしろいんじゃないかと。本人たちもやると言ってくれて、お互いに自分たちがやってきた仕事とはまた違うものが生まれた喜びを直接伝えてくれましたし、すごく良かったですね。

――実際に聞いてみていかがでしたか?

名越満足していますよ。お祭りっぽい感じにしたいと伝えたんですが、器用なアーティスト同士なので、本当にうまくまとめてくれましたね。いかにも主題歌という感じではなく、すれすれのところにしたかったんですが、こういうオーダーにもちゃんと応えてくれました。

一度仕事をすると、次は誰だろうとみんな思いますが、本来仕事は2度目、3度目が一番いいんですよ。お互いのことや気にするところがわかるようになる。湘南乃風とは、前の仕事の記憶も残っていて、信頼関係があります。そこが良い方に働きました。

また、音楽ジャンルは違いますけど、湘南乃風と中田くんとはもともと知り合いだったみたいですね。プライベートでも仲が良くて、それも良い結果につながったと思います。

――ちなみに、名越さんは「バブル」(湘南乃風の15thシングル)のPVに出演されていましたが、今回は出られるんですか?

名越今回は出ていないです(笑)。MVにはセガも絡んでいて、おもしろいのができると思います。


――最後に、本作を楽しみにされているすべてのファンの方に向けてメッセージをお願いします。

名越RPGに変わって心配されている方も多いと思いますが、僕はおもしろければ何でもありだと思っていますし、そこに毎回チャレンジしたいと常に願っています。今回、そのチャレンジが本当に面白い方向に向いたと思っているので、それを受け止めてくれたらうれしいです。

――ありがとうございました。
《ばかいぬ@インサイド》

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