ディレクターは1人で何でもできなくていい―「Game Developers Meeting Vol.38 ディレクター向け座談会」レポート | GameBusiness.jp

ディレクターは1人で何でもできなくていい―「Game Developers Meeting Vol.38 ディレクター向け座談会」レポート

ゲームディレクターとは何なのか?どのように育てればいいか?ディー・エヌ・エーが定期的に開催するゲームクリエイター向け勉強会「Game Developers Meeting Vol.38 ディレクター向け座談会」第38回のレポートをお届けします。

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2019年11月29日、ディー・エヌ・エーは、定期的に開催している業界者向けセミナー「Game Developers Meeting Vol.38」を開催しました。今回は「令和時代を生き抜くゲームディレクター談義」と銘打たれ、セガ・インタラクティブの松永純氏とカプコンの山田倫之氏が登壇。これからのゲーム業界で求められるディレクター像や、次代を担うディレクターの育成法などが話し合われました。モデレーターを務めたディー・エヌ・エーの佐伯嶺氏から提示された議題ごとに、そのやり取りをお届けします。

ディレクターになるまでの経緯は?


松永純氏(以下、敬称略)(プランナーとして)企画を提案してゲームのメカニクスに落としていく仕事を重ねていくうえで、提案するのではなく最終的な仕様を自分で決めたいと思ったのがきっかけでした。そう思っているうちに、気が付いたらディレクターになっていました(笑)。プランナーとしての経験を積んだから自動的になるものではないと思っています。

山田倫之氏(以下、敬称略)自分のキャリアのスタートはプログラマーでした。その後、半年くらいでプランナーになり、とあるMMORPGに企画の立ち上げからプランナーとして携わっていました。ある時、そのゲームのディレクターがプロデューサーになって、ディレクターの座が空いてしまったことがあったんです。その時は各セクションのリーダーで話し合い、ディレクターの役割をみんなで補い合うことになりまして。それがディレクターの職務を意識したきっかけで、その後、実際にディレクターになりました。

ディレクターとプランナーの一番の違いは?


松永ディレクターは企画を提案するだけでなく、その成否や可否を判断する、というのが一番大きいですね。ゲームの形をどうするかを決める権限と責任があります。小さいプロジェクトであれば、ディレクターがプランナーを兼任して自分で企画をどんどん出していくスタイルもあり得ますが、チームの規模が100人単位になると、もう提案はしていられません。

山田ディレクターは、プランナーの延長線上にある役職だとは思います。ただし、プログラマーやグラフィックデザイナーの延長線上にもあるのだろうなと。クリエイティブ全体を見渡して、(方向性などを)決めたいという人がなるべき役職です。プランナーからディレクターになると、まるで権力だけ手に入れたみたいに思えてしまいますが(笑)、全然そんなことはないんです。ディレクターになってからも現場レベルのプランナーの仕事をしていたら、すぐに現場が回らなくなりますから。ゲームを完成させようという目指す場所は同じでも、アプローチの仕方は大きく異なります。

松永チームのみんなが進むべき道を守るのもディレクターの大切な仕事です。そのために、デザイナー出身のディレクターなら最初にコンセプトアートを描いて提示してもいいし、シナリオライター出身ならプロットを書いてもいいです。とにかく、作りたいもの、進みたい方向性を極力ブレさせないこと。

山田こだわりは絶対必要です。ですが、こだわりすぎて全体を見られないのはダメです。こだわりつつも、一回俯瞰してどんな感じだろうと全体を見ること。これは(才能とかではなく)慣れや訓練でできるようになるものだと思います。また、何度かディレクターをやって、(プランナー出身の人であれば)その経験を元にプランナー戻るのもありだと思います。

松永どちらが上で、どちらが下ということはありませんからね。ゲームを作るうえで果たすべき役割が違うというだけのことです。

ディレクターは他の役職より上というわけではない、と語る松永氏(写真左)

ディレクターをしていておもしろいときは?


松永意外かもしれませんが、マスターアップしたときではないですね。個人的にはおもしろいと感じる瞬間はいくつかありますが、たとえば、自分の思い描くイメージをコアメンバーとある程度以上共有できたときや、企画書がバチンと固まったときでしょうか。

山田自分がゲームの骨子を一番分かっているから、マスターアップしたときはおもしろいというより安心感の方が強いです(笑)。それよりは、マスターアップが見えてきそうになったときの手ごたえが、一番達成感を得られますね。

松永プロデューサーの中には「ゲームは世に出すまで結果がどうなるか分からないギャンブル」というようにおっしゃる方もいたりしますが、ディレクターとしてはそういう気持ちはまったくないです。これはよくできた! とか、結局こうなっちゃったか……って、出る前には確信してるので、ユーザーのみなさんの反応が自分の予想とまったく違う……ということはほぼないです。もちろん、それがどれくらい届くか、届いた後どれくらい広がるかというプロデュース領域の部分は我々にも読めないですけど。

ディレクターをしていてしんどいときは?


山田楽しいとき以外は全部しんどいですよ(笑)。でも、その先に楽しさが待っているから越えられています。

松永ディレクターは孤独な役職だと思います。完成形のイメージは、最初は自分の中にしかありません。だからこそ、そのイメージをうまく共有できたときは気持ちいいんですけどね。あと、マルチプレイの運営前提タイトルのプレイ感覚はコアなメンバーしか想像できないことが多く、ゲームが世に出る瞬間まで「これは本当におもしろいの?」と言われ続けることもあります。そういうときはしんどいですね。

楽しいとき以外はいつもしんどい、と笑う山田氏(写真右)

次代のディレクターはどう育成すればよいか?


山田「これができればディレクターだ」というのを定型化できないので難しい問題ですね。それゆえに、研修もほとんど行えないのが現状ではないかと。

松永ただ、最初からやろうと思ってもできる役職ではないのも確かで。(今後ディレクターになってくれそうな人に)同じプロジェクトで何を伝えるか、どう成長してしてほしいかを考えることですかね。

山田「自分はこう思うけど、今のユーザーはこうじゃないですか」というように、複数の視点で提案できる人はディレクター向きだなとは思います。ただ「自分は絶対この案がいいと思います、これでいくべきです」という考えが正解であるときもあるから難しいです。

松永今は開発チームが大規模になり、1人でどのセクションも全部やるということはほぼありません。だからこそ、それぞれのセクションのクリエイティブを合わせるとどうなるか、という一歩引いて俯瞰する視点が持てることが大切です。また、大規模であるがゆえに、ディレクター1人が何もかもを理解できなくても大丈夫。(ディレクター候補に)足りないところを補ってあげられるチームを用意してサポートしてあげるのも大切です。(ディレクター候補自身にも)「ここは分からないから教えてほしい」という姿勢を持てる謙虚さが必要ですね。

対談は終始なごやかな雰囲気に包まれて進行しました

これからのディレクターの戦い方


今は、自分たちが作っているゲームのよさをどうやって伝えていくか、どのように売っていくかまでをディレクターが考える必要がある時代です。だからこそ、1人で全てをこなすのは無理なんですね。そこから言えるのは、いかに信頼できるスタッフを集められるかです。自分ができないところは、信頼できるスタッフにどんどん任せる。今はプロデューサーとディレクターの領域が重なってきていると感じます。

山田一概にこうするべきとはなかなか言えませんが、自分の限界がチームの限界になってしまうのはとてももったいないことです。こだわりを持つことは大切ですが、同時にこだわりすぎないこと。どれだけ優れた人でも、100人分のセンスを持っているわけではありません。こだわったうえで周囲にも耳を傾け、さまざまな意見をいかに柔軟に受け入れるかです。

松永意見や提案の深さを汲み取る技術が大切です。「この方がいいと思うのでこうしてください」という提案をそのまま受け入れ、それでうまくいく例って少ないですよ。提案に対し、いいかダメかを判断するだけではいけません。「この人は中核メンバーだから、仕様をここまで把握したうえでこう言っているはず」とか、「この人は3Dモデリングのメンバーで仕様をそこまで深くは把握していないけど、ビジュアルへのこだわりはもってくれていて、そのうえでこういう感想ってことは、ここが足りてないんだろう」とか。そこまで汲み取れれば、大人数で作っている意味があるというものです。

山田0か1かで判断するのではなく、その提案の背景に何があるのか、自分が見落としている何かがあるのではないかと考えられるのは大切ですね。
座談会は最後に、二者が思い描くディレクター像が語られてまとめられました。

山田自分をなくさず、かつチームを一丸にしてゴールに向かわせる力があるか。何年もディレクターをしていますが「完璧にディレクターとしての役割を果たせた」と思えたことはまだなく、日々勉強の繰り返しです。生き残る秘訣を挙げるなら、ディレクターになることをゴールと思わないことかもしれません。むしろ、ディレクターになってからがスタートです。

松永究極的に言うと、ディレクターにとって一番大切なのは、最後まで立っていることだと思います。いろいろな考え方をもつ人達がたくさん集まって、しかも完成形の本当に正しい姿は書類だけでは伝わらない。意見が出るたびに細かいところは変わっていって。そんなとき、チームの皆が求めるのは、ちゃんとディレクターと相談ができるということです。だからどれだけ混乱しても大変でも、最後まで皆の前に立っていることが、大事だなって思います。

著書に著書に「チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方(星海社新書)」がある松永氏は「ディレクターのやり方は千差万別だと思うので、ディレクターの数だけ本が出てほしい」と語りました 。
《蚩尤》

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