『イングレス』は京都をそして世界をつなぐのか?・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第35回 | GameBusiness.jp

『イングレス』は京都をそして世界をつなぐのか?・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第35回

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京都リサーチパークにて、3月29日、Digital Interactive Entertainment Conference a decade later and beyond(以下、DIEC)が開催されました。同イベントは、10年前にあたる2005年にはじめて開催され、その際は、テレビゲーム業界の黎明期から現在までを俯瞰するということで、テレビゲームビジネスの祖といわれるノラン・ブッシュネル氏を皮切りに、『パックマン』の岩谷徹氏、ファミリーコンピューターの上村雅之氏、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズの宮本茂氏、『メタルギアソリッド』シリーズの小島秀夫氏、そして『Half Life2』のロビン・ウォーカー氏と錚々たるメンバーが一堂に会したことで話題となりました。

10年後の今回は、未来をテーマに、ヴァーチャルリアリティ、インディーゲーム、ゲーム実況をテーマとしたカンファレンスや体験コーナー、イベントが実施されました。その最後に開催されたのが今回フィーチャーする位置情報ゲーム『イングレス』に関するカンファレンス「INGRESS UNITES KYOTO」です。登壇者は、ナイアンティック・ラボの創業者であるジョン・ハンケ氏と、同UX/Visual Artistの川島優志氏、そこにゲームデザイナーでメディア芸術祭の『イングレス』展示を監修した飯田和敏氏が加わる形となりました。ちなみに飯田氏は、オキュラス・リフトコーナーに、本誌、「TGS インサイド x Game*Spark Award 2014」のインディーゲーム部門で受賞した『水没都市』も出展しておりダブルでの登場。会場を更に沸かしていました。

ちなみに、前日に公式大規模イベントであるShonin〜証人〜が京都で行われていたこともあり、来場者のほぼ全員が『イングレス』のプレイヤーで更にShonin〜証人〜参加者。しかもそのほとんどが京都外からの参加ということでファンの熱狂ぶりをあらためて確認する形となりました。今回は、カンファレンスの中でもジョン・ハンケ氏による講演内容をリポートします。



■PCに張り付く子供を外に出したかった

まず、本作を説明するうえで、ハンケ氏は、単純にゲームと言うべきか否か迷うとし、その理由としてゲーム内で提示した目的を果たすためにはフェリーにも乗る、山にも登るなど、プレイするうえでアウトドアでの活動を数多くしなければならないからと説明しました。つまり、ビデオゲームともモバイルゲームとも違う体験を『イングレス』は提供するということです。ゲームデザインのコアがこのようになったのには明確な理由があるとハンケ氏。それは自分の子供たちに家の外に出て遊んでもらいたかったからとのこと。教育目的でPCを買い与えた途端、ずっとコンピューターに張り付く我が子を見て悲しくなったというのです。

したがって、現行の携帯電話とスマートウォッチといった未来のウェアブルデバイスを活用してなぜ、家族みんながアウトドアを楽しめるエンターテインメントがないのだろうと考えたのが開発のきっかけとなったとのこと。そこで、ジョン・ハンケ氏のチームが開発してきた『Google Earth』及び『Google マップ』をベースに、世界全体を1つのボードゲームへと変換することにしたのです。机の上のボードゲームで遊ぶように、世界を舞台にそこに住む人々を使ってゲームをプレイするというコンセプトです。

ゲームをデザインするにうえで最重要項目として考えたのが「どこを遊びのポイントにするか」という点。大手コーヒーショップのように世界中に拠点のある商業施設を選ぶことも出来ましたが、歴史的並びに文化的に意義深い場所をピックアップしたほうがずっと面白いゲームになるはずと思ったとハンケ氏。ここでハンケ氏は、歴史の効果的な学習方法について持論を展開しました。それは、意外性であるとのこと。無理に学ぼうとするのではなく、ある場所にいって、不意にその場所に歴史的意義があることを知るほうがエンターテインメントとして面白く、且つ学習効果もあるというのです。これに関連し、京都市長との会見内容について振り返りました。市長は京都の歴史をゲームの中に取り込むというアイデアに大変喜んでいたとのこと。またShonin〜証人〜のアフターパーティのスピーチの際に市長が「京都は『イングレス』のために千数百年待っていた。そのために歴史都市を築いてきた」と言われたことを改めて思い出したとし、観客の笑いを誘っていました。

ジョン・ハンケ氏


■登録者数は全世界で1000万人。しかしそれ以上の興奮がコミュニティから生まれた

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このような形で『イングレス』は2012年11月に生まれ、2015年2月には世界200カ国、合計で1000万ダウンロードを達成。また、全体で1億5000万キロの距離が移動されたとのこと。これは地球から太陽までの距離に該当するということで会場を沸かせました。

新規性の多いゲームであったことから開発当初、ナイアンティック・ラボはこの作品の可能性はそこまで見えていなかったとのこと。しかし、アップデートを繰り返すことで、急速に広がりはじめ、日本でも昨年の夏以降、iOSサービスをはじめてからユーザーが急増し、今、日本はユーザー数が世界で1位か2位を争う程にまで成長しているとのこと。また、開発当初に生まれた「アウトドアで楽しめるエンターテインメント」というコンセプトは実際にユーザーに届いたとし、その例としてヘリコプターをチャーターして拠点を押さえようと試みた人やプライベートジェット、オートバイや車を改造するなどしてプレイするひとも現れたことを説明し会場の笑いを誘っていました。

また、開発時は、一般的なゲームと同様に15歳以上の男性ユーザーがメインユーザーだと想定していたものの、実際には老若男女、あらゆる年代の人たちがプレイしており、家族連れも多かったとのこと。これについては、本当に嬉しかったとハンケ氏。また、友達についても、「スペシャル」な友達を見つけたケースも報告。さらに結婚したひとも。

事実、カンファレンス前日におこなわれた、大規模公式イベント「Shonin〜証人〜」でもレジスタント陣営とエンライテンド陣営の間で出来たカップルがイベントにあわせて入籍したことが報告され参加者全員が文字通り「証人」となってそれを祝ったということも報告されました。



更には結婚したカップルから赤ちゃんが生まれたという報告も届くようになったとのこと。このような赤ちゃんを「イングレスベイビー」と呼んでいるとのことです。また、83歳の車椅子に乗っている女性も子供たちがプレイしていることをきっかけに一緒にプレイをはじめ、毎日3キロ歩くようになったとのこと。結局2年間で1000キロを踏破したとのことです。この他にもダイエットに成功した人や『イングレス』がなければきっとやらなかったと思われる壮大なプロジェクトを達成したプレイヤーもいたとのことです。例えば2日で1600キロを移動する、ポータルを奪取するために山脈を踏破する、更には北米大陸を縦断する巨大リンクをつくるために、チームで小型飛行機をチャーターし、メンバーの1人をアラスカに送って重要拠点を奪取したチームなどとハンケ氏は紹介。

また、プレイヤーの中には、『イングレス』の紋章をタトウーにするひとも多数いたとのこと。なぜそこまでするのかチームで考え、彼らにとって『イングレス』はもはや生活の一部分を形成しており、その思いの深さがあるのではと結論づけたとのことです。この点はたしかに一般的なテレビゲームのムーブメントとは違いますね。

■ゲームと物語が融合した『イングレス』のデザイン

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『イングレス』を開発するにあたり、まず考えたのはデバイスのユーザー動向だったとハンケ氏は当時を思い出します。スマートフォンユーザーは頻繁にアプリを切り替える傾向にあるとのこと。ゲームだけでなくソーシャルメディアを見たり、自分で使ったりということです。

したがってゲーム内でストーリーを語るよりも数多くあるSNSを使って物語を展開したらどうかという案が生まれたのです。多くのプレイヤーはLINEやFacebook、Google Hangoutsなど様々なツールを使いこなしてゲームをプレイしているのでこの重要性は実感しているだろうとハンケ氏。もちろん、ストーリーをよりわかりやすくするためにコミック、2冊の小説並びに資料集も既にリリースしており、従来の方法で物語を理解したい人もこれらを読むことでストーリーを追えるようにしたとのこと。ただ多くの人は、前述のようにインターネットやSNS上に存在する膨大な物語の断片を読み解いて『イングレス』世界の真相を解釈していくことになります。

さらに『イングレス』の物語展開で特徴的なのは、現実で開催されるリアルイベントと劇中の物語が密接に統合されている点だとハンケ氏は言います。これもゲーム開発当初からデザインしていたわけではなかったとのこと。ナイアンティック・ラボとして最初に企画したイベントは2013年1月にカホキア遺跡にて開催。参加者も本場のアメリカで開催したのにもかかわらず60名と、イベント形態も現在のそれとはまったく違がっていたとハンケ氏は当時を述懐します。ただ、だれが来るかも分からないままはじめたのにも関わらず60名ものプレイヤーが集まったことに対し非常に驚いたとハンケ氏。その結果、更に、イベントに注力していこうと決めたのです。同時に、ゲームプレイの結果に基づいてストーリーを展開させるという戦略を思い立ったのです。これは現在、『イングレス』の核心的な部分を占めるようになりました。つまり、現実で実施された主要イベントでの戦いの成果が『イングレス』のストーリー展開を左右するしくみにしたのです。

例えば現在は『Shonin〜証人〜』のフィナーレを迎えている最中ですが、このエピソードでは、主要登場人物のデブラ・ボグラノヴィッチ博士が焦点になっていました。今回、世界全体でレジスタンス陣営が勝利したので、今後、デブラは、レジスタンスを援助するキャラクターとなり、ゲームプレイにも影響を及ぼすことになるだろうとハンケ氏は今後のゲーム展開を示唆しました。



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当初こういったイベントは毎月開催していたのですが、それだとユーザーにとっても話の展開を追いにくいということもあり、2013年の後半から3か月ごとに実施することにしたとのこと。ちょうどテレビの1シーズンに近いタイミングでしょうか。その後、イベントもよりスムーズに行えるようになったとのこと。もちろん、日本でもイベントをおこなっているわけですが、すごいのは、日本のプレイヤーはとりわけクリエイティブであるとハンケ氏は、日本のファンを高く評価。横須賀市では、スカジャンがつくられ、Tシャツや、ポスターなど様々な二次創作がプレイヤーの手で作られていることに驚いたとハンケ氏。このような中、京都で開催されたShonin〜証人〜では史上最大の人数である5600人以上が集まったと改めて感謝を示しました。一方、ヨーロッパで一番ユーザー規模が大きいのはドイツとのこと。だだ、ヨーロッパではイベントを開くたびにヨーロッパ中のひとたちが集まりゲームを楽しむという傾向があるとも。この他にイベントは世界中でおこなわれてきており、今後もこれは継続されるとのこと。

このようにゲームをプレイすることで世界中の人たちが国境を越えてつながることができることが素晴らしいとハンケ氏。具体的な例としてシャードと呼ばれるヴァーチャル・オブジェクトを世界中で移動させるという、世界を舞台とした大玉ころがしのようなゲームプレイについて説明。

このイベントをきっかけにプレイヤー間でグローバル規模の諜報ネットワークが形成されたとのこと。Google Hangoutsを用いて世界中のプレイヤーが情報を共有し、国境を越えてシャードを運ぶのです。これによって地域ごとに存在するコミュニティがグローバル規模でつながったとハンケ氏。例えば「オペレーションフライドチキン」では日本のプレイヤーが協力して、シャードをハワイへと運んでいったとのことです。ちなみにハンケ氏がこのオペレーションに参加したひとは挙手をするよう会場で聞くと、数名が手をあげ、喝采を浴びていました。

また日本や韓国、台湾のひとたちが一緒に協力したり、中東の人とイスラエルの人がオペレーションで実際に協力することもあるとのこと。これについて、ハンケ氏は改めて驚きをあらわしつつもこういった『イングレス』の可能性に期待を見せました。



■『Endgame』、API公開と新たな戦略が目白押しのナイアンティック・ラボ

このように多いに盛り上がる『イングレス』。今後はどうなるでしょうか?まず、APIを公開するとハンケ氏。また、新作『Endgame』と『イングレス』の違いとして、それ自体が既にグローバル規模で人気のあるコンテンツであることを言及。ゲームに小説、映画とこれまで以上に大きなスケールで融合を果たすつもりだとのこと。またこのようなゲームをより多くのデベロッパーが開発してもらえたらと展望を述べ、講演を締めくくりました。日本では、昨年12月に行われた公式イベントのDarsana(ダルサナ)よりムーブメントが一気に顕著化したように見えますが、ハンケ氏の話を聞く限りこれまでの展開はまだ序の口といったところ。これからのナイアンティック・ラボの更なる壮大なビジョンがどう現実となるのが、今から楽しみですね。
《中村彰憲》

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