『エルシャダイ』に見る新規IP立ち上げの実情・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第17回 | GameBusiness.jp

『エルシャダイ』に見る新規IP立ち上げの実情・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第17回

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今回は、久々に筆者が所属する立命館大学映像学部で開催しているクリエイティブ・リーダーシップセミナーでの講演の模様をお伝えします。
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今回は、久々に筆者が所属する立命館大学映像学部で開催しているクリエイティブ・リーダーシップセミナーでの講演の模様をお伝えします。

同講座は、映像産業において第一線で活躍している方々をお招きし、世で脚光を浴びる様々な作品が如何にして作られ人の手に渡るようプロデュースされているのかを180分に渡ってお話しいただくというもの。今回は、『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON(エルシャダイ アセンション オブ ザ メタトロン)』(以下、『エルシャダイ』)のディレクター竹安佐和記氏、同プロデューサーの木村雅人氏、並びにマーケティングディレクターの上西華子氏が講演を行いました。

第一部は、竹安氏がクリエイターになる上で重要な心構えを自身が携わって来たプロジェクトでのエピソードなども交えて講演を行い、第二部では、木村氏、上西氏が加わって、『エルシャダイ』が如何なる仕掛けでユーザーの手に届いたのかを時系列で語っていただきました。

■「明日のあなた」を信頼出来れば人生は常に「大丈夫だ、問題ない」

講演において竹安氏は、人生で成功するうえで自身が重要だと感じてきた3つの原則を紹介しました。最初に語ったのが「明日のあなた」を信頼することの重要性。大学受験、学生生活と多くの面で苦労を重ねたものの、『エルシャダイ』を完成させた今、その経験を振り返ると、今の自分をつくりあげるうえでこれらの経験も不可欠だったとしたうえで、最良の選択を導き出せるのは、それを経験済みの「明日の自分」のみだと竹安氏。従って、今の自分を安直に判断してしまうのではなく、与えられた課題をクリアし続けることが重要とのこと。そうすれば失敗に対する恐怖などの雑念を取り払って、チャレンジ精神を育てることが出来ると述べました。これらの点については『エルシャダイ』の名セリフ「大丈夫だ、問題ない」が竹安氏のこのような視点から生まれてきたとも受け取れ、大変興味深いです。

■無知という才能が人々に波乱万丈の人生を約束する

竹安氏が2番目の原則として挙げたのが「無知という才能」。竹安氏によれば『エルシャダイ』がユーザーの手に渡っている事自体が無知の才能の賜物であるとのこと。「コンシューマハードで開発するには会社を設立するだけでも資金が莫大に掛るうえに設立条件も大変厳しい。これらを事前に知っていたのであれば会社を設立しようなんて思わなかった」と竹安氏。組織作りにも大変苦労されたとのこと。竹安氏が当初信頼をおいていたデザイナーも程なくして会社を辞めていくなど厳しい局面が続いたものの「彼らがいなくなった事でそれをきっかけに自分自身が成長出来た」(竹安氏)。従って、チャレンジが困難になればなるほど、何が成果につながるかというのは分からなくなると自身の経験を踏まえて説明しました。

また、『エルシャダイ』のプロジェクトチームではスタッフの入れ替わりが激しかったことから「海賊船のようだった」と当時のチームの様相を表現。「たまたま来た船に乗りながら、つぎの港で降りるかどうかを決める」という状態であったことを明かし、他のプロジェクトでは経験出来ない多くの事を学んだとしながらも、もし事前にここまで苦境を味わうと知っていたのなら開発しなかったと述べました。「自分に“無知の才能”が無ければ『エルシャダイ』の完成まで導かれる事はなかった」(竹安氏)。これらを総じて、“無知の才能”は恐怖を克服出来ると同時に明日に進める力を与えてくれるとしました。

また、“無知の才能”を極めることで、論理を基盤に超一流に上り詰めた人たちに打ち勝てるとも。ただそこに行きつくために如何なる状況に陥ろうとも、そこには何らかの意味が存在することを信じる事が重要であるとしました。

■最後の人生―ルシフェルの指鳴りは、「この瞬間」に賭ける竹安氏自身の象徴

竹安氏による三つめの原則は「最後の人生」でした。つまり、人は自身の失敗を恐れて躊躇する傾向があることに触れた上で、人が死ぬ間際の願いは「時間を取り戻したい」という思いであるとし、取り戻したい「時間」は「今の自分の時間」であるとしました。だからこそ今存在する自分の価値を改めて認識するべきと竹安氏。『エルシャダイ』においてルシフェルの指鳴りに象徴されたリトライ機能は、竹安氏自身が気持ちを切り替えたり、物事を新たな気分でやり直したいときに、普段からおこなっている事をゲーム化したと明かしたうえで、人生のひととき、ひとときを前向きに取り組んでいくことの意義を唱えました。

また3つに共通することは、「選択」であるとのこと。人生においては、入学、卒業、就職といった、誰かによって定められてしまう「予定選択」と、何も決まっていないところに自分の意識で次々に物事を決定できる「自由選択」があると分類。 就職の場合、企業の数だけで就職先を選べるということを引き合いに「予定選択」は意外に選択肢が多いのに対し、「自由選択」は収入を稼ぐ、自分の好きな事を追求する、ビジョンを描くといった必要条件を満たすことを想定していくと意外に選択肢は少ないと分析。また予定選択の場合、組織が守ってくれるのでだらだらと出来るときもあるが、自由選択の場合、常に最善を選ばなければならないという圧力があるとも。『エルシャダイ』でデザインした3つの武器というのは、このように「自由選択」のとき、真剣に悩んで決めるときに残る3つの選択肢を象徴しているとのこと。「それ以外の選択はその3つより劣る」と竹安氏。更にそのうちの一つは「食べていかなければならない」という選択であることから、新しい選択は2つしかないという現実を示しました。また、何かを選ぶときは素手で臨まなければならないとも。「『エルシャダイ』をプレイして、3つの選択肢から1つを選ぶ訓練をしてほしい」(竹安氏)。また、生きることを「行動すること」と定義したうえで、人として生きていくうえで重要なのは、「とにかく動き続ける事」と竹安氏。たとえ敵をつくったとしても動き続けると、未来が見えてくるとのこと。

最後に、竹安氏は「明日のあなた」を信じ、「無知なる才能」を武器にして「最後の人生」という意識を持てば新しい時代を切り開くことが出来るとこれら3つの原則の重要性を改めて強調し、10年、20年後にはクリエイティブの世界で一緒に仕事が出来るようにと学生にエールを送って締めくくりました。

■後半はEDWINによる最強装備で登壇。広報展開もコラボレーションも要となるのは人との絆

第二部は、前述の竹安氏に加え、木村雅人プロデューサー、ならびに上西華子マーケティングディレクターが登壇し、『エルシャダイ』のマーケティング及び広報展開についてパネルディスカッション形式で講演しました。ただし、そこでの内容の多くは本コラム第15回で言及した内容と重複しているので、ここでは今回新たなに明らかになった内容を中心にお伝えします。冒頭では、3人がそれぞれ、敵の攻撃を寄せ付けないスペシャルコスチュームである、EDWINのデニムジャケットを「装着」して登壇。このジャケットは講演当日よりEDWINから入手可能であることも告げました。こういった「演出」自体、広報としての技を感じることが出来きます。

まず、冒頭で、木村雅人プロデューサーが、今回登壇している3人の役割に関する定義づけをおこないました。木村氏は、ディレクターはモノをつくる人、マーケティングディレクターはそれをお客さんに伝える人、そしてプロデューサーはその間に挟まれる人だとしました。更に、プロデューサーの役割に近い例として高校野球チームにおける顧問の先生をあげ、ディレクターが監督である同時にピッチャーであるのに対し、プロデューサーは顧問の先生でありキャッチャーであると木村氏。練習試合のアレンジ、場所の手配、部員の募集など業務は多岐に渡り、なんでもやることが仕事だと述べました。

一方で、マーケティングディレクターは作品について人々に伝えることが仕事であり、発売までに行われた様々な広報展開には意味があると木村プロデューサー。10年5月、ゲーム雑誌に初出が行われたのも「このような新しいゲームをつくっていますと告知することで、翌月のE3のときにメディアの皆さんが取材してくれる。」とその意図を説明しました。

なお、プロモーションを行う上でイベントは重要な役割を果たすと上西氏。『エルシャダイ』においては、上西氏と木村プロデューサが本社を説得して、東京ゲームショウ2010(以下、TGS)での出展が実現したというのは本コラム第15回でもお伝えしたとおり。その結果もあって、E3、gamesconそして、TGSとそれぞれ出展・参加しているわけですが、E3は世界に向けての情報発信、gamesconはヨーロッパのメディアに対して、TGSはアジアのメディア関係者に加え、お客様に実際に触っていただける最初の場としての意味合いをもっているとのこと。特に『エルシャダイ』に関して言えば、「TGSの後から話題になったことを考えると、場合によっては発売がされていなかったもしれない位TGSでの出展は重要だった」(木村氏)とのことで、モノづくりとプロモーションは、作品が成功するための重要性は同等であるとその意義を改めて強調しました。

なお、世界中のメディアと接する中で「日本と欧米メディアの反応の違いが興味深かった」と上西氏。同氏によれば、『エルシャダイ』がベースとしている旧約聖書の世界観は多くの日本人にとっては馴染みの無いものであるのに対し、欧米の人たちは、日本人が桃太郎などの昔話を寝る前に聞くように、聖書の話を聞いて育っているとのこと。従って、イーノックやルシフェルに対する知識もあらかじめ持っているため、比較的頻繁に質問されたのが、「なぜ、日本人の開発スタッフが聖書の世界をモチーフにゲームをつくったのか」という質問だったとのこと。なお、ゲームそのものに関する質問をストレートに聞いてくるアメリカのゲームメディアに対し、ヨーロッパのメディアは竹安ディレクターの描くキャラクターや、世界観に興味を持った場合が多く、これは、「ヨーロッパの人たちの日本アニメなどに対する高い関心」からと独自に分析しました。 

■「善意の広がり」がコンテンツを更に盛り上げる

なお、TGS後のユーザーによる反響についても言及。 木村プロデューサーは、東京大学生協の回答欄からツタヤのレシート、更にはクックパッドやキャラ弁にまで『エルシャダイ』が扱われていたという事実を受けて、一般の人たちに自分たちの発信したメッセージが伝わったということに対し改めて喜びを示しました。なお、その後の反響も大きく、年末年始には数多くの年賀状が、バレンタインデーにはたくさんのチョコレートが送られてきたとのこと。そこで、正月3が日に届いた年賀状に対しては、竹安ディレクター自らが返信用イラストを描き起こし、直筆で返事を送ったとのこと。バレンタインでは「その心のこもってる具合に本当に感動した」と上西氏。「ここまで一生懸命にプレゼントを贈ったのであればきっと贈り主は反応を期待しているはず」(同氏)と思い、すぐにお礼をリリースで流したとのこと。その結果、年賀状を受け取った人やリリースを見た人がTwitterやブログで反応してくれた様子を上西氏は「まるで善意の広がりのよう」と表現。これらを引き合いに、ソーシャルメディア全盛の時代における広報展開は、ユーザーとのキャッチボールが非常に重要であると述べました。

また、ユーザーとの対話で話題が次々と広がったことで、自分たちが想定していなかったメディアからの取材も増えたと木村プロデューサ。これらにはBBCといった海外の一般メディアも含まれ、これらは直接的なユーザーとのコミュニケーションによる波及効果であるとし、その重要性を伝えました。

また、冒頭でも紹介したEDWINとのコラボレーションを端緒とした様々な連携についても、「サントラ、設定資料集、ネフィリムの絵本を含め、コラボ先の皆さんが予想以上に販売出来たと喜んでくれました。」と木村プロデューサー。同時にスクウェアエニックスや、セガといった大手ゲーム企業とも競合にならない範囲でコラボレーション出来たのはこれまで業界と深いつながりをもってネットワークを広げてきたベテランスタッフが揃っていた結果であると述べました。

このように3時間に渡る講演は『エルシャダイ』という一つの作品をコアとしながらも課題は多岐にわたり、コンテンツビジネスというものが如何に複雑なのかを改めて実感出来ました。受講対象者のほとんどが1年生であることを考えると、講演で語られた内容の全てを理解することは困難かもしれません。ですが、このような形で刺激を受け、コンテンツ産業に対して新たなる挑戦をする学生が増えることを心から望みます。
《中村彰憲》

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