海外の消費者に向き合うために必要なのは「グローバル」なゲームではない・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第12回 | GameBusiness.jp

海外の消費者に向き合うために必要なのは「グローバル」なゲームではない・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第12回

今月のコラムをはじめるにあたって、ある明らかな事実について一言述べておきましょう。それは、日本のデベロッパーは海外のゲームプレイヤーについて疎くなっているということです。

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今月のコラムをはじめるにあたって、ある明らかな事実について一言述べておきましょう。それは、日本のデベロッパーは海外のゲームプレイヤーについて疎くなっているということです。

とはいえ、欧米のデベロッパーが日本のゲームプレイヤーとのつながりを保っているかといえば、そんなこともありません。

どちらのケースにも生じているこの問題について、もう一言。とてもシンプルに言わせてもらうならばそれは、理解不足です。とりわけ、制作側と消費者との間の理解不足、ということができるでしょう。

日本がかつてビデオゲームの世界を牛耳っていたことに異論を挟む余地はありません。世界的に認知されたその質の高さに鑑みて、順調に開発を続け、国際的なフランチャイズをモノにするだろうと思われていました。今思い返してみればこれは、前人未到のジャンルを探索、そして創造していた黄金時代だったのでしょう。

今日でも、日本の黄金期を支えた多くの会社が国際的な成功を手にし、今もなおゲーム制作におけるその比類無き力を世界中で発揮しています。その反面、日本でベストセラーを達成した新しいゲームであっても、欧米のゲームが技術的にも売り上げ的にも進出に成功した広大かつ魅力的な市場である海外においては、同じような評価を得ることができないということもあるのです。

どうしてこのようなことになっているのでしょうか。

この問題にはたくさんの要素がからみ合っています。一言で解決しえないとはいえ、上述した問題に関連する側面を指摘することはできます。つまり、この分裂は制作側と国外の消費者との間にできてしまったものなのです。あるいは、制作側が作るものと国外の消費者がプレイしたいものとの間にギャップがあるのだ、ということもできるでしょう。

もちろん例外もあるでしょうし、この問題はそもそも、日本/欧米どちらか片方だけの問題というものではありません。国毎ないし地域毎の売り上げチャートに目をやれば、その国や地域で開発されたゲームは自国の市場においては成功しやすいことがわかるでしょう。もちろん、自国の市場のニーズに合わせたサービスを供給するのはすばらしいことです。とはいうものの、より大きな、しかも今もなお成長を続けている海外市場を視野に入れているデベロッパーにとっては、やはりどうしても海外の消費者を惹きつけていく方法を知ることが必要不可欠なのです。

してみると最も重要なことは、この問題をどう解決するのか、そしてどうやって解決するのか、ということになるでしょう。

残念ながら万能薬などは存在しません。その代わりに、シンプルなプランをご提案しましょう。それは「消費者を知ること」にほかなりません。そのための最良かつ最も広く用いられている方法が、練り上げられた市場調査を開発の全段階を通じて実施していくことなのです。

よろしければ、今日のゲームにとって市場調査がなぜこんなに重要なのか、説明させていただきましょう。どうぞ、お付き合い下さい。

理由その1・ゲームプレイヤーはもはや子どもではありません。プレイヤーたちはゲームにおける自身の文化的特質をすでに獲得してしまっているため、制作側はプレイヤーの新たなニーズ、より洗練されたニーズを改めて知る必要があるのです。
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20年前とは異なり、ビデオゲームはもはや珍しいものではありません。それどころかすでに産業の一角を担っているのです。かつては日本のパブリッシャーはパイオニアでしたから、市場をリードする立場にありました。しかしながら今現在では、ビデオゲームはかつてのようにニッチ製品ではありません。現在ではほとんどの世代が何らかの形でビデオゲームに関わったり、実際にプレイしているのです。

そのため、ゲームの消費者が成長したのだということを念頭に置く必要があります。ゲーマーコミュニティの黎明期に機能していたようなゲームコンセプトでは、より分類が進み、洗練された今日のゲームの消費者を相手にしてうまく機能するはずがありません。

今日のゲーマーは人口統計、文化的背景、ゲームの習慣、個人的なバックグラウンド、価値観といった国や地域に特有の、様々な変数の総計として形作られるものです。まさにこのことが、ローカルエンドユーザーを視野に入れたゲーム制作を要求しているのです。

このことは日本のゲームを一般化するとか、世界的なものにするとか、そういうことではありません。むしろ、ゲーム性に国や地域に特有のニーズを取り入れていくこと、それが海外の消費者へ日本製ゲームを届ける事にほかなりません。

このことはストーリーの語り口、キャラクター・デザイン、ゲームのメカニズム、ゲームのコントロールなどなど、開発の最初の段階からずっと、あらゆることに関わっているのです。これはもはやローカライズというより「カルチュアライズ」と名づけたいくらいのものですが、ここまで進めるためには、目標とする消費者を対象とする調査がデベロッパーにとって必要不可欠なのです。

この努力とはつまり、ゲーマーが何を必要として何を必要としていないかを知り、ゲーマーのアイデンティティを理解することです。その上でようやくデベロッパーは、ゲームのアイディアを一般化するのみならず、目標とするプレイヤーに向けたゲームを開発することが可能となるのです。

理由その2・各地域のデベロッパーがそれぞれの地域のゲーマーたちとコミュニケーションをとっていないのであれば、オフショアリングでの開発もこの問題の解決には成り得ません。求められているのは「グローバル」ゲームでなく、「ローカル」ゲームなのです。

上述してきた問題に対処するため、いくつかの日本のデベロッパーは欧米とコラボレーションを行ってきました。世界的な訴求力を持つものを制作するため、日本が監修を行い、欧米のデベロッパーが制作したというケースがあるのです。しかしながら、このプランには成功の保証もないどころか、陥りがちな危険がいくつか存在します。

その一例として、ビジネスのタイプにおける文化的な差異があります。日本の企業においては、今でも「トップダウン」型のものがよくみうけられます。しかしトップダウン型では、開発の現場で出てきたことに適応することはなかなかできません。実際、決定権が日本の本部にあったためにオーダーの順序を変更することができず、海外で生まれたアイディアやコンセプトを実行することができなかったというケースがあります。しかもこれらのアイディアは、開発プロセスからは完全に切り離されているはずのマネージメントチームが管理していたというから驚きです。さすがに不本意な結果しか得られなかったようですが、私たちにとっては有益なアイディアを供給することになりました。

もうひとつの危険は、ある地域の開発スタッフが、その地域の消費者を理解していると考えてしまうことにあります。もしコンセプトデザインやコンセプト開発が目標とする消費者のニーズに適うものでなかった場合、最終的な製品は成功しない、これが真相です。その地域のデベロッパーは消費者と向い合っているのだから、深く理解しているに違いない、このように単純に考えてしまうことが誤りなのです。消費者を理解することは実際のプレイヤーへの体系的な、そして徹底的な調査を通してのみ、可能なことなのです。

「グローバル」なゲームを開発することは実のところ、「ローカル」が求めるコミュニケーションの輪を共有することにほかなりません。そしてこのことは開発の各段階で実施される市場調査によってのみ、可能となるのです。

可能なかぎりシンプルに表現するならば、このプロセスは以下の三段階となります。

1. 開発前には、調査によって目標とするプレイヤーのニーズや要求を調べ、その結果に基づいてゲームコンセプトを定める。
2. 開発中は、開発中のゲーム内の要素に対するフィードバックを入手し、最終的な発表に向けて調整を続ける。
3. ゲームを発表してからは、プレイヤーからのゲームについてのありとあらゆるフィードバックを入手、将来のプロジェクトに用いるため、フィードバックを分析する。
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最終的には、世界中のいろいろな地域で同じゲームの異なるバージョンが発表される、このような「カルチャライズによる開発」がスタンダードとなることでしょう。もっとも現時点では遠い遠い目標というほかはありませんが。

理由その3・何がプレイヤーの習慣なのかを知るだけでは十分ではありません。なぜそのような習慣があるのかを理解することが必要で、その上でどうやってプレイヤーに働きかけるかが重要なのです。

統計のデータだけでは先へと進むことはできません。消費者をより深く理解するには、まず質のいいデータを集めることが必須で、そのうえで量の面でも十分に集めることができてようやく、デベロッパーは目標とする消費者の全体像をつかむことができるのです。

市場調査は、サーベイとフォーカステストの二つを支柱としています。

サーベイでは傾向、兆候、トレンドなどを把握することができます。つまり、ゲームの将来についての「なに」と「どこ」とを把握することができるのです。そしてフォーカステストでは感情や見識、つまり「なぜ」と「どうして」とを把握できます。そのうえでデベロッパーは、トレンドや見通しの面で有利になるように、アイディアを創り上げていくことができるのです。

実際のゲーマーを対象としたサンプリングサーベイからは、消費者の習慣についての「ハード」面での要素を確認することができます。サーベイは一般化することによって、人間の振る舞いについての仮説を導き出すことになるのです。また、フォーカステストからはゲーマーの精神的な部分、「ハート」面に関する見識を得ることになるでしょう。また、グループセッション中は制限などありません。ゲーマーにアイディアを自由に表現してもらうことで、デベロッパーに対する生のフィードバックが提供されるのです。思いもよらなかったような新しいアイディアが提供され、驚かされるということもよくあるのです。

フォーカステストによって数値に隠された意味を引き出せば、これらの仮説を確認することができ、それによって仮説から学ぶことができるのです。ゲームをプレイすることで、あるいはゲームのコンテンツに反応することで明るみに出てくることになる感情、皮肉、緊張といったものを、目標とするユーザー像として纏め上げ、単なる統計だけでは埋めることのできなかったギャップを埋め合わせることができるのです。

このような状況を満たしてはじめて、デベロッパーは「どうして」を理解することができるのです。まさにこれこそが、上述のデータや情報が作用するプロセスにおける、最も重要な部分となります。目標とする消費者に訴えかけるような製品を生み出すため、地域に特有のアイディアやコンテンツをどのようにゲームに実装するか。このことが最も重要だと言えるのではないでしょうか。

■おわりに

フォーカスグループテストならば、ゲーム性に関する印象についての消費者の考え方を集めることで、デベロッパーにゲームコンセプトをより深く考えさせてくれます。このプロセスを通じて、特有の市場に向けてカルチャライズしたゲームを制作するために、デベロッパーはデザインやメカニズムの選択肢を考えていくことができるのです。あらゆるデベロッパーは今もなお成熟していくゲーマー像に自覚的でなければなりませんし、テイストが世界的に移り変わっていることについても自覚的でなければなりません。もちろん、ただ知るだけでは不十分です。そのニーズに応えるゲームを仕立て上げるためにも、プレイヤーの「ローカル」な声に耳を傾けることが必要です。そしてそのためにはエンドユーザーを理解することが必要不可欠なのです。
《イバイ・アメストイ》

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