9月2日、ゲームにまつわるマーケティングを手掛ける、リュウズオフィスが特別セミナー「広告クリエイティブの科学×TVCMからショート動画まで、ゲームを伝える5つの映像の作り方」を開催しました。
リュウズオフィス代表取締役の小沼 竜太氏が登壇した「広告クリエイティブの科学」では、理論的かつ実践的なマーケティングの理論について、同社チーフマネージャーの渡邊 高雄氏のセッション「TVCMからショート動画まで、ゲームを伝える5つの映像の作り方」では、マーケティングにおける映像制作で重視すべきところが語られました。
本稿では、その模様についてお伝えしていきます。
「広告クリエイティブの科学」

冒頭では、広告クリエイティブの売上への寄与が過小評価されている現状が示されました。ある調査では製品の売上効果に占めるクリエイティブの寄与が49%とされているのに対し、別に行われた調査では「広告クリエイティブは売上にどれくらい寄与していると感じたか」という質問に対し19%と、2.5倍の差が報告されました。

「説得」か「記憶」か
第1章「120年の研究の決着」では、約120年にわたる広告研究を 「説得」の系譜、「記憶」の系譜のふたつにわけて見ていくことになりました。前者は、広告が消費者の態度を変え、購買へ導くという考え方。後者は消費者が広告を注意深く見ているとは限らないことを前提としています。
「説得」の系譜では注目(Attention)、興味(Interest)、欲求(Desire)、行動(Action) の段階を踏んで購買に至る「AIDA」 の考えや、広告によるコミュニケーションを「認知・理解・確信・行動」という段階に分け、それぞれを測定可能な広告目標とする「DAGMAR」などが存在していると紹介されました。

一方で、記憶の系譜では「消費者が広告を注意深く見ているとは限らない」ことを前提としています。広告との接触を重ねることで商品を記憶する「低関与学習」や、広告は既存の認識や購買経験を強化するものだと捉える「弱い理論」、注視していなくてもブランドとイメージの結びつきが形成される「低注意処理」などの学説を挙げつつ、「記憶」の系譜をデータから裏付けたものとして、バイロン・シャープ氏の「ブランディングの科学」を紹介。
同書の主張を“購買データから解き明かした到達点”として、「コアファンよりも、ライトユーザー」「ターゲティングよりも想起」「差別化よりも、識別」の3点に整理します。ゲーム広告でも、購買時に作品を思い出してもらうことや、一瞬で「あの作品だ」と分かる固有の記号を持つことが重要になります。
そしてこれらの考え方は、基礎心理学でも先に示されていたとのこと。 繰り返し目にする「単純接触効果」、楽に処理できる情報こそ好かれる「処理流暢性」、似たものの中でひとつだけ違う物が目立つ「孤立効果」などが、好意や記憶につながると説明します。

こうした議論を踏まえ、小沼氏は広告の役割を、消費者を説得することではなく「記憶を作り、更新すること」と説明。感情を動かすことについても、直接購買へ導くためではなく、記憶を定着させる役割として捉えるべきだと述べました。
ゲームではクリエイティブが「商品体験」を担う
ゲームは、購入して遊ぶまで実際の「商品体験」を確かめにくい分野です。体験版やゲーム実況などもあれど、多くのユーザーが購入前に目にするのは、主にPVやスクリーンショット、ストア上の説明文となります。そのため小沼氏は広告クリエイティブが事実上の商品体験を伝える役割を担っていると説明しました。
そして、この点で重要な要素のひとつはキービジュアルです。しかしリュウズオフィスが約900本のゲームを対象に生成AIを用いて調査したところ、複雑なゲームシステムはキービジュアルだけでは伝わりにくい傾向が見られました。『Euro Truck Simulator 2』などは「トラックで運搬するシミュレーター」と一目でわかるものの、アクションなどのジャンルでは、ビジュアルだけでは内容が伝わりにくいものです。

小沼氏は、キービジュアルが担う要素を「仕組み」「雰囲気」「識別」の3つに整理。複数の要素を同時に伝えることは難しいですが、ジャンルを示す言葉をロゴに「サバイバー」「シミュレーター」と加えるなど“絵と文字を組み合わせること”は有効だと述べました。
また、特に重要なのが作品を初めて発表する「初報」だと言います。基本的に、新作ゲームは誰にも知られていない状態から始まります。初報はその後の土台となる「どのような文脈で作品を覚えてもらうか」を決める機会になります。
そのうえで、広告クリエイティブには「目に留まる」「見続けられる」「記憶に残る」という3つのハードルがあります。操作と結果の因果関係や感情の動きを伝えるうえで動画の重要性が高まっているとも語りました。
記憶に残るには最低2.5秒の接触が必要とする研究結果があると説明したうえで、デジタル広告の85%はその水準に達していないと述べます。静止画にも重要な役割はありますが、ゲーム体験を伝えるうえでは限界も存在しています。
レコメンド型へ移行したXでは「滞在時間」が重要に

続いてはXについて語られました。小沼氏は、Xを日本のゲームマーケティングにおける主戦場と位置付けているとのこと。ゲームの話題はXで生まれて広がることが多く、作品発表やトレーラー公開、一次拡散の起点として機能しています。さらに、最近ではGrokによる翻訳を通じて日本語の投稿が海外へ届く機会も増えていると説明しました。
その一方で、変化も生じています。Xはフォローしたアカウントの投稿が時系列順に並ぶタイムライン型から、投稿ごとに評価して表示対象を決めるレコメンド型(おすすめ)へ移行しています。現在は「いいね」よりも共有につながる反応や、投稿を見た時間が重視されているといいます。リポストも引用RPでないかぎりフォロー外への拡散力が低下していると解説されました 。
これにより投稿ごとにアルゴリズムを意識し滞在時間を確保できるクリエイティブが必要となります。これは「接触時間を確保して記憶に残す」という広告の目的とも一致しています。
データとコンテキストからクリエイティブを設計

リュウズオフィスでは、クリエイティブの企画に入る前に「コンテキスト分析」を行っているとのこと。その結果、「現在どのように認識されているか」と「どのように想起されたいか」の差を計測していきます。その事例として紹介されたのが、悪魔の少女と酒を使ったロシアンルーレットに挑む『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』での取り組みです。
同作は「ヤンデレ悪魔とのワンナイト」という理解しやすい設定や、世界各地で理解されやすい飲酒という題材、類似作品の少ない「酒×ロシアンルーレット」というテーマを分析したと言います。さらに「INDIE Live Expo」を発表の場に選ぶなどの要素も組み込まれています。

キービジュアルでは、ピンクの酒瓶やショットグラス、ロゴ内の「SHOT」という文字によってゲームの仕組みを伝え、配色やフォントなどで「地獄のバー」という雰囲気がすぐにわかるよう表現したと言います。そして記号性を高めた悪魔っ子「ファム・スール」を大きく配置し、中心的な存在としました。結果、同作は公開直後にXで数百万インプレッションを記録。早期に約30万件のウィッシュリスト登録を獲得し、発売前の段階からインディーゲームファンのみならず大きな注目を集めています。

小沼氏は「クリエイティブはセンスや感性の聖域ではない。ただし科学の植民地でもない」との言葉で講演を締めくくります。まず市場や作品、ユーザーを科学的に読み解き、その後に感性を使ってアウトプットを考えることが重要です。完成したクリエイティブに後からデータ上の理由を付けるのではなく、分析から企画へ進む順番を守っていると説明し、「広告クリエイティブの科学」を締めくくりました。
TVCMからショート動画まで、ゲームを伝える5つの映像の作り方
第2部では、リュウズオフィスのチーフマネージャー・渡邊高雄氏のセッション「TVCMからショート動画まで、ゲームを伝える5つの映像の作り方」が行われました。
ゲームに積極的なユーザーの多くは動画サイトを主な情報源としており、現在ではYouTubeやTikTokをはじめ、X、TVCM、屋外ビジョン、店頭、映画館のシネアド、プラットフォーマーの番組、ストアページなど、映像の掲載先も多岐にわたります。

ただし、媒体が異なると同じ映像をそのまま流用することが最適とは限りません。本セッションで渡邊氏は「映像制作で迷わない5つの目印」と題して映像の作り方を解説していきました。
「冒頭のつかみで映像の価値が決まる」
静止画の場合、見る順番はユーザーが選べますが、映像は必ず冒頭から再生されるものです。そのため最初に興味を失われることを懸念すべきだと述べます。

その目安として、ショート動画では1秒、広告用出稿動画では5秒、「Nintendo Direct」のように視聴者が情報を見る番組内発表動画では10秒を重視するべきと述べました。冒頭に置くべきものも、映像の美しさだけでは決まりません。会社のロゴ、前作を想起させる映像や音、ゲームプレイ、音楽、キャラクターボイスなどから、視聴者が期待している情報を選ぶ必要があります。
「音は大事、もしかしたら映像よりも」

ここでは、実際の動画から解説が行われました。用意された動画は二本、「極端に映像が悪いもの」と「極端に音質が悪いもの」です。実際に聞いてみると、主観にはなりますが「極端に音質が悪いもの」の方が視聴に影響をきたしていました。
これを渡邊氏は、「人間は画面から視線をそらすことはできるが、耳を閉じることはできない」からと言います。不快に感じる質の悪い映像より、不快に感じる音声の方が時に意欲を削ぐのです。
次に、TVCMではテレビ画面を見てもらえないことを前提に作る必要があると述べられました。サンプルとして流されたのは、ニンテンドースイッチ版『NEEDY GIRL OVERDOSE』のCM。声優・杉田智和氏によるナレーションへと情報を集中させ、音だけでも作品名や内容が伝わる構成を採用したと言います。
「テロップは理解のための諸刃の剣」
また、映像だけでは説明できない情報を補ううえでテロップは有効です。ユーザーは映像を見て、音を聞き、さらに文字を読むことになります。しかし、情報を増やしすぎると認知上の負荷が高まり内容が伝わりにくくなるケースも存在します。
たとえばテロップがゲーム内のUIに重なってしまったり、表示時間の短さから読み切れなかったりすれば、情報としての意味がなくなってしまいます。映像、音、文字のどこに情報を担当させるのかを整理して負荷を分散させる必要があると語られました。
「視聴環境を意識してワンランクアップ」

また、実際の視聴環境で確認することも忘れてはいけません。渡邊氏によると、6~7割ほどはスマートフォンを利用しているとのこと。一方で映像制作者や確認担当者はパソコンや大型モニターで作業することが多く、この差を意識するべきと続けました。
たとえばパソコンでは読める文字がスマートフォンでは小さすぎたり、スマートフォンのスピーカーではナレーションが聞き取りにくかったりする可能性があります。テレビでもメーカーによって差異は発生します。
さらに踏み込み、たとえば屋外ビジョンでは、視聴者が信号待ちをしているのか、歩きながら見るのかによって受け取れる情報量が変わるとも語られました。
「欲張った映像は何ひとつ残せない」
そして、映像に要素を詰め込みすぎると、かえって何も記憶に残らないことも留意すべき点としました。ストーリー、ゲームプレイ、キャラクターなど、伝えたい内容に応じて映像を分ける必要があります。
特にショート動画では「一つの映像に一つのテーマ」が原則だと言います。可愛いと思ってもらいたいなら可愛さに集中し、かっこよさを伝えたいならそこに焦点を合わせるべきとの考えです。説明を目的とする場合はフルボイスとフルテロップを使い、感覚的な気持ちよさを伝える場合は、文字に頼らず映像や音で理解できる構成が適しています。

最後に渡邊氏は、映像を確認するための「5つの目印チェックリスト」を紹介しました。
冒頭で止めて、何のゲームか言えるか
音だけで一回通して見て、何の映像か伝わるか
一時停止せずにテロップを全部読み切れるか
スマートフォンで見て、文字が読めて音が聞き取れるか
映像で伝えたいことを一言で言えるか
ゲームの映像には、敵を倒す、生き残る、王になる、仲間と楽しむ、キャラクターと関係を築くといった「プレイヤーが得られる成功体験」を想像させる役割があります。その体験を一言で説明でき、視聴者にも同じ印象が残るかどうかが、映像を評価する重要な基準になります。
マーケティングに携わる業種の方はもちろん、現在では多くの方が自己発信をする時代です。両者が語るマーケティングの考え方は、多くの人にとって学びになるはず。本セミナーは、変わりゆく広告の世界にて意識していくべきものが多く示された内容となりました。






