ヨハン・セバスチャン・バッハ手法の音楽を無限に紡ぎ出す装置を作った。AIで作ったけど、音楽はAI生成ではありません(CloseBox) | GameBusiness.jp

ヨハン・セバスチャン・バッハ手法の音楽を無限に紡ぎ出す装置を作った。AIで作ったけど、音楽はAI生成ではありません(CloseBox)

ELPのキース・エマーソン、ギタリストのエリック・クラプトンの自動生成に続いて、現在のポピュラーミュージックの共通言語とも言える音楽理論のインタラクティブ教科書をClaude Fable 5で作成。次は古典に挑戦してみます。

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ELPのキース・エマーソン、ギタリストのエリック・クラプトンの自動生成に続いて、現在のポピュラーミュージックの共通言語とも言える音楽理論のインタラクティブ教科書をClaude Fable 5で作成。次は古典に挑戦してみます。

古典といっても、紀元前の音楽「セイキロスの墓碑銘」をAIで再現するってのはすでにやっているので、もっと時代が下ったやつを。



■音楽の父を自動生成したい

バッハに挑戦してみようと。ヨハン・セバスチャン(セバスティアン)・バッハ。音楽の父。

バッハは、音楽理論の基礎を作り上げた、というか、後世の学者たちがバッハの楽曲を分析して理論化したものが、現在の音楽のベースとなっています。

つまり、ルール化しやすいということです。ならば、これまでやってきたことの応用で、できちゃうのでは?

ということで、再びClaude Fable 5にやってもらうことにしました。題して、無限バッハ機関。

とりあえず、出来上がったものを聴いてもらいましょう。

いかがでしょうか?

このプロジェクトの出だしは、いつもの雑なプロンプトです。

筆者バッハの時代の楽器を再現して、バッハの作曲手法を用いた楽曲を永遠に生成できるマシンを、楽典に基づくリアルタイム解説付きで

Claude「無限バッハ機関(BACH PERPETUUM MOBILE)」できました。楽器・作曲・解説の三層すべてを実時間演算しています。

楽器の再現:チェンバロを8′前列+8′後列(微妙にデチューン)+4′の3ランクのパルス波+撥弦ノイズで合成。ストップの抜き差しとリュート(バフ)ストップも操作できます。音律はヴェルクマイスターIII(1691年の実測セント値)、基準音高a′=415Hzがデフォルトです。調によって和音の色が変わるのが聴き取れるはず。

作曲:機能和声グラマーで、五度圏ゼクエンツ、下行5-6ゼクエンツ、ラメント・バス、ドミナント・ペダル、偽終止、ピボット共通和音転調を確率的に連鎖させます。様式はWTC第1番風「プレリュード型」と、主題提示→オクターヴ下の模倣→転回対位法まで行う「インヴェンション型」の2種。

楽典実況:小節ごとにローマ数字・T/S/D機能・技法チップを表示し、掛留4-3やフリギア終止などのイベントは解説文付きでログに流れます。「終止して閉じる」ボタンを押すとリタルダンドしながらカデンツへ向かい、短調ならピカルディの3度で着地します。

この時点では、音源はチェンバロ(ハープシコード)を真似たもの。ピッチは415Hz。

スタート地点はここです。ここからどうやっていったかというのを解説していきます。

■チェンバロの音色をよりリアルに

最初のバージョンを聴いて、まず引っかかったのが音色でした。パルス波を重ねたチェンバロもどきは、どう聴いてもシンセです。そこで「音色のリアルさを追求し、室内楽の空気感を出したい」と注文をつけました。

すると、Claudeはオシレータ方式を完全に捨てて、Karplus-Strong物理モデルに作り直してきました。Karplus-Strongというのは撥弦楽器のシミュレーションの古典的手法で、遅延線の中をノイズがぐるぐる回りながら減衰していくと、あら不思議、弦を弾いた音になるというもの。筆者も以前ギターの物理モデリングで使ったことがあります。「セイキロスの墓碑銘」では、紀元前の楽器、Lyraを再現するために用いました。

チェンバロは爪(プレクトラム)で弦を弾く楽器なので、原理的にはこれが正解です。

面白いのは、始動ボタンを押すと「調律中…」と進捗表示が出ること。65鍵ぶんの弦を1本ずつKarplus-Strongでレンダリングして、波形として持っておく方式なのです。弦をナット近くで弾くチェンバロ特有の鼻にかかった倍音構造(撥弦点コムフィルタ)、低音弦は4.6秒・最高音域は1秒弱という実機のサステイン勾配、1音につき±1.5セントずらした2本の弦のうなりまで、波形に焼き込まれています。

空気感のほうは、響板の木質共鳴と室内の残響を、それぞれプロシージャルに生成したインパルス応答の畳み込みで再現。低音弦が左、高音弦が右という奏者視点のステレオ配置も入りました。「空気感」スライダーで近接マイクからサロンの客席まで動かせます。ヴェルクマイスターIII音律なので、転調すると和音の色がちゃんと変わるのも聴きどころ。

■アルペジエイターしかない問題

音はよくなったのですが、聴いているうちに「ずっと分散和音じゃないか」と気付きました。

Claudeの言い分は「プレリュード型はWTC第1番ハ長調のオマージュなので、あれも旋律のない曲です」。確かにそうなんですが、それしかないのは寂しい。ということで「アリア型」が追加されました。G線上のアリア的な、旋律・内声・通奏低音の三層書法です。

このアリア型の旋律生成がなかなか本格的で、強拍では必ず和声音を取り、弱拍を経過音・刺繍音で埋め、ときどき前打音(アポジャトゥーラ)で飾る。さらに賢いのは、小節を演奏する時点で次の小節の和声を先読みして、次の強拍へ順次進行で近づくように旋律を組み立てているところ。跳躍は3度までに制限され、音域が上がりすぎると下降傾向に転じる「旋律の弧」の制御も入っています。終止では導音の上でトリルを書き出しで演奏する。ちゃんとバロックの旋律法です。

■音量問題と、時代の壁

次にはまとめて要望を依頼。

筆者全体に音量が小さくなってしまった。バッハの手法としてもっと時代が下がった、より高度なものも実装してほしい。年代別に手法を選べるようにしたい。あと、トッカータとフーガのような手法をパイプオルガンの音色で実装してほしい

音量はゲイン段の見直しで解決(スライダーも付きました)。本題は「年代別」です。バッハの生涯は、オルガニストだったヴァイマル期(1708-17)、宮廷楽長として世俗器楽を量産したケーテン期(1717-23)、そして円熟のライプツィヒ期(1723-50)に大きく分けられます。これがそのまま選択できるようになりました。

ライプツィヒ期を選ぶと、和声文法が円熟仕様に拡張されます。各和音の直前にその属七を挿入する副属七の連鎖、終止直前のナポリの六、そしてロ短調ミサ曲のCrucifixusで頂点に達した半音階的ラメント・バス(バスが1̂-7̂-♭7̂-6̂-♭6̂-5̂と半音で降りていくやつ)。どれも楽典実況ログで解説付きです。

そしてパイプオルガン。こちらはチェンバロとは別系統の音源で、各音を基音+8′・4′・クイント2⅔′・ミクスチュアのパイプ群として倍音加算合成します。オルガンは正弦波の積み重ねと相性がいい楽器なのです。パイプごとの±3セントの調律差、発音時のチフ(風切り音)、送風のゆらぎ、3.8秒の石造聖堂リバーブ。トッカータ部はモルデント→オクターヴ下のエコー→減七の分散→フェルマータの大和音という、あの幻想様式(ストゥルス・ファンタスティクス)の修辞をなぞり、フーガ部は主唱→5度上の答唱→嬉遊部→ペダルの主題→ストレッタ→ピカルディと、教科書通りに進みます。しかも終わると属調に移って、また回り出す。無限機関ですから。

感覚的にはオルガン曲の方が後期なのですが、実際には前期に相当するんですね。

■コラール、パッサカリア、そして録画とMIDI

オルガンといえばトッカータだけではありません。

筆者オルガンでの様式はコラールなど、他のバリエーションを多数取り入れて。録画機能、MIDIエクスポートも追加して

追加されたのは2様式。コラール前奏曲は『オルガン小曲集』の書法で、賛美歌風の定旋律を上声の長い音価で歌わせ、内声は単一の動機で貫き、足鍵盤が歩行バス。ルター派コラールのバール形式(AAB)まで再現しています。パッサカリアはBWV582型で、4小節のグラウンド・バスを執拗に反復しながら、和声付け→8分音符→16分走句→掛留シンコペーションと変奏を積み上げ、途中で足鍵盤が沈黙して主題が最上声に浮かぶ、あの劇的な瞬間もやります。「第n変奏」と実況されるのが楽しい。

コラール前奏曲モードは、タルコフスキーが『惑星ソラリス』に使ったBWV639と同じ書法ですね。そういえば、惑星ソラリス劇場版のパンフレットには、この曲の譜面があったので、それを四畳半の下宿にてKORG MS-10シンセサイザーで弾いていたのが1978年のお話。


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録画機能は、解析表示と鍵盤の発音をキャンバスに描画して、マスター音声と合成してMediaRecorderで保存する方式。当初WebM優先だったので「録画はMP4で」と一言いうと、H.264+AACのMP4を最優先で試行するようになりました。この記事の冒頭に貼った動画も、この内蔵録画機能で撮ったものです。

MIDIエクスポートは、SMF format 1を自前でバイナリ生成する実装。チェンバロ、オルガン手鍵盤、足鍵盤の3トラック構成で、終止のリタルダンドや±2.5msの人間的ゆらぎまで実タイミングのまま保存されます。DAWに持ち込めば、そのまま次の素材になるわけです。

■「同じ旋律の繰り返し」にならないように

しばらく聴いていると、また気になる点が。フーガの主題が毎回同じなのです。調が変わるので転調はしているものの、形が一緒。コラールもA節が寸分違わず反復されています。

筆者旋律は同じものの繰り返しではなく、自動生成して

これでフーガの主題は、始動のたびにその場で生成されるようになりました。リズム細胞をランダムに連結し、音高は「主音から出発→上行→頂点→下行して和声音で終止」という山型輪郭の制約付きランダムウォーク。対唱も別途生成され、嬉遊部の素材になる頭部動機は生成された主題から自動で切り出されます。楽典実況にも「この主題は今この瞬間、この演奏のためだけに生成されたものです」と出る。ちょっとグッときます。

コラールのほうは、A節の反復を「同じ和声骨格の上にまったく新しい装飾の旋律を乗せる」コラール・パルティータ流の変奏反復に変更。単調さの指摘が、結果的により高度な様式の実装につながりました。

■最後の仕上げは鍵盤の段数

筆者オルガンの場合には本物のパイプオルガンに合わせて2段、3段鍵盤にした方がいいのでは

これで画面表示が、第I鍵盤(ハウプトヴェルク)・第II鍵盤(オーバーヴェルク)・足鍵盤の3段コンソールになりました。単なる見た目ではなく、声部の受け持ちが実際の奏法通りに割り振られているのがポイント。トッカータ冒頭の走句は第II鍵盤で光り、オクターヴ下のエコーは第I鍵盤へ移る——あの「エコー」は本来こうやって鍵盤を替えて弾くものなのです。コラールでは定旋律が第II鍵盤、内声が第I鍵盤、バスが足鍵盤。パッサカリアで主題が上声に移る瞬間は、光が足鍵盤から上段へ引っ越します。

■やってみてわかったこと

冒頭に書いた仮説——バッハはルール化しやすいから、これまでの応用でできちゃうのでは——は、おおむね正しかったと思います。ただし正確に言うと「ルールを実装するだけなら簡単、それを音楽として聴かせるには往復が要る」でした。シンセっぽい、旋律がない、同じ繰り返しだ、と筆者がミュージシャンの耳で駄目出しをするたびに、Claudeは物理モデルだの旋律文法だの主題生成だのを繰り出してくる。この往復こそが、「ミュージシャンがAIでソフトを自作する時代」の中身なのだと思います。

そういえば、1996年に冨田勲さんにインタビューしたときの新譜が「バッハ・ファンタジー」。「主よ、人の望みの喜びよ」も入っています。

当時のCDにはCD Extraというフォーマットで、おまけを入れることができ、「今回はMIDIデータを入れてみたんだよ」と悪戯っぽく笑っていました。

今回の無限バッハ機関をお聞かせしたら、どんな反応を示してくださったでしょうか?

生成しながら解説を加えていくところなんかは喜んでもらえそうな。MIDIデータエクスポートもできるし。

※この記事は、Claudeとの対話をもとに生成した記事を筆者が整理・追記したものです。

《松尾公也》

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