
2025年9月23日に、六本木ヒルズTOHOシネマズで開催された「Beyond The Strand」は、コジマプロダクション設立10周年という節目にふさわしいイベントとなりました。ファンが押し寄せた会場では、これまで小島秀夫監督が挑んできた歩み、そして今後の新展開への期待感が濃密に交錯していました。本記事では、このイベントで披露された注目ポイントをレポートにしてお届けします。
困難もあった10年の歩み

イベントは、独立スタジオ設立から歩んだ激動の10年を振り返るトークで幕を開けました。初期は4畳半のスペースから始まったコジプロ。現在のオフィスは遊び心と革新性も表現する空間としてデザインされています。

こうしたオフィスや世界規模のタイトル展開を実現した背景には、スタッフやパートナー、何よりファンとの「繋がり」がありました。開発現場での苦難や、新作へのチャレンジを支えてきた信頼関係と創造力の蓄積が印象深く語られました。
最新作『OD』、認知・感情AIがつくる新たな恐怖
中盤でお披露目となったのが、Xbox Game Studiosと進める新作『OD』。「KNOCK」というサブタイトルも加えられ、実機映像ではとてつもなくリアルな表現で儀式めいたシーンを紹介していました。

これらのシーンはすべてプレイアブルらしく、カットシーンではないのだそう。「マッチを灯していく」といったアクションにも何かヒントが隠されているようでしたが、詳細は明かされませんでした。シリアスで恐ろしげな映像であったものの、マイクを持てば小島節が炸裂。「そろそろポロリと新情報を言っちゃうんじゃないか……?」と嬉しくもヒヤヒヤする軽妙なトークで、会場を沸かせました。
『PHYSINT』の情報も到着!
続く新発表『PHYSINT』は、ソニー・インタラクティブエンタテインメントと制作する“エスピオナージアクション”です。ここでは、ゲーム内に登場するキャストとしてチャーリー・フレイザー、マ・ドンソク、浜辺美波さんらが発表。ゲームエンジン上でレンダリングしたというイメージも披露されましたが、開発は初期段階だそうです。
『OD』に注力しているため「まだまだ最初のほうだから(笑)」と小島監督も笑いながらコメント。しかしキャストやキーアートに登場する人物像は既に決まっているとのことで、今後の情報発信が楽しみです。
『DEATH STRANDING』アニメ映画・実写化プロジェクト
ファンにも衝撃だったのが、劇場アニメ「DEATH STRANDING MOSQUITO」の発表。監督は宮本浩史氏、脚本はアーロン・グジコウスキー氏(「プリズナーズ」など)。ABCアニメーションとProduction I.Gの連携で、原作の世界観をさらに深く語ってくれそうです。

ちなみに宮本浩史氏は、「 映画HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」「映画 プリキュアドリームスターズ!」「映画プリキュアとレフィのワンダーナイト!」などを手掛けてきた監督でもあります。
今回の「DEATH STRANDING MOSQUITO」では、なんと「新川洋司の書いた“線”をスキャンしたものを作画工程に取り入れる」という実験的な制作にも挑んでいます。
あまり聞かない制作手法ですが、既に迫力はなかなかのモノ。ちなみに小島監督は「次の映画版プリキュアもこんな感じにならないかな?(笑)」と、ここでも軽快なコメントで笑いを起こしていました。

そして、A24×マイケル・サルノスキ監督による実写映画版も本格展開に移行。ゲームプレイヤーだけでなく、まさに映像カルチャー全体を巻き込む二正面展開が始動しています。
こんな大物が並んで座っててイイの!? 4人の監督&ジェフ・キーリーのトークセッション

イベントでは映画やアニメの第一人者も交えたスペシャルトークも実施されたので、本記事では一部のみご紹介。エンターテインメントの今後やテクノロジーの発展、AIの利用といったトピックについて語ったのは……小島監督、ジョージ・ミラー、ギレルモ・デル・トロ、押井守という、メガトン級の豪華メンバー。しかも司会を務めるのは「The Game Awards」や「Summer Game Fest」 でおなじみのジェフ・キーリーです。

このビッグ過ぎるメンバーは、もちろん全員『DEATH STRANDING』シリーズに絡んだ人物。中でも押井守は「小島くんには“自分ひとりの仕事”を見せてほしい。小説とか書いてみない?」と、小島監督を更に超えるほどのカジュアルな口調で語りかけていました。

また、小島監督はトピックであった「エンターテインメントの形質が変わっていくこと」について、映画や小説、アニメ、ゲームも「(これからも)当然残る」とコメント。すべてがPCやスマホ、タブレットで閲覧できる“デジタル”なコンテンツになったことを指摘しました。
すべてのコンテンツがスマホやタブレットで共有できることから「バラバラだったものが、やがて融合していくと思う」「しかしひとつになるわけではなく、例えば“映画とゲームの亜種”とか“小説と別コンテンツの亜種”が出てくるかもしれない」とも述べ、新たなコンテンツが生まれることを期待していました。

また、そうしたコンテンツの制作を強く支援してくれるかもしれない技術が「AI」です。小島監督は「少人数、あるいはひとりでも大きなものを作れる」と述べ、押井守は「現場ではAIも道具として使っている。アニメーションを作るフローも劇的に変わってきている」と話します。

そしてジョージ・ミラーもやはり「(制作手法の)変化のペースは速まっている」とコメント。彼も他の多くのクリエイター同様にAIに興味を持っていて、様々な議論を呼んでいる技術ではあるものの「芸術や人間との営みには、常にテクノロジーが影響してきた」と述べ、「たとえ技術が変わっても、常に変わらないこともある。“物語を伝える”ということは変わらない」と話しました。

また、ギレルモ・デル・トロは「テクノロジーが変革を迎えるときは、人間としての精神を取り戻す試みが常に起きてきた」と話します。象徴主義や印象派などさまざまにスタイルはあるが、技術に傾倒するのではなく「自分のモノにする」ことの重要性を語りました。
そして「人間の精神を再び見つける必要がある」「技術を使って単純に制作や表現をするだけではなく、その先で得られる“繋がり”こそ重要になってくると思う」とコメントし、『DEATH STRANDING』で築かれた関係やゲームが目指したテーマにも言及しました。

コジマプロダクションでは『OD』に『PHYSINT』だけでなく、さまざまなコラボレーショングッズや『DEATH STRANDING』の実写映画版およびアニメ版など、さまざまな挑戦的な「表現」に取り組み続けています。
こうした“表現の最前線”がどう進化するか、今後も目が離せません。コジマプロダクションの「これからの10年」にも期待せずにはいられない、そんな熱気に満ちたイベントでした。
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