2025年4月、千葉市に通信制サポート校「NTTe-Sports高等学院」が開校した。通信制サポート校とは、通信制高校に通う生徒の学習面・生活面などを支援するもので、同校はNTT東日本グループのNTTe-Sportsが運営している。生徒は通信制高校「中央国際高等学校」に所属して高校卒業資格を取得する。同校はeスポーツを軸に社会で求められる“人間力”と“デジタルスキル”を育む新しい学びの場を目指す。
NTTe-Sports高等学院はJR千葉駅より徒歩約5分のNTT東日本 千葉事業部が入居するネクストサイト千葉ビル内に位置する。2025年4月に入学した1期生は19名で、そのすべてが千葉県内出身となった。NTTe-Sports高等学院 学院統括部長の井上裕晶氏に学校設立の思いや特徴を、新入生の渡辺朗勝(ろうま)さんとクラス担任のNTTe-Sports 佐藤正宗先生には授業や学生生活のようすを聞いた。
eスポーツを通じて育む“人間力”と“デジタルスキル”
--NTT東日本グループはなぜ今、eスポーツを軸とした学校を設立したのでしょうか。
井上氏:まず私たちには、子供たちが大好きなeスポーツに熱中できる居場所を作りたい、そしてeスポーツをきっかけに広がる興味・関心を人間力向上やデジタルスキルに昇華させ、地域社会で活躍してほしいという思いがありました。若者は地域で育つのに、東京で進学・就職をすることも多いことが背景にあります。また、なんらかの事情で学校に通えない、いわゆる不登校のお子さまも増えています。この千葉市でも神谷市長のマニフェストに不登校対策をあげられていますが、自治体さまが最優先で取り組むべき喫緊の課題となっています。また、現在通信制高校の数は年々増加しています。一方で、通信制高校の卒業時に進路が決定しない方は3割に上るというデータもあり、卒業後の社会参画も大きな課題のひとつです。私は、生徒ひとりひとりの可能性を広げ、社会で活躍できる力へとつなげていく、そんな学びの場が必要だと考えています。
この思いに至ったのはNTTe-Sportsのこれまでの経験がベースになっています。eスポーツの環境構築支援をさせていただいた通信制サポート校のeスポーツ高等学院では、2020年の開校時に多くの生徒が不登校経験者でしたが、現在はほぼ全員が登校しています。今年の4月には卒業生が出て大学進学率はおよそ8割となりました。また重度の引きこもりの方にアウトリーチの支援をしているNPO法人高卒支援会にNTTe-Sportsが運営するeスポーツ施設「eXeField Akiba」を開放したところ、最初は外に出られなかった方が仲間で集まってeスポーツをしたいという思いから徐々に「eXeField Akiba」に集まるようになりました。この2つの経験は、eスポーツに対する興味・関心が引きこもりや不登校の生徒が部屋から出てくる、通学するという行動の源泉になっていると気付かされました。
フォートナイトやVALORANT(ヴァロラント)、リーグ・オブ・レジェンドのようなチームプレイを前提としたゲームでは、実際にチームメンバーと横並びで一緒にプレイしたいという欲求が生まれます。さらにこのNPO法人を卒業した生徒が大学生になってIT系の資格を教えたり、CG制作を教えたり、プロゲーマーとなって後輩指導をするという好循環も生まれています。
eスポーツで勝つためにはチームワークが欠かせません。eスポーツにはその子たちの個性に合わせたロール(役割)があり、リーダーシップを発揮する人(IGL)や冷静に情報を収集・分析する人などさまざまな役割で構成されます。eスポーツに熱中することで多様な役割を経験し、相互理解を促すことでチームビルディングも経験できます。私たちは、eスポーツで仲間と一緒に挑戦していくことを通じて、チームワークやリーダーシップ、コミュニケーション力が育まれていく場面を何度も目にし、eスポーツが教育に生きると考えました。eスポーツに興味をもった子供たちが熱中できる居場所を提供し、eスポーツを通じて“人間力”と“デジタルスキル”を育み、そして将来、社会で活躍できるよう全力でサポートしていきたいと考えています。

NTTのアセットを生かした充実のカリキュラム
現在、NTTe-Sports高等学院の生徒は、火曜・木曜に高校の教科を中心とした一般学習を同じフロアにある中央高等学院の教室で受講し、月曜・水曜・金曜は1人1台のハイスペックなゲーミングPCを設置したNTTe-Sports高等学院の教室で、eスポーツやデジタルスキル、ビジネスなどの学びを進めている。
--NTTe-Sports高等学院ではどのような授業をしていますか。
井上氏:4つの特徴があります。1つ目は「カリキュラム」です。eスポーツのスキルを向上する「eスポーツカリキュラム」では、東京大学eスポーツサークルと連携してカリキュラムを開発し、論理的思考やリーダーシップ、チームビルディングなどを体系的に組み込んで社会でも生きる学びにしています。1期生にはeスポーツの大会で結果を出してほしいと考えています。今後はチームを編成し、部活動の中で練習試合をどんどん組んでいきます。
「eスポーツビジネス」では、eスポーツ業界で活躍する具体的なイメージをもち、子供たちのキャリアの視野を広げるカリキュラムを用意しています。たとえば、当社が制作し、専門学校や大学の情報学科で利用されているeスポーツのテキストを高校生向けにわかりやすくアレンジして使用します。また、プロチームを調べて自分でまとめて発表する授業や、専門家監修(ゲームと医療の掛け合わせによって、人々の健康に寄与する活動を行う一般社団法人Dr.GAMES)のもと、eスポーツと健康の関係について学び、健康被害の予防、パフォーマンスの向上を行う講義を予定しています。
「デジタルスキル学習」では、eスポーツを起点に広がる興味・関心をデジタルスキルに昇華させます。たとえば、「YouTubeが急に見られなくなった原因を調べる」といった身近なトラブルシューティングからインターネットの仕組みを理解し、最終的にはIT関連の資格取得やインターンシップへと結び付けていきます。
自作PCの組み立て、タイピング、ExcelやWordなどの操作、生成AIへの指示の出し方、YouTubeの制作・配信、画像編集ソフトによるデザイン、ゲーム上で海外選手とコミュニケーションする際に必要な英会話も学びます。さらにフォートナイトなどで使われているゲーム開発技術Unreal Engineを用いた探究学習も準備中です。
2つ目は「eスポーツやデジタル教育に打ち込める環境」です。2024年8月に竣工したばかりの新築ビル内に、1人1台の高性能ゲーミングPC、大型LEDモニターやNTT東日本が提供する高速回線を完備しました。音響や照明を駆使し、授業内容に応じてシーンを切り替えることによりeスポーツ・デジタルスキル向上に打ち込み、仲間との友情を育み、通いたくなる教室になっています。
3つ目は「充実した学習のサポート」です。隣設した中央高等学院は45年以上の実績があり、高い大学進学率を実現しています。そのノウハウによって学習面でのしっかりとしたサポートが受けられます。
さらに4つ目は「進学と就職」という出口の部分です。大学入試で増加傾向にある総合型選抜の対策をカリキュラムに組み込んでいます。また、NTT東日本グループのドローンや農業関連の企業やスクールを運営するNTTe-Sportsでの職業体験プログラムを実施します。たとえばeスポーツ関連のイベント企画や提案、当日の運営にも携わるなど、総合型選抜にも生かせる原体験の機会を増やしていこうと考えています。
また大学進学だけでなく、高卒での就職も視野にあります。eスポーツを入口にデジタル人材に成長してもらい、できれば地域で活躍してほしい。NTT東日本グループの就職認定校とするほか、千葉県内の企業との連携を検討しています。昨今、デジタル人材は多くの企業から引き合いがあります。すでに、千葉県内のさまざまな企業から期待の声が届いています。
デジタル人材を地域社会に還流
--保護者の方々からの声にはどのようなものがありますか。
井上氏:入学に際しては、やはり手に職をつけてほしいという声を多く伺いました。NTTe-Sports高等学院入学後は毎日通学できるようになり、信じられないというお喜びの声もいただいています。現在、平均すると出席率は約9割ですが、これは通信制サポート校としてはかなり高い数字と言えると思います。これは、生徒たちにeスポーツが好きという共通の価値観があるためだと思います。
--現在、教室は千葉県のみですが、他のエリアでの開校の計画はありますか。
井上氏:まずはこのNTTe-Sports高等学院をしっかりと立ち上げて、他の地域にも展開したいと考えています。また、自治体や企業の方々に応援していただき、一緒に成長していける学校にしたいですね。NTT東日本グループの社員としても、eスポーツをきっかけとして、デジタル人材を地域社会にしっかり還流させるという思いを強くもって取り組んでいきます。
好きを共通項に交流は活発化、充実の環境で学ぶ3年間
入学式で新入生代表の挨拶をした渡辺さんとクラス担任の佐藤先生にNTTe-Sports高等学院での日常や今後の展望を聞いた。
--NTTe-Sports高等学院を選んだ理由を教えてください。
渡辺さん:部活でバドミントンやサッカー、吹奏楽などをやっていましたが、ゲームは家でずっと続けていました。中学校の卒業後に何をしようかと考えたときに、中学校に置いてあったNTTe-Sports高等学院のチラシを見つけました。いろいろと調べて親とも相談し、大好きなゲームという自分のやりたいことを仕事にできる道が見えるNTTe-Sports高等学院を選びました。

--実際に入学してみて、授業や学校生活はいかがですか。
渡辺さん:朝は9時45分までに登校して、10時にホームルームというスケジュールですが、9時には登校している生徒も多く、その“やる気”にとても衝撃を受けました。学校の設備は最高峰で、デバイスや周辺機器には自分で手に入れるのが難しいものが多くあります。それらを試して自分に合うものを選べるのも嬉しい点です。
佐藤先生:私はもともとプロゲーマーで、周辺機器などのデバイスメーカーにも勤めた経験があります。トップ層の選手に流行っているものやプロが使っている機器を生徒たちに体験してもらいたいと考えています。ゲーミングPCはGALLERIA、ゲーミングチェアはオカムラの協力をいただき充実しているほか、NTT東日本のビル内のため回線品質は最高です。
渡辺さん:回線の違いは実感しています。自宅は有線でもPing値(インターネット回線の反応速度を表す指標。小さいほど快適だといえる)は10msから15msですが、ここでは8ms程度。タイムラグも一切なく、高性能PCプラス最高速インターネットでストレスフリーです。

--eスポーツ以外の学習はいかがですか。
渡辺さん:これからスクーリングがあります。飯ごう炊飯や地域の人たちと関わりながら社会で生き抜く力を育むという内容で楽しみにしています。また普段は隣にある中央高等学院で、高校卒業資格を取るための勉強もしています。レポートなどをしっかりとやっているので、高校生としての習慣を作れるのは良いですね。
--プロゲーマーの先生に直接学べることに関してはどう思いますか。
渡辺さん:プロゲーマーを目指す人からすると、やはり神みたいな存在なんです。プロの方に教えていただける機会はほとんどないですし、コーチングしてもらうにもかなりの時間とお金がかかります。ここでは先生がプロの経験を惜しみなく僕たちに注ぎ込んでくださいます。
佐藤先生:「eスポーツ×教育」はさまざまな場所で新しい切り口として取り組まれていますが、講師によってコーチングの質が違うといった安定しない部分があります。その点、NTTe-Sports高等学院は体系的なカリキュラムがベースなので安定していると思います。

--入学後に生徒たちのようすが変わったという実感はありますか。
佐藤先生:プロレス的な掛け合いが始まるのは面白いですね。ちょっとしたライバル関係からの強気な声の掛け合いが日に日に増えています。それは本当に仲良くなった証拠で、生徒同士の距離感がぐっと縮まっていることを感じます。ゲームという同じ関心事を共有しながら、対戦や協力を通じて深まり方が早くなるのはとても印象的です。
--将来の夢を教えてください。
渡辺さん:今は『VALORANT』というゲームでプロゲーマーになること、そしてプロゲーマーになった後にも、ゲームの大会の運営をする企業で、社会人として安定した仕事ができるようになることを目標としています。一緒に入学した仲間も『STAGE:0(ステージゼロ、高校生を対象としたeスポーツの全国大会)』で優勝したい、プロゲーマーになりたいといった声を聞くことがありますが、これからやってみたいことは増えるのではないかと思います。自分に何が合っているのかは好きなだけではわからないので、この環境でいろんな体験をし、影響を受けながら、やりたいことを見つけていく期間なのかなとも思います。
佐藤先生:1年生では、まずeスポーツという自分の好きなものから、さらに知見や興味を広げてもらうことがテーマとなっています。渡辺さんが言ったように、自分は何をやりたいのかを見つけていく時期でもありますね。開発がやりたい、大会を運営してみたい、プロスポーツチームを立ち上げてみたいといったオーナー的な視点をもつ生徒も出てくるかもしれません。興味や知識を広げて、その先の学年でどう過ごしていくかを一緒に考えたいと思います。

--ありがとうございました。
NTT東日本グループ初の中等教育機関として設立された「NTTe-Sports高等学院」では、設備、IT教育のノウハウ、NTTグループ内および他社との連携など、NTTグループのアセットを最大限に活用した先進的な教育がスタートしている。eスポーツでの成果はもちろんのこと、ここからどのような人材が育ち、社会に羽ばたいていくのか、今後の動向に注目が集まる。