自宅マンションにもイマーシブオーディオ対応を実現―CRI・ミドルウェアのスタジオ建設から独自の知見を解説【CEDEC 2023】 | GameBusiness.jp

自宅マンションにもイマーシブオーディオ対応を実現―CRI・ミドルウェアのスタジオ建設から独自の知見を解説【CEDEC 2023】

ビデオゲームや映画に活用されるイマーシブオーディオ。CEDEC 2023では、実際にこちらの音響技術専用のスタジオを建てた経験を元に、同技術について解説するセッションが行われました。

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自宅マンションにもイマーシブオーディオ対応を実現―CRI・ミドルウェアのスタジオ建設から独自の知見を解説【CEDEC 2023】
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ビデオゲームや映画の没入感は、ハイクオリティな映像だけではなく音の情報も重なることで何倍にも上昇するものです。そんな音による没入を突き詰めた技術にイマーシブオーディオがあります。これは平面だけでなく上下方向からも音が聴こえ、「没入感のある(=immersive)」音響技術であり、まるで作品の世界の中にいるかのような体験にユーザーを導くことを目的としています。

しかし実際のところ、イマーシブオーディオはどのように作られているのでしょうか?CEDEC 2023で行われた講演「イマーシブオーディオ対応のスタジオを一発建ててみた -作ってみたからこそわかるイマーシブオーディオの知見とノウハウ-」では、CRI・ミドルウェアの音響エンジニアリング・マネージャーである本間清司氏と、ツーファイブの太田将義氏が登壇。イマーシブオーディオ専用のスタジオを建設し、コンテンツを制作した経験から、この技術の展望を語りました。

イマーシブオーディオとはなにか

まず本間氏は、あらためて「イマーシブオーディオとは何か?」を解説しました。

そもそもヘッドホンでステレオ音響を聴いたとき、頭内定位と呼ばれる「頭の中に音像が定位しているように聴こえる」現象が起きるといいます。対してイマーシブオーディオでは、同じヘッドホンでも、あたかもスピーカーに囲まれて音を聴いているかのような音像が再現されるものだといいます。

とはいえ、音を体感させるほどの環境には、大量の機材が必要になることは想像に難くありません。かつてのモノラルやステレオが数チャンネルのスピーカーで済んだところ、全方位からの音を表現するイマーシブオーディオは、大量のスピーカーが必要になります。

モノラルやステレオの音響は、いうなれば1次元的な音響。それが発展して、さまざまな方向からの音が表現できるサラウンド音響が2次元的な音響とのことです。

ここで「そもそもサラウンドとイマーシブオーディオはどう違うのか?」という疑問にも触れています。サラウンドは周囲にスピーカーがある環境であるのに対し、イマーシブオーディオは上下の縦方向にもスピーカーがあります。ゆえにイマーシブオーディオとは3次元的な音響を持つものだと説明されました。

本間氏は音が3次元的になることで、「聴くことから体験することにモードが切り変わる」と評しています。ただし、現在イマーシブオーディオは日本語で「立体音響」や「空間音響」と言われたり、英語でも「3D Audio」とも「Spatial Audio」とも語られるなど、明確な名称が決まっていない状態。今回の講演では、イマーシブオーディオは「3次元で音を再生する技術や音場」と定義して進められました。

イマーシブオーディオの構成

さて、現在主流となっているイマーシブオーディオは、出力チャンネルの数に合わせた形で音声をあらかじめ制作する「チャンネルベース」、各音源に位置情報を持たせ、リアルタイムに演算・再生する「オブジェクトベース」、そして「シーンベース」の3種類を、単体、またはそれぞれの組み合わせることで構成されています。

代表的なイマーシブオーディオのフォーマットは数多く存在します。

まず先述したドルビーアトモスはチャンネルベースとオブジェクトベースの組み合わせで出来ており、主に音楽やゲーム、映画に活用されています。7.1.4chのスピーカーとは、ユーザーの周囲に7つ、地面にウーハーがひとつ、そして天井に4つ設置する構成を指しています。

Sony 360 Reality Audioはオブジェクトベースのみであり、こちらは5.0.5+3Bで構成されており、主に音楽に使用されています。

こうしたイマーシブオーディオの事例として、映画館で活用されるドルビーアトモスがどのように使われているかが挙げられました。

現在の映画館では天井や壁のほか、座席の後ろにまでスピーカーが配置されています。こうしたスピーカーに音源のマスターデータがどのようにスピーカーに反映されるかというと、5.1chの構成ではレフトサラウンドとライトラウンドではマスターデータと同じ音が流れるとのこと。

それが7.1chになると、左右の後方にて新たにスピーカーが設置され、より詳細な音表現になります。

さて、ドルビーアトモスによるイマーシブオーディオは7.1chの構成に加えて、上記スライドの点線の枠の位置に、天井など縦方向へスピーカーを追加した構成となります。

ドルビーアトモスのマスターデータは130chで構成され、先頭の10chがチャンネルベース、その後の118chがオブジェクトベース、残りの2chがタイムコードとなっています。

チャンネルベースによる10ch分の音は、上記スライドの点線で囲われたスピーカーから鳴らされます。

一方、膨大に配置されたオブジェクトベースの音は空間に配置した音が鳴るようになっており、さまざまなスピーカーの場所ごとに音が再生されるかたちです。

ここまでの講演を聞いただけでも、イマーシブオーディオのための膨大なスピーカーの量に驚きますが、「なぜそんなにスピーカーが必要なのか?」という疑問についても説明されました。 

まず本間氏は「サラウンド時代とイマーシブ時代では目的が変わった」と指摘。かつて5.1chのサラウンドの時代の映画館では、一定のまとまった音圧を出すために多くのスピーカーを使っていました。

それからスピーカーの性能も進歩し、ドルビーアトモスではひとつのスピーカーで十分な音圧をフルレンジで達成できるほどになりました。

スピーカーの性能が進化した現在、スピーカーをたくさん配置する理由のひとつとして、本間氏はセンタースピーカーを例に挙げた。

ファントムセンターとは、左右のスピーカーから同じ音圧の音が流れると、視聴者はスピーカーが無い前方中央にも音像を感じるという現象。左右スピーカーのバランスを調整することで、音も前方の左寄りや右寄りに表現できるというものです。

一方のハードセンターとは、実際にセンタースピーカーを置く構成をとったもの。こちらもファントムセンターと似た場所に音像を感じる仕組みですが、最適な視聴場所から頭が一個分ずれるだけで音像もずれてしまうというファントムスピーカーの課題を解決することができます。

とりわけ映画館では観客が皆、最適な視聴ができる席に座れるとは限らないため、スピーカーの数を増やすことでなるべく作り手の意図した音を体験できるようにしているわけです。

イマーシブオーディオの特徴である、天井に配置したスピーカーも同様にハードセンターの構成を採用しています。

このようにイマーシブオーディオで最適な音響体験を生み出すのに9.1.4chが最適だと本間氏は説明します。それは、なるべく観客の円周に沿うかたちで音像を置きたいためです。

たとえば7.1.4chの左側の音響を例にすると、レフトスピーカーとレフトサラウンドの間にファントムセンターが発生します。9.1.4chでは、ふたつのスピーカーの間にワイドスピーカーを配置する構成を取ることで、人間が認識しやすい前方向からファントムセンターを遠ざけることが可能になります。

実際にイマーシブオーディオスタジオを作ってみた

続いて、こうしたイマーシブオーディオを生み出すスタジオをどのように建設したかが語られました。

まずスタジオを作るときの指標として、ドルビーアトモスでは奥行きが3.5m、幅が3mの空間が必要になるとのことです。高さは音楽向けのスタジオなら2.4m、ビデオゲーム向けなら2.2mが要求されます。

その他に音圧の指標も。リスニングポジションにおいて79~85dB SPLcが必要であり、音楽の場合は+20dB HR、ゲーム向けでは+17dB HRが要求されるとのこと。また、静けさとしてNC25以下で作業しなければならないのです。

実際にこうしたスタジオを建設するためには、まず外部と内部からの音を遮断する遮音性と空調や機材の音を抑える静粛性が必要になる、と本間氏は解説します。CRI・ミドルウェアのスタジオ建設時には限られた予算に収めるため、必要最低限の遮音性を持つスタジオが作られることになりました。

しかし最低限の遮音性を持つスタジオを作るのも一筋縄では行きませんでした。まず遮音性能の高いスタジオにするために、「部屋の中にさらに部屋を作る」構造にしたといいます。

ところがその設計は相当な重量になり、そもそも土台が支えられるかという問題が生まれました。オフィスビル内に3つのスタジオを建てたところ、総重量は約50トンにも及んだといいます。

実際にビル内にスタジオを建設したとき、スタジオを支えるための梁の位置を確認する必要がありました。ところが、普通はビルに入居したときに入居者が梁の位置を気にする必要がないことがほとんどのため、詳細な図面が用意されてないという問題もあったそうです。

特にスタジオ建設時に注意したのは「床荷重が何キロまで耐えられるか」でした。公式では500kg/平方メートルまでと記されている場合でも、場所によっては800kgも耐えられるところがあるとのことで、そこを確認することで重量のあるスタジオ建造が可能になった模様です。 

続いて静粛性に関して。まず騒音の基準値であるNC値として、深夜の郊外や人のささやき声ほどの静けさが求められていました。ただ、いくらスタジオを遮音していても、スタジオ内は機材やエアコンの室内機などの音があるわけで、これらがノイズの発生源になるのです。

なのでスタジオを内にエアコンや空調を設置するとき、それぞれに消音機を設置することで静粛性を高めていく必要がありました。

しかし、空調それぞれに消音機を仕込むのは相当な環境になることは想像できます。「遮音性のために床荷重を気にしていたら、今度は静粛性のために天井の問題が出てきた」と、本間氏は当時の苦労をにじませました。

スピーカーの設置位置に関しても、実際に設置工事をしたところ、天井の梁とダクトが邪魔をして、スピーカーを付けたいところに付けられないという問題も。最終的には天井を掘りこむ形でスピーカーを付けた、と本間氏は振り返っています。

このように、スタジオ建設には苦労が絶えません。本間氏は、「音響建築会社に投げっぱなしにするのではなく、一緒にプロジェクトを進めることが重要」とまとめています。

ここまでの講演だけでも、イマーシブオーディオスタジオを作るのは相当な苦労が伺えるでしょう。そこで本間氏は、別の案としてもっと簡単な方法についても紹介しました。


《葛西 祝》

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