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「カチッて音が鳴るのが好きなんですよ」コントローラー製作メーカーが見たビデオゲームの35年

日本のビデオゲーム業界は、コンソールやアーケードで様々なコントローラーを生み出してきました。35年に渡り、さまざまな企業とコントローラーを開発してきたユニオン電子工業の磯脇康三氏から見た、業界の変化についてをうかがいました。

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もっとも熱い時代が過ぎたあと



磯脇氏は数々のコントローラーを製作してきましたが、ある時期から風向きが変わります。日本の家庭用ゲーム機や、アーケード事業の変化です。

「最盛期は年間で7機種か8機種のコントローラーに関わり、何百万台も作っていたんです。」磯脇氏はゲーム業界が盛り上がっていた時期をこう振り返ります。「TAITOさんが『JETでGO!』を発表した場所が、なんとお台場のJALホテルなんです。私は当時そんな製品発表の場に行くことはなかったのですが、お誘いいただき、うかがったんです。きれいなCAがコントローラーを白い布を掛けたトレイに乗せて運んできたんですよ。当時はそんなセレモニーがあったんです」 

「当時は業界にもお金があったから、そういうお披露目がありましたね。」磯脇氏は時代の変わり目をこう振り返ります。


「昔から『ハングオン』など、アーケードで直接バイクに乗るみたいな、専用のコントローラーがありました。今はスマートフォンのゲームですませちゃう。世の中が変わってきたんですね。」

磯脇氏はいつ頃から、国内のビデオゲーム業界の変化を感じたのでしょうか?

「やはり2001年にセガさんがハード事業をやめてからですね。そこからですね。ビデオゲームの形が変わったのは。やっぱり任天堂とセガ、ソニーがあってという構図があったのが大きいです。そこでセガファンという熱いお客さんがいましたしね。でも、それがなくなってしまった。」

「ドリームキャストが撤退して、周辺機器の時代も終わっていきました。」ゲームハード同士に競い合っていた時代にひと区切りついたほかに、磯脇氏はスマートフォンが登場したことも強調しました。

「世の中の環境や嗜好が変わっていったのもありますね。みんなでこれをやればいい、みんなで楽しくとか、変わっていった気もしますね。みんながお金を出して、あるいは身体を使って遊ぶビデオゲームが、だんだん無くなっていきました。もう指先ですませちゃおうみたいな。」

21世紀に入ってからは、コンソールだけではなく、磯脇氏も指摘されたようなスマートフォンの他にも、PCゲームの流れも出てきています。『電車でGO!』のようなシミュレーター系のタイトルも出てきているなか、ユニオン電子工業でもそうした方向はどうだったのかをうかがうと、磯脇氏はこう答えます。「その方向もあるでしょうけど、我々の場合は大量生産でやってきましたからね。」

「いまPCでどの程度、需要があるかと言うと、あまりありませんから。もちろん、PC用のコントローラーを作っている会社さんもあるんですけど、うちは大量に作って行くという考え方です。なので小まめに金型を起こし、償却を考えて作っていくみたいなやり方は会わないんですよ。」

ユニオン電子工業は、これまでも自社ブランドではなく、ODMやOEMで作ってきました。そのため磯脇氏もシビアに見ています。「そういう流れの中ですと、自社で全部お金を出してコントローラーを作ろうというやり方にはならないんです。やはり会社としてそれは難しいじゃないですか。マーケットがなければならないんです。」

まさかの奇ゲー?をヒントに、ユニバーサルな事業展開へ



「世の中に出ればよかったな、ってものもありますよ。」21世紀に入ってから、ユニオン電子工業はコントローラー事業と違う道も模索します。そこで意外なゲームが事業展開のヒントになります。

「ドリームキャストで『シーマン』ってあったじゃないですか。ゲーム内の人面魚と会話できるゲームですよね。一対一の会話ではなく、けっこう会話がずれる。これが妙味でした。」磯脇氏は、ビデオゲームで台頭してきた音声認識の技術に注目しました。

「『シーマン』の頃、うちがやっていたのは音声認識の技術でした。イスラエルの知り合いがいて、その技術を使わせてもらったんです。」その知り合いが持っていた音声技術は、軍事技術のひとつだったといいます。「イスラエルの軍事技術のひとつで、音声チップがあったんですね。軍事関係で技術が最初になるじゃないですか。虹彩認証もそうですし、みんな軍事です。」

「それを使って、作ったのが喋るぬいぐるみなんですね。今でも売れると思うんですけど……2000年のはじめごろとおもいますね。音声認識のチップが入っており、プログラムを作って 名前を呼ぶと返してくれたり、「歌って」って言えば歌ってくれたりするんです。」

「これも試作品を作って、いろんなところに見てもらったところ、「これはいいですね!」とみんないってくれたんです。」磯脇氏は手応えを感じますが、「でもお金を出すところはなかった(笑)。」

当時は子供向けに製作されていましたが、現在の音声認識ぬいぐるみに別の需要があることを、磯脇氏は指摘します。「いまだったら、高齢化ですよね。」 

「私も今年で70歳になりますし、日本はどんどん高齢化しています。一人住まいの老人がいっぱい出てきますし、インターネットを使える人も少ないです。会話は必ずしも、ミーティングできっちりした話じゃなくて、普段のようなものでいいわけですよ。特に高齢者は、会話の行ったり来たりだけでも安心感がでるじゃないですか。」

磯脇氏が音声認識ぬいぐるみを開発していた当時、ソフト的にも複雑な会話を作れなかったので、簡単な開発しかできませんでした。今ならいろんなプログラムを入れられるため、もっと精度の高い会話のキャッチボールもできるといいます。

「通販や新聞広告を見ると、高齢の単身者向けのそうした音声認識できるぬいぐるみが販売されています。あれがロングランで売れているんですよ。私たちがやっていたのは、それが売れだす前ですよね。やっぱりああいう需要はあるんだなあ……と思いました。」

磯脇氏はここ20年の社会がどう変化したかを振り返ります。「やっぱり家族の形が変わってきていますよね。その時に、何かを届けられればいいなと。人の縁も大事ですが、声も大事だと考えました。」


AI翻訳機「Perico」
38ヶ国語に対応し、SIMカードを使えばルーターにもなる、優れた機能を持つ。

そんな「声」の追求は、あらたな事業展開へと導きます。『シーマン』をヒントにした音声認識の事業はさらに掘り下げられ、ユニオン電子工業はAI翻訳機のPericoをリリースしました。こちらも磯脇氏の社会を見る視点が反映されたプロダクトです。

「いま電車で山手線に乗っていても、外国人をよく見るじゃないですが。皆さんがご存知のように、インバウンドで3千人を超える外国人が日本に来ているんですよ。来年のオリンピックでは、4千万人に増えるといいます。」

外国語ができる日本人でも、英語まではできても、中国語や韓国語まではフォローしている人は少ないです。「これから外国の人が多数、来日するときに、「お・も・て・な・し」と言っても、肝心の言葉は置いていかれちゃっている。そこを手助けできないか?と思って、Pericoを開発しました。」

翻訳機でも、磯脇氏は「使ってみる楽しさ」を追求しています。シンプルなUIで構成されており、マイクボタンを押しっぱなしにしながら日本語で語り掛けると、翻訳したい言語の文章と音声が現れます。翻訳の早さと精度はかなり高いものになっていました。

Plug&PlayとeSportsという新たな可能性



現在、音声認識技術を使った事業にも進出しているユニオン電子工業。一方でコントローラー製作事業は控えめになるのでしょうか?ところが、こちらも意外なところから、新たな可能性を見出していました。

その可能性とは、過去のゲームハードがPlug&Play化するプロダクトです。近年は任天堂のミニファミコンの成功を皮切りに、続けてスーパーファミコンミニをリリース。他の会社もPlayStation Classicやメガドライブミニ、PCエンジンミニを発表しました。ユニオン電子工業もいくつかのプロダクトに関わったほか、昨年2018年にTAITOと『電車でGO!PLUG & PLAY』を製作しています。

磯脇氏はeSportsの時代に注目します。その時代ならではのPlug&Playのコントローラーとして、大胆なアイディアも教えてくれました。「マイコントローラーを作りたいですね!みんながそれを持って、練習するみたいな。『ストリートファイター』シリーズや『バーチャファイター』も入った、ゲーム業界のアーケードの対戦タイトルをひとつに集めたみたいな。」

「知り合いにソフトメーカーのひとがいるんですよ。いろんなタイトルを買って販売しており、彼と組めば全部ソフトを集められる。ハードはうちがつくりますから。ミニファミコンを作った人間もうちにいますから。eSportsになっているタイトルを入れた、大型のアーケードコントローラーをやりたいんです。」

磯脇氏はプロを満足させるコントローラーを製作することに、強い自信を見せます。「プロゲーマーの人たちはスイッチにもこだわりがありますから。スティック1度の角度や、センターへのポジションの戻り方がしっかりしてなきゃいけないとか、私たちはそこを理解しています。なので作れるんですよ。そういうPlug&Playを作りたいですね。ソフトをちゃんとしたものを揃えれば、売れますよ。どこかお金を出してくれるところがないかなあと(笑)。いろんなところに話していますが、なかなかふんぎりがつかない。」

磯脇氏から、プロダクトを作るときに広く世の中や日常を題材にした着眼点や、こだわりをうかがうことができました。それはインタビューの終わりまで徹底しています。取材を終え、カメラをしまおうとレンズに蓋をしたときの音を指して、磯脇氏はこう言いました。 

そのカチッという音が、好きなんですよ。
《葛西 祝@Game*Spark》

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