アニメイベントにおける体験の共有・・・「ゲーム・アカデミクス」第4回 | GameBusiness.jp

アニメイベントにおける体験の共有・・・「ゲーム・アカデミクス」第4回

はじめまして。最近コンテンツ文化史学会の委員になりました、山口晶子と申します。 久しく記事が更新されていない状況の中、新人委員の私がこのような大役を任され、非常になんというか、恐縮しております。これまでの先生方のようにはいかないと思いますが、楽しんで

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はじめまして。最近コンテンツ文化史学会の委員になりました、山口晶子と申します。 久しく記事が更新されていない状況の中、新人委員の私がこのような大役を任され、非常になんというか、恐縮しております。これまでの先生方のようにはいかないと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

今回ご紹介するテーマは、「アニメイベントにおける体験の共有」です。これは、「TIGER&BUNNY」(2011年4月〜9月放送)という作品の、「最終回上映会イベント・ライブビューイング」に参加したファンへのインタビューの分析から、ライブビューイング会場での盛り上がり、ファンの「体験の共有」について考察したものです。まずは、テーマに取りかかった経緯について、簡単な自己紹介を交えてお話していきます。

1.自己紹介とテーマのお話

これまで記事を書かれた先生方や、コンテンツ文化史学会の会員の方々と違って、私のいわゆる「オタク」としての歴は非常に浅く、ブランクもあります。中学生の頃に、「新機動戦記ガンダムW」(1995年4月〜1996年3月放送)や「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年10月〜1996年3月放送)にハマったのが、オタク時代でした。その後ブランクを経て、「機動戦士ガンダム00」(ファーストシーズン:2007年10月〜2008年3月放送)をきっかけに舞い戻ってきたのですが、私がお休みしていた約10年間に、この世界は大きく変化しておりました。作品や放送媒体、企画も多様化し、大勢の声優さんがご活躍されるようになりました。そのため、日々勉強しつつ楽しんでいるというのが現状です。

「TIGER&BUNNY」を見始めたのも、非常勤先の学生さんに勧められたからで、本格的に見始めたときには、既にストーリーは中盤を過ぎようとしていました。後ほど書きますが、「TIGER&BUNNY」ファンの特徴の一つに、ネット上とりわけTwitterでの盛り上がりが挙げられますが、私がそのことに気づいたのはストーリーの終盤でした。そして、リアルタイム視聴をしている中で、最終回の上映会を行うということを知りました。このとき既に、メイン会場のチケット先行販売は終了しており、ライブビューイングのチケット発売前日だったのですが、Twitter上の異様な盛り上がりに後押し…いや、流される形で、チケットを確保し、参戦することになりました。こうした、チケット発売やイベント当日の盛り上がりを見て、私も当事者でありながら、何故こんなに盛り上がるのかな、と不思議に思ったのが、テーマにチャレンジするきっかけでした。

2.「最終回上映会イベント」とは

「TIGER&BUNNY最終回上映会イベント」とは、2011年9月17日23時(開場)〜18日5時(終演)に行われた、「USTREAMと同時刻に最終回を上映するオールナイトイベント」と説明されています。「USTREAMと同時刻に」というのは、どういう意味でしょう。本作品の放送時間で最も早いものが、毎日放送とUSTREAM放送です。従って、最初の放送時間である、「USTREAMと同時刻に最終回を上映し、集まったみんなで見よう!」というのが、イベントのおおよその趣旨となります。オールナイトイベントのため、始発の時間まで作品を楽しめるよう、最終話だけでなく、最終話1つ前の第24話の上映、キャスト・スタッフさんのトーク、スペシャルセレクション上映、最後にもう一度最終話を上映し終了、という内容でした。

「最終回上映」というのも、面白い試みではないかと思います。USTREAM放送は、インターネットにつながっているパソコンや、スマートフォンで視聴ができます。何をしていても最終回はやってきますから、会場に行かなくても、家にいて一人で見ることだってできるわけです。それを、イベントにしていることも面白いですし、何より「大勢で集まって見る」ということが、非常に興味深いなあと感じました。このイベントの直後、2011年12月23日に、「輪るピングドラム」(2011年7月〜12月放送)も、「最終回オールナイトイベント」を開催しています。

今回のイベントの会場は、最終回上映を主な目的としているため、映画館でした。メインの会場は「本会場」と呼ばれ、新宿バルト9のシアター9が「本会場」にあたります。本会場は、キャストさん、スタッフさんが生出演することもあり、チケットの倍率がかなり高かったそうです。

つまり、本会場のキャパシティには限りがあるわけで、チケットが取れず、参加できない人がたくさん出てしまいました。そこで、本会場の中継映像を見る会場が、映画館に用意されました。それが、「ライブビューイング会場」です。中継映像を見るだけなら、全国どこの映画館でも可能です。このイベントでは、生出演部分が中継映像であるということ以外、本会場との違いはありませんでした。最終的に、全国44会場86スクリーン、23,000人以上が参加したとされています。
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3.「ライブビューイング」とは

本会場の中継映像を映画館で見ることができる、「ライブビューイング」という形式自体は、昨今それほど珍しいものではありません。インターネット等でチケット販売を行っている、e+(イープラス)のサイトにも、「ライブビューイング特集」が設けられています(http://eplus.jp/sys/web/s/lvsp/index.html)。

ライブビューイングは、アニメイベントに限らず、スポーツ観戦、音楽ライブなどでも行われています。例えば、2012年2月に行われた、「東京事変」の解散公演、EXILEやL’Arc-en-Cielなどのアーティストも随時行っています。また、生中継という形式に限らず、「上映会」として過去のライブ映像などを上映するイベントも、ライブビューイングに含むことができるかもしれません。例えば、「うたの☆プリンスさまっ♪」(ゲーム:2010年6月発売等、アニメ第1期:2011年7月 〜9月、第2期:2013年4月〜)の、ライブイベントDVD特別先行上映を行う、「シネマライブ」などが挙げられます(「うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE LIVE1000% 2nd STAGE in THEATER」2013年3月15〜17日、22〜24日開催 http://www.utapri-in-theater.com/ )。形式は様々ありますが、ファンがイベントに参加する際の、選択肢の一つとして、ライブビューイングは定着しつつあると言えるでしょう。

ライブビューイングの利点は、いくつかあります。先に述べたように、一つには、本会場に入ることができなかった場合でも、イベントの様子を見られることが挙げられます。これは、イベント参加者が増えるという点で、主催側にとっても、参加側にとっても、大きな意味があることだと思います。チケットが取れなかったという場合だけでなく、地理的な理由で元々参加が難しい場合にも、地元に近い映画館でイベントに参加できるようになります。加えて、イベントへの気軽な参加につながることも挙げられます。ライブビューイングのチケット代は、イベントの種類にもよりますが、おおよそ2,500円〜4,000円あたりにおさまり、本会場が6〜7,000円(会場によってはそれ以上)することを考えると、値段的にいくぶんか参加しやすくなるのではないでしょうか。

このように、ライブビューイングは、様々なジャンルで、イベント参加の選択肢として注目されてきているわけですが、その中継・上映会場で、ファンがどんなふうに楽しんでいるのかは、あまり明らかにされてきていません。イベントの楽しみ方という点でも、ライブビューイングには、注目していく必要があると思います。

4.ファンはイベントで何を楽しむのか

これまでの研究では、様々なイベントを楽しむファンの姿が明らかにされてきています。その重要な知見の一つは、イベントでのファンの楽しみにおいて、「関係性」が重視されているのではないか、ということです(例えばジャニーズ・ファンを研究した、辻泉「ファンの快楽」東谷護編著『ポピュラー音楽へのまなざし 売る・読む・楽しむ』2003年、勁草書房、等)。様々なイベントがありますが、総じてこれらのものにおいて想定されてきた関係性は、「ファンと出演者」「出演者同士」「ファン同士」の3つが挙げられ、これらの関係性における、「直接的な関わり」を楽しむ様子が明らかにされてきました。音楽のライブだったら、出演者とファンのコール&レスポンスなどの関わり、ステージ上の出演者同士の関わり、隣にいる人などファン同士の関わり、などが考えられます

ライブビューイングという形式においては、本会場の中継という特性上、生出演する出演者はいないため、直接的な関わりがあるとすれば「ファン同士」ということになります。そこで、「ライブビューイングにおけるファン同士の関わり」に着目して、参加者のインタビューの分析を行うことにしました。
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5.イベント体験の共有

「TIGER&BUNNY最終回上映会・ライブビューイング」に参加した人たちは、イベント会場での様子や雰囲気を、どのように感じていたのでしょうか。イベントにおいては、「同じ時間」に「同じ場所」に集まって、「同じ画面」を見る、という時点で、実質的には体験が共有されています。このことを前提としつつ、イベントに参加した人たちに、会場での体験をそれぞれ語ってもらいました。そこで明らかになったのは、次のことです。

ファンの体験の共有は、実質的な体験の共有に加えて、(1)会場の盛り上がりや拍手などの体験にみられる「反応の共有」、(2)イベントの感想をまわりと(間接的に)共有できる「感想の共有」があることが分かりました。これらをまとめて、参加者は、自分たちの体験した会場の雰囲気や盛り上がりを、「一体感」という言葉で表現しています。

面白いのは、こうした「一体感」が、これまでの研究で明らかにされてきたような「直接的な関わり」によるものではない、ということです。私たちは、イベントで会場に「一体感」が生まれる、というとなんとなく、誰とも分からない隣の人同士が、手を取り合って喜んだり、肩を組んだりする、といったことをイメージします。先行研究でも、フジロックフェスティバルの参加者が、会場での参加者同士の直接的な関わりを楽しんでいることが、明らかにされています(永井純一「なぜロックフェスティバルに集うのか――音楽を媒介としたコミュニケーション」南田勝也・辻泉編著『文化社会学の視座―のめりこむメディア文化とそこにある日常の文化―』2008年、ミネルヴァ書房)。

しかしながら、私の行ったインタビューからは、ファンが「直接的な関わり」をそれほど重視していないことが明らかになりました。インタビューに答えてくれた方の半分が、イベントに一人で参加していますし、誰かとの関わりや友だちづくりが主な目的ではない、という話もしていました。こうした傾向はそれほど珍しくなく、最近では、一人参加のことを「ぼっち参戦(ひとりぼっちでの参戦)」と表現し、自ら「ぼっち参戦」をネット上に書き込む姿が見られるようになってきています。

6.「ゆるやかな仲間意識」

では、「直接的な関わり」がそれほど無いのに、「一体感」を感じることができたのは何故なのでしょう。先に挙げた「ファン同士の関係性」に着目すると、そこには「ゆるやかな仲間意識」が存在することが分かってきました。これは、「私たちは仲間だ!」という、特定の集団内で互いにもっている意識というよりも、むしろ会場や参加者全体という広範囲にわたる、ゆるいつながりの意識と言えるものです。

例えば、インタビューでは、会場にいる他の参加者のことを、「みんな」とか「同じファンの人たち」と表現するものが聞かれました。こうした表現がされるのは、会場あるいは参加者全体を、「自分と同じファン」=「仲間」であると認識しているためです。このような「ゆるやかな仲間意識」があることが、イベント当日における「一体感」につながっていったと考えることができます。

しかしながら、ここで疑問に思うのは、会場に集まったファンは基本的には全員が初対面であるにもかかわらず、どうして「ゆるやかな仲間意識」が存在しているのか、ということです。この点について、インタビューから浮かび上がったのは、インターネットの利用、とりわけSNS(Social Networking Service)による関わりの蓄積、という要因でした。つまり、会場で実際に顔を合わせる以前から、「ゆるやかな仲間意識」は形成されてきたのではないか、ということです。「TIGER&BUNNY」という作品においては、SNSの一つであるTwitterの影響力が大きいことが、ファンの間ではかねてより指摘されてきました。公式アカウントからの情報提供に加え、スタッフ、キャストの多くがアカウントを所有し、作品に関わるつぶやきをしています。ハッシュタグを使用したファン同士の交流、特にUSTREAM放送前後に、積極的な交流がみられていたことも参加者から指摘されています。

このような、インターネット上での関わりが、情報や価値観の共有によってもたらされる「弱い紐帯」であることは、既に社会心理学などの分野で実証されています(宮田加久子『きずなをつなぐメディア――ネット時代の社会関係資本』2005年、NTT出版)。そうであれば、Twitter利用をとおして、ファンの間に「ゆるやかな仲間意識」が形成されてきたことが、当日の「一体感」へつながったものととらえることができるでしょう。さらに、インタビューでは、当日の会場の盛り上がりが、「Twitterのタイムラインのようであった」「Twitter画面がリアルな声になったようだった」という感想も聞かれました。参加したファンの体験は、ネット上でのやりとりを「リアル」に感じるものであったということです。

こうして考えてみると、ファンのイベントでの楽しみとは、何も直接的な関わりによるものだけではない、ということが分かります。むしろ、直接的な関わりをもたなくても楽しめるのが、現代的なファンの楽しみ方の特徴と言えるのかもしれません。このような距離感は、ベタベタした付き合いのない、極めて「ライトな関係性」であると私は考えていますが、例え「ライトな関係性」であっても、イベントは楽しめるし、「一体感」を感じられるということが、今回明らかになったと思います。関係性の希薄化は、マイナスにとらえられがちですが、一口にファンと言っても多様化してきている昨今、自己の安定を保ちながら楽しむ上で、必要な距離感であると考えることもできるでしょう
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7.さいごに

以上のように、「TIGER&BUNNY最終回上映会・ライブビューイング」参加者のインタビューの分析から、明らかになったことをご紹介してきましたが、いま改めて考える必要があるのは、こうしたイベントに「集まることの意味」ではないか、と私は考えています。番組の最終回は、最初にも述べましたように、家で視聴が可能なものです。なにも、わざわざ映画館に出向いていく必要などありません。生中継ではない、ライブ映像やDVD上映会も、後に発売されるのであれば同様です。まして、会場で直接的な関わりをもたないのであれば、家で見ていることと大差が無いと考えられるでしょう。

それでも、そこに「集まることの意味」があるわけです。会場に行って、直接特定の誰かと関わるということは無い、一人での参加であっても、やっぱり参加しようと思うわけです。インタビューに答えてくれた参加者からは、「その場の空気を感じたい」という話が聞かれました。「その場に集まって、みんなと一緒に過ごす」ということが、参加者にとっていかに重要な意味をもっているか、ということだと思います。

今後も様々なジャンルにおいて、こうしたファンの志向を明らかにしていくとともに、コンテンツの展開においても、「集まることの意味」というものを視野に入れていく必要があるのではないか、と私は思います。

最後の最後に、宣伝をさせて下さい!

今回記事にさせて頂いた内容は、コンテンツ文化史学会の学会誌『コンテンツ文化史研究』第8号に、学術論文が掲載されるものです。刊行は、春頃…と聞いております(あれ?もう春?)。インタビューの分析内容を含め、興味をもって下さった方は、ぜひ『コンテンツ文化史研究』第8号をお求め頂ければと思います。さらに、「自分の趣味に関わるものを学術的に分析した論考を書きたい!」と少しでも感じた皆様は、ぜひ「コンテンツ文化史学会」にご入会頂き、ご発表、ご投稿を頂ければ幸いです(※ご入会につきましては、学会HPにて随時受付しております。http://www.contentshistory.org/ )。

私たちが、ファンとして実際に参加したその場で体験したことや、感じたことというのは、どれも重要なテーマですし、研究というのは難しいことばかりを取り上げているわけではありません。むしろ、研究者の側からは見えないようなことを、参加者である多くの方々が体験し、考えているとも言えるでしょう。私の研究も、多くのヒントは、参加されているファンの方々によってもたらされたものですし、研究のテーマというものは、案外近くにあったりします。ですので、今回書かせて頂いた内容に関しましても、同じようにイベントに参加された方の感想や、他のイベントでこんなことを感じた、これはどうなのだろう、というようなことをお聞かせ頂けると、今後の研究にもつながりますし、大変ありがたいです。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。そして、インタビューにご協力頂いた方々、いつも色々なお話をお聞かせ下さるファンの皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。


■山口晶子(YAMAGUCHI Akiko)
専門は、教育社会学(若者文化、生徒文化)。上智大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程在籍。聖徳大学非常勤講師。コンテンツ文化史学会委員。最近は、アニメやゲームを楽しむ「ファン」について関心を寄せている。
《山口晶子》

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