電子書籍元年の愚行・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第13回 | GameBusiness.jp

電子書籍元年の愚行・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第13回

今年は「電子書籍」元年になるだろうという想いから、7月5日、東京ビッグサイトで開催された東京国際ブックフェアに行ってきました。日本で近日発売(予約展開中)されるアマゾンドットコムのキンドルの展示はなかったものの、楽天のkobo touchや大日本印刷が独自に進め

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今年は「電子書籍」元年になるだろうという想いから、7月5日、東京ビッグサイトで開催された東京国際ブックフェアに行ってきました。日本で近日発売(予約展開中)されるアマゾンドットコムのキンドルの展示はなかったものの、楽天のkobo touchや大日本印刷が独自に進める電子端末などの発表もあり、会場は新たな時代の始まりを予感させるにふさわしい盛り上がりを見せました。

電子書籍に関しての一般的な声として、視認性の部分にはやや違和感があることも事実のようです。一般的にこれらの電子書籍デバイスにはEインクという電子技術が使用されており、ページを進めると文字が滲み劣化します。その劣化をリフレッシュする必要があり、ユーザー自身で、そのリフレッシュ頻度を設定できるのですが、この機能がより改善されることが課題だと思います。

さて、すでにアメリカではアマゾンドットコムが導入した「Amazon Kindle」が一般化しています。キンドルはすでに07年の発売モデルから数えて、4世代目のモデルになっており、それ以外にも簡素化された「Kindle Fire(キンドル・ファイア)」など仕様を制限したモデルや広告付きで価格を下げたモデルなどを導入し着々と市場を開拓し整備し、発展をさせている様子が覗えます。
 
7月19日に発売になった楽天の「Kobo touch」ですが、発売当日は三木谷社長が店頭でプロモーションを行うなど、パフォーマンスも十分で鳴りもの入りのスタートを切れたよう見えました。しかし、発売当日からすぐに、ユーザーから、「アクティベーションできない」「コンテンツが正常に表示されない」「英語のコンテンツばかり」などのクレームが相次ぎ、楽天への問い合わせやクレームなどでネットでは炎上する事態に発展しました。

またこの騒動を受けて三木谷氏が「細かいことで騒いでいるのは一部」と言った発言が、その騒ぎをさらに大きくさせました。細かいことに対応してこそのデバイスやコンテンツの普及があると思うのですが、ややそのあたりの感覚が共有できてないことは残念です。販売状況は10万台と言われており、そのうちの5%がクレームならびに起動がうまくできないという事象がおこっていると言います。つまり5000人ほどのユーザーが困った状態のままというのは「細かいこと」と言って切り捨てるのは、どれほどの「上から目線なのか」・・・新しいコンテンツとデバイスのエバンジェリストを自認するならば背信的な言動です。新しい平野を切り拓くデバイスやコンテンツならば、なおさら、年齢性別などの隔てなく、誰にでも操作ができることが前提です。その意味では三木谷氏の発言は愚行として記憶されるのではないでしょうか。

さて、電子書籍のメリットですが、価格が安くなること、在庫切れがない。欲しいときにいつでもダウンロード可能、持ち運びに便利など多様にあると思います。しかし、一方で、コピーが横行すること。ジャケット買いなどが促進されない。無名なコンテンツが売りにくい、ソフト購入面での(クレジット機能など)年齢制限があるなどで、一概に電子書籍デバイスを歓迎するものでもありません。

また、日本での課題は書籍流通のシステムがあります。東販、日販という取次が日本の書籍をコントロールしており、書籍は書店に委託と言う形で卸されます。そのため、書店側は売れたものの分だけを支払う形式になっており、出版社と書店の間の取次が収益の建て替えや保全を行っています。その分が中抜きされることになる可能性が大きく、日本における書籍(図書)流通システムを抜本的に変わる可能性を持っています。

出版社のスタンスも微妙に変化をしてくる可能性もあります。従来は作家を雑誌などで育て、それを書籍などで商品化して売り出してきましたが、このモデルがまったく効かなくなる可能性もあります。ひとつは無名の作家が生まれにくいとは言いましたが、むしろ新しいメディアを認知販売促進をおこなうために、新しい才能の発掘や発見が必要になります。アメリカのアマゾンドットコムの「Kindle」向け書籍コンテンツには独自の専門作家、独占作家という存在も現れています。日本でいえば、すこし前にブームになった携帯小説や携帯小説家やライトノベル小説家のような存在がそれにあたります。そこから逆にメジャーの出版社と契約するケースの出てきたようです。

映画もそうですが、DVD、ブルーレイ、配信と時代とともに徐々に視聴形態やメディアは変わってきましたが映画館は無くなることはありませんでした。エンタメの細分化とともにあらわれた電子書籍も書籍に代わるものになっても、書籍というものが無くなることは考えにくいと思います。そして、おそらくアマゾンが強力に推進すると思われる独自の選定による書き下ろしコンテンツ、新人作家の発掘などにより電子書籍端末と流通は支持されるものと思います。
《黒川文雄》

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