かつて経営者だった自分より・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第8回 | GameBusiness.jp

かつて経営者だった自分より・・・黒川文雄「エンタメ創世記」第8回

僕の好きな曲にアンジェラ・アキさんの「手紙 〜拝啓 十五の君へ」があります。大人になった自分が、かつて十五歳だった自分にむけての応援歌とも言えるような内容で、楽しいこと、辛いこと、悲しいことがあっても常に自分を信じて生きていってほしいという内容の歌詞

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僕の好きな曲にアンジェラ・アキさんの「手紙 〜拝啓 十五の君へ」があります。大人になった自分が、かつて十五歳だった自分にむけての応援歌とも言えるような内容で、楽しいこと、辛いこと、悲しいことがあっても常に自分を信じて生きていってほしいという内容の歌詞です。

「十五の君へ」と言うものの、基本的には十五歳に限らず、前向きに生きてほしいという内容はあらゆる年齢層にとってストレートに響くはずです。それゆえに、切ないメロディにも関わらず人生の応援歌としてヒットしたのは記憶に新しいと思います。自分に振り返ってみればいろいろな出来事が浮かびます。常に前だけを見て生きてきたつもりですが、それでもたまに後ろを振り返ってみてしまうこともあります。「あのときこうすればよかった」とか「なぜ、あのときこういう判断をしたのか」ということです。そんなことを一人で考えて時は巻き戻りません。むしろ無易に過ぎ去ってゆきます。経営にも、人生にも・・・「もしも・・・」という言葉はあまりにも無力なものです。

さて、かつて経営者だった自分に振り返って思うことがあります。起業したての頃はずいぶんと大変だったと・・・。2003年に起業したものの、主たる業務の映像事業も権利獲得や製作準備が遅々として進まず、オンラインゲーム事業の開発案件も当初の導入予定よりも1年も遅れていました。その間、どうのようにして糊口をしのいだのかと思うと、今考えると怖いものがあります。チラシのデザインや印刷を請け負ったり、ノベルティの製造代行をおこなったり、パチンコの機械に取り付けるプラスチックの部品の製造もやったことがあります。すべては知人や協力会社さんのご厚意でした。

その後、映像事業やゲーム事業が導入されて、順調に本業が徐々に成長してくると、今度はさらに大きく伸ばすことを考えるようになります。そうなると自ずと外部との提携や連携が増えてきます。そのような中で「社長」同士のお付き合いというものも増えます。情報交換に始まって、業務の提携や共同事業などです。そのようなときに、いつも思ったのですが、「隣の芝生は青く見える」というものです。特に本業以外の業務にマルチ展開している経営者の話を聞くと「うん、すごいな」と単純に思ったものでした。

しかし、徐々に経営的に安定をしてくると思うことがあります。
それは本業が安定していない会社ほど、マルチに展開をする・・・というものでした。

なかにはどれが本業か分からなくなって、しまいには会社の業態自体が変わってしまった会社も知っています。会社は生き物ですので、起業して10年間持つ会社というのは全体の15%くらいだと、ものの本で読みました。つまり、マルチで展開している会社はよほど大きな規模でないかぎりハッタリや虚業なのではないかというのが自分なりの結論です。

最終的には自分の会社は他社に部門売却を行い、残った部門は関連会社に吸収をしてもらいました。誰一人退職することなく、負債などで他者に迷惑をかけることもなく、きれいに終わらせることができたことは幸いなことでした。

さて、このところ、世界経済の不安定や天災に端を発した金融不安の余波を受けてエンタメ業界もややアゲインストな状況です。ゲームを始めとするエンタメ業界もその影響を受けています。家庭用ゲーム市場を牽引してきた任天堂の株価の下落や販売同行の趨勢で、通期の決算の営業赤字が650億円になる見こみを発表しました。と、同時に鬼の首をとったかのように「家庭用ゲームはもうおわり」とか「任天堂はネット対応をしないからだ」などと騒ぎ立てる輩がいます。


でも、いいんです。本当に強い会社は本業がひとつあればということです。そしてそれを守り、成長されることができれば新しい未来が拓けるものなのです。2012年、また今年も様々なエンタメの歴史に触れることができることを幸運に思います。今年もよろしくお願いいたします。


■著者紹介

黒川文雄 (くろかわふみお)
メディアコンテンツ研究家
1960年・東京都生まれ。武蔵大学卒。レコード会社を経て、株式会社ギャガコミュニケーションズ(現・ギャガ)、株式会社セガエンタープライゼス(現・セガ)、株式会社デジキューブを経て株式会社デックスエンタテインメントを起業。映画製作配給、オンラインゲーム企画開発運営に携わる。その後株式会社ブシロード副社長、株式会社コナミデジタルエンタテインメントを経て、現在は株式会社NHNジャパンにてオンラインゲームの企画開発運営に携わる。一方で数々のエンタメ産業への造詣が深くメディアコンテンツ研究家としてコラム執筆を行う。ブログもご参照ください。Twitterアカウントはku6kawa230
《黒川文雄》

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