不正コピーは悪なのか!? ・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第14回 | GameBusiness.jp

不正コピーは悪なのか!? ・・・イバイ・アメストイ「ゲームウォーズ 海外VS日本」第14回

不正コピー、いわゆる海賊版の問題が、ゲーム業界に多大なる被害を与えて続けている。社団法人コンピュータエンターテインメント協会の調査によると、DS、PSP用ゲームソフトの国内被害額は、2004年から2009年の6年間で9,540億円、世界の被害額を推計すると約3兆8,160億

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不正コピー、いわゆる海賊版の問題が、ゲーム業界に多大なる被害を与えて続けている。社団法人コンピュータエンターテインメント協会の調査によると、DS、PSP用ゲームソフトの国内被害額は、2004年から2009年の6年間で9,540億円、世界の被害額を推計すると約3兆8,160億
  • 不正コピー、いわゆる海賊版の問題が、ゲーム業界に多大なる被害を与えて続けている。社団法人コンピュータエンターテインメント協会の調査によると、DS、PSP用ゲームソフトの国内被害額は、2004年から2009年の6年間で9,540億円、世界の被害額を推計すると約3兆8,160億
不正コピー、いわゆる海賊版の問題が、ゲーム業界に多大なる被害を与えて続けている。社団法人コンピュータエンターテインメント協会の調査によると、DS、PSP用ゲームソフトの国内被害額は、2004年から2009年の6年間で9,540億円、世界の被害額を推計すると約3兆8,160億円にも上るという。

日本国内のゲーム会社は、皆一様にますますハイレベルな不正コピー防止システムに目を向けている。今年発売されたNintendo 3DSでも、極めて複雑な海賊版防止技術が搭載しているそうだ。しかし、コピーガードを掛ければ、それを外す者は必ず現れる。悲しいかな、この問題については海賊版をつくる者とつくられる者のイタチごっこが続いているのが現状だ。

しかし、欧米の小さなインディーズ・ゲーム開発者の中には、コピー防止策を一切施さずにゲームを配信する人たちがいる。好評を得たインディーズ・ゲーム『And Yet It Moves』では、世の中に行きわたっているデータのうち95%が不正コピーらしい。しかし、それでも彼らはそれを決して恨まないという。いったいなぜなのか? その答えは不正コピーに対する、ちょっと変わった考え方にあった。

■「海賊版」=「収益の損失」ではない

ゲームが不正コピーされると開発者は利益のほとんどを失ってしまう、というのが日本ゲーム業界の一般的な考え方であろう。しかし、海賊(海賊版を利用する人々)たちは購入するつもりだったゲームだけをダウンロードするわけではない。一般的なゲーマーの年間ゲーム購入数はおよそ3作ほどであるが、海賊たちがダウンロードするソフトの数はとても普通に購入・プレイできるボリュームではない。彼らは元々購入するつもりのないゲームまでダウンロードしているのだ。つまり、海賊たちのダウンロードのほとんどは本来購入されるものでは決してなく、海賊版はそっくりそのまま収益の損失ではない――これが、海外のインディーズ開発者たちの不正コピーに対する一般的な理解だ。

時には不正コピーによって売上が向上するケースだってある。(もちろん、ゲームコンテンツが優れた内容である場合だが)何千人ものユーザーがゲームを不正コピーしたとしても、彼らがそのゲームを気に入れば、ゲーマーのコミュニティー等で何千ものポジティブな意見が生まれる。その口コミは、元々購入するつもりもなかったユーザーへと波及し、ゲーム購入へのきっかけを生みだすことだってあり得るのだ。

だから、インディーズ・ゲームの開発者はコピー防止対策システムなどの開発に力を入れるより、ゲームの品質向上に力を入れる方が効果的であると思っているようだ。

■海賊は悪人ではない

先述の『And Yet It Moves』と同様に、Amanita Design『マシナリウム』も不正コピーの被害に遭っている。昨年の不正コピーの比率は、実に90%に上る。しかし、驚くべきは海賊たちへのAmanita Designの対応だ。彼らは海賊たちを悪人ではなくゲームをプレイしたくても値段が高くて手を出せない貧しき人と見なし、なんと期間限定で『マシナリウム』75%割引キャンペーンをスタートさせたのだ。そして、このキャンペーンは『マシナリウム』の売上を一気に増加させた。設立者のヤコブ・ドヴォルスキー氏曰く、ほとんどのインディーズ・ゲーム開発者はインターネットがあるからこそゲームの開発と流通・配信ができると考えており、不正コピーはその副産物のようなもの、なのだそうだ。だから、不正コピーに反対するということは、インターネットそのもの、そしてインターネットのユーザーに反対することであり、お客さんになりえる人達を訴えるようなものだと言う。


海賊版は問題ではないという『マシナリウム』


確かに、ほとんどの海賊は「全デジタル・コンテンツをフリーにするべきだ」と主張するスウェーデンの海賊党のような強い信念のもとで不正コピーをしているわけではない。ただ単に“ゲームを無料で遊べる”ことに魅力を感じているだけに過ぎない。ほとんどの海賊は、ゲームを買うお金がない、もしくはゲームが高過ぎると感じている人々である。また、彼らには「悪いことをしている」という認識があり、不正コピーが業界に及ぼす悪影響も十分に理解している。欧米のインディーズ開発者は、彼らが年を取り大人になってお金を稼ぐようになれば、あるいはAmanita Designのように彼らに救いの手を差し伸べれば、考えを改めてくれるだろうと信じている。本当にゲームを愛しているのなら、いつかはゲームをきちんと購入し業界をサポートしてくれるはずだと。

■インディーズ・ゲームとは、ダウンロードしてすぐプレイできるもの

インディーズ開発者たちがコピーガードなしでゲームを配信するもうひとつの大きな理由は、「ダウンロード後、即プレイ」という考え方である。シリアル番号の入力やプロフィール作成といった不正コピーを防ぐための施策は、一般のプレイヤーにとっては面倒なことでしかない。しかしながら、インディーズゲームファンたちも、いつかは開発者たちも複雑で遊びにくいコピー防止策を取り入れるのではと危惧している。ところが、インディーズ開発者たちは不正コピーの対策以上に、ゲームを楽しんでもらう機会の損失を恐れている。海賊たちの攻撃を防ぐためにコピーガードの施策を行うことでプレイヤーがゲームから遠ざかってしまうくらいなら、施策しない方を彼らは選ぶのだ。

当然、予算が十分でないインディーズ開発者にとって、コピーガードに関わる費用の問題もある。その分のしわ寄せは当然ユーザーに行くだろう。また、それぞれのソフトに規制を加えることで、クロスプラットフォームの作品を制作することも難しくなる。不正コピーの問題に取り組むほどに、もともとのターゲットやお金を支払って遊んでくれるファンたちから遠ざかるという一面もあるのだ。それにどれほど不正コピー問題に取り組んだとしても、極論すればコピー不可能なゲームなど存在しない。どれほどゲームを守ろうとしても、ハッカーは存在するし、ハッキング技術の進歩を止めることはできないのだから。

■不正コピーから生まれた新たなシステム

ユーザー、そして海賊たちへの温かい思いから生まれたのが「ハンブル・バンドル」システムである。これは自分で好きな金額を払って遊べるという画期的な購入システムである。また、支払った金額の一部はしかるべきNPOに寄付される。
最初のハンブル・バンドルはインディーズ開発者のWolfire Gamesによるもので、『World of Goo』など極めて高い評価を得た5つのゲームのパッケージであった。通常、全ゲームを購入すると80ドル相当だが、購入金額の平均は9.18ドル。しかし、総額で1,273,613ドルもの金額を集めて見事に大成功を収めた。他社もすぐに便乗し、新たなハンブル・バンドルが次々と生まれている。

好きな金額でゲームを遊べるこのシステムは、ゲームにいろんな制限をかける大きなゲーム会社の従来のシステムとはかなり違う。しかし、プレイヤーにとって本当に買いたいシステムは、いったいどちらだろう?

改造に対しても、彼らは寛大だ。時に、彼らはゲームのソースまで公開してしまう。そのことで生まれるのは不利益だけではない。ソース公開によって、ファンたちからゲームをもっと面白くしてくれるアイデアが集まったり、コンテンツがどんどん追加されたりする。これまでの常識であれば、ゲームの知的財産は、開発者だけが所有するものであり守るべきものであった。しかし、彼らは海賊たちに反抗しているのではなく、明らかに協力しようとしている。ゲームはあくまでもファンのためにつくったものなのだから、みんなで共有すれば新しい楽しさが生まれると思っているようだ。彼らの信条は、ゲームから新たなコミュニティーを作るのではなく、プレイヤーとの関係を深めてコミュニティーから新たなゲームを生み出すことにある。開発者はファンの支持を集めることによって、不正コピーをプラスの力に変えているのだ。

あるインディーズ開発者はゲーム商品を一回限りのスタンドアロン的な商品ではなく、継続的なプロセスの一部と考えている。ゲーム体験をより深いものにするための、デジタルでないアイテムをつける。オンライン・アカウント機能、カスタム・スキン、フレンド・リスト、マルチプレイヤー時の安全なネーム実証などの機能を整備する。例えばインディーズ・ゲームで大ヒットした『Minecraft』は開発中でも遊べるようになっているし、開発者は随時新機能をつけたり新コンテンツを出したりして、ゲーム以外のところでセールスを伸ばすような仕組みをつくり上げている。こうしたプロセスの中では、不正コピーは逆に売り上げを上げるきっかけを生みだすものであると彼らは考えている。

■海賊版はユーザーからのメッセージ

もちろん、いかなる理由があろうともゲームの不正コピーを正当化してはならない。しかしながら、欧米諸国のインディーズ開発者たちが、視点を変えてこの問題を見つめることにより、次々と新しい販売手法、アイデアを生み出しているのは事実である。

海賊たちもまた、ゲームファンのひとりなのだ。不正コピーの問題は、ユーザーからゲーム業界への切なるメッセージであるとも言える。これからは日本国内の開発者たちも、コピーガードを頑丈にするだけではなく、不正コピーを味方につけた新しいサービスやシステムを生み出していく、いや生み出さざるを得ないところに直面しているのかもしれない。
《イバイ・アメストイ》

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