ゲーミフィケーションデイのトップバッターを務めた、スピーカーのモーリー・キトル氏。 | 会場は多くの業界関係者や学術関係者で埋まった。 |
ゲーミフィケーションとは、ゲームデザインの要素を実領域に応用する考え方や、取り組みのこと。従来のシリアスゲームが知育ゲームや健康ゲームなど、パッケージゲームの範疇に収まっているのに対して、よりラジカルな考え方だといえます。
ウェブ上で特定の行為を行うとバッジやクーポンなどの報酬がもらえる、といったサービスはその一例。運営主体もゲーム業界外の企業や団体が中心で、昨年後半から急速に注目を集めてきました。
最初のセッション「Gamification 201-60 Tactics in 60 Minutes」は、60個のハウツーでゲーミフィケーションをまとめた、「明日から使える」実践的な内容。スピーカーのモーリー・キトル氏が所属するBunchballは、ゲーミフィケーション向けのプラットフォームを提供する、2005年に創業されたシリコンバレーのベンチャー企業です。
彼女は開口一番、第1条で「(ゲーミフィケーションに必要なものは)ハードコアなタイトルでよく見られる、スリルや暴力などに基づいたゲームデザインではない」と切り出しました。
ームフィケーションのデザインにハードコアゲームは不要。 | ゲームフィケーションは「サイト運営のもう一つの形」。 | ゲーミフィケーションは「コミュニティが必要」。 |
ではゲーミフィケーションとは何でしょうか。キトル氏は「サイト運営のもう一つの形」だと説きます。eコマースであったり、会員制サイトであったりと、コミュニティに支えられた何らかの(商用)サイトがあり、その運営を活性化させ、ライバルに打ち勝つ手段の一つがゲーミフィケーションだというわけです。
「ゲーミフィケーションは人間の根源的な欲求を満足させる」「ゲーミフィケーションはコミュニティを必要とする」「ゲーミフィケーションは良質なコンテンツを必要とする」・・・キトル氏は歯切れ良く解説を続けていきます。以下、60個の項目は大きく次のように分かれました。
ビジネス的な知見(ビジネスのゴールを理解しよう/顧客のニーズを理解しよう/ユーザーの関心とビジネスのゴールにはギャップがある/目的に応じてユーザーの行動をランクづけしよう/あまり商用面を表に出すと成功しない、など)
ゲーミフィケーションはビジネス(サイト運営)を活性化させるための手段にすぎない。 |
・ポイントシステムに関する知見(ポイントは導入すべきか〜状況に応じて積極的に/ポイントは2つ用意する(現在のポイントと、累積ポイント)/ポイントは売買可能にすべきか/ポイントの消費のさせ方〜バーチャルグッズやリアルな商品・サービス、など)
ポイント授与はユーザーのモチベーションを上げる基本的な方法の一つ。 |
・レベルシステムに関する知見(なぜレベルシステムを導入するのか/いつレベルアップさせるのか/どのような難易度曲線を描くべきか〜最初は簡単で徐々に難しくする/レベルで何をすべきか〜コンテンツの解除、よりできる範囲を広げる、など)
レベルシステムはポイントと違い、二次曲線的に上昇させられる。 | >
・実績やリワードに関する知見(実績の価値に応じて見た目を変える、同じアイコンでも段階を追って複雑にする/デザインはユーザー層やサービスに適したものにする/プレイヤーの努力を常に上回る報酬を用意する/時には思いがけない報酬も効果的、など)
バッジやトロフィーは新しいスコアの形態で、強い社会性を持つのが特徴。 |
・コミュニティに関する知見(ユーザーをグループ化して競わせる/リーダーボード(優秀なプレイヤーの一覧)を作成する/どのようなリーダーボードを作るべきか(サイトベース、ユーザーベース、時間ベース、自分より上位5名&下位5名)、など)
グループ化やリーダーボードはソーシャルゲームでもよく見られる要素だ。 |
・バーチャルグッズに関する知見(アバターやバーチャルグッズを作るべきか〜サービス内容による/ギフト機能を使って活性化させる/RMTへの対応/バーチャルグッズによる課金を行うべきか〜課金市場は本業と相乗効果で発展する、など)
アバターやアイテムによる二次収益は、成功すると本業と相乗効果を生む可能性がある |
・ソーシャル性に関する知見(モバイル展開で複数のプラットフォームを結ぶ/ソーシャルメディアの積極的な活用/ユーザー登録はできるだけシンプルに/再挑戦性をいかに高めるか/すべてを計測しろ/どのようにデータを分析すべきか、など)
モバイルやソーシャルメディアを活用し、データを収集して分析しよう。 |
以上ざっと紹介してみましたが、この内容からソーシャルゲームとの関連性を見ることは容易でしょう。事実、キトル氏の講演はソーシャルゲームの「人を夢中にさせる要素」を抜き出し、それをゲーム以外のサイト運営に応用させる点に主眼が置かれていたように感じます。
もっとも、これはあくまでキトル氏の解釈によるもの。ゲーミフィケーションを巡る現状は混沌としており、定義づけも完全にはされていません。それだけに会場も説明しがたい熱気に満ちていました。
一方、類似研究としては立命館大学のサイトウ・アキヒロ氏が提唱する「ゲームニクス」があげられます。ゲームニクスはまず、パッケージの一人用ゲームを中心に、「ゲームが人を夢中にさせる要素」を体系化するとことから始まりました。商品開発についても家電の操作系や知育ゲーム開発などから進んでおり、興味深い対称性が見られます。
ゲームニクス理論を取り入れた「スムースナビNX710」 | ベネッセ「得点力学習DS」でもゲームニクスの応用が進む |
このほかアメリカでゲーミフィケーションが注目を集めている背景の一つに、ゲーム産業の成熟と業界の構造的な問題(大作化に伴う収益率の悪化など)があることは、間違いないでしょう。中小ゲームディベロッパーの新天地として、ゲーム以外のクライアントに対して、自社のノウハウを売り込む・・・そんな意気込みも感じられます。
会場では「ゲーミフィケーション」について、一過性のバズワードにすぎないという声も聞かれましたが、ゲーム開発のノウハウが実領域に拡大していく傾向は、今後も進むと見るのが正しいでしょう。それをなんと呼ぶかは、言葉の問題に過ぎません。気がついたらいつの間にか、現実社会がゲームライクになっている・・・。そんな未来像を期待したいところです。